クラウドがせっせと料理を作っている頃、カンパニーに残っているセフィロスは、まわりがあきれるほどご機嫌で仕事をしていた。
そんな様子を見てクラスS仲間達がひそひそと話し合っていた。
「なんですか?キングのあの機嫌の良さは?」
「バ〜カ、お前わからぬのか?キングの部屋には誰がお見えなんだ?」
「それは…綺麗で可愛くて料理上手のご自慢の愛妻でしょ?」
「先程ものすごい勢いで帰られたという話だ。後は想像付くだろう?」
「部屋に帰ればその綺麗で可愛くて料理上手の奥様が、愛情のこもった手料理で待っていて下さる…それが嬉しいからか?」
氷の英雄と呼ばれ誰をも寄せ付けない雰囲気のセフィロスが、まるで鼻歌でも聞こえてきそうなウキウキの調子でいるので、クラスSソルジャー仲間が全員呆れていた。
「それにしても、喜んでいいのか悲しむべきか…あの触れれば切られるようなオーラは何処へ行っちゃったんでしょうね?」
「まったくですな。」
「ミッション中は相変わらずのようでしたが?」
「まぁ、良いではないですか。キングが身近に感じられるんだ。」
「女子社員共の餌食にもなりそうですけどね。」
まさにその通りで女子社員の噂の種になりつつあった。
「知ってる〜、クラウド君ね、恋人が危篤だって言うからあわてて帰って行ったんだって。」
「知ってる〜〜、クラウド君のために身を引こうとして自殺したんだって、危ない所を安全のために見張っていたタークスが助けたんだってね。」
「アンタ達がへんな噂をながすから、その恋人さん、ショックを受けちゃったんじゃないの?!」
「え〜〜?!じゃぁ私達のせいだって言うの?!」
「そ〜よ!!クラウディアだってあんな噂聞いたら、カメラ目線で笑える訳無いわよ。」
「う〜〜ん、そうよねぇ。」
「でも、面白いからやめられないのよね!」
女子社員達が思わずうなずいた。
「そういえば、サー・セフィロスすっごくご機嫌なんですって。」
「そりゃ、一ヶ月ぶりにフィアンセに逢えたし、部屋に帰れば彼女がいる訳でしょ?それでご機嫌なのよ。」
「うわ〜〜〜、やっぱサー・セフィロスの方がクラウディアを口説いたのかな?」
「そうみたいね。だってクラウディアまだ16才でしょ?」
「え〜〜?!16才?!20才過ぎていると思っていた。だって、あの色っぽさでしょ?とてもじゃないけど16才には見えないわ。」
「それがマジで16才なのよ、私の知り合いの友達がダイアナのショップで働いているんだけど、クラウディアの誕生日8月19日で、何を贈るかオーナーが悩んでいるって。で、その子に聞かれたんだって、『17才の女の子が欲しがるような物って何?』って。」
「ね?サー・セフィロスって何歳だったっけ?」
「え〜〜〜?!たしか23才だったっけ?」
「もうちょっと年上なんじゃないの?」
「そうしたらかなりの年齢差って事になる訳ね。」
「うわ〜〜、サー・セフィロスってロリコンだったんだ!!」
セフィロス、ロリコン説はあっという間に広まって、クラスS執務室まで聞こえてきた。
「まぁ、間違ってはいないようですが…。」
「キングの耳には入れたくない話しですな。」
噂を聞いたリーとガーレスがひそひそと話していると、扉を開けてクラスAソルジャーのブライアンが入ってきた。
「連帯長殿、報告書が出来上がりました。」
「ご苦労。ところで、ブライアンそっちもすでに回っているかね?」
「え?何がですか?」
「キングのロリコン説だよ。」
「ああ、もうクラスAではバカ受けでしたよ。本当の事ですからね。」
「さすがに早いな。」
「こっちには女の子に目がない奴らがたくさんいますからね。」
ブライアンが上官に敬礼をして、クラスS執務室を後にしようとして、陽気に執務しているセフィロスが視野に飛び込んできたので、目を丸くして上官に問いかけた。
「連帯長殿。あ…あの、キングに何かあったのですか?」
「お前なぁ…何処かの奥様が大急ぎで自宅に帰ったの知ってるだろ?」
「はぁ、そういえば、とうの昔に帰っていきましたね。なるほど、可愛らしい奥様が手料理と共に待っているんだから、鼻歌の一つも出るって物でしょうね…はぁ〜〜〜」
ブライアンが盛大に溜め息をつくと、それを聞いてリーが苦笑を漏らした。
「戦場に立っているキングと180度違うだろ?」
「戦場に立っている誰かさんも全然違いますけどね。」
「そういえば、そうだな。」
魔法部隊の隊長と副隊長が声を殺して笑っていた。
当のセフィロスと言えば山積みの書類を片っ端から片づけて、すでに机の上を整理しはじめていた。そして書類の束をもって統括室に歩いて行こうとして執務室を後にする
「先に帰るぞ。」
「あ、キング。書類ぐらい我らが…。」
「いや、どうせ駐車場へと行く途中にある。」
「はぁ…お疲れ様でした、可愛い奥様によろしくお伝え下さい。」
セフィロスがトリスタンを一瞥すると、きびすを返して廊下へと歩きはじめた。しかしその足取りは軍靴だというのに、リノリウム張りの廊下に全く音を立てないほど軽やかだった。
パーシヴァルが思いっきり深いため息をついた。
「まぁ、お気持ちもわからないではないんですがね。」
「まったく、変われば変わるものですな。」
