エメラルドウェポンに認識票を打ち込むという任務を終了した特務隊は、一旦ミッドガルへと帰った。
 帰還した時間はすでに17時を過ぎていたが、簡単な報告がてらセフィロスはクラウドを伴ってクラスS執務室へと姿を現した。執務室には報告を聞こうとミッションで派遣されている者以外は全員残っていた。それぞれ執務をしていたが、二人がクラスS執務室に姿を現すと、全員がいったん執務を中断して寄り集まってきた。
「おかえりなさいませ。」
「いかがでしたか?」
「HP100万のバケモノだ。」
「なんですと?!そんな奴をどうやって倒すとおっしゃるのですか?!」
「クラウド、お前の騎士達は一回でどのくらいダメージを与えられる?」
「はい、一人あたり1万と考えて13万。それが2回、ものまねで4回ですからトータルで52万です。」
「バハムート達は?」
「バハムートさんが1万、ネオとゼロは5000ぐらいずつです。」
「すべて物まねしても6万ですか…まだ40万以上足りませんね。」
 ヴィアデの声に、クラスS執務室の中が一気に静かになった。エメラルドウェポンの異常なまでの強さにトップソルジャー達が青い顔をしていたのである。そんな中、クラウドがリーに問いかけた。
「潜水のマテリアで一度に潜れる人数はどのくらいですか?」
「5人です。それ以上は無理ですし、いくら身体機能が強化されたソルジャーでも良く潜っていて20分。大勢での攻撃は難しいですね。」
「バハムート達を呼べるのはクラウドと私だけだ、残りをどうするかが問題だな。」
「できるだけ魔力の強い実力のあるソルジャーを揃えないと、敵の攻撃特性がわからないから、用心に越したことはないですね。」
 ペレスの言葉に静かに耳を傾けていたリーがきっぱりと言った。
「行きます、行かせて下さい。」
 するとパーシヴァル、ガーレスの二人も一歩前に進み出て名乗りを上げた。
「私も是非に…」
「今回ばかりは特務隊の連中に任せておけません、自分もついていきます。」
 3人の戦友の声をいったん無視して、周りのクラスSソルジャーたちを一瞥すると、セフィロスが一言いった。
「総員、手持ち高位魔法のマテリアを見せてほしい。」
 セフィロスの言葉にクラスSが自然と従っていた。それぞれ召喚マテリアと高位魔法マテリアを目の前のテーブルに並べる。すっとパーシヴァルがポケットからマテリアを取り出してセフィロスに手渡した。。
「これはトリスタンのアルテマです。」
「あいつ…、お前にコレを?」
「はい、万が一自分が帰る前にキングが出るような事があればと…」
 手の平に有るマテリアが優しくひかっていた。
 今はここに居ない戦友が、己の事よりも自分の事を思っていてくれた事実が、セフィロスの心のどこかに、こつんと小石を投げたような感じがした。クラウドがそんなセフィロスを見つめながらゆるやかに微笑んでいた。
 ふとマテリアを見て、エメラルドウェポンの属性を思い出したクラウドが一言加えた。
「水属性攻撃、炎属性、土属性、重力属性攻撃のマテリアは省いて下さい。」
 クラウドの一言でマテリアが半減して行った。魔法部隊の隊長であるリーが残ったマテリアを見渡してつぶやく。
「特殊マテリアで使えそうなのは無いか?たとえばマスター召喚とか…」
「そう言う奴はランスロットに聞かないとわからんな。」
 パーシヴァルの一言に、セフィロスが携帯を取り出してランスロットを呼び出す。2コール目で目的の人物が出たようだ。
「ランスか?私だ。特殊マテリアでマスター召喚とかW魔法とか…とにかくバケモノ相手に使えるマテリアは無いか?」
「はい、W魔法、連続切り、物まね、HPアップなどいろいろありますが?」
「エメラルドを倒す、皆持ってこい。それからエリクサーで良いものは無いか?」
「はい、ラストエリクサーが3〜4本あります。」
「敵はHP100万の化け物だ、すべて持ってこい!」
「アイ・サー!」
 上司と部下の立場が完璧入れ代わっているが、ランスロットに取っては何の抵抗も無い。他のクラスSソルジャーに取っても同じであったが、セフィロスのとなりで会話を聞いていたクラウドだけは気になってしかたがなかった。
