その日の夜、夕食の支度をしながらクラウドは壁に立てかけてあるアルテマウェポンにはめられている4つの赤いマテリアを眺めてながら悔しい思いをしていた。
(4つも召喚すると、さすがに何もできなくなるな。)
会場を去っていこうとするみんなの後を追いかけようと、一歩足を踏み出そうとした途端、クラウドがその場に崩れるように倒れた。あわててリックが駆け寄るよりも早く、セフィロスがクラウドを抱き止めた。
「馬鹿者、自分の魔力を過信するな!」
「す、すみません隊長。」
「私に取っては立っているだけでも信じられませんでしたね。」
「しばらく仮眠室で横になっていろ。リック、扉を開けろ。」
「アイ・サー!」
そんなこんなで相変わらずの姫抱きでセフィロスに抱えられて、一般兵や下級ソルジャーたちの目の前を通り、クラスA執務室に有る仮眠室まで移動してベッドの上に横たえられたのであった。
(また事務の女の子に色々と言われるだろうに、セフィったら。もう…)
そんな事を思いながらも、テーブルに料理を並べていると地下の駐車場にセフィロスの車が止まった事を知らせるチャイムが鳴る。ぱたぱたと動き回ってきっちりとテーブルのセッティングを終えて、玄関に小走りに走っていくとセフィロスが扉を開けて入ってきた。
怒ろうと思ってはいたが、いざ秀麗な顔に笑みを浮かべたセフィロスを見ると何も言えなくなってしまう。
「おかえり、セフィ。」
「ああ、ただいま。」
クラウドがセフィロスの髪の毛をちょいと引っ張り、背伸びをしていつものように軽く唇を合わせると、華奢な身体を抱きしめられて深い口づけを与えられる。
しばらくクラウドとのキスを堪能してからセフィロスが抱きしめている腕をゆるめると、ほのかに赤くなった頬と青い瞳の中にゆれる妖艶な光に思わず笑みが浮かぶが、拗ねたような顔にちょっと疑問を持ち問いかけた。
「ん?どうした?」
「また、へんな噂が立っていないかなって思って。」
「噂など言わせておけばよい、それよりも大丈夫か?」
「あ、うん。でも4体も召喚獣もてないよ。今、話し会っているみたいだけど、2体引き取ってくれる?」
「私が…か?あいつらは皆一度は私を拒否した奴らだぞ。」
「それはバハムートさんとナイツ・オブ・ラウンドさんが教えてくれた。でも、みんなセフィが変わったって言っていたよ。今のセフィロスなら呼ばれてもいいって。」
「そうか、それはありがたいな。ところでクラウド。」
「ん?なぁに?」
青い瞳をくりッとさせて小首を傾げて見上げるクラウドは凶悪なまでに可愛らしい。 by 英雄視点
おもわずセフィロスに笑顔が浮かぶと、ポケットを探り、小さな箱を取り出してクラウドに見せた。
「何をすればよいのか、わからなくてな。」
「え?セフィ。もしかして…」
「私がこの日を忘れる訳なかろう?お前を公式に独り占め出来た日だからな。」
クラウドが箱を開けると綺麗な石のついたピアスが現れた。2つの石がバランスよく配置されていて特注品らしくデザインも凝っていた。
セフィロスがクラウドの左の耳のピアスをはずして、かわりに新しいピアスを入れる。そして自分の左耳のピアスも交換するとクラウドの瞳が潤み出す。
「ありがとう。」
「それよりも、いい匂いがするな。」
「あ、うん。待ってて、着替え持ってくる。」
いつものようにセフィロスが黒のロングコートを脱いでいる間に、クラウドがシルクのシャツとジーンズを持ってくる。 着替えを終えたセフィロスがキッチンへと入ると目を細めた。
「クックック…クラウド、良く覚えている物だな。」
テーブルに置いてある料理は一年前サウスキャニオンに訪れた際、ミッションで巡り合ったアンダーソン夫人に手ほどきを受けて作った料理だった。
「忘れるわけないよ、大好きな人のためにって…教えてもらった料理なんだもん。」
その言葉に極上の笑顔を送りながら、セフィロスがテーブルについた。
