闘技場に入った途端目に飛び込んできたクラスA達の姿に、クラウドがびっくりしていた。
「み、みんな。」
「クックック…、魔晄を照射しなくなった余波と言うものは、案外良い事なのかもしれないな。」
 リックが入ってきたセフィロスと連隊長達に気がつき敬礼をする、クラスAソルジャー達がそれにならう。
「姫、凄い人達を引き連れているね。」
「メッチャ嫌みだろ。」
「いや、キング以外にはお前にしか出来ないだろうな。」
「うわ、初めて見たぞ。クラスSを引き連れて歩く、なんちゃってクラスAなんて。」
「当たってるんだけど、”なんちゃって”ってのが癪に障るなぁ。」
 手を挙げてクラウドがゆっくりと真ん中に進むと、クラスAソルジャー達が壁際に散らばる。中央に背中合せにクラウドとセフィロスが立つと、クラスSソルジャーがまわりを囲んだ。
「では、まいる!!」
 ガーレスが声をかけると一斉にクラスSがクラウドとセフィロスに組みかかった。
 窓や扉には一般兵や下級ソルジャー達がいつのまにか取り囲んでいた。

 セフィロスとクラウドのタッグはまるで隙を見せず、クラスSソルジャー達を軽々と叩きのめしはじめていた。周りで見ている兵士たちから感嘆の声が漏れ聞こえる。
「うわぁ、すげぇ。」
「動きが判んないよ。」
「サー・セフィロスは流石としかいいようがないけど、やっぱりサー・クラウドも凄いんだ。」
「馬鹿野郎!お飾りで特務隊の副隊長は出来ないんだぜ!」

 セフィロスの動きを感じながら飛ばされたクラスSをよけつつ、クラウドが次の目標に視線を送ると、そのきつい目を見てリックが声を上げる。
「ヒュ〜〜!!姫!カッコイイぜ!!」
「お〜〜、すげぇ!!クラスAにはみえんぜ。」
 しかし体力のないクラウドの息が次第に荒くなりはじめていた。すでにクラスSの半分が戦闘不能におちいっていたが、そこは連隊長にもなった男共である。クラウドの弱味につけ込みはじめた。
 クラウドが息を整えて気を開放すると、いきなりスピードが上がった、それを見て周りのクラスAソルジャーたちがびっくりする
「あいつ、まだまだ行けるじゃないか。」
「これは全員抜くな。」
「結構体力ついたな。」
「特務隊副隊長はダテじゃできないってことさ。」
 そう呟きながらリックが羨ましげな目でセフィロスとクラウドを見つめていた。

(やっぱり、凄いよな。阿うんの呼吸と言うか…、隊長もクラウドがどう動くかわかっていて、それを計算に入れながら戦っているし、姫も自然と同じことをやっている。どうあがいても間に入って行く隙も無いや。)

 やがてクラウドが片足をついた時、まわりにはセフィロス以外立っているクラスSソルジャーはいなかった。
 自然と下級ソルジャーや一般兵から拍手が起こった。
 セフィロスがクラウドに手を差し出す。立ち上がったクラウドがセフィロスに向かって一礼すると手を離した。

 あまりにも自然だったので誰も気がつかなかったが、氷の英雄と言われているセフィロスが片足をついた男に立ち上がる為に手を貸すなど過去に無かったはずであった。

 クラスSソルジャー達が立ち上がり、二人に向かって一礼する。クラウドは敬礼を返すがセフィロスは微動だもしなかった。

 二コリと笑顔になったクラスSソルジャーたちがクラウドに握手を求めてきた。
「キングが居たとはいえ、我らをすべて退けるとは流石ですな。」
「マダマダです。隊長だったらお一人でも大丈夫なのではないでしょうか?」
「1vs1なら全員抜けるでしょうけど、今回のように一斉に飛び掛かられたらどうでしょうな?」
「そうだな、流石に防ぎ切れないだろうな。」
「それがたった一人のソルジャーと組んだだけで我ら全員を倒せてしまう、これは凄い事なんですよ。」
「いつでもクラスSに上がってきて下さい、御待ちしています。」
 クラウドにとって憧れでもあるクラスSの黒革のコート。それをまといたい気持ちは少なからずあるが、セフィロスとともに戦場に立つためには着ることはできないとクラウドは思っていた。
「自分は特務隊副隊長でありつづけたいと思っています。」
「クラスSに来てもそれは可能です。」
 クラスSのスカウトにリックがあわててクラウドの前に飛び出した。
「待った〜〜!!!姫はクラスSになんて渡しません!!」
「でたな。姫の警護隊長。」
「姫は俺が守る!!クラスSになんて行かせない!!」
「ならば貴様もクラスSに来ればよかろう、貴様ならば歓んで受け入れる。」
「い、行ける訳無いじゃないですか。自分は全体魔法を使えないんですよ?!」
 クラウドどころかリックまでスカウトし始めた連隊長たちに副官達があきれ顔で話し合っていた。
「うちでクラスSに一番近いと言えば姫とエディだよな。」
「え?俺?!」
「ああ、姫のおかげでずいぶん強くなったと思うぜ。」
「姫のおかげなんだか、リックのおかげなんだか。」
「当然、俺のおかげだ。」
 1番後からクラスAに上がってきた男が一番威張っているのが空恐ろしい。しかし実力だけを取ればクラスSにも上がれる男なので、みなそれを甘んじて受け入れている。そんな様子をにこやかに見つめていた連隊長たちがリックに声をかけた。
「ならばリック、揉んでやろうか?」
「当然マテリア使用による魔法戦ですよ。」
「うわ!!自分に死ねとおっしゃるんですか?!」
「死ねとは言わん。どうせ姫がお前を補助するだろうから、下手すれば我らの負けだ。」
「自分はそんなに魔力強くありません。」
「その2つの赤いマテリアを持っていて、それを言われますか?」
 クラスSがクラウドの腰に剥いでいる剣を指差すと、クラウドがはにかんだような顔をする。その時魔法部隊の隊長、リーがクラウドに真剣な顔で頭を下げた。
「姫にお願いがあります、一度2体の召喚獣をこの目で見てみたいのです。」
「え?それはかまわないのですが…どうすればよいのか…強いモンスターを倒す共同ミッションでも入ればすぐにできるのですけど…」

