言葉をあまり交わせないまま、クラウドとセフィロスは自分達が暮らすマンションに帰った。 その直後に見計らったようにかかってきた電話でエアリスには泣き出されるし、セフィロスとは半分喧嘩のような状態に陥ってしまった。 「俺はそんなに信用出来ないのですか?」 「通常攻撃効を効かせる為に自ら犠牲になる奴が信用出来るか?!」 「俺はセフィを危険にさらしたくない!」 「私だとてお前を危険にさらしたくは無い!!」 「そんな!!俺以外の男を隣に立たせたくないって言ってたじゃないか!」 「今だってそう思う、しかし私はもう二度とお前が倒れるのを見たく無い!!」 話し合いは平行線になっている。クラウドもセフィロスの言いたいことはわかるが、自分も譲れない。セフィロスもクラウドの言いたい事をわかっているが、二度と目の前で剣に貫かれて血をながして倒れる愛しい少年を見たくなかった。 「クラウド…なぜ、なぜあの時、私に黙って自害したのだ?リックもカイルもジョニーもわかっていたというのに、なぜお前の夫である私が知らなかったのだ?!」 「あなたがトップソルジャーだからです。俺達が瀕死になっても敵に強大なダメージを与えられる、それを話したらリックもカイルもジョニーも納得してくれた。サー・リーだってブライアンだってわかってくれていたんだ。」 「お前が目の前で倒れるのを見るのは、これで3度目だぞ。まったく、生きた心地がしない。たのむから二度とこんなことがないように…私の腕の中でおとなしくしていてくれ…」 「セフィ…」 クラウドが涙交じりでセフィロスの唇にキスをし、そのまま腕を首に回すと今にも泣き出しそうな顔をしている男を引き寄せる。 「ごめん、ごめんねセフィ。でも、これは俺が望んだ事なんだよ。貴方のために…俺、貴方を守る為なら命を張ってもいいと思っている。」 「クラウド。もし私がお前を庇って倒れたり、お前を守る為に瀕死になったら…お前はどう思うんだ?」 「え?!そんな…そんなの嫌だよ。俺のために命を投げ出してほしくない。」 「お前は自分が嫌がる事を私にしているのだぞ。」 「あ……。」 「頼むから…命を粗末にするな、私の盾になどなろうと思うな。私はお前を失ってまで生きていたくは無い。」 セフィロスがクラウドの身体を攻めたてながら心情を吐露する。クラウドはまるで涙を流しているような悲痛な様子のセフィロスに、自分もいつの間にか涙を流していた。 シーツの海に身体をゆだねながら、愛しい人の愛撫を体中で感じる。 次第に上りつめて行く感覚に、クラウドが溺れて艶やかな声を出す。 乱れ堕ちるクラウドの姿は妖艶でセフィロスの欲情を激しくかきたてる。 何度目かの情交の証を放った後、意識を手放したクラウドを満足げな顔でセフィロスは身体を綺麗に清めてから、ゆったりと抱きしめて眠った。 太陽の光が眩しく部屋の中にさし込んでいるのにクラウドが気がついた、ベッドサイドの時計はすでに9時を指している。 「うわ!!遅刻だ!!」 あわててベットから立ち上がろうとするが、腰が抜けて立てない。必死になってベッドボードを頼りに立ち上がろうとしているとリビングの方から聞き覚えのある苦笑が聞こえてきた。 「クックック…安心しろ、今日は休みを取った。」 「セ…セフィ!!」 「あれだけ強請ったお前が、立てるような状況とは思えんかったからな。」 「強請った?!お、俺が?!」 「ああ、昨夜のお前は可愛かったな。「もっと…」だのとお前に甘く囁かれて、私も箍を外してしまったが、大丈夫か?」 クラウドは昨夜の痴態を思い出して耳まで真っ赤になる。そんな様子も可愛らしくてセフィロスがまた苦笑を漏らした。 「クックック…さて今日はどう過ごしたい?」 「もう、また連中に苛められちゃうよ」 「言わせておけ。そうだ、昨日ランスに正式に結婚届を出しておいたぞ。」 「え?!な、なんだって?!」 「しかしお前を移動させる事も私が移動する事もランスは拒否した。こんな事だったらもっと早く出しておくのだったな。」 「あ、あんたって人は…」 「言っただろ?