クラウドが再び着替える為に本社ビルに戻ろうとすると、セフィロスに抱き止められた。
「なるほど、栄養補給とか充電とか言っていたが…こういう事か。」
にやりと笑ったかと思うと、顎を捕らえられていきなり唇を奪われた。軽い口づけが次第に深くなっていくと、クラウドの腰が自然と揺れる。
「ん………ふうん……。」
鼻に抜けるような甘い声がクラウドから漏れると、やっとセフィロスの唇が離れた。
一部始終を見ていた女子社員達がきゃーきゃーと騒ぎたてていた。
クラウドの青い瞳の中に妖艶な炎がちらりとのぞく、その艶っぽい顔をみて満足げにうなずき、きびすを返すようにセフィロスは執務室へと帰っていった。
ランスロットがため息混じりにつぶやいた。
「まったく…見せつけてくれますね。」
「あ……あ……。もう、セフィの馬鹿ァ〜〜!!」
真っ赤になりながら小声でつぶやくクラウドをランスロットがエスコートして、統括室まで戻ると奥の控え室で特攻服に着替えて化粧を落し出てくる。
「まったく…あとでとっちめてやる!!」
完全に素に戻っている少年に苦笑をこらえながらランスロットは声をかけた。
「逆にやられないようにお気をつけて。」
「統括!!」
クラウドは真っ赤な顔でランスロットをにらみつけるが、統括は涼しい顔をしている。ぶすっとした顔で書類をもらって統括室から出ると、一礼し早足で執務室に戻った。 特務隊の執務室に入るとリックとザックスが珍しく書類と格闘していた。
「ご苦労様。どう、できた?」
「ん〜〜〜、まだこんなもんだ。」
「俺も添削頼む〜〜」
「リックも実戦派だったのか。」
「俺達み〜〜んな実戦派、お前がどっちも出来るから、クラスA上がる前まではずいぶん楽してたな。」
「残念ながら俺はそうでもないんだな」
「うるせー!何が悲しくて経済学部を履修して兵隊やってんだよ!」
仲間内でけなし合いながらもそれぞれ報告書を書いている、そんな隊員達を見渡してクラウドが声をかけた。
「ああ、俺明日から2週間休暇取ったからね。」
「お、いいな〜〜、そんなにもらえるのか。俺も申請してこよう。」
「良くない!!一週間はティモシー達に拘束された!」
「本業か?まぁせいぜい綺麗になっていろよ。旦那も喜ぶぜ。」
「綺麗な奥様がエプロン付けて”おかえりなさい chu!”ってやられたら、さすがの氷の英雄だって、デレデレになるんじゃないの?」
「ミニスカートにチューブトップで服が見えなかったりしたら完璧ノックアウトされるんじゃない?」
隊員達が揶揄するようにクラウドに話しかけると、彼の青い瞳が冷たく光った。
「クックック…チョコボックル!!」
アルテマウェポンにはまっている黄色いマテリアが光り輝くと、どこからかチョコボの集団が現れて、ザックスとリック、カイルを踏みつけていった。
「あ、あのなぁ!!こんな狭い場所でチョコボを呼ぶな!!」
「ひっで〜〜、思いっきり踏み付けて行きやがった!」
「あいたたたたたた……。」
「ふん、この程度のダメージか。使えんな。」
マテリアを覗くクラウドの姿を苦笑を漏らしながらジョニーが声をかけた。
「よ!隊長ソックリだぜ!」
「何をラーニングしたんだか、まったく…。」
「敵の技だよ。どんな効果か知りたかったんだ。でも強さならベータかトライン、それかシャドウフレアだな。うん。」
軽くうなずくとリックとザックスが差し出した書類を受け取り、クラウドは添削を始めた。
「ザックス、2ヶ所間違ってる。リックは3ヶ所。マダマダだね。」
「ちぇ!ザックスに負けちまった。」
「お〜〜、2ヶ所だなんて最高少ね〜〜!!」
「山猿が進化している…。」
「まぁね。俺だってマジになればやれるんだよ」
隊員達がワイワイやっているうちに、クラウドも机に座ると報告書を書き始めた。リックとザックスが報告書の修正を終える頃には書き終わり、まとめて隊長のセフィロスのところへと持って行くため部屋をでる。
やや早足で廊下を歩き去るクラウドに、通りすがる兵士達があわてて敬礼するが、急いでいるクラウドは返礼する間もなく通り過ぎて行ってしまった。
そんなクラウドを見送った兵士達がささやき合っていた。
「やっぱり、あの噂は本当なのかなぁ?」
「何の噂?」
「サー・クラウドの恋人が自殺を計って一命は取り留めたが、意識不明の重体だって…。」
「そりゃ…、仕事を早く終わらせて飛んでいきたいだろうね。」
「そういえば俺、副隊長から聞いたけど、サー・クラウドは明日から2週間休暇を申請して許可されたんだって。副隊長ったら”クラスAの仕事がはかどらん”って嘆いていたよ。」
「やっぱりサー・クラウドって凄いよなぁ…憧れちまうよ。」
自分より一年以上前にカンパニーに採用された先輩兵達が、自分の寮仲間だったクラウドに憧れている事にアンディーは呆れていた。
