ジョニーがオンライントレードに参加すると、かなりの幅で乱高下する。200万と言う借金を返済する必要があるため、少しでも高くなったら売る、安くなったら買うをパソコンの画面を睨みながら繰り返し、次第に手持ちの株数を増やしていく。
 クラウドはジョニーの瞳が、戦闘状態と一緒でギラギラとしているのを見て、以前彼が言っていた言葉を思い出していた。

(戦いも企業経営も同じさ、駆け引きのタイミングを間違えると自滅する。)

 2時間も売り買いの繰り返しをしていたジョニーが、一息ついてパソコンを閉じた時、時計はすでに17時を指していた。
「とりあえずミッドガル市場は時間が来て終った。時差の関係で10時間後にサウスキャニオンの市場が開く、それまでは一休みだ。」
「10時間?俺に何か出来ることある?」
「ん?世界の妖精になって励ましてくれる?」
 ジョニーの頭にセフィロスの鉄拳が炸裂した。
「くぅ〜〜、お約束にしてはキツいなぁ。」
「ゴンガガへミッションに行っている間はどうする気だ?」
「その時は手のあいている時を見てやるか…姫、クラウディアスタッフに駆け引き上手いないのか?」
「マネージャーのティモシーかな?司法試験通ってるって言ってた。」
「ああ、あの銀縁眼鏡か、あいつならきっとオンライントレードやれるだろうな。連絡付けてくれる?」
 ジョニーの言葉に軽くうなずいて、クラウドがピンク色の携帯を取り出してメモリーからティモシーの携帯番号を表示させ電話を入れる。クラウドが一言二言会話するとジョニーに携帯を渡した。ジョニーがティモシーと何やら会話しはじめて3分も経過した頃、満足げな顔をしてジョニーがうなずいた。
「では、よろしくお願いします。」
 そう言うとクラウドに携帯を返すと、隊長のセフィロスに向かい合った。
「あとはティモシーに頼んでおきました。こちらからも手の空いている時に、参入すれば何とかなると思います。」
「では、ゴンガガには行くのだな?」
「勿論です、自分は特務隊の隊員です。」
 そう言って敬礼するジョニーにセフィロスは苦笑していた。


* * *



 翌日、出社してきた第21師団の隊長ラルコートに、クラウドが共同ミッションを申し込むと、二つ返事で了承をもらい、それから3日後、ゴンガガ魔晄炉を封鎖すべくトラックへと乗り込んでいった。
 トラックの中でも携帯とノートパソコンでジョニーがオンライントレードに参加していたが、接続が不安定なのか回線が途切れがちになっていた。それでも彼の友人や父親、そしてティモシーから届くメールで状況は把握しているのか、まったく不安げな様子は見受けられない。かえってクラウドが心配しているほどであるが、見た目には平気でモンスター相手に剣を振るうジョニーに感心していた。
「ジョニー、大丈夫なの?」
「ああ、お前のマネージャーって結構やり手だな。このミッション終ったら一度顔合わせて話を詰めておくぜ。」
「ジョニーの友達やお父さんに話しをしないでいいの?」
「それも、やっておかなければいけないか。隊長!」
「何だ?」
「M&Aの件で一度、親父とサトル、それと姫のマネージャーとで会っておく必要があるのですが…」
「わかった。帰ったら調整しよう。」

 ゴンガガの魔晄炉封鎖は約3週間かかった。
 風の通り道に風力発電施設を作り、電力を供給する手段を得てからトラックに乗ってミッドガルへと帰還した。
 ミッドガルに帰ってすぐに、ジョニーのセッティングで、クラウドとセフィロスはティモシーをつれて再びジャック・グランディエ氏とサトル・アンダーソンに会って今回の株買い占めに対して話し合った。
 クラウディアになっているクラウドはいつもの天使のような笑顔をふりまきながらセフィロスの方をちらりとみあげつつ話していた。
「サーの為にお力になって下さってありがとうございます。ティモシーも力になってくれてありがとう。」
「レディ・クラウディア。サー・セフィロスのお力になれて、うれしゅうございます。総会はあなたがご出席の予定ですか?」
「ええ、そのつもりでございます」
「あなたがお考えになったのですか?」
「いいえ、きっかけはサーがお困りになっていたので、ジョニー様がサーに株取引をお進めになったのですわ。でも、サーはお仕事で出掛けられることが多いので、代わりに私のマネージャーが取り引きしていましたの。」
 嘘は付いていない瞳にサトルとジャックは納得する。そしてその日のうちに、大量株取得の報告がクラウディアの事務所からマスコミに向けて発信された。

