輸送機に乗り込むとクラウドはさっそくリックとカイルに苛められた。
「姫、おまえ瀕死になる前から瀕死じゃないかよ。」
「さんざん泣いてきたんじゃないのか?」
「う、煩い!煩い!煩い!!」
 クラウドの顔は真っ赤になっているので、にらみを利かせようとしても、逆に”いじめっ子世に憚る”図式を増殖させているとしか思えない。そんな様子に思わずセフィロスがニヤニヤしてしまう。その笑みをにらみつけながらクラウドがつぶやいた。
「まったくもう、隊長まで笑わないでくださいよ。」
「クックック…そんな顔で睨んでも何も恐くないな。」
 そっとクラウドの頬にセフィロスの手が触れる。
 それだけでクラウドは未明まで喘がされて逝かされたため身体が疼くが、真っ赤な顔になりつつも必死でセフィロスに怒鳴りつけた。
「た、隊長!!」
「何だ?」
「リックやカイルばかりか、隊長までセクハラしないでください。」
「こいつらが言っていたとおり、お前をかわいがると面白いものだな。まぁ、命が惜しいのでこの程度でやめておく。」
 英雄とまで呼ばれている男の言葉とは思えない一言に、ジョニーが思わず問いかける。
「はぁ?隊長でも姫をおこらせると負けますか?」
「当然であろう?騎士たちを呼ばれたら防ぎきれるものではない。」
「クラウド最強か…。」
 ジョニーのため息に輸送スタッフが何ともいえない顔で曖昧にうなずいた。

 飛空挺の前座席からユージンが姿を現すと口をはさんだ。
「姫、キング一体どうしたと言うのですか?」
「気にするな、ほんのコミュニケーションだ。」
「どんなコミュニケーションだか知りませんが、部下がびっくりしていますよ。」
 ユージンが振り返ると輸送スタッフが青い顔をしてこちらを見ていた。リックがあっけらかんと答える。
「なーに、天下無敵と言われた隊長殿も、特務隊の姫君の召還獣には負けると自白しちゃったんだよ。」
「うわ!俺も聞かなければ良かった。キングだったら姫の召還獣が相手だろうと、あっさりと勝って欲しかったです。」
「何をばかなことを、私をなんだと思っているのだ。」
「自分の憧れであり、絶対的な存在です。」
 ユージンの答えにセフィロスが苦笑した。
 氷の英雄とまで呼ばれているトップソルジャー、セフィロスがゆるやかに微笑んでいる。その姿を見て輸送スタッフ達が感激のあまり泣き始める。
「お、俺…輸送チームでよかったって…今日ほど思える事は無いです。」
「サー・セフィロスにあこがれて治安維持軍に入って5年、お姿を見たことなど訓練所に入った時以来でした。本当に光栄です。」
 そんな部下たちに苦笑を洩らしながら、ユージンは指示を下した。
「サミル、左舷の監視を忘れるな。オーロフ、お前の持ち場は荷物室ではなかったかな?」
「す、すみません!副隊長!!」
 敬礼してあわてて部署に戻る部下を見送ると、ユージンは軽く一礼して特務隊の隊員たちの前から去って行った。

 そしてやがてコレル沙漠が眼下に見えてきた。
 飛空挺の窓からぽつんと赤い物体があるのに気がついたブロウディーがつぶやいた。
「今、高度どんなもんだ?それなのにあのサイズって…どんだけでっかいんだよ。」
 ゆっくりと飛空挺が高度を下げていくと、コレル沙漠の端で翼を休めた。すぐ近くそばに第9師団を乗せた輸送機が舞い降りた。
 クラウド達を乗せてきた輸送スタッフが紅潮した頬をしていたので、第9師団を乗せてきたスタッフがその理由をきいた。
「どうしたんだよ?」
「えへへへへ…サー・セフィロスを間近でみちゃった。」
「うわぁ…いいなぁ。」
「思っていたよりも気さくな方だったよ。」
 一般兵のそんな会話を聞きながら、ユージンが部下であるスタッフに檄を飛ばした。
「こら!喋っていないで機体の整備!やることは無限大だ!」
「アイ・サー!」
 敬礼をして部下達が輸送機に戻って行ったのを見送ると、ユージンはクラウド達を振り返ってつぶやいた。
「死ぬなよ。生きて…生きて帰ってこいよ。」
 聞こえていないはずのクラウドがユージンに深々と一礼すると第9師団に駆け寄り最後の打ち合わせを始めた。
「戦闘開始とともに自分とリック、カイル、ジョニーが戦闘不能におちいります。隊長が戦闘を止めたら、サー・リー貴官は隊長を叱咤していただけますか?」
「確かに引き受けた。」
「安心しろ、通常攻撃がきくようになったらすぐに回復してやる。」
「頼みますブライアン。それからザックス、俺達を回復したらおまえは敵の技のなかにあるマイティーガードで俺達をサポートしてくれ。」
「了解!」
 珍しく生真面目に敬礼したザックスに苦笑しながら、リーが腕のバングルにはめていた赤いマテリアをクラウドに渡した。赤いマテリアを手に取るとクラウドは顔を上げた。
「これは…フェニックス。」
「はい、それとこれを組み合わせてお持ちください。」
 そう言ってもう一つのマテリアを手渡した。
「これはカウンターというマテリアです。召喚獣と組みしておけば攻撃を受けると自動的に召喚します。」
「フェニックスは隊長に渡しておきます。ではマテリアをお借りいたします。」
「ご武運をお祈りしています。」
 そう言うとリーが自然と敬礼をした。クラウドが返礼をするとぺこりとおじぎをして走り去って行った。

