クラウディアの仕事を終えて化粧を落し、普段着に着替えてから、クラウドはクラウディアスタッフにある程度のところまで送ってもらった。
ざっくりとしたサマーセーターにブルージーンズという服装は、それまでフェミニンな服ばかり来ていた時とはまた違った感じを受ける。化粧もしていない上に胸まで有るロングヘアーを黒いリボンでゆったりと束ねている為、一見少年なのか少女なのかわからない。
マネージャーのティモシーがクラウドに一礼した。
「では、また。」
「彼によろしくね。」
「もう、ミッシェル!!」
真っ赤になって抗議するクラウドに、苦笑をしながら手をあげてクラウディア・スタッフが解散した。
* * *
クラウドは歩いてバイクを止めてある場所まで移動しようとしていた、その途中のホテルの前で偶然ジョニーと出合った。
「あれ、ジョニー。こんな所で何してるの?」
「ああ、姫。ダチの婚約パーティ。」
「へぇ〜〜、それでスーツなんて着てるんだ。あ、フィンテックスじゃない。さっすが御曹司!」
ジョニーとクラウドが仲良く会話していると、ホテルの中から人が出てきて声がかかった。
「ジョニー、何処に居るのよ。兄さんが心配してたじゃない。あら?そちらは?」
「ん?ああ、俺達の勝利の女神。」
「ちょ!!ジョニー!!」
ジョニーがクラウドの肩をぐいっと抱き寄せたので、思わず抵抗してしまった。
目の前の金髪碧眼の少年に見覚えがあったのか、声をかけてきた人がクラウドに話し掛ける。
「あの…どこかでお会いしていないでしょうか?」
「え?いいえ、初めてお会いいたしますが?」
「おっかしいなぁ…どこかで見たような覚えがあるんだけど。うん、病院であっていないかなぁ。」
女性が首をかしげているとその後ろからクラウドにも見覚えのあるカップルが出てきた。
「マイラ、何やってるの?あら?ジョニー、いるじゃない。」
「おやおや、可愛い女の子つれているじゃないか、隅に置けないな。」
「なんだ相変わらすどこに行くにも一緒かよ、でも、主役が抜けたらダメだろ?」
確かにあった事があるカップルだが、今の姿ではあったことがないはずである。クラウドの頭の中がミッション・モードに切り替わった。
男性がジョニーに話しかけている。
「ジョニーがいないとつまらないのだよ。」
「ねえ、ジョニー。その人、以前あっているとおもうんだけど…紹介してくださらない?」
「あん?ライザもマイラも出会っている??そんなこと、あったっけなぁ!?」
「いえ、初めてお会いいたします。神羅カンパニー治安部に勤めています、クラウド・ストライフと申します。」
「え?!男?!女の子だと思った。」
「おいおい。サトル、おまえ治安部の社員だったら今ごろ叩きのめされてるぜ。こいつ、こう見えても俺より強いんだ。鬼の上官だぜ。」
「え?うそだろ!!」
「信じられないかもしれないけど、裏では”地獄の天使”なんて呼ばれてます。」
「地獄の天使?!君が、サー・セフィロスの副官なのか?!」
「おーお、よく知っているな。そ、こいつが第13独立小隊副隊長だ。」
サトルがその場に立っている少女にしかみえない少年を見つめていた。
凛とした態度と言い自然体なのに全く隙を見せない所と言いたしかにタダモノではない。
その時クラウドの後ろで爆発音がした。クラウドがほぼ同時にジョニーと目を合わせてうなずきあう。
「すみません、緊急事態ですのでジョニーをお借りします!」
そう言うと胸の剣の形のブローチを外すと、かかっている戒めを解いた。大振りの両刃剣が姿を現すとその刃に通されていたバングルを装備する。ジョニーも上着の左衿に隠してあったソードの飾りを外すとクラウドがエスナをかけて元の大きさに戻す。
「いくぜ!!」
「お前となら何処でもついて行ってやる!!」
そう言うとクラウドとジョニーは爆発音のした方向に走っていった。
走り去って行った二人の背中をマイラと呼ばれた女性が悲しそうな目で見ていた。
サトルが独り言のようにつぶやいた。
「女の子みたいだなんて、失礼な事を言ってしまったな。あの目は間違えなく戦士の目だ。オンとオフの差が激しいんだろうな。」
「それはいいとして、あっちはどうするのよお兄さん。告白する前から失恋決定って感じじゃない。」
「成るようにしかならんだろ?行くぞ。」
そう言うと二人はその場に立ちつくしているマイラを誘ってホテルの中に消えた。
* * *
一方、爆発音の音源へと走っているクラウドは、ふと気になってジョニーに訪ねた。
「ねぇ、ジョニー。俺、何かへんな事しちゃったような気がするんだけど。」
「あん?何もへんじゃなかったと思うけど。」
「お前が俺の事を勝利の女神なんて言うから、あの3人絶対勘違いしてるぜ。」
「ああ、そのことか。実際俺はお前に惚れてるから関係ないだろ?」
「あの女の人、お前に気があるんじゃないかな?」
「マイラが?冗談はよせ。軍隊なんかに身を置いている男に惚れちゃダメだ。あいつはごく普通の医者なんだぜ、それなら諦めてくれた方がマシだ。」
「ジョニー、優しいんだ。」
そう言いながらクラウドは右手のアルテマウェポンを握りなおして、すでに目の前に迫っていた反乱組織の真っ只中に切り込んで行った。
たった二人の男に何十人もいる反乱組織が押され気味で戦っていた。
クラウドが薄れかけたウォールを戦いながら張りなおすと、ジョニーがソード持ってそばまで追いついてきた。
