自分の女装写真集とカレンダーの原本となる物を見ながら、クラウドは”本当に自分は男なんだろうか?”と泣きたくなっていた。
 それほどまでにクラウディアの写真集とカレンダーの出来栄えは良く、前評判も上々で予約が殺到していた。


ーーーー   悩み   −−−−


 溜め息をつきながら髪を掻き上げるクラウドは、艶めかしく儚げに写る。セフィロスがそっと背中から柔らかく抱きしめてクラウドの耳元でささやいた。
「こら、朝っぱらから私を誘惑するんじゃない。」
「もう、そんなつもり無いってば。それよりもこれ見てよ。」
 そう言ってティモシーからもらったカレンダーや写真集の原本を見せると、その出来栄えに思わずセフィロスが口元をゆるめた。
「綺麗じゃないか。」
「そのモデルが男だってばれたら…俺どうなるのかな?」
「女だと世間では思い込んでいるからな、しかしティモシーたちも伏線を引き始めているではないか。」
「ティモシー達はたしかに頑張ってくれているけど、そのうちバレて大騒動になる気がしてしかたがないんだ。」
 クラウドの目下の悩みの種である「モデルのクラウディア」。
 元はと言えば神羅の英雄と呼ばれ、世間からありとあらゆる意味で注目されているセフィロスが、少年兵であるクラウドを恋人にしたことが発端だった。
 セフィロスが他の奴に渡したくないほどのめり込んでしまった為、クラウドの事を表に出すとカンパニーの信用にかかわると、ルーファウスから提案されたのが、全く別人であるモデルを演じることだったのだ。
 そのモデルが天使の笑顔と高貴さの中に妖艶さを持つがゆえに人気モデルとなったのだった。
 そんな時にカームの地下組織せん滅というミッションをもらった。
 任務地での潜入捜査の為にカームの教会で式を挙げるということにしたのであった。
 教会に通って何回かボランティアをしているうちに、カームの青年たちが地下組織を作って何かうごめいていることまで付き止めた。しかし表立った行動に出ないまま、挙式の日を迎えた。
 ウェディングドレスにそでを通しミッシェルにメイクをしてもらい、セフィロスとともに教会で挙式をあげて、外に出ようとした時、殺気立った青年たちに囲まれたのだった。
 列席していたクラスSソルジャー達や、リック、カイル、ジョニー達によってあっというまにとらえられた彼らは、地下でうごめいていた理由を聞かれて答えた。
 曰く、彼らはクラウディアの熱狂的なファンで、世界の妖精と呼ばれている美少女を、英雄セフィロスに一人占めされる前に、殺してしまえば、永遠に自分たちのものである…と。
 セフィロスに一喝されて、肩を落としながらミッドガルまでしょっ引かれた青年たちは、クラウディアのマネージャーであるティモシーに「あなた方はクラウディアの性格を分かっていない。サーがいなかったら彼女は仕事をしてくれなくなるんです!彼女は世界の妖精と言われるよりも、愛する人のためにいたいという子なんです!」と怒鳴られて帰って行った。

 おかげで入籍することができたのではあるが、セフィロスもクラウドも離籍するつもりなど全くなく、そのまま結婚生活を続けていたのであった。

 しかし、「モデルの恋人」を作ってしまったが故、セフィロスと一緒に街を歩くためには、クラウドが女装するか、二人とも変装するしか方法がない。
 たったそれだけの事なのだったが、いつのまにか”クラウディア”は、神羅カンパニーに籍を置くモデルとしてポスターやCMに起用されまくっていた。

 今では英雄の恋人として、トップクラスのモデルとして、クラウディアは世間に広く認知されていた。

「今度、ティモシー達に聞いてみようかな?」

 一度確認しておかないと、後で何かあった時に嫌な思いをすると思い、クラウドはスケジュールを確認する。
 今日のお昼からクリスマス商戦用のポスター撮影の予定が入っていた。
「さ、遅くなっちゃうから支度しなきゃ。」

 そう言うとサマードレスに着替えて、髪をとかしドレスと共布のリボンを首もとで束ねた所に結ぶ。
 化粧こそしてはいないが間違いなく”世界の妖精・LADY CLOUDEA”そのものであった。

「いかがかしら?サー。」
「最近慣れてきたのではないかね?」
「全然、まだ抵抗あるよ。俺、男なんだもん。」
「しかし、その姿だと堂々とお前をつれて歩ける。」
「白のロング姿でもいいじゃない。」
「それはかまわんが、お前を抱きしめることはできなくなるな。」
 セフィロスの言葉に,クラウドは拗ねたような瞳で唇をとがらせた。
 仕上げにピンク色に色づくリップクリームを唇に塗り、クローゼットからガスト博士の作った偽物の胸を取り出して、自分の胸に張りつける。何処からどう見ても女にしかみえなくなった。
 白いサンダルをはくと、紙袋にいつもの特攻服と魔法で縮めたアルテマウェポン、クリスタルバングルと支給品の靴を入れてハンドバッグにハンカチと財布を入れる。
「準備ができました。」
 クラウドがそう告げると、セフィロスが腰を抱き、部屋のセキュリティーを確認して、エレベーターホールへと歩いていった。


