ニューイヤー用のポスターを撮影し終わって、スタッフと打ち合わせをしていると、デヴィッドがクラウドに話しかけた。 「再来週にはバレンタイン用に撮影を入れるからね。」 「え〜?!まだ11月だよ。もう、早いなぁ。」 「モデルの仕事は先取りだから、季節感ないかもね。」 「クラウディア〜〜、袖なしの服を着ることが多いから、永久脱毛しようよ〜〜!!」 「ミ、ミッシェル!!そんな事言うと二度と仕事に来ないからね!!」 「うわ!!その一言で私達、首ですか〜〜?」 「そうね、そうなっちゃうかな?」 「それは困るな。こんなに私のデザインしたドレスのに合うモデルはいない。」 「ふふふ…いい事知っちゃった〜〜」 「でも、コチラには契約書がありますから法的措置も取れますよ。」 「げぇ〜〜〜!!!」 デヴィッドが嫌そうに舌を出しながらスタッフに毒づくクラウドを見て思わず苦笑する。 「クラウド君に取ってはこっちのスタッフの皆は仕事仲間?それとも友達?なんだか面白い関係だね。」 「仲間であり友達であり可愛い妹!!」 「ミッシェル、クラウド君怒るぜ。」 「そうですね。でもどっちかと言うと”妹”になっちゃうかな?」 「俺…男なんですけど。」 「君の話しとか聞いていると、どうしてもねぇ…」 「恋人があの人じゃね〜〜、どうみても君が可愛い女の子にしか思えない。」 「いえてる!」 スタッフの意見はソルジャー仲間にも言われていた事なので、流石にクラウドも聞き慣れていた。 「う〜〜ん、それは認めないといけないのかなぁ?俺とセフィと組み合ったって、セフィが絶対強いもんなぁ。」 「喧嘩するなら味方になるよ。だってあんな強引な奴少しは反省すればいいじゃん。」 「セフィは強引でも何でもないよ。だって、セフィの言うことはいつも正しいもん。」 「だめだこりゃ…だんな様一途な可愛い奥さんだ。」 「そう思うでしょ〜〜?!デヴィッドさん。なんだかんだと言っても彼の事が大好きなんだもん。モデルなんだからウェディングドレスだって本当なら拒否出来ないのに”彼の前じゃなきゃ嫌!”でおしまいなのよ。」 「それもクラウディアの恋人がサーとわかっているからこそ、デザイナーさんの方も無理強いをしないですんでいるんだけど。」 「コレからも嫌な服はセフィの名前出しちゃおうかな?」 クラウドの言葉にデヴィッドがびっくりする。 「うわ!すごいジョーカー持ってるな。」 「しかも何でもありそうなあたりが恐いジョーカーなんですよ。」 「あ、ちなみに水着はその手で禁止にしてあるわ。だってそんな依頼を受けたら実際殺されそうだものね。」 「第一クラウディアが男と一発でばれてしまうから受けられないだろう?」 「そういうことだね。じゃあ、次は再来週。またメールを入れさせていただきます。」 ティモシーの一言がきっかけで、クラウドがスタッフと笑顔で別れた。 部屋でいつものように料理を作りながらセフィロスの帰りを待っていると、ポケットの携帯が鳴り響いた。 「はい、クラウドです。」 「あ、私。ひさしぶりね。」 「かあさん!!」 電話の主はクラウドの母親、ナタリーであった。どうやらエアリスの母親であるイファルナから昨日の事を教えてもらったらしい。 「まったく、ニューイヤーの休みに彼をつれてニブルにいらっしゃいな。少し教育しなきゃいけないわ。」 「だ、ダメだよ。ニブルにセフィをつれて行って普通に会ったら、それこそ俺がクラウディアだってばれちゃうでしょ。コスタ・デル・ソルに別荘有るからそこで会おうよ。」 「あら、さすがトップモデル。その別荘って誰の所有?」 「名義は俺になっているよ。だから母さんだって気にしないでおいでよ。」 「う〜〜ん。でもねぇ、あの人は私が言ったって変わらないだろうし…あなたが矯正して行かないとダメかもね。」 「え?お、俺が?!」 「そうよ。彼を変えられるのは貴方だけよ、クラウド。」 そういわれてクラウドはとまどっていた。 ナタリーはさっさと電話を切ってしまった為、その理由を聞くことはできない。ましてやセフィロス本人に聞くわけにもいかず、クラウドはなんだかもやもやとした思いが心のどこかにあった。 しばらくするとセフィロスが帰ってきた。 いつものようにお迎えをすると、いつものように熱烈なキスをくれる。この部屋で暮らしはじめた頃、ろくに”おかえりなさい”もいえなかった事を思い出すと、少しはセフィロスに思いを伝えることができるようになったのだろうか?そんな事をふと思いながらスープを皿に取る。 セフィロスが何かを背中に持っていた。 スープ皿をテーブルに置くと、そんなセフィロスにクラウドが気がついた。 「セフィ、何を持っているの?」 「ん?これか、来年のカレンダーだ。」 「え?カレンダーって…まさか?!」 「当然お前のだ。」 