イファルナ達に見送られてマンションに戻ったクラウドは、ちょっと部屋に入り辛そうにモジモジとしていた。
 そんなクラウドの肩を抱き寄せてセフィロスが部屋の扉を開ける。
「まったく、あまり心配させるな。」
「俺、その辺の連中に負けるような腕じゃないと思うけど。」
「それは認めるが…」
「俺、何処にも行かないよ、貴方が好きだもん。いつも…貴方が戻る所でありたいと思っている。でもね、近くに逃げ込める所が出来たから、何かあったら逃げ込みに行くから覚悟していてね。」
「エアリスだけでなく、イファルナまで味方に付けたか。ナタリーが近くにいるみたいだな。」
「もう、母さん達を呼び捨てにしないの!」
 二人揃って部屋に入ると、留守電のランプが光っていた。
 滅多に有る事ではないので不思議な顔でクラウドが再生ボタンを押す。
 『ルーファウスだ、クラウドに仕事が来ている。明日出社したら社長室に来るように。』

「仕事?なんだろう??クラウディアじゃないよな?」
 ティモシーたちと契約して以来、クラウディアの仕事は直接メールか電話で入ってくるようになっていた。
「嫌な仕事を引き受けさせられるかもしれないぞ。」
「多分ね。でも特務隊の任務が有る上にクラウディアの仕事もある。思いっきり蹴飛ばしてくるよ。」
 けらけらと笑いながら肩にもたれてくる愛しい少年の重みをセフィロスは今さらながら無くしたくないと思っていた。


* * *



 翌日、いつものように愛車のバイクを駐車場に入れて、カンパニーの治安部のゲートをくぐり、出社手続きを済ませた後、クラスA執務室に顔を出して、行き先表示板に社長室と書き込み、クラウドは本社ビルに有る社長室へと足を向けた。
 エレベーターで69Fまで上がると扉をノックする。中から聞き慣れたルーファウスの声が聞こえた。
「クラウドか?入っていいよ。」
 広い社長室に相変わらず白いスーツを着てルーファウスが社長の椅子にゆったりとすわっている。その後ろにSPか秘書の如く立っている黒づくめの男は馴染みのタークスの主任。軽く会釈をしてクラウドはルーファウスに近寄った。

「何か御用でしょうか?」
「ティモシー達から入った相談なのだが、君を”クラウド・ストライフ”としてモデル契約したいそうだ。」
「は?!俺、もうモデルやってるじゃないですか。」
「クラウディアと言う名前のモデルはいる。まあ君だがね、そうじゃなくて、男としてモデルをしてほしいそうだ。」
「ご冗談を、俺これでも一士官ですよ!」
「クラウディアをやってる時のついでに撮影すればよいという条件だそうだ。もちろんわが社としては、セフィロスの副官を表に出すわけにはいかぬが、敵もさる者、既にモデルをやっているから無理じゃないと言われた。しかも別人としてクラウディアとの絡み写真も取れるとやたら乗り気なのだよ。」
「ティモシー達、何考えているんだろう?」
「さぁな、本人に聞いて見るんだな。私の話しは以上だ、しっかり断りたまえ。」
「俺のスタッフって、敵にまわすと後が恐いんですよ。」
「私とて同じだ。我ながら凄いスタッフを君に付けてしまったと後悔した物だ。」
「いいスタッフとは思うんですけどね…」
「ああ、それは認めよう。腕も確かのようだ。」
「セフィロス…何て言うかな?」
 そう言いながらクラウドは社長室を退出した。


* * *



 クラウドからルーファウスの呼び出しの内容を聞いたセフィロスは、複雑な顔をしていた。

「お前を男としてモデルに採用したいだと?誰がそんな事を?」
「どうもデヴィッドさんみたい。昨日8番街の戦闘で助けたから…」
「お前の戦士としての顔を見て、創作意欲が…か?」
 二人の会話にザックスとリックが突っ込みを入れる。
「え?なになに?!」
「姫を男にするって?!チェリー君卒業反対!!」

 意味を知っていいるセフィロスが一気に不機嫌になるが、クラウドはリックをくりっとした目で見つめる。
「リック、チェリー君ってなに?」
「あのさ…ちぇりー君っていうのは。もごもごもごもご…」
 このままではまずいと思ったザックスがあわててリックの口をふさぐ。
「あ、あとで旦那に教えてもらえ。」
 リックの口を押さえながらザックスが青い顔をしている。その様子からするとあまり良い事では無さそうと判断したクラウドは、二人のいった事を頭から切り離した。そんな事は露知らず、リックがザックスに口答えをする。

「チェリー君をチェリー君って言って何処が悪い!!」
「おまえなぁ…クラウドがチェリー君卒業するっていったら、相手の女がいるだろうが!!こいつが浮気すると思っているのか?いや、それ以前にそんな女を旦那が近づけると思っているのか?!」