「氷の英雄はどこへやら…だな。」
クラスS仲間が盛大なため息を付いている頃、セフィロスは本社ビルのロビーを横切りエレベーターへと乗り込んでいた。
通りすがる女子社員が一礼をするが見向きもしないが、その嬉しそうな後ろ姿をみると女子社員も納得してしまう。
「きっとクラウディアさんの元に早く帰りたいのね。」
「サー・セフィロスって冷血漢って聞いてたけど違ったのね。」
「そういえば、噂で聞いたけど、クラウディアって凄く料理上手なんだって。統括が羨ましがってみえたわよ」
「本当かしら?”恋エプ”に出ればわかるのにね。」
「そうね〜〜〜」
「そういえばあれってたしか、出場者リクエストってあったわよね。」
「やる?」
「やろうよ!!」
女子社員が一丸となった。
一方、セフィロスはランスロットに報告書を提出してから、携帯を取りだし8番街のフラワーショップに電話を入れた。
「セフィロスだ。ピンクの薔薇は有るか?ああ20本だ、今から取りに行く。」
携帯をたたむと駐車場に止めてある愛車に飛び乗るとアクセルをべた踏みして高速へと駆け抜けた。
20分で8番街のフラワーショップ『ange』に到着した。
中からピンクの薔薇の花束を抱えたエアリスが現れる。
「毎度ありがとうございます。300ギル(1ギル=100円)です。」
「いい薔薇だな。カードで支払えるか?」
「もちろん!ね、セフィロス。私っていつクラウド君とデート出来るの?」
「はぁ?!私がいつそんな事許可した?」
「いやねぇ、もう忘れちゃったの?ケーキバイキング!!」
「あ…ああ、あれか。明日から1週間モデルをやっているから、電話して調整するのだな。」
「じゃあザックスも休めるかな?一緒に行こうよ。」
「私は甘いものは苦手だ、ザックスもさほど食べられないぞ。」
「いいの!クラウド君とデートするなら我慢しなさい。」
花売りの女の子に英雄と呼ばれている男が完璧に言い負かされている。しかし、それを何とも思わずに受け止めているセフィロスがいるのも確かであった。
セフィロスが渋々うなずくと、エアリスにカードを手渡して薔薇の花束を受け取る。カードをリーダーに通してエアリスが返すと手を軽く上げて車を発進させた。
「ん〜〜。なんだかんだいっちゃってクラウド君の事大好きなんだから!もうラブラブじゃない、うらやましいなぁ〜〜」
走り去って行く車にエアリスが羨ましげな視線を送っていた。
高速をシルバーメタリックのスポーツカーが疾走して行く。
助手席に載せたピンクの薔薇の花束から華麗な匂いが漂ってくる、この華やかな香がクラウドは大好きだった。受け取った時の笑顔を思い浮かべると思わずセフィロスの口元がゆるむ。
目の前には住み慣れたマンションがそびえ立っていた。
駐車場に車を止めて助手席の花束を取ると、エレベーターに乗り込む。軽い浮遊感をともない最上階へと到着した。
玄関のチャイムを鳴らし扉を開けると、目の前にフリルの付いたエプロンをした、愛しい少年が笑顔で立っていた。
「お帰り、セフィ。」
そう言って触れるだけのキスをくれると、ほのかにピンク色に染まる頬ににんまりとしながら、セフィロスは後ろ手に持っていた薔薇の花束をクラウドに渡した。
「ただいま。ほら、お前の好きなバラだ。」
「わぁ!ありがとう。もしかしてエアリスの店の?」
「ああ、そういえばいつケーキ食べに行くのか?って聞いてきたぞ。」
「う〜ん、ティモシー達の拘束が終わればいいんだけどなぁ…」
たわいもない話をしながらリビングへと移動すると、キッチンにはすでに夕食の支度がきっちりと終わっていた。
ゆっくりと流れる時間と美味しい食事。そして何より愛しい少年の笑顔が、自分だけに向けられている事に、セフィロスの戦いですさんだ心を癒して行く。
「クラウド。聞いてもよいか?お前は第一線で血みどろの戦いをしていた。もちろん精神的ダメージも受けているだろう。おまえはそれをどうやって癒しているのだ?」
「ん〜と。どうやってって言っても…、俺はセフィロスのそばにいられれば、それだけで嬉しいんだ。精神的ダメージもあるけど、貴方がそばで微笑んでいてくれれば、そんなもの何処かにいっちゃう気がするんだ。」
「……可愛い事を言う。」
セフィロスが思わず座っていた椅子から腰を浮かすと、クラウドの細い顎を右手で軽く持ち上げて唇を重ねた。
「んふっ……セフィ 大好き。」
「知らないぞ、そんな事を言って。」
「いいじゃない。一ヶ月ずっと言えなかったんだもん。」
クラウドが手際よく皿を片づけると、いつものように食後のコーヒーを煎れる。コーヒーの持つ独特のアロマがキッチンに広がると、やがて両手にカップを持ってセフィロスのいるリビングへと運ばれる。
「今日はスペシャルブレンドだよ。」
カップを一つセフィロスに手渡すと、ちょこんと隣に座る。セフィロスの自由な腕が伸びてきてクラウドの頬や髪の毛を触っている。やがてコーヒーがカップから消え去る頃、セフィロスの腕にとらわれてクラウドはシーツの海へと溺れて行った。
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