クラウドがキッシュを切り分けている間に、セフィロスがグラスに冷えた白ワインを注いだ。
ほのかに桃のような香りのするワインを眼の高さまで上げて、セフィロスがクラウドにささやいた。
「これからも、そばにいてくれ。」
「こちらこそ。これからも、よろしくね。」
そう言って二人はグラスを重ねてから食事を始めた。
クラウドの手料理を堪能した後、使った食器を食洗機にかけてセフィロスがリビングへと移動する。
その後をコーヒーをもってクラウドがゆっくりと歩いてきた。
学術書を読もうと手にとっていたセフィロスの左側にちょこんと座り、いつものようにコーヒーを手渡した後、クラウドは両手でコーヒーのマグカップを持ちながらちらちらと隣に座った男をのぞき見ていた。
セフィロスの左耳には先程のピアスがはめられていて、アイスブルーの石と青い石が仲良く光を放っていた。その石の色は自分と彼の瞳の色によく似ている。それだけでクラウドは何となくこのピアスをずっとはめていたい気持ちになっていた。
セフィロスがクラウドの視線に気がついて振り向いた。
「ん?何だ?」
愛しい人に見つめられて、思わずクラウドの顔が真っ赤になる。
「な、なんでもないよ。」
頬を染めて横を向くという可愛らしい仕草に、思わずセフィロスの口元に笑顔が浮かぶ。
セフィロスがコーヒーカップをリビングのテーブルに置くとクラウドが再び潤んだ瞳で見上げていた。
「ねぇ……セフィ……」
ズギュ〜〜〜ン!!! 英雄のハートが射貫かれた音 (w)
「悪い子だな、私を誘惑するとは。」
「だって…セフィが…欲しかったんだもん。」
「クックック…そんな事言って、後悔するなよ。」
そう言うとセフィロスはクラウドの身体を抱き上げて寝室へと歩いて行った。
* * *
翌日、8番街のとあるスタジオにて、スーパーモデルのクラウディアがCM撮影をしていた。
料理道具のCM撮影なので、クラウドは可愛らしい水色のワンピースに白い色のフリルたっぷりのエプロンを付けていた。
髪の毛を黒のカチューシャで抑えている姿はまるで何かの物語の主人公のようであった。
TVカメラの前でクラウディアがにっこりと笑って料理の入った鍋を持ち上げる。その左薬指には鈍い光を放つ銀色の指輪がはめられていたが、その場にいたスタッフ全員が、余りにも彼女の笑顔が眩しくて見とれていた為に気がつかなかった。 あらかじめ決められていた台本通りのセリフをクラウディアが語りかけるように話す。
「お鍋さんお鍋さんお願いが有るの。大好きなあの人のために美味しーい料理を作って下さいな。」
ほんのり頬を染めて幸せそうな笑顔で囁くクラウディアはCMクルーにとっても眩しくてしかたがない。そんな姿をクラウディア・スタッフのミッシェルとティモシーが顔を見あわせていた。
「絶好調だね、何かいいこと有ったのかな?」
「う〜〜ん、さしずめ何かの記念日だった…とか?」
「ああ、そういえば去年の今頃たしかカームで…だったな。あのピアス真新しいから、もらったばかりか。まったく氷の英雄らしくないと言えばそうだが、愛されているようでよかったのかな?」
「そうね、相変わらずラブラブのようね。でも…あのピアスを巧く誤魔化さないと、グラッグが横から取っているから写真に残っちゃって後になって響くわね。」
「彼はそんなへまはしない。それよりもこの後の撮影が問題だな。ミッシェル、君の腕の見せ所だぞ。」
「任せて下さい。レディ・クラウディアを失いたくないのは私も同じですからね。」
クラウディア・スタッフが笑顔でクラウディアを見ていた。
CM監督がTVカメラの後ろから声をかけてきた。
「OK!クラウディア、素敵な笑顔だったよ!」
「え?本当ですか?」
「ああ、”大好きなあの人にって”セリフの当たりが、幸せそうで綺麗だったよ。」
CM監督の言葉に、思わずクラウディアの頬が赤く染まるのをCMスタッフが目を細めて見ているが、クラウディア・スタッフは違った目で見ていた。
