神羅カンパニーが兵器開発部門の廃止と、宇宙開発の凍結を発表して一ヶ月が過ぎた。反抗勢力の抵抗も目立ってなくなり、治安部が平穏になりつつあった。
 しかしセフィロスは治安部統括のランスロットと科学部門統括のガスト博士、カンパニー社長ルーファウスとの会議が増えていたため、第13独立小隊は実質的にクラウドに任されていた。


ADVANTAGE



 クラスA執務室でザックスがクラウドに尋ねてきた。
「なぁ、クラウド。セフィロスは一体なにやってんのよ?」
「う〜〜ん。治安部の縮小方法を検討しているとはおもうんだけど、完全解体するにはまだ強いモンスターもいるって話しだし…」
「な〜る、抵抗勢力は抵抗しなくなってきているわ、強いモンスターはそんなにいなくなってきているわ…で、治安部縮小って訳か?」
 ザックスと会話していると、クラスAソルジャーたちが集まってくる。
「考えられるのは一般兵の新規採用をやめる事だろうな、あと入隊年数の低い兵士から徐々に減らしていくとか?」
「じゃ、姫なんて真っ先にアウトじゃん。副業での収入があるもん。」
「まだ強いモンスターがいるんだろ?なら当分大丈夫だと思うぜ。」
 反抗勢力の抵抗は確かに減ってきているが、無い訳でもない。そのうえまだ強いモンスターがあちこちの地域にいる。モンスターをあらかた一掃しないと治安部の本格的な縮小はまだ出来ないのである。
「北の大空洞なんて、かなり強いモンスターがいるんだろ?まだ俺達は首にはならないって。」
 ザックスの言葉にクラウドが二コリとほほ笑んで答えた。
「北の大空洞ね。夏には覚悟しておけよ。」
 クラウドの言葉にリックがにやりと笑う。
「お前となら何処へでも。」
「当然、絶対付いていくことになるだろうな。」
 エドワードが何とも言えない顔をしている横で、ザックスがクラウドの頭をなでるように話す。
「俺としてはお前を置いていきたいが、それも無理か…ま〜ったく、強くなっちまって、お兄ちゃんとしては複雑だよ。」
「ちょっとザックス、いくら俺が一般兵だからって置いていかないでくれよ。」
「え?姫の何処が一般兵だって?」
「鬼の特務隊隊長補佐が何を言う?!」
 一般兵や下級ソルジャーだけでなく、クラスSソルジャーでもクラウドを上官として扱いはじめている今、彼は実質セフィロスの次に治安部での影響力があった。それはあくまでもクラウドが実力で勝ち取った物であるはずなのだが、この少年は今だに自分のパートナーである、英雄セフィロスのせいだと思っている。

 カンパニーの中を白のロングコートの裾をひるがえしながら、さっそうと歩いているクラウドに、下級ソルジャーが敬礼をして立ち止まっている。それは上官である証の白のロングコートを着ていると言うだけではなく、彼の実力を自分の上官から聞かされていて、その凄さを一度でも目にした事のあるソルジャーなら自然と取る態度であった。
 しかしクラウドを知らない一般兵(特に実力のない下級兵達)は、自分より年下の、どう見ても少女にしかみえない顔だちの男に、自分の上官が最上の礼を取っている事が不思議でならなかった。
 敬礼をした後、後ろ姿をいつまでも追いかけて見つめている上官に首をかしげて問いかけた。
「今の…どなたですか?」
「クラウド中尉か?第13独立小隊の隊長補佐殿だ。」
「え?!あの英雄セフィロスの補佐をされている方なのですか?!」
「ああ、噂ぐらいは耳にした事があるだろう?あの方が”地獄の天使”だ。」

