エアリスの怒りがいまだに収まり切らなかった時に、イファルナが横から口を出した。
「まったく、セフィロス。あなたがそう言う感情に疎いことは、エアリスから聞いていたし、わかっていたけど…もう少し思いやりの心を持たないとクラウド君が可哀想だわ。」
セフィロスがいぶかしげな視線をイファルナにおくるが、彼女も既になれた物でそれを受け流す。
「セフィロス、あなたクラウド君の為に女装したことある?その姿のままで、セブンスヘブンと言う店にあなたは行けるの?」
「いける訳なかろう?いい笑い草だ。」
「ひっど〜〜〜い!!自分は嫌でも、愛する奥様にはさせちゃおうとするんだ。クラウド君、こんな奴のどこがいいのよ?!」
「ど…どこがって…あの…その…全部。」
真っ赤になりながらつぶやくようにクラウドが答えるのをイファルナとエアリスが頭を抱えて見ていた。
「ザックス〜〜!!どうしてこうなっちゃったのよ?!私が姉だったら、こ〜〜んな我が侭な男に渡さなかったのに。」
「仕方がないだろ、ミッションのついでに入籍したんだから。だいたいこいつらが惚れあってるんだ、どうしようもないだろ?」
「もう、セフィロスとクラウド君の事を頼むわって、ナタリーに言われていたのに、合わす顔がないわ。」
3人して顔を寄せ合って溜め息をつくが、セフィロスは我関せずとばかりに椅子から立ち上がるとクラウドの腕を掴み椅子から立ち上がらせようとする。
「帰るぞ。」
しかしエアリスがとっさにクラウドを止めた。
「行ってもいいの?また同じ事になってもいいの?」
「そうね。このまま帰らせないわよセフィロス。あなたはもう少しクラウド君にかけている負担に気がついてもいいと思うわ。」
「私がクラウドに負担をかけているだと?」
今にも正宗を掴んで切りかかろうとするような雰囲気のセフィロスに、ザックスが思わず背中に冷や汗をかいていた。しかしイファルナも全くひるんではいない、ゆっくりとセフィロスにわかりやすく話しかけた。
「クラウド君が好きでクラウディアになっている、と…思っているの?一軍を率いることができる士官である彼が、好き好んで女装なんてするわけないでしょ?すべては貴方の為よ。士官姿のクラウド君を抱き寄せる訳に行かないのでしょ?」
「私はかまわんが?」
「部下の気が散る!!」
「もういいです。セフィの気持ちはわかっているし、なんだか…俺が世間の目を気にしているだけみたいだもん。」
「だめよ、そんなんじゃ!!セフィロス、もう二度とクラウド君を泣かせないって約束して!!」
「私はクラウドを泣かせるつもりなど無い。」
「じゃあ一つ注文をつけるわ。もう少しクラウド君の気持ちをわかってあげてほしいわ。あなたとは違って自分に自信が無いの。そういう彼を自分と同じと思わないで欲しいわ。」
「どうやら、それは認めねばならんようだな。私は周りを気にする事などしたことがないから、クラウドの気持ちはわからないときがある。」
そう言うと掴んでいたクラウドの腕をするりと降ろし、おもむろにそばによると優しく抱きしめた。
「またお前を泣かせてしまったか…そんなつもりは無かったのにな。」
つぶやくように囁かれた言葉に、クラウドが再び泣きはじめた。
「ゴメンね…ゴメンね、セフィロス。ヒック…俺が…俺が…えぐっ!俺がもっと貴方にふさわしかったら…ひっく…えっく…」
その時、クラウドを抱くセフィロスの腕がぴくりと動いた。ほぼ同時にザックスが何かに気がついて振り返った。
「ザックス、聞き取ったな?」
「ああ、北の方向だ。」
二人の雰囲気が戦闘態勢に入った事がクラウドにはわかった。推測でしかないが、きっと二人はソルジャーの能力で何かの音を聞き取ったのだろう。さっきまでセフィロスの腕の中で泣いていた人物と同じとは思えない、強い意志を秘めた蒼い瞳が二人のソルジャーを見つめていた。
「北の方向?7番街?」
「いや、それよりは8番街よりだな。いくぞ!」
「おう!」
「わかった!!」
セフィロスが正宗を掴んで店の外へと飛び出して行く。その後ろをいつのまに取り出したのか、バスターソードをかかげてザックスが、そして一士官としての自分を取り戻したクラウドが剣を掲げて飛び出して行った。
「もう…どっちのクラウド君がクラウド君なの?」
「どっちもクラウド君よ。」
駆けだして行った3人のソルジャーにエアリスが溜め息をついた。
* * *
8番街の北では反抗勢力が繁華街のど真ん中で暴れていた。
その中を正宗片手に銀色の長い髪をなびかせながらセフィロスが躍り込んだ。後からザックスと、少し遅れてクラウドが切り込むと、あっという間に反抗勢力が崩れていく。
戦いのさなかクラウドは建物の影にかくれている男の人を見付けて確保に走った。
建物の影にかくれていた人物を見るとクラウドがびっくりする。
「デヴィッドさん!!大丈夫ですか?!」
「あ、クラウド君。な、なんとか…」
「俺から離れないでください、安全な所まで守ります。」
