FF ニ次小説
 秘境の温泉で、だれにも邪魔される事なくゆっくりと一緒に過ごせたおかげか、カンパニーに出社してきたセフィロスのご機嫌は最上級で、クラウドは凛とした雰囲気の中にもそこはかとなく色気すら見え隠れしていた。
「ただいまぁ。ごめんなさいね、いなかった間に緊急ミッションが入って、皆だけでコンプリートしちゃったんだって?凄いね〜」
 どことなく言い方まで色っぽい、これで堕ちない男が居るのか?!と思えるほど、今のクラウドは”取って食べちゃって下さい”状態であった。
 男にまったく興味のないザックスですら言葉に詰まる。
「うぐっ!!ク、クラウド。おまえ一体どうした?!」
「えぇ?どうしたって言われても、どうもしていないんだけどォ〜」
「色っぽい、色っぽすぎる。」
「あれは隊長に…だな。」
「はぁ…俺達の憧れの君を…何て羨ましい!」
 隊員たちに言われた事を理解したのか、ほんのりとクラウドの頬が赤く染まる。何やらモジモジとしている姿まで色っぽい。
 そんなクラウドを一人ニヤニヤしながら見ている英雄は、ほんの少し鼻の下を伸ばしていた。

 しかし、その反響はものすごい物であった。
 クラスS執務室で笑顔でお土産を渡すクラウドに、歴戦のソルジャーであり連隊長として数多くのミッションをこなしてきた男たちが全員ノックアウトされ、おなじ土産をつまみながらクラスA執務室でエドワードと並んでお茶を飲みながら笑顔で話す金髪の天使に、半年以上も一人の男として認めていたはずのクラスAソルジャーが、全員といっていいほどやられただけでなく、廊下ですれ違う下級ソルジャー達ですら、憧れの男のはじけるような笑顔に、完璧にノックアウトさせられていた。
「サ、サー・クラウドってあんなに可愛かったっけ?」
「あれ?今ごろそんな事言ってるよ、こいつ。俺なんてサーが一般兵だった頃からそう思っていたけどなあ。」
 噂は即座にカンパニー中を駆け回り、統括であるランスロットまで即聞こえてきた。

 統括室で頭を抱えるランスロットの元に、ぽけ〜っとした顔のパーシヴァルがやってきた。
「パーシヴァル、貴様も姫にやられたのか?」
「いや…だって、凄く可愛い上に色っぽいんですよ。目の前でセフィロスが睨みつけていなかったら、条件反射で抱きしめてしまいたいほどだ。」
「はぁ…まったく。お前がそれじゃウチのソルジャー共はしばらく使い物にならんな。」
 そこへ、噂の主が扉をノックして入ってきた。入れ代わりに何かあってはまずいと、パーシヴァルはそそくさと統括室を退出した。
「あ、ランスロット統括。およびでしょうか?」
 小首を傾げて尋ねる姿は噂以上に可愛らしい、おまけになぜかモジモジとして頬を赤らめている。

(こ、これは!!まずい!!セフィロスに氷らされる!!)

 ランスロットがとっさに頭を切り替えられるのは、さすがセフィロスと付き合いが長いだけのことはある。ひたすら冷静に勤めようと目の前の書類に神経を集中させた。
「ミッションをお願いしたいと思っています。内容はこちらを…ニブルヘイムの魔晄炉閉鎖に伴う、地域のモンスターの一掃です。」
「はい、お受けいたします。ニブルヘイムの魔晄炉閉鎖の任務は、どの隊にお願いされるのでしょうか?」
「ご存じとは思いますが、あのあたりのモンスターはかなり強いので、強い兵士の多い第2師団か第17師団のどちらかで、 セフィロスと相談して決めて下さい。」
「はい、では主人と相談させていただきます。」
 クラウドはそこまで喋って、はっとしてあたりを見回し真っ赤になった。ランスロットは固まったまましばらく言葉が出なかった。
「ご、ごめんなさい。」
「い…いえ、貴方に取ってあの方はそう言う立場ですから…(滝汗;)しかし、いくら嬉しかったとはいえ、もう少し気を引き締めていただかないと、お二人の関係が知れ渡ったら、貴方がソルジャーを辞めなければいけなくなりますよ。」
「はい、すみません。気をつけます。」
 跳ね返った金髪すらもしゅんとしているように見える後ろ姿を見送りながら、ランスロットは安堵の溜め息をついた。

 即座にクラスSソルジャー仲間だった連中から抗議の電話が入った。
 内容は『なぜ姫を悲しませた?!』とか『酷い任務を言い渡したのではないだろうな?!』とか、さんざん怒鳴られたあげく、他のミッションを言い渡そうと呼んだクラスAソルジャーからも、厳しい目で睨まれて、再びランスロットは溜め息をついた。