「はぁ…何処からどう見ても、飛びっきり可愛らしい女の子なんだけどなぁ。」
「何処からどう見ても…よ、ねぇ。」
実際、誰が見ても女の子にしかみえないであろう。しかしクラウディア・スタッフは隠された事実を知っている。
天使の笑みと清純さ、そしてほのかに覗く妖艶さで世の中の男性をとりこにし、恋する女の子の気持ちを表現しているおかげで妙齢の女性のファンを持つこの少女が、実は神羅の英雄と呼ばれるトップソルジャー、サー・セフィロスの公私にわたるパートナーであり、神羅カンパニーに所属するトップクラスのソルジャーで、反神羅勢力には”地獄の天使”とか”白い悪魔”と呼ばれている男で有る事を。
「この状況では、誰も信じないでしょうね。」
「知っていても信じられなくなる事があるわ。」
ため息をつくティモシーとミッシェルに向ってクラウディアがパタパタと走ってきた。
「ティモシー、今度は何のお仕事かしら?」
「次はダイアナの秋物のポスターですね。」
「スタジオの模様替えをする間、休んでいてね。」
「そう、デヴィッドさんの店のポスターね。またスカート丈が短いのかなぁ?」
「マダムの店のポスターも入ってますよ。」
「マダムっていつもロングドレス着せるんだもん。」
「仕方がないでしょ?ドレスデザイナーなんだし…それともなぁに?ウェディングも着せたいって言ってたけどOKする?」
「ヤダ。あの方の前でしか着ないんだもん!」
「はいはい、わかっていますよ。また近いうちにサーに会わせて下さいね。」
「え?どうしてですか?」
「お二人で…っていう依頼が多くて困っているんですよ。社長にも話を通してはいますが、ポスターだけとかイメージキャラだけでも許可してほしい物です。」
ティモシーの言葉にクラウディアが軽くため息をついた。ミッシェルがそんなクラウディアを気づかった。
「クラウディア、お仕事が忙しいの?」
「いえ、今のところ緊急ミッションは入っていません。」
「あらら…急に切り替わるのね、まぁいいけど。どうしてサーと一緒の仕事は嫌いなの?」
「こっちのお仕事では一緒にやりたいけど、サーの都合上無理かと思います。」
「あんなにカッコイイ男の人モデルにしたら最高なんだけどなぁ。どんな服だって似合いそうだわ。」
「悪いけど、トップソルジャーのセフィロスをこの道に引き込むつもりはありません。」
そう答える人物は先程まで極上の笑顔で微笑んでいた天使とは全く違い、その青い瞳が冷淡なまでに光っていた。きりっとした顔つきは、先程まで恋人の事を言われて照れていた少女ではなく、ソルジャーとしての彼本来の持つもう一つの顔であった。
模様替えが終り、何もなかった空間に秋の木立が現れる。何度見てもクラウドは人工の部屋の中に自然が出来上がる姿は慣れない。
ミッシェルが秋向きのダイアナの衣装を持ってくる。当然パターン採取のための一点物であった
クラウディアがそれを受け取って着替えに行く。
着替えが終ってクラウディアが出てくると、ミッシェルが髪型を少し変えた。
「クラウディア、そのピアス隠すわよ。」
「あ、そうね。お願いします。」
セフィロスとお揃いのピアスを写真に残して、自分の正体を明かす訳にはいかないので、クラウドが承認する。
あっというまに髪形を整えて、すっかり支度の出来たクラウディアにカメラマンのグラッグが注文を出す。
「そうだな〜〜、物思いの秋ってんで…クラウディア、サーの事でも思い出してくれないかな?」
「ば、馬鹿ァ!!」
青い目をうるませながら頬を赤らめるクラウディアはその場にいる誰もが認めるほど可愛らしい。
思った通りの表情を引き出せたグラッグが思わず声を上げた。
「いただき!!」
すかさずシャッターを押すした。
こうしてモデルのクラウディアの仕事は過ぎて行くのであった
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