「い…イヤ〜〜〜!!!!辞めてセフィ!なんで部屋に帰ってまで、自分が女顔だって思わなきゃいけないんだ!!」 「何故だ?こんなに綺麗なのに。」 「いいからそんなカレンダーかけないでよ!そんな事したら俺、二度とセフィと一緒に寝ないからな!」 「脅しているのか?この私を…」 「ああ、脅しだろうとストライキだろうとなんだってやるよ!自分が女装した姿を1年間も見たく無い!!」 「なんだ、残念だな。せっかく写真集も買って来たのに…」 「しゃ…そんなもん買って来るなよ〜〜!!!」 クラウドに怒鳴りつけられて、さすがのセフィロスもこれ以上何か言ったら愛妻のきげんを取り戻すことができなくなると悟ったのか、とりあえず買って来た写真集とカレンダーをクローゼットの奥にしまい込んだ。その姿をクラウドは腕組みしながら睨みつけていた。 その翌日。カンパニーに出社したクラウドがクラスA執務室で、いつものように仲間と仕事の事を話しながら執務をしていると、クラスSからお呼びがかかり、エドワード、ブライアン、ザックスと共にクラスS執務室へと向かった。 扉をノックしてクラスS執務室に入ったクラウドの目に真っ先に飛び込んできたのは自分の写ったカレンダーだった。 「ちょ…ちょっと、みなさん!!」 「あらまぁ、お前のカレンダーじゃないか。」 「クラスSの皆さんも買われたのですか?」 「ちょっと、ブライアン。『クラスSのみさなんも』の”も”って何だよ、”も”って!!」 「知らぬはお前ばかりなり。このカンパニーの治安部には、かなりの数のお前のカレンダーがかかっているぞ。」 「ええ〜〜〜?!嘘だ!!」 「俺が嘘を言うか。まったく、クラウディアの人気って本物なんだって感心したぐらいだぞ。」 クラウドが真っ赤になって怒っている。しかしクラスSソルジャーは一向に気にしてはいないようであった。 「おや?姫、どうかされましたか?」 「クラウディア様はキングのフィアンセですから、我らに取っては女神みたいな方です。姫もそれはご存じだと思いましたが?」 クラウドは呆れて物が言えなかった。 クラスSソルジャー達は事実を皆知っていて、クラウディアをクラウドとは別人として扱っていたのである。 「言っておくが特務隊の執務室なんて凄いもんだぞ。リックとカイルがお前のポスターを何処からかもらって来たらしくて、何枚かはってあるし…勿論写真集も置いてあるし、カレンダーも張ってある。」 「な、何考えているんだよ、あいつらは!!」 「ポスターが無いだけで他の隊も似たようなもんだぜ。」 「さすがにクラスA執務室だけは皆で相談してやめたが、部下に首をかしげられているんだぜ、なぜ張らないって。」 「張らなくていい!!俺、出社拒否になる。」 「それは困りますね。」 そこへ悠然とセフィロスが入ってきた。 クラスS執務室の壁に張られたクラウディアのカレンダーを見て、一瞬笑みを浮かべたが、すぐにここが何処だか思い出し、一気に執務室を最低最悪の寒気団にさらした。 「キ、キング。」 「あ…あの、その…」 「コレはどう言う事だ?」 「あ、あまりにもお綺麗だったので…つい。」 「クラウディアがどういう存在なのか貴様達が知らない訳でもなかろう?」 「え、ええ。貴方様の奥様で…美人モデル。」 「私の妻に貴様達は何を考えているのだ?!」 セフィロスに一喝されて、クラスSソルジャー達がすくみ上がる。その様子をクラウドが少し可愛そうと思って見ていたが、よくよく考えて見れば昨夜言った本人が同じことをしていたので、思わず吹き出してしまった。 いきなり笑い出したクラウドをザックスが不思議そうな顔で見ていた。 「どうしたんだ?クラウド。」 「だって、昨日セフィロスがやった事を違う人がやっているだけで、こんなに怒るなんて、絶対ヘン!!」 ザックスは言われた言葉を一瞬理解出来なかったが、よ〜〜く考えて見たら、かなり矛盾する行動をセフィロスはしていることに気がついた。 「だ、旦那〜〜〜、それって完璧独占欲だぜ。」 周りのクラスSソルジャーがこっそりとうなずくが、セフィロスは冷たい瞳でクラウドを睨みつける。しかしそこは慣れた物でふわりと笑みを返すと、途端にセフィロスの口元がゆるみ絶対零度の怒気をはらんだ寒気が一気に消えた。 「ありがとう、セフィロス。」 「何の事だ?」 にやりと笑いながらしれっと答えるセフィロスはクラウドの発した言葉の意味を正しく受けとめていた。 「お〜お、にーさんってマジで嫁には弱いんだな。」 「さぁ…どうかな?」 ゆるやかな笑みを浮かべながらも否定しないセフロスに、クラスSソルジャーは、憧れの英雄の新たな一面をほんの少し見たような気がしていた。
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