「隊長、統括殿は上司にあたりますので、命令はできないのではないのですか?」
「一々小うるさい副官だな。その口を封じられたいのか?」
 意味深ににやりとセフィロスが笑みを浮かべるのを見て、クラウドがあわてて首を振った。
「上官だらけの部屋でセクハラは辞めて下さい!」
「クックック…お前のそう言う所も可愛いよ。」
 そう言うと、あわてて後ずさりするクラウドをがっちりと抱き止めて、額に唇を落した所に、扉をノックして統括のランスロットが現れた。クラスS執務室に入った途端、目の前でセフィロスがクラウドの額にキスをしているのが、見えたランスロットは思わず頭を抱える。
「キング、エメラルドを倒すとかおっしゃっていたわりに、部下にセクハラとは余裕ですね。」
「ふん、お前の嫌みなど痛くもないな。それで、何をもってきた?」
「はい、物まね、W魔法、マスター召喚、それからHP、MP吸収、HPアップです。」
「ふむ…さて、どうした物かな?」
 セフィロスはにやりと意味深にクラウドを見る。クラスA扱いとはいえ、まだ一般兵である自分に、マテリアを選べと言うのか?と思いながら、クラウドはナイツ・オブ・ラウンドとバハムートを選び出し取り上げながら発言した。
「自分はナイツ・オブ・ラウンドとバハムートを2回も呼べば限界です。マスター召喚をゼロかネオに組み合わせて、隊長がお持ち下さい。」
「ナイツはマスターまで行っているのか?」
「いえ、まだです。それにあの召還獣はやたらMP食うので自分には単独でも3回しか呼べません。」
「私なら4回呼べる。ならばマスター召喚とナイツを組んで、私が呼んだほうが良いな。」
「ネオとゼロをもう少し強くしたいのですが、すぐに強くできないものでしょうか?」
 魔法部隊の隊長リーが呆れたようにクラウドの問いかけに答えた。
「どんなマテリアでも、一気に強くはなりませんよ。それにあの召喚獣は強すぎて、ここの訓練所では使い物になりません。」
「グラスランドでミッドガルズオムでも狩ってこようかな?」
「うわ!!あんな強いモンスターをそうも簡単に…」
「いや、ペレス。ミッドガルズオム程度ではネオもゼロも強くはならない。せめてベヒーモスとか…それ以上強い奴と戦わないとだめです。」
「隊長、何かいいモンスターいないでしょうか?」
「北の大空洞だな。ドラゴン系のモンスターはかなり強いぞ。」
 ピクニックに行くかのようなセフィロスとクラウドの発言にリーが止めにかかった。
「しかし、それだけの為に北の大空洞に行くのは余りにも危険ですし、時間もそれなりにかかってしまいます。ナイツ・オブ・ラウンドをマスター召喚で4回、ものまねでさらに4回、バハムート3兄弟を呼んだあとは、リミット技とか他の召喚マテリアで何とかなりませんでしょうか?」
「それしかないようだな。」
「隊長。隊長がマスター召喚で騎士さん達呼ぶとそれこそMPが…」
「そのためにコレがあるだろう?」
 セフィロスはそう言ってMP吸収を指差した。すでに攻撃の方法が決められつつあった。
「ならば、残りの一人にはぜひ私を。フェニックスにファイナルアタックを組めば、瀕死でもリレイズがかかります。」
 セフィロスがうなずくとクラウドもうなずいた。
 残り2人をめぐってクラスSが異様な火花を散らしていたが、その前にセフィロスがクラウドの真意を聞いた。
「クラウド、特務隊は今回どうする?」
「ザックス以外は使い物にならないでしょう、自分と隊長が召喚魔法で余裕がないので魔力と実力、両方ともが欲しいです。」
 パーシヴァルとガーレスが一歩前に出る。
「ならば私ではいかがですか?」
「MPならばリーほどではありませんが、それなりにあるつもりです。」
 パーシヴァルとガーレスならば問題はないとクラウドは思う、しかしセフィロスの決定がなければ自分では決められない。
「隊長?」
「しかし、これほどまでトップソルジャーを揃えていたら、ミッドガルに何かあった時どうする?」
「残ったクラスSの皆さんで何とかなります。それに特務隊の連中も居ます。」
「そうだな、セフィロス。お前の仲間を信じろ。こいつらだってクラスSソルジャーなんだぞ。」