 その瞬間ザックスの背中に向かって氷の刃がつきささった…ような気がした。見るとセフィロスがザックスを睨みつけている。

「セフィ、ザックスは事実しか言っていないよ。」
「お…おう、なんでにーさんはリックよりも俺に八つ当たりするんだよ?」
「リックにブリザガ当てたら死ぬだろうが。貴様なら魔防が高いからこの程度では死なん。」
「くすん…に〜さんのいけずぅ〜〜」
 相変わらずじゃれるようなザックスの態度に、リックが羨ましげな瞳を向ける。おおっぴらにセフィロスに砕けた態度がとれるのはザックスだけの特権に思えてきた。
「で?お前はあのスタッフにどう言い訳する気だ?」
「俺のスタッフに言い訳出来るくらいなら、とっくの昔にクラウディアをやめているよ。」
「クラウディアとお前が一緒に写ったら双子じゃねェの?!」
「そうだよなぁ、今日も撮影有るから聞いて見よう。」
 クラウドはとりあえずスタッフに相談する事を選んだ。


* * *



 夕方、仕事が履けた後バイクに飛び乗り8番街へと走っていく。駐車場にバイクを預けて、裏道を歩き事務所のあるビルの裏口へと入って行く。階段を6Fまで駆けあがって扉をノックすると、中からマネージャーのティモシーが顔を出した。
「あ、クラウド君。おはようございます。」
「ティモシー、例の件だけど、クラウディアと俺が並んで立つと双子にならないかな?」
「あ、そうか。グラッグ、ちょっとやってみてくれ。」
「ミッシェル、クラウディアの衣装とクラウド君のスーツある?」
「もちろん!スーツから行くよ〜〜!!」
 ルンルン気分でミッシェルがクラウドにぴったりのサイズの白いスーツを取り出した。ダイアナのメインデザイナー、デヴィッドがデザインしたクラウド向けのスーツだ。サイズはわかっているのでぴたりとフィットする。ミッシェルがクラウドの跳ねた髪の毛をワックスでちょっと固めにして、ワザと少し逆立てて、眉を太めに書き込み青いスクリーンの前に立たせる。
 カメラを構えたグラッグがクラウドに声をかけた。
「じゃあクラウド君、両手をポケットに突っ込んで、思いっきりカメラを睨みつけてくれる?」
「笑えって言うよりも楽でいいな。」
 注文通りにグラッグをレンズ越しに睨みつける。その睨みつけに思わず背中に冷たい物を感じた。
「うひゃぁ…さっすがソルジャー。恐い視線だぜ。」
 シャッター音が響き渡ると、すかさずミッシェルがクラウドの肩のところまでなにか棒のような物を立てた。入れ代わりにクラウドを引っ張ってきて今度はいつもの衣装を手渡す。素直に衣装をもって着替えたあとで、髪の毛を女の子らしく変化させていった。
 ヘアワックスで逆立てていた髪をくるくるとドライヤーで巻き、いつものようにふんわりとしたメイクを施すと”世界の妖精”といわれる人気モデルクラウディアが現れた。
 ふわりと衣装を翻しながらクラウディアがミッシェルが立てた棒の所に軽く片手を置くと、その手にもう一つの手を重ねグラッグのカメラに向かって柔らかく微笑んだ。
「OKクラウディア、いい笑顔だよ!!」
 さっそく写した写真を巧く細工して、重ね合わせてプリントして見る。出てきた写真はザックスが想像していた通り双子の写真であった。

「ダメだな。どうみても双子、それでなければ同一人物。」
「ええ〜〜?!メイクでこれだけ印象変えているのに〜〜〜!!」
「デヴィッドさんにはこれを見せれば納得するでしょう。」
「よかった、これ以上この仕事をしたくないよ。」

 クラウドがほっと一安心した時に、すかさず3人が声を揃えて言った。
「でも、クラウディアはまだやってもらいますよ。」
「げぇ〜〜〜!!!」
 わかっていたこととはいえ、スタッフに念を押されてついクラウドが男言葉を使ってしまったので、ティモシーが睨みつける。
「こら!クラウディアになっている時は男言葉禁止!!」
「はぁ〜〜い!うん、もう。こっちが本業じゃないんだけどなぁ。」
「あら?モデルのクラウディア。あなたの本業って他にあったかしら?」
 スタイリストのミッシェルが今日の撮影用衣装を持ってニヤニヤしている。いつも以上にフリルとドレープのある衣装に辟易しながら、クラウドはどうしたらこのスタッフに勝てるのか考えていた。

 ニューイヤー明けの商戦用のポスターの撮影の為にデヴィッドがクラウディアブランドの衣装を持ってスタジオで待っていた。
 そこへ先程撮影した写真をティモシーがみせる。
「デヴィッドさん、これじゃ双子か同一人物ですよ。」
「あれ〜〜?!ダメですね、これは。」
「で〜〜も、これなら男でもモデルで結構やって行けそうね。」
「ちぇ!!クラウド君に着てほしい衣装なんて色々とデザインしたのに。」
「イメージモデルにしちゃってオリジナルを着るならいいんじゃない?」
「それじゃあサー・セフィロスと変わらないな。」
 スタッフとデヴィッドが笑い声を上げた。