特務隊の執務室に入ったクラウドに、既に控えていた隊員達が敬礼する。クラウドも敬礼を返すと、先程統括室で聞いてきた次のミッションの話しを始めた。
「クラスSミッションを引き受けてきた。コレル沙漠にモンスターが出現したそうだ。そのモンスターの力は強大で、先発隊が殆ど瀕死になった状態になって、やっと通常攻撃が効くと言うような物である。」
ザックスがクラウドの言葉を遮った。
「まった!そんな強いモンスターとやりあおうって言うのか?!」
「ザックス、特務隊以外のどの隊がそんなモンスターとやりあえると言うの?」
「けどよぉ…」
「安心しろ、自滅など望んではいない。回復魔法のスペシャリストも同行するよう統括には願いを出しておいた。ザックスはそっちを率いてもらう。」
「姫、まさか…。」
リックがクラウドの言外の意を酌み取って真っ青になる。それを察してクラウドがうなずいた。
「最初から瀕死になっていれば…最初から通常攻撃が効くなら、俺は自らの命を危険にさらそうともかまわない。」
「隊長が…サー・セフィロスがそれを命令したのか?!」
「いや、俺のかってな考えだ。」
その言葉にザックスの顔が蒼くなっていた。
「クラウド、おまえ…」
クラウドはザックスにふわりとほほ笑むと凜とした態度で答えた。
「俺はこの隊の副隊長だ、そのぐらいの覚悟はいつでもできている。」
その時執務室の扉を開けてセフィロスが入ってきた。
リックとザックスがセフィロスを見てすがるような瞳をするのをにやりと”氷の微笑”で返しながら話しかける。
「なんだ?貴様達まさか臆したと言う事はないだろうな?」
「あ、あんた!!こいつの事を愛しているんだろ?!なら、こんな事やめさせてくれ!!」
「俺が先発隊を指揮します、クラウドは後詰めに回して下さい!」
「リック、お前は先発隊にはいれるが指揮は無理だな。だいたいクラウドを後詰めに出来ると思うのか?誰がナイツ・オブ・ラウンドやバハムート3匹を従えることができる。」
冷静な態度を取るセフィロスにザックスとリックがびっくりする。あくまでもトップソルジャーであり特務隊の隊長であろうとするセフィロスに、ザックスが殴りかかろうとした。
しかしザックスとセフィロスの間にクラウドが割り込んだ。クラウドの顔にザックスの拳が当たる寸前で拳を止めると、にこりと金髪碧眼の少年兵が笑顔を浮かべた。
「へぇ…ザックス、良く瞬時にとめることができたね。」
「あたりまえだ。俺はソルジャーだぞ、それよりもおまえ…どうして?」
「隊長がおっしゃっている通りだよ。強いモンスターに対峙するのにバハムートさんや騎士さんたちがいないと倒せないでしょ?それにこれは俺が選んだ事だ、誰にも譲れない。」
「貴様達もまだ甘いな。私達が何と言おうとこいつが自分を譲ると思うか?」
「だったら…俺を魔法部隊になど回さないで先発隊に入れてくれ!」
「ダメだ!ザックスに万が一の事があったら、俺はエアリスになんて言えばいいんだよ?!」
「じゃあ!!じゃあ、俺もお前達に万が一の事があったら…エアリスに何て言えばいいんだよ!?」
「俺達?!」
「誰の事を指してんだ?」
リックがシラを切ると、クラウドも首をかしげている。ザックスはそんな二人に後ろにいる隊長を指差して言った。
「おまえら、このに〜さんがそんな状態で後詰めになると思ってんの?」
「無理だな。」
「でも、隊長には後詰めをお願いします。それこそ万が一ということがありますから。」
「お前ならそういうだろうと思っていたが、私にだってお前を守る義務があるのでな。お前が何と言おうと、先発隊に入る。」
セフィロスが冷静なままクラウドに言い放った。
