クラウドから話を聞きながら、エアリスがだんだん怒りはじめていた。
「じゃあ、何?セフィロスって、クラウド君の初恋の彼女の前で、君が女装している事をばらそうとした訳?ゆ・る・せ・な・い!!」
「でしょ?俺セフィロスの為だと思って、女装だって我慢しているのに…好きでクラウディアやっている訳じゃないのに…えぐっ、えぐっ!!」
「ママー!!クラウド君がね、セフィロスと喧嘩したんだって!うちに泊めてもいいでしょ?!」
エアリスの言葉にイファルナがびっくりして店から部屋をのぞくと、涙交じりのクラウドの顔をティッシュで拭く娘が目に飛び込んできた。部屋に入ってコーヒーを入れてあげながら話を聞くと、イファルナとてクラウドを気に入っているのでついつい庇いたくなる。
「そうなの、彼がそれじゃねー。いいわ、うちでよければいつまでも居なさい。」
「エグッ…ヒック…あ、ありがとうございます。」
「そういえば、ちょっと前にも同じようなことがあったって言ってたわよね。彼もこれで少しは懲りればいいのよ。」
「そうよ、頭下げて来るまで絶対に戻っちゃダメよ。時には厳しくしないといつまでも付け上がるわよ!!」
エアリスの家の女性を味方に付けると、あとは至極簡単であった。この家の主人のガスト・ゲインズブルーはカンパニーの科学部門統括ではあったが、目に入れてもなんぼのもんじゃいと言うぐらい可愛い娘と、惚れまくって駆け落ち同然で結婚した妻にはひたすら弱く、二人の女性の睨みつけと目の前の少女のような少年の潤んだ瞳にあっさりと全面降伏した。
* * *
たっぷりと日が暮れて、クラウドがゲインズブルー家でその腕を振るっている頃、一旦マンションへと戻って来たセフィロスがスーツを着替えようと、クローゼットを開けて呆然としていた。
自分の黒のロングの隣に並べられていた、クラウドの白のロングが無くなっている。
あわてて小物入れの引き出しを開けると、下着も無くなっていた。
「ク…クラウド まさか?!」
ポケットから携帯を取り出すと、ザックスの電話番号を探し出してかける。
「あん?セフィロス、いったいどうしたんだよ?」
「いや、クラウドを見かけなかったか?」
「ん〜〜、見かけなかったけどな。あ!また喧嘩でもしたのか?」
「いや、なんでもない。見かけたら教えてくれ。」
「明日になれば嫌でも出社してくるじゃん。」
「貴様…さてはクラウドをかくまっているな?」
電話をぶちっと切ると正宗片手に地下の駐車場へと駆けだした。
愛車に飛び乗ってザックスたちの暮らしているソルジャー向けの寮へとハンドルを向けた。
10分ほどでカンパニーの駐車場へと到着したセフィロスが、車から正宗を片手に飛び出して行ったのを下級ソルジャー達が見ていた
「あれって…サー・セフィロスだったよね?」
「うん、凄い恐い顔をしていたなぁ。」
「また、何かのミッションかな?」
「いや、サーが向かわれたのはソルジャー用の寮だよ。」
下級ソルジャー達はセフィロスの消えたソルジャーの寮を見つめていた。
一方、いきなりむき身の正宗片手に現れたセフィロスに、寮に居たクラスAソルジャー達が真っ青な顔をしていた。
「キ、キング何があったのですか?!」
「ミッションですか?!ザックス!!リック!!」
騒がしいのと名前を呼ばれたのとで、ザックスとリックが駆け込んできた。目の前には広いエントランスのまん中でブリザードを発生させながらセフィロスが立っていた。
「隊長!どうされたのですか?!今日は奥様とご一緒だったのでは?!」
「あ!!あんたヤッパリ嫁と喧嘩でもしたのか?!」
いきなりブリザードが強くなり、エントランスに氷河期が訪れた。クラスAソルジャー達がその様子に震え上がっていると、のっそりとブライアンとエドワードがやってきた。
「キング、姫ならこちらには来ていませんが?」
「先程クラスBの連中が8番街の駐車場で姫の愛車を見たと聞きました。」
「8番街だと?!あの花売り娘か!?」
「うわ!!待て!セフィロス、エアリスを殺さないで〜〜!!」
正宗片手に駆けだそうとするセフィロスを必死でザックスがおさえた。
「隊長、理由がわからないのに追い駆けていたら、姫が逃げるだけですよ。」
「とにかくキングがこちらにいらっしゃるだけで、下級ソルジャー達が大騒ぎいたしますので、どこか目立たない所へ移動しましょう。」
エドワードに言われて周りを見渡すと、ちらほらと下級ソルジャー達が集まりはじめているので、ザックスとリックを先頭に特務隊の執務室へと移動をした。
執務室に入ると改めてリックがセフィロスに向き合った。
「それで…隊長殿、一体何をしたのですか?」
「あいつの仕事につき会って、終った後買い物をしていたら、ちょうど目の前にあった「セブンス・ヘヴン」で、食事でもしようと誘っただけだ。」
「セブンス・ヘヴンって…あの7番街の?」
「隊長殿、そこには姫の幼なじみがいたはずでは?」
「ああ、ちょうど店の前でバッタリ出会った。」
