神羅カンパニーが誇る英雄セフィロスの持っている部隊は、実力のある兵士ばかりの集団で最前線を担当していた。


FF7 パラレルワールド   幸せについて


 第13独立小隊の隊員が整列している。
 26人しかいない少数精鋭の部隊を前に、黒のロングコートをひるがえしながら、セフィロスが悠然と立っている。そのすぐとなりに華奢で女のような顔だちの少年が立っていた。
 華奢な外見とは裏腹に究極の召喚獣を2体も従えて、英雄セフィロスの隣りで剣を振るう事を許された男は、ほんの一年前までは一般兵として訓練していたのであった。
「第13独立小隊、解散!!」
 凛とした態度で解散を言い渡すと、とたんに隊員達からの笑顔がこぼれた。クラウドも隣に立つセフィロスをちらりと見やると思わず笑顔になる。笑顔を向けられたセフィロスもクラウドに向けてゆるやかに微笑んでいる。まわりで見ている一般兵がその様子を見て唖然としていた。

「うわぁ、かっこいい!!」
「カッコイイってなぁ、俺にはどう見ても”アヤシイ”なんだけど。」
「お前、まだ事務の女の子の噂を信じているのかよ?」
「信じたくないけど、あそこまで見せつけられれば信じたくもなるよ。」
「氷の英雄が唯一微笑みを向けるからか?当たり前だろ!サー・クラウドはサー・セフィロスの副官だぞ。」
 その会話を遠く離れているはずのザックスが聞き取っていた。
 ソルジャーの聴力であれば簡単に聞き取れる距離での会話は、当然セフイロスの耳にも入っているはずである。ザックスがセフィロスにコッソリと話しかけた。
「なぁ、セフィロス。やっぱり、この先ずっと言わないつもりか?」
「何をだ?」
「嫁さんの事。もう誰も文句言わないと思うけどなぁ。」
「私はクラウド以外の男を隣に立たせるつもりは無い。」
 ザックスとセフィロスの会話に隊員たちが参加し始めた。
「ザックス、何だよ。そんなに姫を辞めさせたい訳?!」
「誰がそんなことをさせるか!!」
「俺達のアイドルを独り占めなんてさせねえ。」
「アイドルってねぇ。俺、男なんですけど。」

 第13独立小隊のアイドルでもあり神羅カンパニーのアイドル的存在のクラウドは、一般人の恋人がいると噂されていたが実際はセフィロスと既に一年前に結婚している。
 カームの地下組織せん滅と言いながらも、実は熱狂的なクラウディア・ファンの起こした騒動がきっかけだったが、すでにお互い以外の人を考えられなくなっていた二人は、そのまま結婚生活を続けていた。

 カンパニー就業規則では社内結婚する場合、所属している部が同じ時はどちらかが移動する事になっている。
 トップソルジャーのセフィロスが治安部から移動することは考えられないし、ミッションで鍛えられ召喚獣まで入手したクラウドも、あっという間に実力を開花させそれが公式に認められ、クラスAソルジャーとして登録されている。
 治安維持軍にとってはどちらも失うことができない人材であるので、二人の結婚はお互いの所属しているクラスSとクラスAそして第13独立小隊の隊員達、そして治安部統括のランスロットとタークスの3人、そして社長のルーファウスしか知らなかった。

「なぁセフィロス、クラウドがここまで強くなかったらどうしてたんだよ。」
「そんな仮定の事には答えられない。大体私が直接教えていて強くなれない訳がない。」
「ザックス、今日はやけに絡むね。エアリスと喧嘩でもしたの?」
「いや、喧嘩はしていないんだけど。なんつ〜か…あいつ、やたらお前を気に入ってるだろ?俺達と一緒に最前線にお前が行く事にやたらこだわるんだよ。」
「エアリス、俺を何だと思っているんだろう?」
「”可愛い妹を戦場に出す訳に行かないわ!”ってな感じかな?」
「ケガなんかしたらクラウディアになれなくなっちゃうでしょ、とか?」
「あなたはセフィロスの奥様なんだから、旦那さまのために帰る場所にいるべきだわ、とか?」

 リック、カイル、ジョニーの三人がわざと女っぽく言うのであったが、聞いていたクラウドはがっくりと首を垂れた。3人の言葉は実際にエアリスに言われた事があったのだった。
「俺、やっぱり何か間違えているんだろうか?」
「俺はそう思えないな、だってお前が選んだ道なんだろ?」
「うん、でも。もうソルジャーにはなれないんだよな。」
「何言ってるんだか、もうソルジャーじゃないか。まぁソルジャーとして身体を改造されていないから、実際はソルジャーじゃないけどさ。」
「俺もソルジャーになっちまったって事?」
「まぁ、そう言う事になるか。」
 隊員達が雑談をしながら執務室へと歩いていく、セフィロスはいつものように一人で先に歩いていたが、クラウドがその一歩後ろから従うように歩いている。
 それは上官に付き従っている副官らしい態度であった。


