クラウドが召還したナイツ・オブ・ラウンドの姿を見て、魔法部隊の精鋭がぽかんと口を開け見とれていた。
 そのすきにザックスがたまらずソードを掲げて突っ込んで行こうとするのを、見とがめたリーに止められる。
「ザックス!君は今私の部下だと言う事を忘れるな!」
「イ…イエス・サー。」
 ザックスは辛そうな顔をまっすぐ前に向けているが、握った拳が震えていた。

(あの中に…入っていたい。)

 ザックスの頭の中にはその一言しか浮かんでは来なかった。
 カイルたちがルビーウェポンに挑みかかるのを見ると、セフィロスが一旦下りバリアをかけてやる、ほぼ同時にマスタークラスまで引き上げられていたアルテマを発動させた。
 クラウドがふらつきながら再びバハムートを呼び出すのを見たリーが副官に命令した。
「ブライアン、あと2度召喚すれば姫は限界だ。倒れる前に確保!」
「アイ・サー!」

 クラウドに補助魔法をかけながらブライアンが返事をするのを見届けて、リーが腕のバングルにはめていた召喚マテリアを発動させた。
「召喚!アレクサンダー!!」
 雷雲をまとって聖なる審判を下すべくアレクサンダーが現れた。

 その荘厳な姿にザックスは魔法の戒めが解けていてもその場を動けなかった。ジョニーがブリザガをかけるのをみて、現実に引き戻されたのかびっくりしたようにつぶやいた。
「ブ、ブリザガ?!ジョニーの奴、いつの間に使えるようになったんだ!!」
「へぇ、お坊ちゃまがなかなかやるもんだ。これはうかうかしていられないな。」
 ひとりごちったあと、カイルが片ひざをついたのを見てブライアンが直属のソルジャーを名指しして命令した。
「トニー!カイルを確保して下がれ!ザックス、この場は任せた!!」
 そう言うとクリスタルソードを抜いてルビーウェポンに駆け寄って行った。
「あ、あの野郎!!」
 いきなりブライアンに先をこさえれたザックスが、駆けだして行った仮の上官の背中に向かって叫んだ。
「サー!代わってください!!」
「悪いな、譲れない。お前の事は姫に頼まれているんだよ!!トニー、ザックスを前に出すなよ!!」
「アイ・サー!!」
 カイルを確保して下がってきたトニーが敬礼する横でザックスは悪態をついていた。
「ったく!どいつもこいつも俺を置いてけぼりにしやがって!!」
「副隊長補佐!カイルさんに回復を!」
「おっと、すまん。フルケア!!」
 回復の最上級魔法が効いたのか、カイルが首を振って立ち上がろうとするのをザックスが止めた。
「カイル。お前はもう限界だ、そこにおとなしくしているんだな。それにもうブライアンが乱入している。」
「ちぇ!いつのまに…」
 カイルがぼやきながらも顔を上げると、目の前に海龍リヴァイヤサンが現れている。ブライアンが発動させたのであろう、その巨体を唖然と眺めていた。

 リーが自ら剣を抜きながらクラスBのトップに命令する。
「ジョニーが限界だ!!オットー、つれてこい!ザックス、指揮権を渡したぞ!!」
 ジョニーがふらついたのを見て、ザックスがソードを抜いて駆けだそうとした時に、リーが先に駆けだしていた。
「サ、サー・リー。あなたまで!!」
「悪いな、特務隊の連中をおとなしくさせられるのはお前だけだからな。」
 そう言うとソードを縦に掲げて、はめられている敵の技から「なんとか????」を選び出すと、ルビーウェポンに浴びせかけた。
 隊員たちがいったん下がるのを見届けると、すかさずセフィロスがバハムート・ゼロを召喚する。
 ルビーウェポンは炎属性の攻撃をかけながら触手を振り回しているが、特務隊の連中は本体のみに攻撃を仕掛けていた。

 クラウドが2度目のバハムート召喚をするとリックが物まねをする。メガフレアの炎が収まると同時にセフィロスが正宗を突きたてた。
 しだいにクラウドの動きが鈍くなっていたのに気がついたリックがザックスを呼びつける。
「ザックス!姫を引きずって下がれ!!」
「い…や…だ……」
 クラウドはふらふらと立ちながらもルビーウェポンを見据え、再びナイツ・オブ・ラウンドを召喚する。13人の騎士の姿をした召喚獣が入れ代わり立ち代わり刃を浴びせると、ルビーウェポンが震えた。
「ザックス!!早く来い!」
 リックがクラウドの物まねをしながら再びザックスを呼ぶ。ゆっくりと崩れていくクラウドを倒れる寸前で抱き止めザックスが後ろへさがるのを見届けると、リックがソードを握り締めルビーウェポンに切りかかろうとした時、再びセフロスが正宗を自在に操ってルビーウェポンに切りかかっていた。
 流れるような一連の動きに思わず目を見張るが、首を振ってルビーウェポンを見ると赤い巨体の動きが止まっていた。

