駐車場に多数のソルジャーと兵士が集まっている。
 その前をゆったりとセフィロスがクラウドを従えて現れた。中央で立ち止まると兵士達の前に向き直ると、クラウドもそれに従う。兵士達が一斉に敬礼をするとセフィロスとクラウドが同時に返礼した。
 セフィロスが視線を送ると、クラウドが一歩前に歩み出て凛とした態度を取った。

「ただいまよりジュノン南東に集結している反抗勢力の鎮圧に向かう。ミッションコード、8972656。総員、トラックに搭乗せよ。」
「アイ・サー!!」

 一斉に敬礼した隊員達に返礼をして、クラウドがセフィロスをちらりとのぞくと、満足げな顔をしてトラックへと歩いて行く。その背中を嬉しそうに追いかけた。
 トラックの運転席からリックが顔を出して二人を呼んでいる。
「隊長、姫、こっちこっち!!」
「リック、クラスAに上がってもまだ運転手やる気?」
「じゃねぇとお前、酔って使いもんにならねェだろ。」
「俺が運転しようか?」
 真顔で答えるクラウドに横からセフィロスが答えた。
「冗談では無い、無免許にハンドルを持たせるわけにはいかん。」
 いつまでもトラックに乗り込まない二人にザックスが声をかけた。
「セフィロス〜!クラウド、さっさと乗れよ!!」
「まったく、上下関係のない隊だな。」
 かすかに口元に笑みを浮かべながら、セフィロスがトラックに乗り込んだ。クラウドが周囲を確認すると最後に乗り込むとリックに声をかける。

「OK出発!!」
「アイ・サー!!」
 軍用トラックがすべるように走りはじめた。

 駐車場に集まっていた女子社員が、黄色い声を響かせながら、好き放題な事を話していた。
「やっぱりサー・セフィロスはかっこいいわ〜。」
「あら、あんな手の届かない人よりも、もっと身近なクラウド君の方が私は好きだな〜。」
「クラウド君って守ってあげたくなるのよね〜。」
「そうそう!!あんなに華奢で可愛い子が、なんでトップクラスのソルジャーなの?!って思うよね。」
「サー・セフィロスのとなりに立っていると更に可愛さ100%UPよ、ね!」
「氷の英雄の黒いロングコートとクラウド君の白いロングコート。髪の毛だって銀髪と金髪、対照的だけど、あの二人が並んで立っているとまるで一枚の絵ね。」
「そういえばメアリーがあの二人の事妄想してたわよね。」
「クラウド君は下手な女の子よりも綺麗なんだからわかるけど、それにしてもサー・セフィロスとクラウド君…ねぇ。」
「案外お似合いかも!!」
「きゃ〜〜!!!」
 黄色い喚声をあげながら女子社員が本社へと帰っていった。だまってそれを聞いていたパーシヴァルとガーレスが溜め息をついた。

「まったく、ウチの本社はそんなに暇なのか?」
「キングも姫もご存じだから治安部に届けを出されていないのかな?」
「出してもらっては困るな、姫ほどの士官を治安維持部以外に渡す気か?」
「それもそうだな。」
 パーシヴァルとガーレスは治安部へと戻って行った。


* * *



 2週間後、先発隊と交代する為に第2師団、第7師団、第10師団、第15師団がカンパニーを出発した。そして2日後、先発隊が戻ってきた。
 残っていた兵達が戻ってきた仲間にミッションの事をあれこれと聞きまわる。
「どうだった?」
「俺、特務隊の後方支援だったけど、もろ足手まといだった。」
「俺、サー・クラウドに話しかけられちゃった!!」
「うわーー!!いいな〜〜、お前!」
「ヘヘヘ…俺、特務隊の中央テントへの物資補給だったんだ。食事を届けてたりしたんだ。」
「おお!じゃあサー・セフィロスもいたんだな?!」
「ああ、特務隊のトップ5が揃っていた。俺、感激しちゃったよ。」
「うわ〜〜、俺も後方支援部隊になりたい!!」
「で?どうだった?」
「実力が違い過ぎるよ。サー・セフィロスは銀鬼と言われるのもわかるし、サー・クラウドも地獄の天使と言われるのもわかる。メチャクチャ強いんだ。俺なんて足手まといだから戦闘のときは後ろに引っ込んでいたよ。」
「俺は戦闘の時以外だったから、サー・ザックスにおちょくられちゃったけど、サー・クラウドが”気にしないでね”ってフォローしてくれたんだ。」
「サー・ザックスは噂通りの人なんだね。」
「でも、いざ戦闘に突入するって言う時、がらっと人が変わるんだ。さすが最前線を担当する隊のトップソルジャーだよね。」
「あの隊ってちょっとヘンだよ。だってサー・リックにしろ、カイルさんにしろサー・クラウドへの朝一の挨拶はほっぺにキスだぜ。」
「そ、それはある意味羨ましい…」
「まさか…、サー・セフィロスも?」
「そ、それは見ていないからなんともいえないけど、戦い終わって戻ってきて、特務隊のトップ達は”栄養補給”とか言ってサー・クラウドを抱きしめてたよ。サー・クラウドも返り血で白いコートが所々赤くなっていたんだけど、抱きつかれてソードを一閃させていたが、みんな旨く逃げるんだよな〜。」
「恐ろしい…。でも、俺。特務隊に行きたいかも…。」
「お前が行くと確実に死ぬな。」
 わいわいと話しながら兵士達が官舎へと帰っていく。
 そしてこの話が噂好きの女子社員の耳に入って、ふたたび噂として駆け巡ったのであった。

