特務体の隊員に取っては、日ごろ言い馴れた会話であった。
エドワードにとっても何てことのない会話だったが、壁際で見ていた一般兵達にとってはびっくりする内容だった。
「サー・クラウドって、やっぱり噂通りそう言う趣味の人なのか?」
「嘘だろ?だって黒髪の年上美人の恋人がいるって…。」
「なにせ男だらけの軍隊だからな、サー・クラウドみたいな美人、フリーだったらマジで狙いたいよ。」
一般兵達の言葉が運がしっかりとリックの耳に届いた、とたんにものすごい形相で一般兵をにらみつけた。
「ふざけんな!!ザコが!俺に勝ってから姫を狙うんだな!!」
「リック、彼らが雑魚だったら俺、もっと雑魚なんだけど。」
「冗談じゃない、おまえはクラスSだって狙えるエースだぞ!究極の召喚獣を2体も従えて…、そんなお前の相手は治安維持部ではサーセフィロス以外の誰がいるっていうんだ?!」
リックの言葉にザックスがのんきに手を挙げて返事をした。
「俺〜〜〜!!」
クラウドは思わず笑みを浮かべ、腰に帯びた剣を持ちながらザックスに話しかけた。
「じゃあ…もう一度持って見る?アルテマウェポン。」
「お…、おう!」
ザックスがちょっと引きつった顔で、クラウドのアルテマウェポンを受け取り軽く握る。とたんに彼の頭の中に声が響いてきた。
”なんだ、あの時の小僧ではないか。” ”おや、竜王殿。今回は穏やかですね。”
”ふん、どうやら以前より力をつけたようだからな。”
”ええ、そのようですね。まだまだ足りないようですが…。”
アルテマウェポンにはまっている2個の召喚マテリアが赤く輝いている、ザックスはクラウドに剣を返しながらつぶやいた。
「小僧だって言われちゃったよ。」
「良く握れるな、俺なんて弾かれておしまいだったぞ。」
「へぇ、じゃあサー・エドワードよりもザックスの方が上なんだ。」
「そう言う事になるのかな。じゃあザックス、早くクラスAに上がっておいでよ。」
「や〜〜だ!!俺がランクアップするとよそに飛ばされる。」
「ソルジャーの移動はナイツ・オブ・ラウンドのさじ加減一つだって聞いている。俺じゃ何とも出来ないよ。」
「大丈夫、お前が連隊長達に泣き付けば鼻の下伸ばして認めるさ。」
「エディ!!!俺を何だと思ってんだよ!」
「ん?治安維持部1の美人でアイドル。」
「お〜〜〜!!言うようになったね〜〜優男。」
「カイル、”一応”元上官だぞ。」
「元…ね。ずいぶん泣かせたけど。」
「へぇ〜〜こいつらに泣かされるようじゃマダマダだぜ。」
「お前の図太さに勝てる奴はいないよ。」
アルテマウェポンを腰の鞘に戻しながら、クラウドが笑顔で仲間たちを見ている、やたら隊員と交じっているエドワードにはすこし羨ましい所もある。それよりもザックスがやっと本気になって来たのが嬉しい。
「ねえ、ザックス。どうしていつも実力隠しているの?」
「俺、特務隊が気に入ってるんだよ。お前の事も前から弟みたいに思っていたし、だいたい英雄セフィロスのそばにいられるなんてすっげー事じゃん。」
「本当なら俺より力が有るはずだろ?ね〜〜一緒に仕事しようよ〜〜」
甘えたようなクラウドの態度に、ザックスが思わずたじろぐ。クラウドににじり寄られ上目使いでおねだりするかのようにのぞき込まれて、あわやエアリスへの気持ちを忘れそうになる。しかしそこに強烈な冷気の刃がザックスに浴びせかけられた。
「ぐはぁ!」
「ザックス!!大丈夫?!ザックス〜〜!!冷たっ!!」
強烈なまでの冷気に氷らされかけたザックスをクラウドが抱きしめるようにさする。その姿をリックとカイルが頭を抱えて見ている。
「だ〜めだこりゃ。」
「何処で見てるんだよ。」
「あ、入ってきた。」
特務隊の隊員が、扉を明けて入ってきた人物に敬礼すると、余波で氷りかかっていたエドワードもあわてて敬礼する。
黒のロングコートと銀色の髪をなびかせて悠然と入ってきた人物は、身体から冷気を発散させていた氷の英雄セフィロスだった。
「ザックス、何をふざけている?余裕だな。」
「ったく…かわいくね〜〜〜!!」
「ほぉ、まだ無駄口叩く余裕が有るか。」
「ああ、あんた相手に一戦やるぐらいの余裕は十分あるぜ。」
「クックック……。いい根性だ、いくぞ!!」
セフィロスが正宗を抜き去ると、ザックスがバスターソードを掲げる。にやりとセフィロスが口元をゆるめるとザックスが切りかかって行った。派手な音を立ててバスターソードと正宗がぶつかる。
横で見ていたエドワードが思わずつぶやいた。
「すげぇ……。」
パワーを開放したザックスが、セフィロスとほぼ同等の力で戦っている。びっくりしているエドワードを横目にクラウドは微笑んでいた。
「だって、当然でしょ?ザックスは、セフィロスの下で、3年も一緒に戦ってきてるんだよ。俺より弱い訳ないじゃん。」
「そうだったな。」
し烈なまでのバトルを繰り広げるザックスとセフィロスを羨ましげな瞳でクラウドが見つめていた。
「俺、やっぱりソルジャーになりたかったな…。」