 セフィロスが正宗を一祓いして鞘に納めると、ルビーウェポンが崩れて行った。

「す…すげぇ……」
 気を失ったクラウドを抱き上げながらザックスがつぶやいた横で、トニーがあわててバッグから何か取り出し手渡そうとする。
「エリクサーです、これをサー・クラウドに。」
 ザックスが受け取ろうとすると、さっと何かがエリクサーを取り上げた。ふと見上げるといつのまにかそこにセフィロスが立っていた。
 ザックスからクラウドを受け取りながら、片手でエリクサーを持ち口で封を切ると一旦口に含み、躊躇せずに口移しでエリクサーを飲ませはじめる。
 魔法部隊の隊員がびっくりしたような顔でその行動を見ていた。
「サー・セフィロス、部下がびっくりしていますが?」
「びっくりさせておけ。気絶した男にのませる方法はこのほかにあるのか?」
「いえ、ありません。」
 そこにリーとブライアン、そしてリックが戻ってきた。
 目を丸くしている自分の部下を見てリーとブライアンが思わず苦笑する。
「隊長殿、だいじょうぶでしょうかね?」
「ほかに方法があるのか?私がキングの立場であっても同じことをしただろうな。」
「また変な噂が立たなければいいんですけどね。俺たちは姫を失いたくはないですから、釘を打っておいた方が良いでしょうか?」
「打っても…ある意味無駄だろうな。」
「ごもっともです。」
 魔法部隊の隊長と副隊長が何とも言えない顔で顔を見合わせていた。

 エリクサーを一本丸ごと呑み込ませると、クラウドが意識を取り戻したのか、その青い瞳が思いっきり見開かれていた。自分のおかれた現状を悟ったのか、あわててセフィロスの厚い胸板を叩いた。
「ん〜〜〜!!」
 セフィロスとしては、もう少しクラウドとの口づけを味わっていたかったのだが、仕方なく唇を離すと顔を真っ赤にさせた愛妻が青い瞳に怒りの炎をちらつかせていた。
「こ…この、セクハラ上司!!」
「助けてやったというのに、口の悪い副官だな。」
 二人の会話にそれまで固まっていた魔法部隊の精鋭達が、やっと我に返った。それを見てリーとブライアンが思わずほっとする。
 自然と全員が整列していた。セフィロスとクラウドが前に立つと、少し離れた横に魔法部隊の隊長と副隊長が並んだ。
 クラウドが凛とした姿勢でその場にいる全員を見渡し、ミッションの終わりを告げた。
「ミッションコード00001210、コンプリート!諸君の協力に感謝する。総員!撤収!!」
 全員が敬礼をするとセフィロスとクラウドが返礼をした。
 撤収のためにそれぞれが持ち場に解散し始めると、セフィロスがクラウドの方を見てにやりと笑う。思わずクラウドが後ずさりをしようとして足がふらついた。
「やはり、な。お前、立っているのがやっとだろう?」
「だ、だからって…まさか隊長殿!!」
「そのまさか、だ。」
 軽々とクラウドを姫抱きにして、セフィロスが飛空挺へと歩いて行く。その腕の中でクラウドがさんざん悪態をついていた。
「や、やめて下さい隊長!!だから俺が姫なんて呼ばれるんです!!」
「歩けないのだろ?運んでやるのだから、おとなしくしていろ。」
「リ…リック〜〜、ザックス〜〜」
「上官命令だと思って諦めて下さい。」
「俺、今魔法部隊に出向中だもん。何も言えませ〜〜ン!」
「つ、都合の悪い時だけ……貴様達覚えていろよ!!」
 クラウドの捨てぜりふが虚しく響く。それを聞いて魔法部隊や輸送部隊が顔を見合わせて苦笑していた。
「これでは噂にならない方がおかしいですね。」
 部下に尋ねられて苦笑いをしながらブライアンが答えた。
「まあ、そうだな。」
「クラウド〜〜可愛いぜ〜〜!!」
「クククク…やめないかザックス。」
 ザックスが茶々を入れるのを珍しく笑いながらリーが一応いさめる。その横でクラスBソルジャーがつぶやいていた。
「自分は…これでやっとサー・クラウドのような強いソルジャーが、姫だなどと呼ばれているのか納得しました。」
 飛空挺の足元からユージンが笑顔でその様子を眺めていた。輸送部隊の隊員も納得した顔をしていた。