クラウドがふわりと微笑むとリックが肩をすくめた。
「我が侭ですよ、サー・セフィロス。隊長が瀕死になっていたら誰が指揮をとるのですか?」
「瀕死になってもすぐ蘇生させるつもりならば、私が取れる。」
「まったく、言っても聞かないんだから。」
「それは私のセリフだ。」
二人の男が見つめあって微笑んでいた。その様子を見て特務隊の隊員達が呆れかえる。
「見せつけてくれますねぇ」
「死ぬなら一緒って?砂吐きそうだ。」
「思いっきり邪魔してやるから覚悟しな。」
「リック、カイル、ジョニー、お前達…」
クラウドが隊員達の顔を見渡すと隊員達も笑顔を返した。
「お前となら地獄の果てまで付き合うって言ってるだろ?」
「まさか事実になるとは思わんかったけどな。」
「それとも何?俺達が露払いじゃ不足な訳?」
クラウドは思わず泣き出しそうになった。
自ら瀕死になると言ってくれる隊員達が、どれほど自分を信頼しているか…
どれほど隊長のセフィロスを信頼しているか…痛いほどわかる。
「ば〜か、一度死んでこい!」
「なんだ、言葉どおりじゃないか。」
リックがクラウドの言葉に右手の親指を立てて合図をする。
まだザックスが何か言いたそうだったが他の隊員達もザックスには向き合わなかった。
そんな待遇をされてザックスが泣きたい気持ちになってきた。
「そんなに…俺が邪魔なのかよ。」
「ああ、邪魔だな。一般人のフィアンセがいるような男に、死線をさまよわせるような趣味のある奴は、この隊にはいないと思うぜ。」
ザックスの問いかけにリックが答えた時、扉がノックされる音がした。
「失礼いたします、第9師団隊長リー・トンプソン以下10名、入ります。」
扉を開けて魔法部隊と呼ばれるサー・リーのトップクラスの隊員が入ってきた。その中には当然、副隊長のブライアンも入っていた。
クラウドが敬礼して迎え入れた。
「わざわざご苦労様です」
「リー、貴様には少々辛い仕事になるが、よいか?」
「いいも何も…姫に言われた時点で覚悟はしています。」
「しかし、キング、姫。自ら瀕死になってまで、やる事なのですか?」
「それが特務隊の方針だ。」
セフィロスの答えにブライアンが何か言いたそうに口ごもっているのを、クラウドが腕を取って別室に引き込み、小声で話しかけた。
「ブライアン、お願いがあるんだけど。サー・マリスの話しだと先発隊が一人行き残った所で、通常攻撃が効くんだって。だから…隊長を…トップソルジャーであるサー・セフィロスを常に優先して回復して欲しいんだ。」
「姫、おまえ…」
クラウドのすがりつくような青い瞳が少し潤んでいる。その瞳の光の強さに思わずブライアンはちょっと跳ねた金髪をすくように頭を撫でた。
「了解、もし何かあっても、サー・セフィロスを最優先で回復させると約束する。」
「ありがとう!ブライアン!!」
クラウドがブライアンに別室で話している時、執務室でセフィロスがサー・リーに小声で話していた。
「リー、頼みたい事がある。」
「貴方の頼みであればなんなりと。」
「ルビー・ウェポンは先発隊が瀕死になっていると通常攻撃が効く。しかし、一人は無事で居られるそうだ。できればクラウドを…」
「了解いたしました。」
「すまないな。」
セフィロスとリーの会話を盗み聞きしていたザックスは、ずっと唇を噛み締めていた。自分の親友二人をおめおめと命の危険にさらしておきながら、自分だけ後方でのうのうとしていられるほど彼はおとなしくない。
「隊長と副隊長に逆らってでも、先発隊に入る。」
「それは俺にも逆らうって事だな?」
「リック、そういえばお前は副隊長補佐だったな。そ〜〜〜、逆らっちゃうんだもんね〜〜〜!!」