「言っただろ?下手すれば記憶を無くしたり、精神を破壊されるって。」
「……うん。でも……」
あの力が欲しかった……
セフィロスと同等に戦えるザックスのようなパワーが……
それにはソルジャーになるしか方法は無いと思っていた。
「結局…俺、ソルジャーにはなれなかったんだな。」
「ソルジャーなんていいものじゃないぜ。魔晄を定期的に照射されないと力は続かない、そのくせ魔晄酔いは凄い気持ち悪いうえに、やることと言えば…人殺しだ。」
「俺も…人なら殺してるよ。もう、その数すら忘れたぐらいにな。」
リックとカイルがクラウドの言葉に溜め息をついた。
クラウドに取って望めば手に入る物が目の前に有ると言うのに、それを得る事が永久にできなくなっていることは、ソルジャーになると勇んで出てきたニブルヘイムにいる母や今はミッドガルに来ている幼なじみに申し訳が付かない気がしていた。
「なぜ、そんな俺を…本当のソルジャー達がサーと呼ぶのか……不思議だ。」
クラウドの悲しげな視線が、ザックスと切り結んでいるセフィロスから離れない。リックはそんなクラウドを優しげなまなざしで見つめていた。
「ソルジャーが認めたおまえの実力だ。だから誇っていいんだぞ。」
「そう言ってくれるのはリックだけだよ。」
いくらカンパニーの中ではその力が認められていても、世間的にはソルジャーで無い自分は、本当だったらセフィロスの隣には立てないはずだった。
「俺、このままでいいのかな?」
「どっち付かずか。それでもおまえはクラスAソルジャーと同等の力を持ち、サー・セフィロスの隣に立つ男であるのは間違いないんだぞ。」
「……うん、それはそうだけど。ザックスがクラスAに上がってきたらそれは彼の位置だよね。」
「あいつが何処にも飛ばされなかったらな。」
カイルの言葉を聞いてクラウドが寂しげに訓練所を後にした、それを見送ったリックがプラチナソードをかかげて、セフィロスとザックスのまん中に切り込んでいった。
「隊長!!姫が!!」
「クラウドがどうかしたのか?!」
「かなり落ち込んでいます。」
「はぁ?!あいつが何をしでかしたんだよ?」
「出来なかったから落ち込んでいるんだよ。」
「詳しく話せ。」
カイルとリックが先程クラウドと交わした会話をセフィロスに伝えると、さすがの彼も神妙な面持ちになった。
「それほどあいつはソルジャーになりたかったのか?」
「ええ、隊長の隣に立つのに自分はふさわしくないと思っています。」
「馬鹿な!!あいつの実力はクラスSソルジャーを凌ぐんだぞ!なぜ堂々と自分の力を認めないのだ。」
「姫がソルジャーではないからです。ソルジャーで無い自分が隊長の隣に立つのが許せないのです。」
「困った物だ、間もなくソルジャーから魔晄の力を抜こうと言うのに…。」
そう言うとセフィロスはゆったりと訓練所を出て行った。
* * *
クラウドは暗い顔をしてトボトボと歩いていた。
駐車場へとたどりつくと重たいバイクを引きずり出す。キーを差し込んでエンジンに火を入れると、アクセルを吹かし一気に高速へと駆け抜けた。
やがていつもの駐車場へとバイクを入れると、まわりをよく見ていつものエレベーターへと入り最上階へと移動する。
住み慣れた部屋へと入ると嗅ぎなれたセフィロスの残り香が漂っていて、思わず涙が流れはじめ、その場にしゃがみこんでしまった。
「うう……ううう……うぇっく…ひっく……。」
扉の向こうで軽いハウリング音がしたとおもったら、いきなり背中から抱きしめられた。たくましい腕と自分を囲うようにさらりとながれる銀色の長い髪。クラウドは愛しい人の名前を呼んだ
「セフィ…。」
「泣くな、お前に泣かれるとどうにかなりそうだ。」
「セフィロスの隣に立てる資格なんて無いのに、どうして俺が貴方の隣に立っているの?」
「資格とかそういう物が欲しいのか?お前のアルテマソードにはまっている召喚マテリアが、お前の実力そのものを表しているというのに。」
「召喚獣が?」
「実際こいつらを呼べるのはお前だけだろう?」
「俺、セフィのそばにいてもいいの?」
「お前でなければダメなんだ。お前がそばにいてくれると、私は私でいられる。」
「セフィ…。」
クラウドの涙で塗れた青い瞳がセフィロスを捕らえて離さない。おもわず抱きしめた腕に力をこめてクラウドを抱き寄せる。しばらくセフィロスに抱きしめられていたクラウドが顔を上げてにっこりと笑った。
「ごめんね、今から食事作るから…、まっててくれる?」
「ああ、そうだな。たまには手伝うか。」
クラウドは白のロングコートを脱いでシャツをはおると、エプロンを着ける。冷蔵庫の食材を眺めるとキャベツとじゃがいも、ニンジン、玉ねぎとウィンナーを取り出して圧力鍋を探す。
「ポトフならすぐできるよ。」
「冷凍庫にハンバーグがあるな、解凍するぞ。」
やがてキッチンから温かい空気があふれてきた。
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