 地べたに座り込んでクラウドがアルテマウェポンにはめてあるマテリアを入れ換えていると、後ろからセフィロスがのぞき込んだ。クラウドの前に並んでいるマテリアを見てその数と種類の意味に思わず苦笑する。
「まったく、あいつらは…こんなにマテリアを持ってきても使えるものがいないから仕方がないというのに…」
 クラウドの手元には10を越えるマテリアが転がっていた、皆クラスSソルジャーが自ら持っている物を貸してくれたのであった。
「あ、隊長殿お願いがあります。バハムートとナイツ・オブ・ラウンド召喚を2回もすれば自分の魔力は底をつきます。隊長にコレをもっていただきたいのですが…」
 そう言うと先程リーから渡されたフェニックスのマテリアとつい最近仲間になったバハムート・ゼロ、バハムート・ネオを手渡す。そのマテリアが意味することを感じ取ったセフィロスが顔をしかめた。
「隊長は一番攻撃力があるから、当然ですよ。リックに物まねを持たせてありますが…あとはどうすればいいかちょっとわかりません。」
「おい、リー!!」

 セフィロスが遠くにいた魔法部隊の隊長を呼びつけると、あわててリーが駆け寄ってきた。
「お呼びでしょうか?」
「おまえ、こいつを呼べるか?」

 そう言うとクラウドの手元に有った赤い召喚マテリアを手渡す。リーはセフィロスからマテリアを受け取りながら、クラウドの手元にあるたくさんのマテリアを見つめて唖然とする。
「アレクサンダー?!パーシヴァルの奴!!それにこれはトリスタンのアルテマ!こっちはガーレスのコマンドカウンター?!あいつら私がいくら貸せと言っても貸してもくれないマテリアを!!」
「すみません、サー・リー このマテリア達をどう組み合わせていい物かちょっと多すぎてわからなくて…」
「ああ、そうでした。リック、来い!」

 リックが呼ばれて走ってくるとリーがガーレスの貸してくれたマテリアを手渡した。
「このマテリアをその物まねと一緒の穴に入れろ。それから姫には…ナイツとバハムートに…」
 てきぱきと魔法部隊の隊長がマテリアの組み替えを行ったおかげで、あっという間にマテリアはふさわしい組み合わせで持ち主へとわたった。
 セフィロスがクラウドに渡されたバハムート・ネオとバハムート・ゼロ、そしてフェニックスを手に持って召喚獣に問いかけた。

    ”あら…いい男。わかっているわ、力を貸しちゃうわよ”

      ”うむ、我にも異存は無い”

        ”いつでも呼べ、答えてやる”

 セフィロスが召喚マテリアを正宗にはめ、特務隊の隊員達の前に立った
「ただいまよりミッションコード00001210、タイプS+を行う。私から諸君に言えることはただ一つ。「死ぬな。」それだけだ。」
「アイ・サー!」
 隊員達が敬礼をするとセフィロスとクラウドがほぼ同時に返礼をすると、先発隊のリック、カイル、ジョニーがソードを抜いた。
「行くぞ!!」
 そう言うとクラウドもアルテマウェポンを腰の鞘から抜き、きびすを返すようにルビーウェポンへと駆けだして行った。

 ルビーウェポンと対峙する。
 真っ赤な巨体で悠然と立っていた星の厄災はどんなモンスターよりも凶悪な顔をしていた。
 セフィロスがルビーウェポンにかかると同時に、クラウド、リック、カイル、ジョニーが自らの手で、自らの身体を貫いた。
「なに?!」
 思いもせぬ行動にセフィロスの攻撃が止まろうとした時、リーが攻撃がおよぶ範囲の外で叫んだ。
「セフィロス、あなたは敵を向いて!姫達は私達が助けます!」
 そう言うと倒れた特務隊の隊員達に向けてフルケアをかけはじめた。

 セフィロスが唇を噛み締めると、一気にまとっているオーラの炎が吹き出した。遠くまで感じる波動をとらえたザックスが蒼い顔をしてつぶやいた。
「セ、セフィロスがぶち切れちまった…」
 ゆっくりと正宗を下段にかまえると一気に間合いを詰めてセフィロスがルビーウェポンに切りかかって行った。その間に回復したクラウド達にザックスがマイティーガードをかける。
 クラウドが頭を振って立ち上がると、目の前にはセフィロスが圧倒的なオーラをまとってルビーウェポンに切りかかっていた。長年つき従っていた影の副隊長、リックですら見たこともないような攻撃的姿勢で技を繰り出すセフィロスに、あきれたようにつぶやいていた。
「うわ…クライムハザード、メテオレインに心ない天使?!リミット技の連続だぜ。」
「カイル!見とれるな!姫が突っ込んだぞ!!」
 ブライアンに指摘されて視線を転じるとクラウドがアルテマウェポンを掲げながら召還獣を呼び出していた。
「こい!バハムート!!」
 クラウドに呼ばれてバハムートがメガフレアをルビーウェポンに照射すると、すかさずリックがまねようとマテリアをかざした。
「ものまね!!」
 メガフレアの連続照射の間も、セフィロスの攻撃の手は全くゆるんではいなかった。ルビーウェポンから強い攻撃がセフィロスに襲いかかるがクラウドが身を挺して庇う。するとクラウドのソードにはまっているカウンターのマテリアが反応した。
 召喚獣ナイツ・オブ・ラウンドが姿を現した。