エメラルドウェポンの強さを知っていたザックスは、信じられないほど素直に自分が置いて行かれる事を納得した。但し隊長のセフィロスに向かって睨みつけるように話しかけた。
「セフィロス、俺はあんたを信じている。だから必ず帰ってこいよ、もちろんクラウドも守ってやってくれるんだろうな?」
「当然だ。」
「クラウド、無茶だけはするなよ。お前はどうしてもそう言う傾向がある。」
「ザックスまで…俺ってそんなに無茶するかな?」
「ああ。何度、この天下無敵と呼ばれている英雄の盾になった?それを無茶というんだ。」
「どうしたザックスやたら冷静じゃないか。」
「冷静でいなければ、やっていられないんだよ。行くなって泣き叫びたくなる、だから感情を殺している。」
 あくまでも感情を殺して話しているザックスに、セフィロスが軽くうなずいた。
「おまえは、もう何処に行っても通用するな。」
「嫌だ!!ここに居たい!」
「リック、カイル、ジョニー、ザックスの言う事を聞けよ。」
「上官じゃないが、仕方がないな。」
「リックが言うなら。」
「ザックスならOKだ。」
 特務隊トップ3たちが了承するのを聞いていたクラウドが、いつものようにふわっと微笑むと、特務隊の隊員達が整列して敬礼した。セフィロスとクラウドが返礼すると、二人揃ってきびすを返すように執務室を出て行った。
 クラスSの3人が合流すると、駐機場へと移動する。
 統括、クラスS、クラスA、特務隊の隊員達に見送られて、ヘリコプターに乗り込んだ。

 ローターが回り始め、ランスロットが敬礼しながらつぶやいた。
「セフィロス、頼んだぞ。」
 聞こえていたのか、どうかわからないが、ヘリの窓からセフィロスが軽く敬礼をしているのを、ランスロットは見ていた。


* * *



 ジュノンに到着すると、潜水艦ドッグへと移動し、赤い潜水艇に乗り込む。
 セフィロスが乗務員に命令を下した。
「ハッチ閉じろ、エンジン始動、急速潜航!!」
「急速潜航、ようそろう!」
 乗務員がてきぱきと潜水艇を操縦すると、潜水艇が海中に潜航しはじめる。ゆらりと船が揺れると、途端にクラウドが青い顔をするのでパーシヴァルがあきれた。
「はぁ、本当に乗り物に弱いのですね。」
「す、すみません。」
「大丈夫ですか?酔い止めは?」
「飲むとぼーっとするので飲んでいません。」
「まったく、眠らせるぞ。」
 セフィロスがほくそ笑んで、クラウドの顎をつかむと顔を近づける。クラウドが避けようともがいていると、後ろから声がかかった。
「目標発見!!方位左30度距離30カイリ!!」
 クラウドの顔が急にかわると腰にはいでいるアルテマウェポンと、腕のバングルにはまっているマテリアを再確認する。セフィロスが腕を組んでじっと目を閉じていた。パーシヴァルもリーもガーレスもゆったりと構えている。
「目標に接近中、距離20カイリ!」
「そのまま突っ込め。」
「アイ・サー!」
 徐々にエメラルドグリーンのボディーが視認出来るほどに近づき、その大きさがだんだんとあらわになってきた。
「接触します!!」
 乗務員の悲鳴のような声に、セフィロスが正面を見て話した。
「ミッションナンバー99126348 タイプS++。エメラルドウェポンを叩く!行くぞ!!」
 セフィロスの声とほぼ同時に、潜水艇がエメラルドウェポンに接触する。クラウドがアルテマウェポンを鞘から抜くと下段に構えていた。ガーレスの腕にはめられていた潜水のマテリアが発動すると、いきなり海中にほうり出されていた。

 マテリアのおかげか海中にいるというのに全く息苦しくない。
 パーシヴァルが敵の技から、ホワイトウィンドとマイティーガードを全員にかけた。とたんにセフィロスがいきなりナイツ・オブ・ラウンドを召喚する。圧倒的なパワーを開放された13人の騎士の姿をした召喚獣が、入れ代わりエメラルドウェポンに切りかかった。
 ガーレスがセフィロスの物まねをするうちに、クラウドがアルテマウェポンで切りかかる。しかし肩にある目のようなものからレーザーが照射されあわてて飛びのくと、リーが声をかける。
「姫、下がって下さい目を潰します!!」
 リーがアルテマをW魔法でかけると足が逆襲する、クラウドが助けに動こうとすると、セフィロスに止められた。その間にパーシヴァルが敵の技からベータをかける。クラウドが唇を噛み締めながらバハムート・ネオを召喚した。即座にガーレスが物まねするとリーが再びアルテマをかける。
 肩についていた目のようなモノがすべて潰れた。