「その子なら知ってますよ。姫の憧れの君だった女の子ですよ。」
「え?あの子が追いかけてきたんじゃないの?」
「その彼女の前で、姫は”クラウディアだった”訳ですよね?」
「はぁ〜、それで姫に出て行かれたんですね?」
セフィロスがブライアンを睨みつけるが、否定出来なかった。ザックスとリックが頭を抱える。<
「そりゃ、クラウドが可哀想だ。いくら元かの女だとはいえ、好きだった女の前で女装しているのをばらしたくないだろうし、あまつさえ旦那と結婚しているなんて知られたくないだろうなぁ。」
「おまけに言うと、そこのマスターは元アバランチのリーダーですよ。”地獄の天使”と呼ばれている男が正体を明かす訳に行かないのです。」
「愛想も尽きるか…。」
セフィロスの顔には何も変化が無かったが、絶対零度の雰囲気がなくなっていた。にやりと笑うとザックスがポケットからバイクのキーを取り出した。
「嫁さんにあやまりに行くなら付き合ってやるぜ。」
セフィロスが何も言わずに執務室を出て行くのをザックスが嬉々として追いかける。その場にいたクラスAソルジャー達が二人を見送った後、溜め息をついた。
「あの御方も、もうすこしこういう事に敏かったら良かったのにな。」
「まぁ、いいんじゃない?結局惚れあってんだろ?」
「夫婦げんかもいいかげんにしろって言ってやりたい。」
「しかし、それを面白がっている俺達がいる。」
「俺は面白くな〜〜〜い!!!!」
リックの雄叫びを聞きながら、クラスAソルジャー達がそれぞれの部屋に帰った。
* * *
一方、10分かけて8番街のフラワーショップへと到着したザックスとセフィロスが、店番をしているイファルナに挨拶する。
「あ、こんばんわ。エアリスいます?」
「あら、ザックス君いらっしゃい。エアリスは今キッチンだけど?」
「え〜〜?!エアリスが何か作っているの?!俺の分ありそうかな?」
「さぁ、どうかしらね。あら?セフィロス…」
どんよりと暗い雲をつれてセフィロスがザックスの後ろに立っていた。思わずイファルナが吹き出しそうになったのを必死でこらえると、キッチンでエプロン付けて皿を洗っている二人の女性(?!)に声をかけた。
「エアリス、クラウド。彼が来ているわよ。」
「ええ〜〜?!もう来たの?!ぶう〜〜」
ふくれっ面をして振り返るエアリスの隣で拗ねたような顔をするクラウドがいた。その拗ねた顔すら可愛くてしかたがないセフィロスが思わず微笑むと、クラウドは”つん”とそっぽを向いた。
「あらまぁ…かなり怒っているな。」
「な…なぜだ?!」
「あたりまえでしょ?!」
エアリスが鋭い目でセフィロスにずずいと近寄ってきて、英雄と呼ばれている男に怒鳴りつけた。
「セフィロス!あなたちょっとそこに座りなさい!!」
「エ…エアリス〜〜〜〜」
正宗を持っている事を知っているザックスが思わず青い顔をするが、エアリスの剣幕も相当な物である。その剣幕に押されるようにおとなしく指された椅子に座ると、翡翠色の瞳に怒りの炎をともした少女が正面の椅子に座った。
しかし、一切を無視してセフィロスはクラウドに問いかけた。
「クラウド、どうしてここに居るのだ?」
「あ…え…だって……。」
「お前のいるべき場所はここでは無いはずだ。」
「おまちなさい!セフィロス!!こういうことになったのは、間違いなくあなたのせいなんだからね!!!」
「何の事だか、わからんな。」
「クラウド君が昔あこがれていた女の子の前で女装してたのよ!!クラウディアである事がばれちゃったらどうする気だったのよ?!」
「どうするも…何も変わらないではないか。」
セフィロスの答えにあきれ返ったような声でザックスが突っ込みを入れた。
「あ、あのなぁ…セフィロス、あそこの店の店長知っているんだろ?」
「ああ、元アバランチのリーダーでLv4危険人物だった男だ。」
「もしかするとまだ裏でアバランチや反抗勢力とつながっているんじゃないの?その男にも”地獄の天使”があんたの嫁とばれるんだぜ。」
「それだけじゃないわ、クラウド君がクラウディアをやっているのはあなたのそばにいる為だと言うのに、それが世間に知られたら彼とあなたの関係はどうなるの?!」
「私の愛しい妻であることは変わらないと思うが?」
「あなたはそう思えるかもしれないけど、クラウド君は英雄と呼ばれるあなたの奥様が男である事を世間に知られたくないのよ!もし事実が世間に知られたら…世間の反応が否定的であったら…クラウド君があなたと別れるって言ったらどうする気?!」
「そんなもの、世間に認めさせればよい。」
相変わらずのセフィロスの俺様主義の考え方に、イファルナが呆れたような顔をしていた。エアリスのとなりでもじもじしているクラウドと、彼をまっすぐな視線で見つめているセフィロスは、やはり何だかんだといいながら好きあっているのは確かである。おもむろに4人の話しに参加しはじめた。
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