「先輩たち。クラウドって俺と同期なんですよ。それなのに…」
「悪いか?憧れは憧れだ。一般兵だったサーが強くなって行ったのは事実だろ?俺も、そういう風になりたいんだ。」
「それよりもお前。どうしてサーを呼び捨てにするんだ?上官だぞ。」
「え?俺、訓練生時代の同僚で…クラウドも俺の事まだ覚えていると思うんですけど。」
「うわ!!お前みたいなひよっこと同室だったのか?!」
「ええ、まあ。でも、もう話しかけてももらえないような奴になっちゃった。」
「それも可愛そうだよな。」
先輩兵達に同情されつつアンディーは一般兵の訓練所へと向かった、そこへ報告書を提出しおえたクラウドが早足で歩いて戻ってきた。目の前に懐かしい顔が見えるので思わず呼びかける。
「アンディー!!久しぶりじゃないか!!」
「あ、クラウド…准尉。お、お元気ですか?」
「嫌だな〜、敬語なんか使うなよ。同僚だったじゃないか、あ、そうそう。今どの隊にいるの?」
「第21師団第3小隊です。」
「ああ、ランディのところか。あいつの弱点教えてやろうか?左脇ががら空きなんだぜ、こんど対峙したらそこを突いて見ろよ。」
「そ、そんな!!上官と対峙なんて、俺みたいな下っ端にはできっこないよ。」
「今日は急いでいるから無理だけど、そのうち手合わせしてあげようか?」
「じょ、冗談!!お前と手合わせなんてしたら、俺、上官や先輩たちにつるし上げくらうよ。」
「あ、もうこんな時間!!ごめん!また今度な!」
アンディが片手を上げて走るように去って行くクラウドに敬礼を送ると、後ろで先輩たちが自分を憧れの眼差しで見ていた。
「え?ど、どうしちゃったんですか?!」
「このぉ!!次にサー・クラウドと会う時は俺も呼べ!!」
「貴様一人に美味しい思いをさせてたまるか!」
「はぁ…まあ怒らないと思うけど。でも何を急いでいるんだろ?」
「バ〜カ!恋人が意識不明の重体なら誰でも急ぐだろ!」
「それでも仕事を終わらせてから行くなんて…立派だよな〜〜」
一般兵達は感心したようにクラウドの背中を見送った後、訓練所に歩いて行った。しかし、クラウドはそんな理由で急いでいるわけではなかった。
「冷蔵庫の中、空っぽだもんな。早く買い物に行かなきゃ。」
思いっきり主婦感覚で駐車場へと走って行く。
通り過ぎる女子社員や治安部の兵士達がその姿を見ては、道を譲りながら、クラウドが通り過ぎた後で同じように話していた。
そうとは知らないクラウドはバイクを引きずり出して、ヘルメットをかぶりフルスロットルでカンパニーを去って行った。駐車場の係員が呆れたような顔でそれを眺めていた。
バイクで一旦部屋に戻って、軽く掃除をした後、着替えていつものスーパーへと出かけると、馴染みになった店員があちこちからクラウドに声をかけてくる。
「おや、久しぶりだね。今日はいい魚が入っているよ。」
「そう?あ、その黒鯛生きがよさそう。」
「ああ、これ?生で食べられるよ。奥さんならカルパッチョとか出来るでしょ?」
「三枚におろしていただけるかな?お刺し身にして食べたいな。」
「お安い御用さ、少しかかるから他を回っておいで!」
「はぁい。ありがとうございます。」
クラウドの事は店員達にもかなり好評で、何処の誰と暮らしているとかは全く聞いたこともないが、さぞ裕福な家庭の奥様なのだろうと噂しあっていた。
しかし、いつもざっくりしたセーターとスリムジーンズと言う姿で店の商品を選ぶ姿は、優しげな笑顔と共に好感をもたれていた。
「あ、そのお肉おいしそう。」
「ああ、これかい?そりゃ美味いよA5ランクの牛肉だ。ちょっとお高いけど軽く表面を焼けばそれだけで食べられるよ。」
「う〜ん。でも、高いから…そっちのきり落しをください。ハッシュドビーフにしたら最高だもん。」
「お、目が高いね。こういう肉をうまく料理するのがお料理上手の奥さんの腕の見せ所だよ。きっと旦那さんも喜ぶよ。」
野菜や乳製品をしっかりと買い込んで、魚屋に戻るとすでに黒鯛は出来上がっていた。受け取りながら笑顔でお礼を言うと、店員が”アラ”を渡してくれた。
「アラ炊きは美味しいんだよ。レシピはネットで探せばわかるだろうからチャレンジしてごらん。」
「はい、ありがとうございます。」
カードで料金を支払うと一杯の荷物をもって、いつものエレベーターへと歩いて行く、部屋に戻ると冷蔵庫に整理して入れ、今夜のメニューにするためネットで”鯛のあら炊き”のレシピを手に入れプリントアウトすると、エプロンを着けてキッチンへと入ると晩ご飯の支度に没頭しはじめた。
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