リックの問いかけに明るく答えるザックスに、リーが苦笑を洩らしながら話しかけた。
「残念ですがザックス、君は今日付けでこのミッションに限り第9師団副隊長補佐に任命されている。つまり君はすでにキングの部下ではなく、私の部下なんだよ。」
「ひ、ひでえ!!セフィロス!!覚えていろよ!!」
「クックック…貴様の遠吠えなど覚えていたくもない。リー、躾がなってなくてすまないな。悪いが上官に逆らわないように、ビシッと躾てやってくれ。」
「ブライアン、聞いていたか?」
「アイ・サー!喜んで躾させていただきます。」
魔法部隊がザックスを引きずって特務隊の執務室から退出すると、クラウドとリックが敬礼をして見送った。
特務隊の執務室から離れながらブライアンは上官に話しかけた。
「隊長殿、実は姫に頼まれ事をしまして…」
「きっと私がキングから頼まれた事の真逆であろう?」
「ええ、たぶん。」
「そうか、お前はどうする気だ?」
「冷たいようですが、姫よりもキングを優先します。敵が強大であれば強いソルジャーを生き残らせるべきだと…」
「そうだな、その通りだが…」
「わかっています。自分だってこんな任務引き受けたくありません。しかし、他の奴に出来るとも思えません。」
「お前は…優秀な副官だよ。」
ザックスは二人の会話をなんとなく聞き取っていた。内容からしてフルケアを使う順番か…それとも生き残らせる方を選んでいるのかであろう。そう思うと思わず上官二人をにらみつけていた。
ブライアンがその視線を感じ取っていた。
「何だ?文句言いたげな目をしているな。」
「仕方がないな。ザックスはあの二人の一番近くに居たのだからな。」
「サー・リーも、ブライアンもよく平気でそんなこと言ってられますね。」
「馬鹿!!平気で居られる訳がないだろ!!俺だってこんな戦い方、誰にもさせたくないよ!でもな、他に方法が有るのか?!」
「いえ、ありません」
「ならば我々が出来るのは、あの連中を死なせない事だけだ。」
「アイ・サー!!」
ザックスが二人に敬礼をした。
* * *
ブライアンと一緒に別室に行ったクラウドが伝えそうな事は、セフィロスにもわかっていた。
クラウドとて、セフィロスがきっと残っていたリーに、自分とは真逆の事を頼んでいるであろう事ぐらいは予測が付いていた。
「あ、そういえば出立の日取りを決めていませんでした。」
「先程リーと決めた、明後日の午後3時だ。」
「アイ・サー!」
そう言うとクラウドはクラスA執務室へと戻って行った。
セフィロスもリック達を一瞥してクラスS執務室へと戻った。
* * *
神羅カンパニー、専用滑走路。
黒いロングコートを羽織ったセフィロスの後ろに、白いロングコートを羽織ったクラウドが付き従っていた。
しかし何処かいつもと違ってなにか辛そうな顔をしている。
(お〜お、だいぶ苛められたんだな。)
クラウドが小股でちょこちょこと歩く姿を見て、ザックスがあらぬ事を思い浮かべ苦笑するので、隣りに立っているブライアンが肘でつつき小声で囁く。
「馬鹿、おまえ顔に出ているぞ。」
「サーだって、想像してるでしょ?」
「俺は至ってノーマルだ。」
「へぇ〜、どうでしょうね。」
ザックスは腕に装備したクリスタルバングルにはまっているマテリアを改めてながめていた。
全体化と蘇生、回復を組み合わせてある。
クラスBに上がったおかげで剣はオーガニクスを持っていて、その剣にはクラウドから渡された敵の技マテリアがはまっていた。
「ちょっと辛いけど、しゃあねえなぁ…コレが現実か。」
そう言うと、ほんの2日前までは自分もその中にいた特務隊の隊員達を眺める、誰一人いつもの顔と何ら代わっていない表情だった。
|