* * *



 黒いスポーツカーが8番街にあるダイアナの駐車場へすべるように入ってきた。
 ダイアナのメインデザイナーであり、オーナーのデヴィッドが駐車場で立っていた。
扉を開けてセフィロスが現れ、助手席に座っているクラウディアをエスコートして歩いてくるのを見て深々とお辞儀をした。
「お待ちいたしていました。さあ、どうぞ。」
 デヴィッドが先導するように店へと案内すると、店の前でクラウディア・スタッフが待っていた。
 店の扉を開けると、セフィロスがクラウディアをともない入って行く、その後ろからクラウディア・スタッフとデヴィッドが店に入ってきた。
 店員達は慣れているのか、神羅の英雄とそのフィアンセの美少女モデルが入ってきても、取り乱す事なく働いていた、すべて店長のデヴィッドが、そう言う条件で雇っている為、店員達が騒ぐ事はなかった。
 奥のVIPルームでクリスマス商戦用ポスターの衣装に着替え、ヘアメイクとメイクをきっちりとしてポスターの撮影を進めているとデヴィッドがスタッフ達にコーヒーを持ってきた。
「コーヒーが入りましたよ。サー・セフィロスもいかがですか?」
 その一言で休憩に入った。
 クラウドは事実を知っている人達しかいないこの時とばかりに、ずっと思っていた事を話しだした。
「あの…ティモシー達に聞きたい事があるんだけど。もし、クラウディアが男だって世間にばれたら、どうするの?」
「う〜ん、混乱するとは思うけど、どうなるかな?ミッシェル。」
「だいたい貴方が男であるなんて誰も信じないと思うけど。」
「そうだね、でもいつかはわかってしまうかもしれない事だから…もしかして、クラウド君はそれが重荷になっているんじゃない?」
「うん。1年もよくばれずに済んでいるもんだって思うぐらいだもん。」
 マネージャーのティモシーがカバンから書類を取り出しながら、ある一点を指差してまわりに見せるようにして話した。
「実はね、モデル契約する時の契約書にすでに伏線を張ってあるんです。貴方を起用する際にクラウディアであれば性別は問わないと、しっかり書いてあるのを確認させています。危険エリアでの撮影時は顔だちの似たソルジャーが、身代わりになる事があると事前に通知していますから。」
「え?!そ、それじゃ…俺がクラウディアの身代りだと言えば終わっちゃうの?」
「契約相手とはそれで通じます。」
「でも…それでも世間には通じないと思うんだけど…。」
「その影響はまだ考えていない。サー・セフィロスの恋人が、実は少年で二人はすでに結婚しているなんて、普通考えられないからな。」
「やっぱり…そうですよね。」
 ティモシーの言葉に、クラウドが暗い顔でため息を一つついた。

「ティモシー、これの事は?」
   グラッグがティモシーに写真の束を手渡すと、彼はセフィロスに尋ねた。
「そういえば、サー・セフィロス。クラウディアの写真集に、シェフォード・ホテルのブライダルサロンのCMの時に撮影した楽屋ネタの写真を使いたいのですが、どの写真なら許可を願えますか?」
 そう言って写真の束をセフィロスに手渡す。写真の束を受け取り、セフィロスはざっと見渡して3〜4枚の写真を抜き取ると、ティモシーに返した。
「その3枚ならよかろう、ルーファウスにも多少協力させればよい、なにしろクラウディアの所属先だ。」
 ティモシーの手に戻された写真は、タキシード姿のセフィロスとウェディングドレス姿のクラウディアが、CM撮影中に楽しげに会話している写真や、祭壇の前で真面目な顔で向き合っている写真、そしてヴェールについた花びらをセフィロスが取っているのを、照れたクラウドが真っ赤になってうつむいている写真だった。
 クラウドが横から覗き込むと目を丸くする。
「グラッグ、いつの間に取っていたの?」
「いやぁー、余りにもいい表情だったから、ついカメラマン根性が出て…この上目遣いの奴なんていい写真だろ?」
「でも、なんだかコレだけじゃ寂しいわね。サーのプライベイト写真無いですか?」
「まぁ、あると言えばあるが。」
「え?!いつの間にそんなもの撮っていたんだよ?!」
「どういう写真です?」
「フリルのエプロンでキッチンに立つ姿とか?」
「それもあるが…まぁ、私個人の物だ。見せたくはないし、見せられるような物でもなかろう。」
「まさか…寝顔とか、危ない写真なんてのも…こっそり撮っていらっしゃるんじゃないでしょうね?」
 ミッシェルがそれとなく探りを入れるが、セフロスも慣れた物で、にやりと口元をゆるめて意味深な表情をした。
「クックック、あっても見せられる物か。そんな顔私以外の誰も見る事は許さん。」
 クラウドが頬を赤らめて、とまどうような顔をするので、グラッグは諦めて、デヴィッドに話しかけた。
「デヴィッドさん、お店にフリルのエプロンなんてありますか?」
「え?ええ、ありますよ。」
「じゃあ、それちょっと貸して下さい。ミッシェル写真集の衣装を探しに行くよ。」
「オッケー!フリルのたーーっぷり付いたエプロンに似合う服は、やっぱりフレアスカートよね〜〜。」
「ふむ、いいスタッフだな。」
「げぇ〜〜!!そんなカッコの奴まで撮るの?!」
「こ〜ら、クラウディア。男言葉禁止!!」
「ミッシェル、ちょっと待って。僕も行きます、いい服あるんですよ。」
 ミッシェルの後ろから嬉々とした顔でデヴィッドが店に出て行った。

 数分後、フリルたっぷりのエプロンと、それに似合うワンピースを着たクラウドが、キッチンで料理を作る姿を、グラッグのカメラがずっと追いかけていた。