お前を失いたくない、と。」 「ひ…卑怯だ。俺が動けない時に。」 「頭脳的と言ってくれ。」 口元まで毛布を手繰り寄せ、つぶやいているクラウドの手から毛布を剥ぎ取ると、ゆっくりと頬からあごをなでる。クラウドの裸の胸のあちこちに昨夜ちりばめられたセフィロスのキスマークがあった。 額に頬に…鼻の頭に、そして唇にキスを落して、セフィロスがクラウドをゆったり抱きしめる。 失わずにすんだぬくもりに、おもわず抱きしめた腕に力を込めそうになる。 セフィロスの震えるような腕に抱きしめられて、クラウドは自分がやっていることは間違っているのだろうか?と悩みはじめていた。 自分がよかれと思ってやる事でセフィロスが悲しんでいる。 だからといってクラウドだってセフィロスを失いたくは無い。 矛盾するのは確かである。 自分にとってよかれと思っていた事が、愛しい人に取っては心痛にしかならない事実に思い悩んでいた。 翌日、カンパニーに出社したクラウドは、ミッドガル警ら中にペアを組んでいるエドワードに相談した。 「なあ、エディ。俺、どうしたらいいんだろう?俺のやる事があの人に取ってやってほしくない事だなんて思ってもみなかったよ。でも、俺あの人の隣りに立っていたいし、あの人を守りたい。」 「難しいよなぁ。キングの気持ちになって見れば、お前を戦いや危険など及ばないように、真綿でくるんで自分の腕の中に閉じ込めておきたいだろうし、かといってお前ほど有能で実戦慣れした副官もいない。」 「魔晄の力を使わないようにすれば、本当に反抗勢力は消えるのかなぁ?強いモンスターって、あとどのくらいいるんだろう?」 「そうだな。今回みたいな奴が出てきたら、キングもお前も最前線に立たないとかなわないだろうな。隊長殿にこっそりと聞いて見るか?」 「うん、エディ頼むよ。あの人に聞いても教えてくれそうも無いもん。」 「そりゃそうだろ。お前は聞いたら突っ走るタイプだからな。」 クラウドは朧げながら自分のなすべき事を考え直した。 魔晄の力を使わないようにすべて封印して、強いモンスターを一掃した後でないと、セフィロスが第一線を退けないのであれば、その手伝いをしてから自分もセフィロスと共に第一線を退こう。 それがセフィロスの願いと自分の願いをかなえる唯一の方法に、クラウドは思えてしかたがなかった。 愛する人と二人で、命の心配もなくごく普通に暮らして… ごく普通に年老いて…共に抱き合いながら死ねるのであれば… そういう平凡で穏やかな生活も、悪くはないかな…… クラウドはそんな事を思いながら、ミッドガル3番街を歩いていた。 エドワードが急に話を切り替えた。 「そういえば旦那、結婚届出したんだって?」 「あ、やっぱり知っているんだ。」 「ああ、クラスSおよびクラスAでのトップシークレット扱いだ。統括から庶務を通さずに直接ルーファウス社長に渡ったらしい。」 「そう、でも全然変わらないっていうのもおかしいよね?」 「仕方がないだろ?キングを失う事もお前を失う事もできないんだからな。まったく…そのおかげで俺は、クラスSにまで苛められるんだぞ。」 「え?」 「キングの伴侶であるお前を失うことができないなら、そのパートナーである俺を強くしないと、万が一の時に危ないだろ?上官命令で一ヶ月以内にクラスSを5人抜けるようになれ…だとさ。」 「エディ。それじゃあ輸送部隊の副隊長じゃ勿体ないね。」 「ああ、知らなかったっけ、昨日付けで移動している。今はサー・パーシヴァルの副官だ。」 「第15師団に移動したの?バージルとアランはどうしたの?」 「アランが第4師団に移動した。入れ換えって奴だな。」 「そう、そのほうが正解だな。アランは根がまじめだけど剣をあまり使いたがらないもんね。」 好む、好まざるにかかわらず運命の歯車は回りつづけている。 それが自分を何処へつれて行くのか…この時点のクラウドには、まだ行く末が見えていなかった。
The End
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