「ソルジャーをやめて…モデルとして、妻として、そばに居てほしいと思うこともある。」
クラウドはセフィロスに言われた言葉が心のどこかに引っかかっていた。
それなりに執務をこなしながらスケジュールをチェックする、今日は早帰りの日だった為、エアリスに料理を手ほどきする事になっていた。
(そうだ!エアリスに相談して見よう!!)
執務を終えるとクラスA仲間に別れを告げ、バイクで走って行く。いつものスーパーで食材を買い込むとマンションへと入ろうとすると、エアリスがエントランスで待っていた。
「あ、クラウド君。」
「エアリス、ごめん遅くなった?」
「ううん、時間通りよ。今日は何を教えてくれるの?」
「そうだね、ずいぶん上手になって来たからオニオンクリームのショートパスタ。」
「ええ〜〜玉ねぎを使うの?!涙が出ちゃう。」
「みじん切りが嫌じゃなくなったんだろ?細いくし切りだから大丈夫だよ。」
「え?うん、まぁね。包丁が恐くなくなったもの。」
他愛もない話をしながら部屋に入るとエアリスと共にキッチンに入る。あっという間に下ごしらえをするので、その手際の良さにエアリスが感心する。
休憩をするためにクラウドがコーヒーを入れた。デザートに冷蔵庫からショートケーキを取り出してテーブルにだすと、エアリスの前に座る。
「うわぁ!これってもしかして手作り?!」
「うん、セフィって甘いもの嫌いでしょ?だけど誕生日のケーキぐらい一口食べてほしいから、まだスポンジをふわっと焼けないけど…どうかな?」
「スポンジケーキって難しいのよね。混ぜすぎちゃうとふんわりした感じがなくなっちゃうものね。甘いのが苦手な人にはココアスポンジとか味を変えるといいかもよ。」
「あ、そうか!ほろ苦い味のスポンジにすればいいんだ。サンキュー。エアリス。」
エアリスがにこにこと笑う。
「やっぱりクラウド君、セフィロスの事を考えている時が一番綺麗だね。」
「あ…ねぇ。エアリス聞いてほしい事があるんだけど。」
「ん?なあに?」
クラウドは昨夜セフィロスに言われた事や自分の感じている事を伝えるとエアリスが真剣な顔で話を聞いていた。
「う〜〜ん、難しい話しね。彼には命の危険を冒してほしくない、だけど戦場に立つ彼が好きでその隣りにいたい。相反する気持ちだよね。」
「セフィも俺に同じことを思っていたなんて、思わなかったな。」
「当然じゃないの。彼に取って一番大切なのはクラウド君なんだもの。」
「エアリスは、ザックスの事が心配だよね?」
「それは当然でしょ?でも私、ザックスを信じているもん。必ず帰ってきてくれるって。それにクラウド君もセフィロスもザックスのそばにいるんだもん、凄く安心していられるよ。」
「エアリスって、強いね。」
「強くなんて無いよ。だってザックスが戦場で闘う姿や傷つく姿なんて、見たくないもん。クラウド君は嫌でも見ちゃうでしょ?それでもセフィロスのそばにいたいって思うんだもん。クラウド君の方が遥かに強いよ。」
「俺は、セフィがケガするぐらいなら俺自身がそれを防ぎたい。以前それで瀕死になったこともあるけど、俺だって目の前でセフィロスが倒れるのなんて見たくないんだ。」
「彼に取ってはみんな逆の事なんだよ。クラウド君がそうやって無茶をするからセフィロスが「戦いのない世界に身を置いてほしい」って思うんじゃない。」
(ああ…そう言う事だったのか…)
クラウドの心の中に、昨日のセフィロスに言われた言葉がすとんと入ってきた。
自分をそれほどまでに大切に思って居てくれる事が、クラウドに取っては嬉しかった。
エアリスを自宅まで送って、帰り際に店の花をちょっと買って部屋へと帰る。ピンクの大振りなユリから柔らかな香が立ちこめていた。
* * *
コレル沙漠から帰ってきた第19師団の報告にランスロットが青い顔をしていた。
「マリス、それは本当か?!」
「ああ、この星の厄災の一つに間違えない。」
「キングにお願いするしかないな…」
「しかし、通常攻撃が効かないのだ。先発隊が一人を残して瀕死になった時にやっと通常攻撃が効いたのだぞ!キングを…姫を…失えと言うのか?!」
「しかし!!特務隊以外のどの隊でも一緒の事ではないか!!攻撃力に関しては特務隊が一番高いのだぞ!!」
「それはそうだが!!」
そこまで言ってマリスはランスロットの涙に気がついた。
「ランスロット、おまえ…」
「わかってくれ…私だって辛いのだよ。」
苦渋に満ちた表情でランスロットがつぶやくと携帯のボタンを押した。3コール目で目的の人物が出た。
「はい、クラウド・ストライフです」
「ランスロットです。特務隊にお願いしたいミッションが有ります。」
「了解しました。すぐそちらに参ります。」
携帯を閉じてしばし頭を抱えるように考え込んでいた。やがて扉をノックするとともにクラウドの声が聞こえた。
「第13独立部隊副隊長、クラウド・ストライフ入ります!」
クラウドが統括室に入ると、そこにマリスの姿を認めて敬礼する。マリスとランスロットもクラウドに敬礼を返した。
「非常に困難なミッションになると思います。マリス、先程の話を姫に。」
マリスはつらそうな顔で話し始めた。
「は…い。私ども第19師団は、コレル沙漠にへんな物体が現れたとの話を聞き、情報の確認とその処置に言ってまいりました。しかし目的の物体、つまりモンスターは我々の想像を越える敵であって、通常攻撃が効かず先発隊のほどとんどが瀕死になってやっと攻撃が効くようなバケモノでした。」