そう言うと四方に視線を走らせながら、剣を片手にデヴィッドを守り、ザックスに目くばせを送って一旦下がって行った。
反抗勢力の攻撃が及ばない所まで案内すると、クラウドは一礼して再び戦場へと駆け出して行った。そんな彼を見送りながら、デヴィッドは”これがあのクラウディアとおなじ人物なのか?!”と思った。
しばらくボーっとしてたっていた後、あわてて自分のオフィスに入ると、スケッチブックにデザインを書きはじめた。
ある程度書き綴った後、デヴィッドはクラウディアスタッフに電話を入れた。
「あ、ティモシー?クラウド君の事だけど…ええ、仕事の事。」
デヴィッドはクラウドが一人前の戦士である事を知ってはいたが、直接見たのは初めてであった。そのギャップが激しくて最初はついていけなかったが、凛とした瞳と姿勢は、彼の漠然としていたクラウドの戦士としてのイメージをしっかりさせただけでなく、一つのデザインブランドを思い起こすきっかけになった。
そしてそのモデルとしてクラウディアではなく、クラウド自身を引っ張り出すつもりだったのである。
「クラウディアのスケジュールはお伝えしていますが?」
「違います。クラウド君自身を男として使えないかって事なんだ。私は彼の戦う姿をさっき始めて見てピン!と来たんだよ。いいモデルになるぞ〜〜 是非使いたい!」
「はぁ?!クラウディアではなく、クラウド君をモデルに…ですか?一応彼は戦士でカンパニーに所属しているのですが?」
「彼自身は有る意味モデル契約しているんだから、男装しようと女装しようと一緒じゃないか?」
無茶苦茶な言い分ではあるが理は通ってはいる。ティモシーは一度ルーファウスに相談するべきか考えてふと言い返した。
「デヴィッドさん。クラウディアが男装しているでは絶対ダメですよ。彼には彼の立場があります。絶対別人である事にしていただかないと、部下を持つ一武人が、実はクラウディアだと知られては、彼は二度とクラウディアになってくれなくなります。」
「それも困るな。一応正式にルーファウス社長経由で聞いていただけないかな?」
「サー・セフィロスが無理なんですから、その副官である彼が使えるか…とにかく打診してみますけど、笑われるでしょうね。」
そう言って電話を切った。
* * *
一方、あっという間に反抗勢力を鎮圧させた3人組は、戦い終わって顔を見合わせて、思わず笑顔が浮かんでいた。
ザックスがクラウドにハイタッチをしようと手をあげた途端、横から少年の手のひらを掠め取るように、セフィロスがハイタッチする。ザックスが一瞬ムカッとするとその次の瞬間、宙に虚しく浮いていた彼の手のひらに、セフィロスとクラウドが手を重ねてきた。
「セ…セフィロス、クラウド…」
感激のあまり涙ぐんでいたザックスに、クラウドはくすっと笑い、セフィロスはいぶかしげに見つめていた。
「ザックス、泣くなよ。」
「うるせー!!」
「泣いているようにしかみえないな。」
「泣いてねぇよ!!」
自分より背の高いセフィロスと、自分より背の低いクラウドの首に、ガシッと腕を回して、ザックスは笑い泣きをしていた。
「あ〜〜、めっちゃいい気分!」
やっと本当の親友になれたと、ザックスはこの時に素直に思えた。しかしそう思っていたのもつかの間、ザックスの腕を振りほどいて、セフィロスが横からクラウドをかっさらって抱き寄せた。
「ひでぇ…にーさん、親友よりも嫁さんを取るのねん?」
「何の事だ?大体お前はいつの間に私の弟になったのだ?」
「う〜〜ん、にーさんのいけずぅ〜〜優しいくせにつれない御方。」
いつものように『しな』を作るザックスにクラウドが吹き出した。
3人で仲良く並んでエアリスの店へと帰りながら、クラウドは満ち足りた感覚に落ちいっていた。
(やっぱり俺、セフィロスが好きだ。この気持ちに嘘は無い。でも、まだ世間体を気にしちゃうのは…自分に自信が無いからなのかな?セフィロスが望んでいるのは、男でも女でもなく”俺”なんだから、もうちょっと自信付けなきゃだめだよな…)
そう思いながら夜の8番街を歩いていた。
* * *
8番街のフラワーショップが閉店した後でも、エアリスとイファルナは3人を店の前で待っていてくれた。
3人が戻ると笑顔破顔で迎えてくれる二人に、クラウドは「戻ってくるって…こう言う事だったんだ。」と、改めて思い直した。
それは今まで、自分が戻っても、いつも誰もいない部屋だった事が多く、誰かの元に戻ると言う感覚を味わったことのないクラウドに取っては凄く新鮮だった。そして以前セフィロスが言っていた言葉をふと思い出した。
「おまえを…戦いのない世界に置いておきたい。いつも部屋にいて笑って私を迎えてほしい。」
(ああ…こう言う事だったんだ。)
セフィロスの気持ちがクラウドに理解出来た。
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