      地獄の天使  白い悪魔

 クラウドが抵抗勢力に呼ばれている名前であった。
 それは神羅の英雄であるセフィロスの隣に立つ事が許されている唯一の人物で、強い召喚獣を従え、実力でクラスSをねじ伏せることのできる男として余りにも有名であった。
 答えを聞いた一般兵があっけにとられたような顔をしてつぶやいた。
「俺、もっとゴツイ人だと思っていました。」
「ああ、それは認めるね。でも、俺達の憧れの君であるのは確かだ、究極の召喚獣を4体も率いているのは彼ぐらいだからね。」

 実際、究極の召喚獣と呼ばれているバハムート達や、ナイツ・オブ・ラウンドを呼べるのは、セフィロスとクラウドだけである。
 しかしセフィロスが呼ぶのはどうしても必要な時だけであって、クラウドは常にそれらの召喚マテリアがはまっているソードを腰に装備していた。
 もっとも4体も装備している訳に行かないので、ミッションに寄って使い分けていた。


* * *



 クラスAの執務を終えてクラウドが特務隊の連中の様子を見ようと顔を出すと、隊員達はてんでに訓練もせずのんびり過ごしていた。しかしあえて怒る事はしない、訓練を怠れば実戦で命取りになるのが、特務隊のこなすミッションであったので、隊員達が腕に自信が無ければのんびりとなど過ごしていない事などわかっていたのだ。
 隊員の一人ブロウディーがクラウドに気がついて話しかけた。
「姫〜〜、暇なんだけどお仕事ないの?」
「そうだなぁ、最近緊急ミッションが入らないから、なんだかだれちゃってるよな。」
「それだけ平和になったって事なんだろ?でも気を抜くなよ、まだ北の大空洞という厄介な場所が残っている。」
「うわぁ、そりゃ大変だ。」
「姫、クラスSに泣き付かれるなよ。」
「俺も、今からそれを考えると頭いたいよ。みんながもうちょい魔力上げてくれたら文句言わせないんだけどな。」
「んじゃ…いきますか?」
「おう、クラスSに文句なんて言わせないようにしてみせるぜ。」
 訓練所に行こうとする隊員たちの背中にクラウドが声をかける。
「あまり頑張り過ぎるなよ、お前達をお姫様抱っこなんて出来ないからな。」
「あん、なに?姫抱きしてほしいの?いいぜ〜〜、いつでもリクエストにお答えするぜ。」
「冗談!セクハラは隊長だけで十分だ。」
 危険な任務にあたっている割りに笑いが起こる。しかし次のときにはそれぞれがバラバラに行動を取っていた。各自の決めたメニューをこなす為に目的の場所に行く隊員達を見送った時、クラウドの携帯が鳴った。ディスプレイにはティファの携帯ナンバーが出ていた。
「はい、クラウドです。」
「あ、クラウド?久しぶり。最近店に来ないけど、どうしてたの?」
「ああ、ちょっとミッションが重なっていただけだよ。で?それだけが目的じゃないんだろ?何かあったのか?」
「う〜〜ん、鋭いなぁ。実はね店長が貴方に話したい事があるんだって。」
 クラウドはティファの言葉に、ある種のざわめきのような物を感じ取っていた。
 彼女の働いている7番街のカフェ・バー、セブンスヘヴンは、料理の味と量が料金に見合っているのでソルジャー仲間にも人気のある店だったが、その店長のバレットは元アバランチのリーダーだったのである。
 その元アバランチリーダーのバレットが電話口に出た。
「おう、地獄の天使。生きているか?実はなお前さんにあわせたい男がいるんだ。」
「危険な匂いがするな。何処のリーダーだ?」
「フン、相変わらず感のいい事で。死に神ダインって知っているか?」
「ああ、ミッドガルで一番大きな反抗勢力のリーダーだ。」
「そいつがあんたとサシで話をしたいらしい。」
「帯剣の許可は出るか?」

 帯剣の許可、それはソルジャーに取って生存の許可である。
 特にクラウドの場合、剣には強力なマテリアが装備されている。それを装備する許可を取ると言うことは、命の保証をされたような物だ。
 少し間を置いてバレットから返事が来た。
「許可するそうだが、出来れば鞘から抜かないでほしい。奴は単独で、武器を持たずにここにいる。」
「わかった、すぐに行く。」
 そう言うとクラウドは行き先も告げずに、一人バイクを駆って7番街へと走っていった。