 それから2週間後にミッションを終了させて、全員が無事カンパニーに戻ってくる頃には、統括のランスロットがどんな顔をしてセフィロスとクラウドに会うべきか頭を悩ませるほどの強烈な噂が流れていた。

『特務隊は同性愛者の集まりであり、その中心はサー・クラウドである。』

 駐車場で待つランスロットの前にセフィロスとクラウドが立ち止まると敬礼した。
「ミッションコード 8972656 コンプリート。ただいま戻りました。」
「ご苦労様です、実は本当は耳に入れたくなかったのですが…”特務隊は同性愛者の集まりであり、その中心はサー・クラウドである”などという噂が流れています。出所は女子社員だと思われますが、ミッション中にリックやカイルが朝一で姫のほっぺにキスしたとか、戦いを終えて戻ってきた連中が姫を抱きしめたのは事実ですよね?」
 ランスロットが苦虫をかみつぶしたような顔でクラウドとセフィロスに報告した、クラウドは聞かれたことにちょっと拗ねながらもまっすぐ統括を見て答えた。
「……自分には否定出来ませんが…」
 そう言ってちらりとセフィロスの方を見ると、彼もクラウドの方を見やるとにやりと笑った。
「まったく、困った物だな。カミングアウトするか?」
「冗談じゃありません。どちらをも失うわけにはいきません。それで…姫にちょっとお願いしたいのですが…」
 ランスロットが後ろ手に持っていた紙袋を見せると、クラウドが溜め息をついた。
「まったく…もう、仕方がないですね。じゃあ先に行きます。」
 ランスロットから紙袋を受け取ると、後ろに待っているツォンに案内されて、一足先にカンパニーの中に入った。

 20分後、きっちりと化粧をして着飾ったクラウドが、カンパニーの玄関から駆け寄ってくるのがセフィロスの目に入った。
「クラウディア。」
 セフィロスの声にその場にいた女子社員達がびっくりして、走ってくるクラウディアに視線を移した。
 青い瞳に涙を浮かべてセフィロスの元へ駆け寄ってきた女性は、まちがいなく”世界の妖精”と呼ばれているスーパーモデルだった。セフィロスの目の前まで走ってきたかと思ったらその場で立ち止まり、両手で口元を抑え涙をボロボロとながしている。
「ご、ごめんなさいお仕事先まで来てしまって。」
「いや、一ヶ月も会えなくて寂しかった。」
 セフィロスがクラウディアを抱きしめると、クラウディアは嗚咽を漏らしながら泣きじゃくっている。その様子は久しく会えなかった恋人達が無事再会出来た喜びにあふれていた。
 女子社員達が思わずもらい泣きをしはじめた。
「そうよね〜、恋人と一ヶ月も会えない上に、サー・セフィロスは戦場に行っていたんです物、さぞ心細かったでしょうね。」
「私、クラウディアの事あまり好きじゃなかったけど。こうしてみると、自分達が平凡でよかったのかもしれないわね」
「そういえば、心なしかクラウディアって痩せたんじゃない?きっとサー・セフィロスの事を思ってずっと神経すり減らしていたんだわ。」
「なんだか、可愛そうね。」
 女子社員がピーチクパーチクと目の前の事柄を”余計なお世話”的話しに発展させている。その声を聞きながらクラウドはセフィロスの腕の中でため息をついた。
「ふう…まったく……。」
「ランス、お前にしては良く思い付いたな。」
「噂を消すには違う噂を与えてやればいいですからね、姫の噂はツォンが裏から手を回しています。」
「どう言う噂でしょうか?」
「あなたの仮想恋人が自ら身を引く為に自殺未遂を起した。姫はそれをあわてて止めて仮想恋人を諌めた…です。彼女たちはこう言ったスキャンダルが大好きですからね。」
 呆れて物もいえないクラウドの携帯が鳴り響いた。ピンク色の携帯はクラウディアスタッフ専用の携帯だった。
「はい。あ、ティモシー うん、ごめん今帰ってきた所。え?ええ、1週間ぐらいかな?うわ!!もう、しょうがないなぁ。」
 クラウドが携帯を折り畳んでランスロットに向き合った。
「統括すみません、副業で一週間拘束されますので休暇を下さい。」
「このミッションの休暇が2週間ほどありますのでゆっくりして下さい。」
 ランスロットに一礼してセフィロスと共にクラウドが悠然と歩き出した。その仕草はほんの数時間前まで血みどろの戦いをしていた戦士の物とは思えないほど優雅で、洗練された仕草だった。