 ランスロットの言葉に軽くうなずいてセフィロスが決断を下した。
「よし、パーシヴァル、リー、ガーレス。私に命を預けてくれ。」
「アイ・サー!」
「もとより。」
「承知。」
 3人のトップソルジャーがセフィロスに敬礼した。


 クラウドがクラスA執務室に戻ると、リックに話しかけられた。
「姫、顔が引きつっているぜ。」
「へ?俺の顔に何か付いている?」
「ああ、ついてるついてる。その様子では少数精鋭でエメラルドを撃ちに近々行くのが決定したか?」
 リックの言葉を聞いてブライアンが振り向いて尋ねる、同時に聞きつけたクラスA仲間が集まってきた。
「潜水マテリアで何人もぐれるんだ?」
「5人だ」
「隊長、お前、サー・パーシヴァル、サー・ガーレス、サー・リーか?」
「妥当な線だな。」
 次第にクラスAソルジャーたちが話に加わり始めた。
「俺達強化されたソルジャーだって、よく潜ったって20分だ。悔しいけど、見ているしかないんだな。」
「悔しい、メチャクチャ悔しい。俺って何て無力なんだろう。」
「何の為にクラスAまで上がってきたのか、わからなくなるな。」
 クラウドが悲しげな瞳で、その場にいる仲間を見つめていた。
「ごめんね、みんなの気持ちはありがたいけど、今回ばかりは腕も魔力も必要なんだ。敵のHPは100万、こっちの人数は5人。簡単に計算して、ひとりあたり20万のダメージを与えないといけないんだ。」
「そんなもの、おまえの騎士さん達でも発動させないと無理。」
「クラスA程度の力では、太刀打ちできないって事か。」
「クラウド…死ぬなよ。」
 クラウドはリックが自分の事を名前で呼んだのを久しぶりに聞いた。この男が本気で心配している証拠である事ぐらいわかっていたので、天使の笑みを浮かべてうなずいた。
「大丈夫。勝算が無ければ無理に戦わないよ。」
「…って事は何?HP100万なんてバケモノ相手に勝算が有る訳?」
「もちろん、無ければ何処かに鍛えに行っているよ。」
 真っ青な顔で問いかけたランディに対して、にっこりと笑うクラウドに、クラスAソルジャー達は背中に冷たい物を感じていた。

(可愛い顔して恐い事をさくっと言うじゃない?!)

 エドワードがクラウドの頭をいつもの調子でなでながらつぶやいた。
「お前のペアでよかったような…恐いような…」
 すかさずリックが突っ込みを入れる。
「え?嫌なの?へ〜〜ザックスに教えておこう。」
「なに?あいつもう上がってくるのか?」
「うん、本気になればクラスSだって狙えるよ。」
「俺達を2度ほど指揮したが、違和感は無かったぞ。」
「へぇ〜〜〜、そいつはうかうかしていられないな。」
「ランディ。悪いがお前はすでにザックスに抜かれていると思うよ。」
「え?ええ〜〜〜〜?!」
 エドワードの一言にランディだけでなく、クラスAソルジャーのほとんどが、目を丸くしていた。
「何だか信じられないぜ。」
 しかし、キースはその場にいたリック、ブライアンという実力者で、実際にザックスと戦った仲間が何も言わないのに気がついた。
「でもブライアンもエディもリックも否定しない所をみるとマジなんでしょ?」
「うん、マジ。早くクラスAに上がって俺とペア組もうって口説いてるんだけど、よその隊に回されるからって嫌がっているんだよ。」
「まぁ、間違えなく俺の隊長が狙っている。」
「たぶんサー・ペレスもまだ欲しがっていると思う。よく”入れ替わるなら今のうちだぞ”って、言われたもんなぁ。」
「そういえば、俺の所の隊長もザックスを欲しがっていたな。」
「うわ!マジでヤバい!!」
「皆マジなら、俺達あいつの下になるかもしれないじゃん?!」
 キースの言葉にブライアンとエドワードがうなずいた。
「あるな。」
「十二分にあるな。」
「うん。ザックスならサー・ガーレスの副官でも十分やっていけると思う。」
「ええ?!俺も降格ですかい?!そりゃ無いぜ姫!!」
「それでも今回は置いてけぼりか。」
「うん。つれて行けない。エアリスに悪いもん。万が一のことだってあるもんね。」
 そう言うとアルテマウェポンにはまった赤い3つのマテリアに目を落す、クラウドの顔が一瞬曇って、すぐにまたきりっと引き締まった。