 クラウドが困惑しながら答えている所に、パーシヴァルとトリスタンを引き連れて統括のランスロットが入ってきた。その場にいたセフィロス以外のソルジャー達が敬礼するのを見てランスロットが敬礼を返すと、盟主の元に近寄った。
「キング、そろそろあの時期ですが。」
「そうか、今年から全体魔法が使える者なら誰にでもチャンスをやるのだったな。」
「はい。そこで姫の2体の召喚獣も呼べるようにできないでしょうか?」
「あいつらはパワーが違い過ぎるから破壊力もほかの召還獣とはけた違いだ。クラウド、最近あいつらを呼んでいないがコントロール出来そうか?」
「やってみないとわかりませんが、一度聞いて見ます。」
「お前の言う事なら聞くと思うが、下手に呼んで建物を壊してくれてはたまったものではないからな。」
 あくまでも上官らしい態度のセフィロスを見て、内心苦笑しつつランスロットが再び声をかける。
「では、キング。お願いいたします。」
「うむ。」
 そう言ってセフィロスがランスロット達を引き連れて退出した。その様子を見ていたクラスA仲間たちがつぶやきだした。
「相変わらずの王様ぶりだね。」
「そりゃそうだろ?本当なら統括になるべき方なんだ。」
「それにしても、何の話なんだ?」
「ああ、魔力に縁のないリックは知らないか。マテリアはマスターになると分裂するんだ、分裂したマテリアは他のソルジャーにまわされるんだが…召喚マテリアが分裂した場合持ち主を決めないといけないだろ?」
「たしかに俺には関係なさそうだな。」
「魔力の面だけは一般兵のままだもんな。召喚マテリアで持てそうなのは…リックはレイズをかけられるか?」
「まぁ、なんとかな。」
「ならばシヴァを1回ぐらいは呼べるか。」
「しかしそれでは使い物にはならないぞ。」
 クラスA仲間の会話を聞きながら、クラウドが2個の召喚マテリアを剣から取り出し、手のひらに載せてじっとみつめていた。

   ”ねぇ、バハムートさん、ナイツ・オブ・ラウンドさん お願いがあるんだけど”
     ”我が主よ。何を望む?"
        そなたの望みならば叶えられる物であれば叶えるが"

    ”あのね…ちょっと姿を現すだけって、出来る?”
      ”出来なくはないが…”
         ”それが望みであれば我らはかまわぬが”

    "上官があなた達の姿を見たいんだって…ダメかな?”

 クラウドは思わずセフィロスにおねだりするような心境になっていた。2体の召喚獣も実を言うとクラウドのお願いにはかなり弱い。氷の英雄並みに弱かったりもする。

        ”わ…わかった…”
          い、いつでもお呼び下さい。”
     ”ありがとう、すっごく嬉しいよ!!”

 2個の召喚マテリアが赤く輝いていた。その光はいつもよりも強く感じられた。

 クラウドが2個のマテリアにお願いをしている間もリック達の会話は続いていた。何気に聞いていたがどうやら召喚マテリアの持ち主を決める為に、全体魔法を使える者ならば誰でも、その召喚マテリアを持つチャンスがもらえるらしい。
 その時に発動出来ればその召喚マテリアを持つ事を許されるのであった。
「どういう召喚獣がいるのかな?」
「そうだな、まぁシヴァとかイフリートなんかはたくさん有るようだが、中には今までだれにも召喚されたことのないマテリアもあるようだぜ。」
「え?誰にも召喚されたことがない?!」
「それはそうだろう?姫の持っているマテリアのように、強い召喚マテリアは召喚主を選ぶんだぜ。」
「ま〜た姫に強い味方が増えそうな予感。」
「なるほど、姫なら召喚出来るだろうな。なにしろ究極の召喚マテリアを2個も持っているんだ。」
「どうやらその姿が拝めるらしいな、俺も行っていいか?」
「俺も!!」
「俺も!一度見そこねたからな。」
「俺はキングが召喚した奴を見てる、スッゲー威力だったぜ。」
「バージル!てめぇ!絶対シメてやる!!」

 バージル相手に首絞めをかけながらアランが叫んだ。
「うわ!!ぐ…ぐるじい……」
 バージルが悲鳴を上げているというのに、まわりで見ているクラスAソルジャー達は誰も助けようともせず、ただ単に笑っているだけだった。
「絞め方が甘いぞ、アラン。」
「最も本気で締められないけどな。」
 その場にいる誰もが、アランがおふざけでやっている事を見抜いていた。クラウドはその姿を見て嬉しそうに笑っていた。