カレンダーと写真集の発売日が決定し、インストア・イベントを行うかどうかで、スタッフとクラウドが事務所で議論をしていた。
「冗談じゃない!俺はソルジャーなんですから、これ以上人前にモデルとして引っ張り出さないで下さい!」
「と、言われてもなぁ、取材の申し込みも多いし、前評判もいいし、予約もかなり入っているんですよ。インストア・イベントはTVの取材も入るんですよ。」
「握手なんてしたら、感のいい人なら俺の剣ダコに気がつきますよ。ティモシー、試しに握手して見るかい?」
「え?ああ。」
そう言ってティモシーが軽くクラウドの手を握ったが、力強くがっしりとした手の感触に、思わず首をかしげてしまった。
「間違っても華奢なモデルの手には感じないな。」
「そう言うこと。インストア・イベントやると握手しない訳に行かないだろ?」
「やっぱり男の子の手よねぇ、骨太なんだ。これはエステでもどうしようもできないわよ、それにクラウディアは謎が多いモデルだし…マスコミ戦略は間違えると後が恐いわよ。」
「そうだなぁ、事務所を通してFAXでも送っておしまいにするしかないか。」
「それならOK、でもサインは絶対入れないからね。」
「わかってますよ。貴方の文字をまねて悪用されてはたまりません。」
そう言うとティモシーがすぐ隣に座っている青年の顔を見た。クラウドよりも少し年上の青年は金髪碧眼に整った顔立ちはやや甘めだが、瞳は狡猾そうな輝きをともしている。
いつものように白いスーツを着た青年はクラウディアの所属先で、ティモシーたちと直接契約している神羅カンパニー社長のルーファウスだった。
「なんだ、インストア・イベントはやらないのかね?」
「握手すると自分が男だとすぐばれてしまいます。」
「それは困るな、君にはまだモデルとして活躍してもらわねばならない。電力事業だけでは行き詰まりがあるからね、有能な人材を各所に派遣する事業でも始めようと思っている矢先だ、もちろん君はその第一号になっている訳だな。」
「自分はいつまでモデルをやっていればいいのでしょうか?」
「ソルジャーの方が良いか?」
「自分は…男です。」
「君がプライベイトでセフィロスのそばにいる為には仕方がない事だろ?」
「そのプライベイトまで仕事になってしまいましたからね、おまけに世間一般では女だと思いこまれています。」
「そうだな、どうしても女にしかみえないな。」
「どうすればいいのか、自分にはわからなくなって来ました。なんだか自分が二人いるようで…」
そう言いながら社長を共なってカンパニーへと戻ると、本社ロビーでルーファウスと別れる。まだうら若い社長が専用エレベーターに乗るのを見送った後、治安部の方へとゆっくり歩いて行った。
治安部に戻るとクラスA仲間が何やら固まって話していた。クラウドは何があったのかと、近くに行って声をかけた。
「みんな、何話しているの?」
「ああ、姫。お前の写真集とカレンダーの事だよ。」
「欲しいような…そうでないような…なにしろ実態を知っているから、困っているんだ。」
ブライアンとパーシーの答えにクラウドは目を吊り上げてどなった。
「そんなもん買わなくていい!!」
「だが部下達の多くはもう予約に走っているようだぞ。」
「俺も部下達に買わないのかって聞かれたな。」
ゴードンやスティーブまで同じことで悩んでいるらしい。そんな彼らにリックが声をかける。
「え?買わないの?!惜っしいなぁ、絶対美人で綺麗で可愛いと思うぜ。」
「それは認める。」
「認めなくていい〜〜〜!!!」
クラウドが叫んだ時、ポケットに入れた携帯が震えた。
「はい、クラウドです。あ、隊長。はい、すぐ行きます。」
「ミッションか?」
「わかんない、でも普通じゃなかった。」
「俺も行くか?」
「ああ、ザックスも呼んで行くよ。」
そういうとクラウドは携帯でザックスを呼び出した。
「ちぇ!デートじゃないのか。」
「リック、おまえマジで他人の嫁さんに惚れててどうすんだよ?」
「キース、お前隣に立てないもんでひがんでいるな。」
「リックも実質は隣に立っていないじゃないか。」
「くう〜〜〜!!エディ、あとでシメてやる!!」
扉を開けてザックスが入ってくると、クラウドのそばに歩いてくる。すっと隣りに立つと話しかけた。
「来たぜ、クラウド。旦那から呼び出されたって?」
「うん、今からクラスSに行く所。一緒に行かない?」
「ああ、いいぜ。」
そう言うと二人で歩調を合わせて歩き出した。後ろでリックが唖然として見ている。
「ちょっと姫、こんなに惚れてるのにそれないんじゃないの〜〜?!」
そう言うと、リックはあわてて追いかけはじめた。
クラスA仲間がそんなリックを見てニコニコとしていた。
「あれじゃ、どっちがクラスAなんだかわからないな。」
「ザックスも早く上がってくればいいのに。」
「あいつ、そんなにできる奴なのか?」
「ああ、キングと姫のいない特務隊を指揮して、あっという間に反抗勢力を鎮圧してしまったぜ。」
