最低最悪の寒気団を引き連れて、セフィロスはクラウドの正面に立った。
「誰がよその隊に編入してもよいと言った?」
「サー・トリスタンです。」
「おまえは自分の隊の隊長の言葉よりも、よその隊の隊長の言葉を聞くのか?」
「自分が次のミッションには不要なのですから、仕方がないと思います。」
「私は、お前以外を隣に立たせたくないのだが?」
「自分も隊長のとなり以外に立ちたくはありません。しかし自分が足手まといになるのであれば、仕方がないと思っています。第26師団は明日よりミッションです、打ち合わせに入らせていただきます。」
 セフィロスの眉尾が跳ね上がった。絶対零度の怒気が一気に周りの空気を氷らせる、その怒気に真っ正面からクラウドは立ち向かっていた。
「まだ、なにかありますか?サー・セフィロス」
「お前は私の副官だ。誰の元にも貸す事などせぬ!!!」
 そう言うと、セフィロスは嫌がるクラウドを引きずって、第26師団の執務室を去って行った。
 永久凍土と化した執務室の中で、トリスタンとマーチンが思わず溜め息をついていた。
「まったく、喧嘩ならよそでやってくれ。」
「はぁーーー、姫と組めるかと思っていたのに。くそっ!!」
「隊長殿、姫の事は諦めて下さい。さもなくば氷らされます!」
 副隊長の言葉にフリーズから立ち直ったばかりの隊員達が青い顔をしてうなずいていた

 一方セフィロスに抱えられるように、特務隊の執務室に入ったクラウドは、まだザックスとリックに自分が足手まといと言われた事を引きずっていた。
「サー・セフィロス、離して下さい!」
「煩い!お前を今離すと何処かへ行ってしまうだろうが?!」
 気がつくと目の前にザックスとリックが居辛そうに立って待っていた、その後ろに隊員達がいつものように整列している。セフィロスがクラウドを横に立たせると隊員達に向き合った。
「エメラルドウェポンに認識票を打ち込むミッションだが、潜水艇の乗員制限で5人となった。」
「特務隊がやるべきミッションでしょうか?」
「いい質問だな。接触したら逃げればよい任務に、我々が出る必要もなかろうが、それなりに強くなくては逃げられぬ。」
「で?嫁さん取り戻してきた理由は?」
「クラウドは私の副官だ。私以外の奴の隣になど立たせぬ。」
「この間のダイヤウェポンの時に回復部隊に回したのはどなたでしたっけ?」
「あの時も私の副官はクラウドしかいないと言ったではないか。」
「でも…でも…ザックスもリックも…俺を不要だと…」
 クラウドの瞳から涙がこぼれはじめた。それを見てリックが思わずザックスの襟元をつかみ掛かる。
「お前がクラウドを要らないって言うから〜〜!!!」
「ひでぇ、お前だって同意したじゃねぇか!!」
 言い争っている二人をよそに、泣きじゃくるクラウドを、思わずセフィロスが抱きしめて髪の毛をすいていた。
「お前が行けないなら、私も行かない事にした。ザックスとリックがいれば十分だろう。」
「ほ、本当?」
「ああ、ジュノンの司令室でこいつらをあごで使うと言うのも、面白いと思うのだがね。」
 クラウドが涙交じりの青い瞳で、セフィロスを見上げてにっこりと笑った。ザックスとリックは、安堵なのかそれとも諦めなのかわからないような溜め息をついた。
「俺達って…なに?」
「やっぱ、手駒でしょ。」
 リックの肩をポンと軽く叩いて、カイルがにやにやしている。
「お前らのせいで姫がよその隊に奪われる所だったんだ、せいぜいこき使われろ。」
「どうせ姫の事だ、明日からミッションのある第26師団に行ったんだろ?あそこのミッションは長期にわたるから下手すれば一ヶ月会えなかったんだぜ。」
「なにい?!一ヶ月も姫に会えないなんて、お前ら何考えてんだ!!」
「え?あ、そうなん?」
「う…ん。どう見ても軽く2週間かかるミッションだったから、帰ってくる頃にはきっと隊長がエメラルドを倒してくれてるって…。」
 特務隊の隊員たちが顔を見合わせてため息をついた。

(可愛い顔をしてさくっと恐い事をいう!!)

 しかし、クラウドのこの笑顔と『隊長って本当に強いんですね〜』の一言が有れば、きっと英雄はエメラルドウェポンどころか、愛妻がおねだりすれば、ミッドガルどころかこの星をその手中に収める事だってしかねないと、ザックスは半ば諦め顔で執務室でいちゃつく二人を眺めながら思っていた。
「クックック、そうか、そうだな、サクッと倒しに行くか。」
 セフィロスはまるでグラスランドのムーでも倒しに行くかの如くお気楽に口走ると、隊員達に振り返る。それまでの砂糖菓子のような瞳とは一転し、冷淡な瞳を隊員達に向けた。
「そう言う訳で明日の朝7時ジュノンに向けて出発。ジュノン到着後潜水艦でエメラルド・ウェポンに、認識票を打ち込む。ザックス、リック、カイル、ジョニー、ユーリ、しっかり打ち込むんだぞ。」
「アイ・サー!」
「おまかせ下さい」
 名指しされた5人とも笑顔で了承するが、クラウドが首をかしげた。
「え?朝出発するの?」
「ああ、そういえば姫は始めてか。」
「朝に出発すれば、運がよければ日帰り出来るからな。」
「あ、そうなんだ。」
 キョトンとするクラウドの頭をぐりぐりとなでながら、ザックスが話しかける。
「まぁ、俺とリックのやる事を地上から見ていな、見物料はお前のお弁当って奴でダメか?」
「誰が許すか!」
 セフィロスの鉄拳がザックスに見事にヒットした。