 リーがふらつきながら自分とパーシヴァルにケアルガをかけると、クラウドの方を見て微笑んだ。
「私達の事は気にしないで、戦闘に専念して下さい。」
 うなずきながらクラウドがアルテマウェポンで切りかかると、パーシヴァルが追いかけるように切りかかった。二人がウェポンに組みついたのを見たセフィロスが声をかける。
「クラウド、パーシヴァル下がれ!!」
 二人が下がったのを確認して、セフィロスが再びナイツ・オブ・ラウンドを召喚した、ガーレスが再び物まねをする。
 反撃の合間を縫って、リーが再びW魔法でアルテマをかける。クラウドがバハムート・ゼロを呼び出すとガーレスが物まねをする。
 敵の攻撃にパーシヴァルが、すかさずフルケアを全員にかける。
 潜水艦からセフィロスの元に、エメラルドウェポンの残りHPが伝わってきた。
「残り30万を切ったそうだ、あと一息だぞ!!」
 周りの仲間に告げると、3度目のナイツオブラウンドを召喚する。パーシヴァルがアレクサンダーを召喚しリーがアルテマをかけた、クラウドがバハムートを召喚するとガーレスが物まねをした。
 エメラルド・ウェポンの体が震えたような気がしたとき、セフィロスが正宗をもってエメラルドウェポンに切りかかる。心ない天使が炸裂するとエメラルドウェポンがばらばらと崩れ始めた。
 崩れていくエメラルド・ウェポンを見て肩で息をしていたガーレスが呼吸を整えてつぶやいた。
「…本当に…なんとかなりましたな。」
「セフィロス、ナイツ・オブ・ラウンドを3回も呼んで、大丈夫ですか?」
「ああ、流石に少し疲れたな。」
 気だるげに前髪をかきあげるセフィロスをクラウドは目をきらきらとさせて見つめ、思わずつぶやいた。
「セフィって、本当にすごぉい…」
 その一言で先程まで気だるそうにしていたセフィロスが、急に背筋を正しクラウドにゆるやかに微笑んだ。
「ふっ…」
 髪をゆるやかになびかせて、クラウドを抱きよせ潜水艇へと戻ろうとするのを、一緒に戦っていたクラスSソルジャーが苦笑を抑え切れずに追いかけた。

 潜水艇のハッチから戻るとパーシヴァルとガーレス、リーがセフィロスとハイタッチをしている。
 クラウドがそれを見て目を丸くした。
「隊長殿、どうかされたのですか?」
「ん?何がだ?」
「ハイタッチで喜ぶような隊長を始めて見ました。」
「そうか、初めてか。」
 クラウドの言葉にセフィロスの戦友であるはずのクラスSソルジャーたちがうなずいた。
「そういえば、そうですな。」
「帰ったら居残っている連中にシメられそうだな。」
「それでも、私は凄く嬉しいです。」
「いいなぁ〜、ハイタッチしてほしかったです。」
 クラウドがクラスSソルジャー達を上目使いで見つめる。クスリとセフィロスが笑うとクラウドの唇に唇を寄せた。
「充電終了。」
 あわててはなれたクラウドは真っ赤になって口元を押さえながら怒鳴る。
「た、隊長まで!!」
「あ〜、ズルいぞ、セフィロス!!私も充電!!」
 そう言ってパーシヴァルがクラウドを抱きしめる。クラウドが目を丸くしていると、後ろから同じようにガーレスに抱きしめられた。
「ふむ、なるほど。これはいい。」
「ならば私も…」
 ガーレスと入れ代わるように、リーにも抱きしめられ、クラウドが更に顔を真っ赤にして怒鳴る。
「こ…このセクハラ上司!!」
 クラウドの一言で、クラスSの行動にあっけにとられて固まっていた、潜水艇の搭乗員が吹き出した。
「もう、自分は一体なんなのですか?!」
「ん?治安部一のアイドルなんだろ?」
「え?カンパニー1ではないのですか?」
「それにしても、これは黙っていないとリック達にシメられますな。」
「特務隊が恐くて魔法部隊の隊長は勤まらん、いつでも返り討ちにして見せますよ。」
 口で言うほど真剣ではない戦友たちにセフィロスがにやりと微笑んで聞いた。
「ほぉ…奴ら相手にどう闘う気だ?」
 すかさずリーが答えた。
「カエルの歌でおしまいです。」
「臭い息でもいいですな。」
「ブラインとポイズンかければ自滅するような魔防の低さをつけば何とかなるだろう。」
 流石はトップソルジャーたちである、セフィロスは苦笑した。
「クックック…よく知っている。機首回頭、ジュノン港へ向けて進行せよ。」
 セフィロスの命令に、潜水艇の操縦士がジュノンの港へと船首を向けると、乗組員の一人がコーヒーをもってやってきた。芳ばしい香がブリッジに充満する。
 クラスS達がブラックのままカップを持つと、クラウドは恥ずかしげに、添えられていたミルクをすべて注いで、カップを持った。
 パーシヴァルがセフィロスに向かって笑顔で話しかける。
「セフィロス、何か一言」
「こんなときは何と言えばいいのだ?」
「まったく、貴方って人は…」
「お疲れさまとか言えない物か?」
 呆れるガーレスとリーに、セフィロスは意味深に口元をゆるめてカップを眼の高さまで持ち上げた。
「言い忘れていた。ミッションナンバー99126348コンプリート、ミッドガルへ帰還する。」
「ぶっ!!そりゃないだろ?!」
 思わず噴き出しそうになったパーシヴァルの横で、リーがくすりとほほ笑んでカップを持ち上げた。
「Proost!」
「Salute!」
「Cheers!」
「何が乾杯だ。」
 キョトンとしてクラスSソルジャーたちの会話を聞いていたクラウドが、やっと意味が分かってカップを両手で持ってにこりと笑った。
「でも、乾杯