「信じられん。あの”当って砕けろ”根性のザックスが?」
「見事なもんだったぞ。クラスAで少し修行すれば、あっという間にクラスSに行けるだろうな。」
「エディがそういうなら信じるしかないな。」
クラスAソルジャー達は3人の男の背中を見送りながら、それぞれの仕事に戻っていた。
* * *
クラスS執務室の扉のまえで立ち止まり、ノックしてクラウドが声を出した。
「第13独立小隊副隊長クラウド・ストライフ、以下3名入ります!」
扉を開けてクラウドとザックスが入ってくる、一歩遅れてリックが入ってきた。隊長のセフィロスが立ち上がって3人に向き合った。
「ご苦労、諸君を呼んだのはエメラルドウェポンの件だ。せんすいのマテリアが見つかった。」
「それを身につければ水中でも地上と同じように行動出来るのですね?」
「ああ、その通りだ。」
「エメラルドの正確な位置がつかめていませんが?」
「そのために潜航調査をする。そのミッションだ。」
「アイ・サー!」
クラウドが敬礼すると、ザックスとリックが少し遅れて敬礼する。ザックスがふと気がついたようにセフィロスに尋ねた。
「セフィロス、そうするとジュノンの潜水艦ドッグから…だよなぁ?」
「ああ、中に入れるのは潜水艇スタッフを抜けば10人以下だろう、誰をつれていくか考えておけ。」
「なら真っ先にクラウドをはずすよ。なにしろこいつの乗物酔いは、かなりな物だもんなぁ。」
「ザックス、副隊長の俺を外す気か?」
「今回は戦闘に入る事はないだろうから、おとなしく待っていろよ。」
「冗談じゃない!俺は特務隊の副隊長だ!指揮権は俺にある。」
「指揮権って…クラウド、お前が乗物酔いして隊長に眠らされるのが落ちだぜ。居ても居ないのと一緒なら、俺もお前を置いて行くのに賛成する。」
ザックスとリックの言葉を聞きながらセフィロスは苦笑していた。まさかザックスもリックも副隊長のクラウドを置いていくと言うとは思ってもいなかった。
「クックック…部下と上官の地位が逆転しているな。」
「だってさあ、寝てたら居ないのも一緒じゃん。」
ザックスの言葉を聞いて、クラウドの瞳が怒りに燃えていた。くるりと後ろを向いたかと思ったら、セフィロスの机のパソコンをちょいちょいと触り、即座に目的の物を見付けたのかきびすを返すとトリスタンの元に駆け寄った。
「サー・トリスタン。第26師団に短期間ですが編入させて下さい。」
「私はかまいませんが。」
クラウドと組みたくて仕方がないトリスタンは満面の笑みでうなずく、が、それを黙ってみていられなかったのは誰あろう”元”氷の英雄セフィロスであった。
「ちょっと待てクラウド!!なぜお前がトリスタンの所に編入せねばならないのだ?!」
「自分は特務隊の副隊長失格なんですよね?ならばどこか別の隊に移動しなければいけないと思います。」
「誰がそんな事を言った?!」
「エメラルドウェポンに認識票を埋め込むミッションに、行けないと言うのでしたら、失格と言われたも一緒です。では、サー・トリスタン。明日からミッションですよね?自分を第26師団の隊員に紹介して下さいませんか?」
「姫、よろしいのですか?」
「ええ、かまいません。ミッションに同行いたします。」
「では、行きましょうか。」
そう言うとトリスタンが満面の笑みを浮かべて、クラウドをエスコートするかのように、第26師団の執務室へと歩いて行った。
ザックスとリックとは唖然としてクラウドを見送ったが、気がつくとセフィロスの超弩級の冷気にさらされていた。
「貴様達が余計な事を言うから!!」
クラスS執務室を大氷河に変えてしまってから、あわててセフィロスがクラウドを追いかけて行った。
その後ろ姿を見てクラスSソルジャー達が、これからトリスタンの身に降りかかる災難を思いやって、そっと溜め息をつくのであった。
* * *
第26師団執務室に、隊長のトリスタンが特務隊副隊長のクラウドを伴って入ってきた事に、隊員達が驚きの表情を見せる。トリスタンの副官でクラスA仲間のマーチンが上官に問いかけた。
「隊長殿、姫をつれて…一体どうされたのですか?」
「このミッション限定の編入だ。嫌なのか?」
「いえ、姫なら大歓迎です。」
「ならば良いな。総員整列!」
トリスタンの号令で隊員達が整列した。それを見てクラウドを自分の隣に立たせてニコニコ顔でトリスタンが隊員に言いはなつ。
「この方は第13独立小隊副隊長クラウド・ストライフ中尉である。明日からのミッションに限って我が隊に編入することになった…」
トリスタンがそこまで口走った時、扉を開けてセフィロスが現れた。
隊員達はいきなり現れた神羅の英雄の姿に、憧れの眼差しを送っていたが、トリスタンとマーチンはセフィロスがまとっている超弩級の冷気を感じとって、直立不動でたっていた。
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