「そのモンスターの討伐を特務隊が行うのですね?」
「ええ、特務隊にしかお願い出来ないミッションです。」
「解りました、お受けいたします。」
何のためらいもなくミッションを引き受けたクラウドに、話をしたマリスがびっくりする。
「ひ、姫!!どのように対応されるおつもりですか?できうればおきかせください。」
「はい。統括、サー・リーの部隊で補助魔法のスペシャリストがみえたら何人か特務隊に回していただけないでしょうか?」
「リーに選ばせますがクラスは高いほうがよろしいですね?」
「ええ、できれば高位魔法をたくさん使える人物でお願いします。アレイズ、フルケアを多用することになると思います。それと、あるコマンドマテリアをお借りしたいのですがありますでしょうか?」
「どのようなコマンドマテリアでしょうか?」
「自分が召喚した召喚獣を他の人が召喚出来るようなマテリアって無いですか?」
「あります、ものまねというマテリアです。これなら魔力は必要有りません。」
「それをお借り出来ればバハムートやナイツ・オブ・ラウンドがリックでも呼べるんですね?」
「なるほど、その手なら勝てるかもしれませんね、さすが姫ですね。」
「では、今から会議を開きますので、これで失礼いたします。」
そう言うとクラウドはモンスターの写真をもらい敬礼をして統括室を後にした。
廊下に出てリックとザックスに電話を入れるとすぐにクラスS執務室へと足を向ける。
クラスS執務室で執務するセフィロスの元にクラウドが現れると、自然とクラスSソルジャーがクラウドに道を開けた。それほどクラウドの顔は何かを決意した鬼気迫る顔をしていた。
セフィロスがその表情に顔を曇らせながらクラウドに訪ねた。
「どうかしたのか?」
「統括よりクラスSミッションを承りました。コレル沙漠にモンスターが現れたそうです。先発隊が殆ど瀕死になるまで通常攻撃が効かないそうです。」
セフィロスはクラウドの説明を聞いて驚いたのか珍しく声を荒げた。
「なに?!そのモンスターの写真は無いのか?」
クラウドは先程もらったモンスターの写真をセフィロスに見せた、途端に英雄と呼ばれている男の顔が強張った。
「ルビー・ウェポン…」
「ご存じなのですか?」
「ああ、アルテマウェポンと一緒でこの星の厄災だ。先発隊が瀕死になるまで通常攻撃が効かないというのも、このモンスターの特性で、こいつのおかげで以前一個大隊のほとんどを失った事が有る。」
「そうでしたか、一度対峙されてみえたのですか。」
「こいつを…倒せと?」
「ええ、方法は今から考えますが、きっと隊長は反対されるのでしょうね。」
「当たり前だ!!こいつはこちらから仕掛けなければ戦闘状態には陥らない!」
珍しく語気を荒げるセフィロスに他のクラスSソルジャー達が近寄ってくる、そばで話を聞いていたパーシヴァルが口をはさんだ。
「姫はどのように戦われるつもりですか?」
「統括にものまねのマテリアをお借りして、自分は召喚魔法のみを装備。先発隊が瀕死になった時に後方支援部隊の魔法でフルケアして即反撃、ものまねと召喚マテリアとでなんとかできないものでしょうか?」
「それでは姫は一度瀕死になるおつもりで?!」
「それしかないのでしょう?ならば喜んでやりますよ。」
話を聞いていたガーレスが珍しく割り込んできた。
「ばかな!!セフィロス、私も付いていく!私が先発隊を指揮する!」
「自分も行きます!姫にそんな危険を冒してほしくない!!」
クラウドは二人のクラスSソルジャーを前にゆっくりと首を振った。そして凛とした態度で言い放った。
「大丈夫です、回復魔法のスペシャリストをサー・リーの部隊にお借りして行きたいと思っています。それに自分は特務隊の副隊長です。最前線で指揮する事を命ぜられています。」
セフィロスは黙ってクラウドの話を聞いていた。しかしその顔は苦虫を噛みつぶしたような顔であった。
「…………。」
セフィロスの中では二つの心が葛藤していた。
愛しい妻を危険な目にあわせたくないと言う思いと、この男以外に前線に立つ自分の隣に立てる男は居ないという思いに揺れていたのであった。
セフィロスが何も言わないのは了承した事ととらえたクラウドが、周りにいるクラスSソルジャーに対して敬礼をした。
「では、自分は隊員達に話に行かねばなりませんのでこれで失礼いたします。」
そう言うとクラウドはクラスS執務室を後にした。
セフィロスの隣にリーが近寄ってきた。
「キング、よろしいのですか?」
「私には……くそっ!!私はなんて無力な人間なんだ!!」
クラスSソルジャーはセフィロスの弱気な発言を始めて聞いた。トリスタン、パーシヴァル、ガーレスと仲間たちが寄ってくる
「キング、とても貴方らしくなくて…自分は凄く好感をもちます。もっとも、あの奥様がおとなしくソルジャーを辞めてモデルでいてくれるとも思えません。」
「いつでも命令して下さい、我らは貴方の戦友です。」
「ルビー・ウェポンのほかに、この星の厄災は存在するのですか?」
「ああ、もう2体いる。一体は海底で一つはどこをとんでいるのかわからない奴だ。」
「そいつらも倒さないと、貴方にも奥様にも平安な日々は訪れないと言う事ですね。」
「そう言う事になりそうだな。」
セフィロスはため息交じりに席を立ち上がると、特務隊の執務室へと歩いて行った。
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