ナタリーが帰ってしまった事をクラウドから聞かされて、セフィロスは彼女らしいと内心思っていた。
 その晩さんざんセフィロスの腕の中で泣いたクラウドは、別の意味でも鳴かされて泣きつかれて寝入った。

 翌日、クラウドの目が泣き明かした後なのではれぼったくなっていた。目薬をさして少し冷やしておかないと後でクラウディアスタッフに何を言われるかわからない。
 何しろ今日は19日、スーパーモデル・クラウディアの誕生日なのである。
 時計を見ながらセフィロスがクラウドに訪ねた。
「今日の約束は何時からだったか?」
「えっと、16時にシェフォード・ホテルに部屋を抑えてくれているから、そこに行く約束しているんだ。パーティーは18時からだけど…。」
「2時間も前にホテルに入るのか?」
「うん、だから恐ろしいんだよ。」
 2時間も念入りに化けさせられた日には、どれほどの美少女ぶりを発揮するであろうか?そう思いつつセフィロスはクラウドの髪の毛をすきながら額にキスをした。


* * *



 シェフォード・ホテル フェニックスの間には、クラウディアの誕生日を祝おうと政財界のトップクラスとトップデザイナー達が広い会場を埋めていた。
 スポットライトが扉に向くと扉が開き、きっちりと正装したセフィロスにエスコートされてクラウディアが入ってきた。
 ウェディングドレスかと思うような白いドレスはマダムセシルとデビットが共同でデザインし作った一点物のドレスだった。髪を飾ったティアラといい、ほのかに施された化粧と言い、真珠を主としたアクセサリーと言い、クラウディアの良い所をあます事なく引き出していた。
「うわぁ…きっれ〜〜い。」
 エアリスが思わずつぶやいた。
 ゆるやかに微笑むセフィロスと隣に立つクラウディアはまるで一枚の絵画のようであった。会場に居る誰もが見とれるほどのお似合いのカップルである。

 父親から司会進行役をおおせつかったジョニーが慣れた様子で会を進行させて行った。
 BGMと同時に有名なパティシエの作った大きなケーキが運ばれてきた、ケーキの上にはロウソクが17本たっていた。
 HAPPY BIRTHDAYの合唱とともにクラウドがロウソクの炎を一気に消して会場中からの拍手を浴びた。
 照れながらもそっと隣に立つセフィロスを見つめてから、まわりを見渡してぺこりとおじぎをする姿はどこからどう見ても愛らしい女の子そのものであった。
 クラウディアの目の前に大きなプレゼントの箱がおいてあった。開けるように指示があったが理由があって開けられない。