* * *



 飛空挺がミッドガルの神羅カンパニーに戻ると、ほとんどのソルジャー達が駐機場に詰め駆けていた。飛空挺の扉が開くとセフィロスがクラウドを抱き上げたまま機体から降りてくる。あわててランスロットとパーシヴァル、トリスタンがかけよった。
「姫!!」
「キング、姫はいったい?!」
 心配して駆け寄ってみれば、セフィロスの腕中でクラウドは天使のような微笑みのまま眠り込んでいる。その顔色を見てランスロットが安堵のため息を漏らした
「魔力の使い過ぎですか?びっくりさせないで下さい。」
「なにしろおとなしく寝ていてくれない男なのでな。」
「キング、こちらへ…」
 ランスロットが仮眠室へとセフィロスを導くと、その場にいる兵士達が自然と解散した。
 リーがその場にいるクラスS達にクラウドからあずかっていたマテリアを返そうとして仲間たちを睨みつける。
「貴様達、これはどう言う意味だ?」
「どういう意味とは?どういう意味だ?」
「ただ単に姫にお貸ししただけだが、それがどうかしたか?」
「私がどんなに貸せと言っても、貸してもくれないマテリアを……」
 トリスタンが文句を言おうとしたリーにさみしげな顔でつぶやいた。
「おまえは、この戦いでセフィロスに力を貸せたから…それで良いだろう?」
「我らとて本当は戦地で姫とキングを守りたかったのだ。」
 真剣な眼差しで戦友達が打ち明けるので、リーはうなずいた。
「そうだな、そう言う事になるのか。」
「そうだぞ、しかも貴様はあのザックスまで貸してもらっている。」
「おまえが羨ましいよ。」
「まったく、私が皆悪いみたいじゃないか。」
「違うのか?今回ほど魔力が欲しいと思った事はないぞ。」
 リーは何も言えなくなったのか、黙ってクラスSソルジャー達にマテリアを返して行った。

 一方、仮眠室に案内しながら、ランスロットはセフィロスから話を聞いていた。
「な、なんですって?!姫達が戦闘開始とともに自害したと?!」
「ああ。」
「いくらルビー・ウェポンに通常攻撃をかける為とはいえ、そこまでやるのか……」
「ランス、どうやったらこいつをおとなしく家に居させることができる?」
「自分にはわかりません。しかし貴方が戦場に立ちつづける限り、姫は貴方のそばを離れない事でしょう。」
「結婚届を正式に出しても、無理か?」
「無理でしょう。あなたを第一線から退ける事も、姫を引かせる事も…出来ないのが現状です。」
「やはり、そうなるのか。」
「はい、貴方は自分が守ると…姫はずっと言い続けています。それにあの召還獣どもが姫のそばにいるかぎり、彼には最前線にでていただかねばならないのも…ご存知のはずです。」
「私の気も知らずに…こいつは……」
 クラウドを仮眠室のベットに寝かせると、セフィロスが軽く口づけをして、部屋の明かりを消し、報告書を書く為に執務室へと歩いて行った。


 セフィロスが去って、かなりの時間が経過して、意識が次第に浮上してくるような感覚をクラウドが覚えた。
 鼻が不意に嗅ぎなれた香を、唇が覚えのある優しい感触を感じて、ゆっくりと瞳を開けると、目の前に銀髪の恋人が自分をのぞき込んでいた。
「クックック…キスで目が覚めるとは、まるでスリーピング・ビューティーだな。」
「あ……ここは?」
「治安部の仮眠室だ。」
「そう……俺、仕事しなくちゃ。」
 そう言って身体を起こすクラウドをセフィロスがにやりと笑う。その意味深な笑みに気が付きクラウドが窓の外をのぞき込むとびっくりした。窓から見える空には星が光り輝いていた。
「た、隊長!自分は一体何時間眠っていたのですか?!」
「そうだな、飛空挺の中からトータルすると軽く20時間以上。」
「な、なぜ起してくれなかったんですか?!」
 クラウドの問いかけに答えないまま、セフィロスがいきなり華奢な体を抱きしめた。
「おまえが…あまりにも自分を危険に晒すからだ。今回ほどお前を辞めさせたいと思った事はない。頼む…頼むからクラウド、私を置いて何処にも行かないでくれ。」
 まるで泣き出しそうな声でつぶやくセフィロスの言葉をクラウドは抱きしめられながら聞いていた。