 7番街のセブンス・ヘヴンの前でバイクを止めると、正面からクラウドは入って行った。扉を開けるとカウンターに元アバランチのリーダーだった店長のバレットと、どこか隙の無い雰囲気をまとっている男が座っていた。バレットがクラウドを認めると手を振った。
「おう、ここだ。コーヒーぐらい飲むか?」
「悪いが、そんな気分ではないな。」
「へぇ〜、お前でもそんなに気を使うのか。心臓に毛が生えていると思っていたぜ。」
「こう見えて小心者なんだよ。」
「ガハハハハ、最高の冗談だぜ。まったく隙も見せない男が何を言う、。ダイン、お前もだ。ここで流血沙汰はやめてくれよ。せ〜〜っかくティファちゃんが綺麗に床を磨いてくれているんだ、汚したかねえ。」
 ダインと呼ばれた男がびっくりしたような顔でクラウドを見上げた。
「お前が、地獄の天使か?」
「一応そう呼ばれている。第13独立小隊隊長補佐のクラウド・ストライフだ。」
「まいったね。本当に噂通りの可愛い子ちゃんだ。」
 ダインが肩をすくめて溜め息をついたのをみて、クラウドも思わず口元をゆるめる。
「で?俺に用って何?」
「ああ、ミッドガルのアバランチを代表してお前に言いたい事がある。俺達の中には神羅カンパニーが魔晄の力を使わないという発表を、いまだに疑っている者も少なからずいるが、実際お前達がニブルヘイムとゴンガガの魔晄炉を封鎖した。」
「……それで?」
「俺達アバランチが目指す魔晄の力を使わない世界が来ると言うのなら、反抗する理由もなくなるとこいつに言われた。」
 ダインはそう言ってカウンターの中にいるバレットを指差した。
「そうなると俺達が命を無駄に捨てる事も無いと言う事なんだろ?こいつはお前が信頼出来るといい切っている。だからお前に会いたかった。」
 クラウドがバレットを見て呆れたような顔をした。
「俺が信頼出来る?元アバランチのリーダーにしてみれば、天変地異のような言葉だな。」
「お前は俺を裏切らなかった。それだけで信頼する理由は十分だ。」
「それはどうも。俺はカンパニーの駒でしかないんだがな。」
「一人でここに来ただけで十分駒なんかじゃないな。タークス当たりに知れたらお前裏切り者扱いだぞ。」
「それは大丈夫。この会話はすべて録音している。」
「ちぇ!抜け目のない男だ。」
「バレット、おまえそこにいる男がなんなのか知らないのか?お前の言うタークスの一人だぞ。」
 ダインがカウンターの端で、一人コーヒーをすすっていた男を指差した。そこにはいつもの黒いスーツを着たルードが座っていた。
 いつものようにルードがいることにクラウドが安どの笑みを浮かべる。
「ああ、ルードさん。いらっしゃったのですか?よかったコレで俺が裏切り者じゃなくなる。」
「…………そんなことわかっている。」
 店長のバレットは3人の会話を驚くこともなく聞いていた。
 目の前の黒いスーツの男がカンパニーに所属しているのは知っていた。バレットがもしかしてと思っていた事を正面からダインが切り込んでいた。
「おい、お前仕事でここを見張っていたのか?」
「いや……美味いから……」
 いつもの通りの受け答えに思わずバレットが苦笑していた。
「こいつは俺の店の店員を気に入っていてな。まぁ半分仕事なのかもしれないが、真面目に毎日通われたら、そんなもん俺にだってわかるって言うもんだぜ。」
 バレットの一言でルードが文字通りゆでだこ状態になる、それを横目でダインと言う男が楽しそうに眺めていた。