* * *



 翌朝6時に治安部の駐車場に集まった特務隊の隊員が、トラックに乗り込みジュノンへと出発した。
 ほぼ同時に第26師団がトラックに乗り込みミッションの派遣先に移動した。
「はぁ〜、あそこに姫がいると言うのに…くそっ!!」
「まったく、隊長!いきますよ!!」
 いまだにクラウドを副官にしそこねた事を、悔やんでも悔やみ切れないトリスタンが、特務隊のトラックをうらめしそうに睨みつけていた。


 ジュノンの潜水艦ドッグに到着すると、すぐに潜水艇スタッフと打ち合わせをして、ザックスたちが潜水艇に乗り込んだ。ゆっくりと潜水艇が離岸すると徐々に沈んで行った。
 クラウドが心配そうにつぶやいた。
「本当に大丈夫かなぁ?」
「心配するな、このレーダーで位置がわかるようになっている。」
 セフィロスが目の前のパネルを指差すと、クラウドはパネルに視線を移した。パネルにそっと近寄るとセフィロスがぐいっと腕を伸ばし、クラウドの身体をひょいと持ち上げると自分の太ももの上に座らせた。
「た、隊長。」
「ん?何だ?」
「このぉ…セクハラ上司!!」
 クラウドがセフィロスをぶん殴ろうと、右手を振り上げるが、あっさりとその腕を掴まれたうえに、耳を甘噛みされる。クラウドは思わず声を漏らしそうになるが、他の人の手前真っ赤になってセフィロスを睨みつけた。背後で特務隊の隊員達が苦笑を漏らしている。
「隊長殿、潜水艇から通信が入っているようですが?」
 ブロウディの言葉に苦々しげな顔で、セフィロスがパネルのそばのキーを何個か叩くと、ザックスの声が聞こえてきた。
「リック、レーダー見ててくれよ。あ、セフィロス俺だけど、なんかエメラルドを見つけるヒントになるような事ないかな?」
「そうだな、奴と以前接触したのは海底に沈んだ潜水艦を探索しに行った時だと聞いている。」
「ん〜、じゃあ、そこに行ってみるからポイント教えてくれ。」
「ああ、今からそちらに位置コードを送る。」
 そう言うとセフィロスは再び何個かキーを叩いた。しばらくするとザックスから声がかかった。
「サンキュー、回頭右30度、深度プラス200M。」
 ザックスの声を聞いて、クラウドがびっくりしたような顔をしていた。
「へぇ…ザックス凄いなぁ。早くクラスA上がっておいでよ。」
「ヤーーーダ!お前と組むのはいいけどよ、俺がクラスAに行くと、よその隊に回されるに決まっている。」
「行け!行っちまえ!!喜んで追い出してやる!!」
「姫とペアを組めるんだぞ何て羨ましい!!」
「おまえならいい士官になれると思うんだけどなぁ。」
「ふん!俺はセフィロスをぶち抜くまで今の地位にいるんだい!!」
 ザックスはぶちっと通信回線を切ると、レーダーを覗き込んだ。画面の右隅から何か大きな物が近寄ってきていた。
「アン・ノーン物体接近!総員配置につけ!!」
 ザックスの言葉に、リック達が位置についた。カイルが認識タグを埋め込んだ弾をセットする、前方を視認していたジョニーが叫んだ。
「アン・ノーン・モンスター発見!」
「位置確認、方位26・33、上下角マイナス27、認識タグ弾発射!!」
「アイ・サー!!」
 カイルが合図と共に弾を発射する、艦内に轟音が轟くと同時に弾が発射された。しばらくするとレーダーを覗いていたユーリが叫ぶ。
「着弾確認!」
「よっしゃー!180度回頭!!全速でジュノンの基地に帰る!!」
 ザックスの言葉に、潜水艇の技師達が即座に反応した。ユーリが真剣な顔でレーダーを凝視しつづけていた。
「気がついていないようです。」
「そうか…。」
 潜水艇の中で全員が安堵の為息を付いていた頃、ジュノンの基地では送られてくるデーターに、セフィロスが目を見張っていた。
「HP100万?!バケモノか?!」
「すごいや、水吸収や炎無効は海底だから当たり前か。隊長殿、本当にこんな強い奴と闘うのですか?」
「恐いか?」
「恐くないといえば嘘になる。でも俺達がやらないと…。」
「…強くなったな クラウド。」
 セフィロスのつぶやきに、クラウドはこの日初めて、はにかむように微笑んだ。

 やがて潜水艇が戻ってきた事をブザーが知らせた。
 間もなくドッグに赤い機体が浮上してくると、桟橋へクラウドが駆けだす。接岸した潜水艇から仲間たちが顔を出した、
 意気揚々とザックスが胸を張ってクラウドにウィンクをして話しかける。
「どうよ?」
「うん。さっすが!やっぱりクラスAにおいでよ。」
「う〜〜ん。わるくはないんだけどよぉ、俺この隊が気に入っているんだ。よその隊に行く事なんて考えられないんだよな。」
「俺が絶〜〜対に追い出してやる!」
「お前は外で修行してこい。」
 リックとカイルに豪快に背中を叩かれて、ザックスが思わずむせる。その様子をセフィロスとクラウドはかすかな笑顔でみつめていた。