「確かにいけないよね、うん。」
 そんな独り言をつぶやきながら、特務隊の執務室に歩いて行く姿は、先程まではがらっと変わり、ほんの少し肩を落している。あまりにも悲しそうな姿に、執務室に入ったクラウドを一目見た隊員達があわてて駆け寄ってきた。
「クラウド、一体どうしたんだ?!」
「誰かに何か言われたのか?!」
「まさか、お前をナンパした奴でもいるのか?!」
「なに?!何処のどいつが姫をナンパしたっていうんだ?!」
 血相を変えて自分を囲む仲間にびっくりしたクラウドが、あわてて説明した。
「え?あ。な、なんでもないよ。ちょっと統括の前で失敗しちゃって…」
「ランスの前で失敗?お前が、か?」
「何やったんだよ。」
「え?あ…ちょ、ちょっと隊長を…間違えて……あの…その……主人って…言っちゃったんだ。だから…」
 クラウドの一言で執務室の空気が一転した。
 先程までぴりぴりしていたのに、いきなり高濃度の蜂蜜に満たされているような気がする。
「うわっ……ゲロ甘。」
「ひっ!!ザックス、殺されるぞ!!」
 ザックスは自分の背中に巨大な氷の刃がつきささった…ような気がした。恐る恐るセフィロスを覗くと、凄い形相でこちらを睨みつけていた。視線で殺せる物なら殺してやるとばかりの顔に、流石の彼もフリーズした。
 しかし、クラウドがしゅんとしょげながら、もじもじと近づくと、氷の英雄の最低最悪の寒気をともなう形相が一転してゆるやかな笑顔になった。
「そりゃ、わかっていますけどね。」
「俺達っていったいなんなのさ。」
「所詮は手駒かよ?」
「せめて戦友と言われたいな。」
 ぶつぶつつぶやく仲間に少し悪い気がしながら、クラウドはセフィロスにミッション指令書を手渡した。
「ニブルヘイム魔晄炉封鎖に伴う地域のモンスター一掃だそうです。第2師団か第14師団に封鎖の作業をしてもらい、我が隊はモンスターが出たら対応すると言うミッションだそうです。」
「そうか。で、どちらをつれて行くつもりだ?」
「ニブルのモンスターは結構強いのでそれなりに強い隊の方がよいかと…」
「ならばラルコートの所だな。」
「ニブルでの拠点はニブル屋敷ですか?それとも魔晄炉近くでしょうか?」
「お前ならどうする?」
「魔晄炉付近の平地にテントを張ります。山を登って現場に来るうちに、全滅してもらっては困りますからね。」
 セフィロスはクラウドの答えに反論をしなかった。それはクラウドの出した答えで正しいと思ったからであった。
 クラウドはミッションの指令書を持って第14師団の執務室へと出掛けていき、そこで隊長のラルコート相手にミッションの協力を頼むと、スケジュール上、来週の出発を約束して出てきた。
 そしてクラウディアの仕事をこなした後、ニブルヘイムへと出動して行った。

 ニブルヘイムでは村長であり、ティファの父親が苦虫を噛みつぶしたような顔で出迎えてくれた。そして神羅の英雄の隣に立つ美少年が隣りの家に住んでいる。未亡人の一人息子と知って驚愕の顔をした。

 同い年の村の幼なじみ達の羨望の眼差しを浴びながら、クラウドが一個大隊を指示しているのを遠くで彼の母親が見つめていた。その視線に気がついたのか、ちらりとナタリーをみたセフィロスが軽く一礼する。母親に笑顔が浮かぶとセフィロスに従うように一歩下がって歩く息子が、彼女を向いて軽く手を振っていたが、後ろを歩く隊員達に小突かれて照れたような顔で歩き去って行った。

 任務を終了するまでには、一ヶ月ぐらいかかるであろう。
 その間に科学部門と第17師団とで、ニブルヘイムからほど近い海岸に、風力発電の装置を設置していた。
 特務隊が暇に任せてニブル山の山狩りをしてしまったので、周辺のモンスターはあっという間に一掃されてしまい、魔晄炉ちかくの発電所に巣食っていたニブルドラゴンも、セフィロスの手に寄ってあっという間に排除された。

 安全を確かめて特務隊がニブル山から降りてくると、特務隊は村の郊外に出て休憩を取っていた。
「ニブルヘイムの魔晄炉が1号機だったんだよね?」
「俺の田舎にも魔晄炉が有るぜ。もっともだいぶイカレているけどな。」
「え?ゴンガガって文明の明かりがあったのかよ?!」
「太陽と共に起きて太陽と共に寝る地域じゃないのか?!」
「俺の故郷は未開の土地かよ!」
「ふふふ…でも1号機を封鎖するって、なんだか意味深だよね。」
「ああ、やっぱり一番思い入れがあるだろうからな。神羅が本気だって、世間に示す為にも1号機を封鎖したんじゃないのかな?」
「これで反抗勢力がわかってくれるといいな。」
「わかってくれるまで抑えるしかないぞ。」
「それしか方法が無いのなら…仕方がないです。」
 今は辛い戦いが続くかもしれないが、それで戦いが終る見込みがあるのであれば、争わずにすむ未来のために闘う事も仕方がない。
 クラウドがそう思いながら見上げたニブル山は、すがすがしいほど美しかった。


The End