「あ…あの。ここで開けてもよい物でしょうか?」
「ジョニー、中身は確認してあるのだろうな?」
「イエス・サー!クラウディア様に万が一の事があってはいけませんので、先程確認させていただきました。」
「と、言うことだ。大丈夫だろう。」
 緩やかに微笑みながらセフィロスはクラウドの肩を抱き、大きな箱のそばへとエスコートする。スポットライトが二人を照らすとグローブをはめていなかったセフィロスの左手薬指の指輪が光をきらきらと反射していた。
 クラウドが箱のリボンをほどくと中から大きなクマのぬいぐるみがでてきた。それは去年もらったプラチナ織りのクマとお揃いで、今度は金糸を織り込んだ布で作ったボディーに空の青を写し取ったような大きな瞳のクマで、ヴェールとティアラ、そして白いドレスを着ていた。これも去年のものと一緒で耳にリベットが付いている。
 その姿かたちを見てクラウドの目が丸くなる。
「これ…もしかして私かしら?」
「クックック…色と言い姿といいそのとおりであろう?」
「う〜ん、あのくまちゃんのお嫁さんなのね。いいなぁ…」
「何がよいのだ?お前には私がいるであろう?」
「………馬鹿ぁ…。」
 ちょっと拗ねたような上目遣いの青い瞳、つんと尖った唇、ほのかに赤く染まった頬、凶悪なまでに愛らしい顔が男心をくすぐる。満足げな顔でセフィロスがクラウドの額にキスを贈ると、会場からどよめきが起こった。
 司会を進行させているジョニーがいささかあきれたような顔で突っ込みを入れた。
「隊長殿、いくら恋人が可愛らしいからと、日ごろの隊長とは思えないような行動はとらないでください。」
「煩い!愛しい者を愛しいと思って何が悪い!」
「はいはい。まったく、とことん惚れまくっているんだから…」
 ジョニーの言葉に照れたような天使の笑顔がセフィロスだけに向けられる。その笑顔がたとえ自分に向けられていなくても直に見られる事がその場に居られるステータスであった。
 クラウドがセフィロスから離れてジョニーの元へと歩いていくと、ちょこんと一礼してマイクを借りて話しはじめた。
「去年いただいたくまちゃんにお嫁さんをいただきありがとうございます。」
 天使のような笑顔でおじぎをするとマイクをジョニーに返す。ジョニーが再びマイクを持つとクラウドに軽くウィンクをおくった。
「ご苦労様。これでうるさ方の爺様達も静かになると思いますよ。マダム、デヴィッドさん。後どうすればいいのですか?」
「そうね、どうしましょうかしら?」
「ゲーム大会でもしますか?」
 デヴィッドの一言でダーツ板とルーレットボード、そしてビンゴボードが用意された。マダムがクラウディアを呼ぶ。
「クラウディア。ちょっとお願い出来るかしら?各ゲームトップ5人と握手してくれない?」
「ええ、そのぐらいでしたらサーもお許ししてくださると思います。」
 クラウディあの言葉にゲストから再びどよめきが起きた、会場内の誰もがクラウディアとの握手を狙っていたのであった。
 デヴィッドの用意したいすにクラウディアが座ると、見覚えのある金髪の女性が歩み寄ってきた。
「お久しぶりですね。レディ・クラウディア。」
「ええ、お元気でしたか?えっと…Dr・ライザ。」
「ええ、おかげさまで。まだ17才なんですのね、いいわぁ若くて。」
「私は…早く大人になりたいです。」
「サー・セフィロスに釣り合う女性になりたいということ?今でも十分だと思うけど?ところで私の恋人知っているわよね?なぜか彼の両親もここに来てるのよ。どうしてかしら?」
「以前お世話になっていたもので…ジョニー様にお聞きしたら、ちょうどミッドガルにいらっしゃるというのでお招きしたのです。」
「あら、やっぱりそういうことだったのね。」
 二コリとほほ笑んだライザが軽く手をあげてその場から去って行った。凛とした後ろ姿に彼女の精神的な強さがうかがえる。そんな後ろ姿を見送ってふと視線を巡らせると、優しげに微笑む初老のご夫妻が軽く会釈をしていた。
 緩やかな笑みを浮かべてその会釈に答えたクラウドのそばでセフィロスが小声でささやいた。
「ミッションで利用した人間を呼ぶとは…お前もずいぶん甘いな。」
[うん、命取りになりかねないよね…でも、あのお二人には会わなければいけない気がしたんだ。」
「そうか、せいぜいお前が男だと、ばれないようにするのだな。」
「努力してみます」
 言葉とはうらはらに天使のような微笑みを向けるクラウドは、ミッションモードに突入してしまったかのような冷静な態度であった。頼もしくもあるが決してクラウディアの雰囲気では無い。セフィロスの手がそっとクラウドの頬から顎にかけてゆっくりと移動するとびくりとしたように顔を向けた。
 昨夜どれほど情交を交わしたかクラウドのからだが覚えている。触れられた所からまるで電気が走ったかのように身体がほてり、クラウドはその意志に関らず思わず艶っぽい表情になってしまう。
 するとセフィロスの手がクラウドを離れた。
「その顔を忘れるな、おまえは今世界の妖精だ。」
「あ、うん。」
 次第にゲームも進んできて、勝者がクラウディアと握手を求めてくるようになった、その中にアンダーソン氏も入っていた。
 クラウドはにこりと笑って挨拶をした。
「お久しゅうございます、本日はいらしてくださってありがとうございました。」
「お久しぶりです、お元気そうでなによりです。クラウディア様からお誕生パーティーに呼んでいただけるとは思っていませんでした。これはお誕生プレゼントです。」
そう言って手渡してくれたのはあの時見たティファニー・イエローのダイヤモンドをあしらったブローチだった。
「まぁ、綺麗。宝石なのですか?でも、受け取れませんわ。家族と親友以外のプレゼントは万が一のことを考えていただいてはいけないとサーにきつくいわれていますの…本当にご免なさいね。」
 そう言ってブローチを返すとアンダーソン氏は悲しそうな顔をした。すまなそうな顔でクラウディアがおじぎをしながら握手をする。
 アンダーソン氏が去って行こうとすると、クラウドの隣にいたセフィロスが追いかけた。なにやら二言三言会話をして戻ってくると、手のひらに載せていたものをクラウドの胸につける。
 それは先ほどアンダーソン氏が持っていたイエローダイヤのブローチだった。
「酷いよ。もらっちゃいけないって言っていたじゃないか。」
「お前への誕生日プレゼントとしてこいつを正式に購入しただけだ。」
「きっと…ずっと心配していたんだろうな。自分があの男にを引き合わせたと思っているだろうから…」
「お前は優しすぎるな。」
 そっとセフィロスがクラウドの肩を抱き寄せた。

 セフィロスに身体を預けるように寄りかかりながら、クラウドは複雑に絡みはじめた自分のまわりの人達との関係を思い起こしていた。
 ミッションで出会った人達の中で1番印象に残っているのがアンダーソン夫妻であることは間違えない。あの夫人にであっていなかったら”料理上手な自分”がいるとも思えない、しかし今それを言うわけにはいかない。
 お礼も言えないまま、アンダーソン夫妻を見送ることをクラウドは少し悔やんでいた。

 しかしアンダーソン夫妻には近い将来再び巡り合える時がくる事を、この時のクラウドは思いもしなかった。




THE END