 紙コップが5つかち合った。


 それぞれコーヒーをすすっているといつの間にかジュノンの港へと戻っていた。
 パーシヴァルがふと、あることに気がついた。
「あれ?姫、乗物酔いは?」
「あ、そういえば…感じなかったです。」
「やはり神経から来ているか、慣れればよくなるかもしれないぞ。」
「そうならば、うれしいですね。」
 各自飲み終わったコーヒーカップをダストシュートに放り込むと、ハッチに向かって歩きはじめる。
 セフィロスがハッチを開けて外に出ると、エレベーターを使い駐機場へともどった。ヘリのパイロットが戻ってきたソルジャー達を見付けて笑顔で敬礼する。
 全員が返礼してへりに乗り込むと、一路ミッドガルへと舞い上がった


* * *



 ヘリからの報告で、間もなくカンパニーに戻ると連絡が入ると、ランスロットがクラスSとクラスA、そして特務隊に報告を入れた。
「まもなくジュノンに向かったヘリが戻ってくるそうだ。」
 事実を淡々と告げた後、あわてて統括室を後にした。小走りで駐機場へ行くと同じように、小走りで戦友だったソルジャー達が走ってくるのが見えた。
「ランス、キング達はご無事なのか?」
「わからん、とにかく戻るとしか聞いていない。」
 ばらばらとソルジャー達が駐機場に集まり出し、ヘリの到着を今か今かと待っていた時、夕闇にローターの風切り音が鳴り響くと、黒いシルエットが小さく見えてきた。
 シルエットが徐々に大きくなり、上空で旋回後ゆっくりと舞い降りてくる。足が着地すると、ヘリの扉が開き舞い上がる風に長い銀髪をなびかせて、セフィロスが姿を現す、そのうしろからクラウドが姿を現した。風によろけそうになるクラウドをセフィロスが抱き止める。後ろから3人のクラスSソルジャーが姿を現すと駐機場に歓喜の声がこだました。
 真っ先にランスロットが声を上げた。
「セフィロス!!姫!!パーシヴァル!リー!ガーレス!!」
 ランスロットが駆けだすと同時に、他のソルジャー達も駆け出した。一気に仲間たちに囲まれて5人は動けなくなった。
 ランスロットが鳴き声交じりでセフィロスに話しかける。
「良くご無事で…」
「何を涙ぐんでいる?貴様は我らが負けると思っていたのか?」
「そりゃ…敵はHP100万何て言うバケモノですからね、少しは心配しますよ。」
 後ろから歩いてきている戦友たちがにやにやと笑っていた。
「バ〜カ!おまえソルジャー辞めてキングの強さを忘れたか?」
「今回ほどソルジャーに戻りたいと思った事はなかったよ。」
「お前みたいに気の優しい男がソルジャーを続けていられるとも思えんな。」
 ランスロットはセフィロスの言葉に、びっくりしたような顔をした。