 クラウディアが神羅カンパニーの大株主になった事で、神羅カンパニーの株価が一気にはねあがった。
 そして”囲み取材”と言われるマスコミに囲まれてのインタビューで、クラウディアがいつものようににこりと笑って答えていた。
「クラウディア、神羅カンパニーの株をたくさん買った理由はなんですか?」
「あの方がやりたい事をやらせてもらえる状況を作る為ですわ。前年期にルーファウス社長が魔晄の力を使わない方針を打ち立てていらっしゃいますよね?あの方針には賛成いたしていますの。だからその方針に従わない一部幹部を辞めさせるには一番いい方法だとお聞きしましたわ。」
「ルーファウス社長の提言に賛成して見える理由は?」
「魔晄の力は星の命です、使いつづければこの星は死んでしまいますわ。使わないようにして行けば、反抗勢力も反抗する理由もなくなりますし、封鎖すれば魔晄にふれて魔物になる動物も減ります。必然的にあの方の危険度が減りますもの、大賛成ですわ。」
 あまりにもクラウディアらしい理由に、マスコミも何も言えなくなっていた。
 そしてそのニュースは、芸能ニュースとして報道され、反抗勢力の知る事になり、クラウディアを狙う事を辞めたと同時に、カンパニーに対する反抗が将来無駄になると理解しはじめていた。

 そして神羅カンパニーの株主総会に、グランディエ財団会長にエスコートされて、クラウディアが出席し、兵器開発の停止と宇宙開発統括の交代を提案した。

「強いモンスターが出現しなくなれば強い兵器は不要です。そして宇宙開発よりも荒れた大地を戻さなければいけません。」
 凛とした態度は世界の妖精としてのクラウディアではなく、どうみても治安部でもトップを張れるソルジャーであるクラウドの物であったので、思わずルーファウスが苦笑する。しかし、クラウディアは英雄に害をなす物には容赦が無いと言われているので、知らないものは感心しきりでモデルの美少女を見ていた。

 総会の結果、兵器開発部門は閉鎖、宇宙開発は無期延期ということになった。総会から開放されて部屋に帰ってきたクラウドは、ティモシーとジョニーに電話を入れて結果を報告した。

 翌日、神羅カンパニーの株主総会のニュースが流れ、投資家が一斉に買いに走り出すのを見はからって、ジョニーとティモシーが手持ちの株を徐々に売りにだした。やがて手持ちの株を全部売りつくすとかなりの差益が手に入っていた。

「どうよ?!俺って天才?!」
「ど、どうするの?こんな金額。」
「貸しただけ返してくれれば、あとはジョニーとティモシーとで別ければよかろう?」
「冗談じゃない。こんな金額あとで年末調整が恐ろしすぎる!!俺はアドバイザー料として3万ももらえれば十分、だいたいお前のマネージャーが殆ど稼いでいるんだぜ。」
「事務所主体で株取引をしたってことにすればいいのかなぁ?とにかくあとでティモシーに相談しておくよ。」
 その後ティモシーの考えで、事務諸経費を稼ぐ為に株を売った事にした。ティモシーとミッシェルが大喜びで”事務所を新しくできる”と喜んでいるのでクラウドが尋ねる。
「え?あの事務所の何処がいやなの?」
「今の事務所は手狭で世界の妖精にふさわしい事務所じゃないよ。8番街のビルの一室に広くていい物件が有るから引っ越すの!」

 事務所が綺麗になると言うのでスタッフが大喜びしているが、クラウドは嫌そうな顔をしてセフィロスに相談した。
「事務所を大きくするって、まだ仕事を入れるって事だよね?」
「まぁ、そう言う事なんだろうな。」
「知らないよ、あなたとのペアの仕事も入れたくてうずうずしているんだから。」
「カンパニーの仕事だけでも忙しいと言うのに、まだ諦めないのか?お前のスタッフは。」
「諦めないと思うよ。セフィほど、かっこよくて素敵な男の人他にいないもん。」

 真っ赤になりながらクラウドがつぶやくように紡いだ言葉に、セフィロスは思わず口元をゆるめるが、すぐに表情が変わった。クラウドの表情に陰りを見付けたのだった。
「どうしたと言うのだ?あまり嬉しそうではないな。」
「う…ん。俺、いつまでクラウディアをやっていなければいけないんだろう?男として、貴方の隣にいることはできないのかな?」
「私がお前を望んでいるのだから、かまわないが?」
「でも…やっぱり無理だよね。世間はもうすでにあなたのフィアンセはモデルのクラウディアと認めているんだもの。」
 クラウドの陰りが何のせいなのか、セフィロスには解ったような気がしたが、それは自分自身が解決するべき事であり、そして彼にはその悩みを解決出来る力があると思っていた。



The End