「姫、ずいぶん体力ついたな。」
「おかげさまでね!」
何も言わずに背中合せに一旦立つと、クラウドがアルテマソードを掲げた、同時にジョニーもバングルをかざす。
「ブリザガ!!」
同時に二人から全方位に氷の最上級魔法が浴びせられると、反乱組織がいっきに倒れて行った。
クラウドがジョニーの高位魔法にびっくりする。
「へぇ。ジョニー、いつのまにブリザガを使えるようになったんだ?」
「へへへ…俺は見えないところで努力するのが好きなんでね。」
笑顔で答えたジョニーがまだ息のある反乱組織の人物達を縛り上げていると、白のロングコートをひるがえしてリックがやってきた。
「おっせーぞ!リック!」
「ジョニー、何処のお坊ちゃんがウチの姫と居るんだって思ったぜ。」
「いいだろ〜〜、男前度20%アップって感じ?」
「い〜〜や、お坊っちゃま度50%アップだな。すんげー上等なスーツ着てるじゃないか。」
リックがジョニーの着ているスーツに目をやる。クラウドと二人で反乱組織を一掃したわりにシワがあまり目立っていないのであった。
「わかる?ジョニーの着てるスーツ、フィンテックスのオーダーメイドだよ。本当お金持ちなんだね。」
「言っただろ?俺と一緒になれば将来社長夫人だって。」
「黙れbR!」
「あれ?bSに格下げになったんじゃないの?」
「何だと?!いつの間に下がったんだ?!」
「ああ、そうか。ザックスが上がってきてるもんね。」
「そ。俺、ザックス、カイル、お前ってこと。」
「俺よりもザッスクが上かよ〜〜(T▽T)」
「その順番は正しくないかもね。ジョニー、ブリザガが使えるもん。」
クラウドの一言にリックとカイルがびっくりする。
「な、何だと?!」
「マジでヤバい!!お前魔力あったのか?!」
「ヘヘン、ちょっとは…な。」
リックとカイルが顔を合わせてうなずきあった。
「また訓練所にこもるか?!」
いうが早いか乗ってきた車に飛び乗ると、猛スピードで走り去って行った。
「ちぇ!!乗せてもらおうと思ってたのに。まぁいいか、じゃあな、姫。俺もカンパニーに戻るわ。」
「あ、うん。」
そう言うと片手を上げて近くの駅へとジョニーは歩きはじめた。クラウドもバイクを停めてあった駐車場へと歩いて行った。
(ジョニーもあの女の人がきっと好きなんだろうな。だけど、いつ死ぬかわからない特務隊に入っているから、思いを伝える事も彼女の思いを受け取る事も出来ないのかな?それって…なんだか…悲しいな)
バイクを駐車場から引きずり出すと、エンジンに火を入れる。
ヘルメットをかぶると、一気に加速して、愛しい人と暮らしているマンションへと帰って行った。
* * *
セフィロスがいつものように愛車を運転して地下道へと入って行く。この地下道へと続く道の手前にはセンサーがついていて、マンションの住民とその住民が許可して申請した車しか通れなかった。
長い地下道を通って駐車スペースに車を停めると、専用のパスコードを入れてエレベーターに乗り込む。程無くしてワンフロアを占有する部屋の扉の前に立つ。チャイムを押すと愛妻が迎えに出てきていた。
「お帰り、セフィ。」
「ああ、ただいま。」
軽く触れるだけの口づけに、今だに照れる愛しい少年を思わず抱きしめて深い口づけを与えるのが、この部屋に帰ってこれた日のセフィロスの日課であった。
キッチンのテーブルに並んでいる美味しそうな料理と、目の前の愛しい少年の笑顔に、セフィロスの一日の疲れが癒されて行く。
テーブルに着いたクラウドがセフィロスに小首をかしげながら訊ねた。
「ねぇ、セフィ。もしも…俺が貴方とは全く別の…それこそモデルとかだったら、出合っていたとしても、こうして一緒に居られたかなぁ?」
「ん?急に何だ。」
「うん、実はね……」
クラウドは今日ジョニーに会ったこと、そしてその場で見たこと、感じた事をとりとめもなくセフィロスに話した。
「それで…なんなのだ?」
「俺は、セフィの戦っている姿が大好きだよ。でもね、セフィが命に係るケガするんじゃないか、とか…気が気じゃない時もある。貴方が強いことは知っているけど、万能じゃないんだもん。そう考えると、第一線を退いて統括になってほしいって思う事もあるよ。えへへ…ゴメンね、俺すっごく欲張りだよね。貴方以外の人の隣に立ちたくないのにね。」
クラウドの言葉をセフィロスは緩やかに微笑みながら聞いていた。
「どうやら私も欲張りな男のようだ。お前を危険な目に会わせたくないとも思うが、私の隣にお前以外の男を立たせたくも無いのだよ。」
そう言うと訝しむクラウドを抱きすくめて、耳元で囁いた。
「お前がそう思っているように、私も同じことを思っている。命がけの特務隊副隊長なんてやってないで、おとなしく私の妻として、この部屋で暮らしていてほしいと思う事もある。お前は確かに強いが、かなり無茶するときがある。見ていてもハラハラしどおしだ、そんな思いをするぐらいなら、モデルのクラウディアとして私の妻として過ごして欲しいと思う。」
「え?!」
クラウドが思わず絶句した。
セフィロスの瞳は真剣そのものであったため、その真意が計れないでいた。
「そうだね、セフィが治安部の統括になったら…考えてもいいよ。俺も貴方以外の隣りに立ちたくないもん。」
クラウドはそう言うとセフィロスの胸に頬をすり寄せた。
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