* * *



 クラスA執務室に扉を開けてクラウドが入ってくると、いつものように顔だけ向けて皆が迎える。
「よぉ、お帰り。」
「今回は1週間か、特務隊にしてみれば短かったな。」
「2週間後から実力試しのテストが始まるぞ。」
「もうそんな時期か、早いなぁ。」
「お?!そういえば姫、そろそろ結婚記念日なんじゃないのか?」
「え?あ…、うん。」
 エドワードの些細な一言にクラウドの頬が赤く染まる。その可愛らしい反応に思わずエドワードが反応した。
「ったく〜〜〜!!これでお前が独身なら俺、迷わず口説いているぜ。」
「おお〜〜〜!!危険な発言!!」
「とうとうエディも堕ちたか?」
「あれ?知らなかったかユージン、とうの昔にエドワードは姫に堕ちてる。」
「おまえもな、ランディ。」
「違うわい!俺は可愛い子が大好きなだけ!!」
「じゃあ堕ちてるな。」
「ああ、なにしろ姫はカンパニーbPの美人だ。」
「美、美人って…あのなぁ…。」
 クラウドが仲間たちに何か言いたげな目をするが、すぐに諦めに似たため息を漏らす。
「口答え出来ないか、俺のもう一つの顔を知ってるもんな。」
 クラウドのもう一つの顔とはポスターやCMでしかお目にかかれないが、天使のような微笑みと清純さ、そしてほのかに覗く妖艶さを持ち、英雄セフィロスの婚約者として有名なスーパーモデル、レディ・クラウディアなのである。
「出来ないよなぁ、レディ・クラウディア。」
 ブライアンがにやにやと笑う。その名前を出されるとクラウドも何ともいえない顔になる。

「あ〜あ、何でこんな事になっちゃったんだろうな?」
「恨むなら誰かさんの独占欲の強さを恨むんだな。」
「姫は、いったいどうしたい訳?」
「俺?ソルジャーにはもうなれないけど、このまま特務隊に、セフィロスの隣に立ちつづけたい。」
「なら現状維持って事か。」
「そう言う事になるのか。」
 クラウドは思わず頭をかいた、そして顔を上げて仲間を見渡した、
「まだ当分ここに居ることになりそうだ。」
「歓迎するぜ。」
 ブライアンが親指を立ててクラウドに答えたのを、後ろで一部始終を聞いていたリックが呆れたような声を出す。
「ブライアン、お前大丈夫か?姫がクラスAから落ちる事はないが、魔晄の力が減ってきているお前がクラスAから落ちる事もあるんだぜ。」
「うっ!!い、嫌な事を言うなよ。」

 ブライアンの顔が青くなった。
 それは魔晄の力でクラスAの地位を維持している者たちに取っては、誰しも起こりうる可能性のある事であった。

「それに姫はあと2年もしたらクラスSに引っこ抜かれるだろうから期間限定だぜ。」
「キングはそれを望んでいるのか?」
「いや、キングじゃなくてクラスS達が望んでいるんだ。」
「なんだかなぁ。俺、クラスSになんて行きたくないんだけど。」
「無理かな?連隊長達が手ぐすね引いて待ってるもんな。」

 仲間たちの言葉にクラウドは溜め息をつきながら執務室の机に座り、報告書を書きはじめた。

 やがて報告書を書き上げるとクラスS執務室へと歩いて行ったクラウドを見送ると、ブライアンがリックに声をかけた。
「リック、頼めるか?」
「いつでも来い。」
「俺も!」
「俺も参加!!」
 クラスAの大半がリック相手に鍛えてもらおうと立ち上がるので、呆れたような顔をした。
「流石に俺もコレだけの数の相手をするのは死ぬなぁ。エディ、頼めるか?」
「ん?お前に誘われるなんて幸せの境地だね。」
 エドワードが立ち上がるとクラスAソルジャー達が訓練所へと歩いて行った

 クラスS執務室の扉をノックしてクラウドが入ってくると、まっすぐとセフィロスのもとへと歩み寄った。
「失礼いたします。隊長、報告書をお持ちいたしました。」
「ん、ご苦労。」
 報告書を手渡して執務室を去ろうとしたクラウドに、クラスSソルジャーの一人アノリアが声をかけた。
「姫、お願いしたい事があるのです。」
「え?自分にですか?」
「はい、この所定期的な魔晄の照射がなくなり、なんだか力が抜けている気がするのです。それで姫に手合わせをお願いしたく…。」
「自分でよろしいのですか?」
「はい、実戦で鍛え続けている姫にしかお願い出来ません。」
「それでしたら喜んで。」
「姫、自分もお願い出来ますか?」
 ひとり、また一人とクラスSが立ち上がるので、それを見てクラウドが悲鳴を上げた。
「ちょ、ちょっと待ってください。そんなに沢山の方となんて無理です。」
 そこまでクラウドが話した所で不意にセフィロスが椅子から立ち上がった。
「なんだ?貴様達はいつの間にそれほど熱心になったのだ?」
「このまま実力が落ちてクラスS陥落なんて洒落になりませんから。」
「姫がクラスSに上がってくるまでは死守せねばなりませんからな。」
「クックック、クラウド、行くぞ。」
「え?あ、アイ・サー!!」
 セフィロスが闘技場へと歩き出した後を、あわててクラウドが追いかける。そのあとをクラスSソルジャーがぞろぞろと続く
 闘技場に到着して扉を開けたセフィロスの目に飛び込んできたのは、リックとエドワードを相手に真剣な顔で組み手をやっている、クラスAソルジャー達だった。