一般市民の拍手につつまれて黒のロングコートを着たセフィロスが悠然と入ってきた。
武闘場の勝ち抜きバトルで訓練生がソルジャーに勝ったとの話を聞いて、どんな奴かと顔を見にきたら、自分が秘書官かわりに使っているクラウドだったので、セフィロスは思わず冷たい笑顔を浮かべていた。
ジャッジがセフィロスを見付けて思わず叫んでいた。
「おおーっと!!ここでラスボス登場か?!我らが英雄セフィロスが現れました!」
ゆっくりと試合会場を見渡すと中央にクラウドが立っていて、その足元にザックスが頭を撫でながらセフィロスを手招きしている。
「よ〜ぉ、セフィロス。いいところで来たね。」
「フッ…クラス1stのおまえが訓練兵に負けたのか、情けないな。」
「可愛い子ちゃんだと思ってなめてかかると痛い目にあうぜ。」
「制限付きとはいえクラス1stを抜いた男をなめるバカはいない。それに早く終わらせないとせっかく買った衣装が無駄になるな。」
そう言うと赤いサークルの中に立った、拍手が一層大きくなった。
ジャッジが試合を始める合図をした。
「優勝決定戦だ!RADY------!!GO!!」
規制があったとはいえクラウドは訓練兵にしてはうまく勝ち抜いてきたはずだった。
しかし英雄とまで呼ばれているトップソルジャーの前ではその規制などないに等しかった。
ザックスよりもさらに狭い黒いサークルの中で1歩しか動けないハンディをものともせず、切りかかろうと近づいてきたクラウドの間合いを見切ってうまく懐に入り込むと当て身で気絶させる。
その反応の速さに会場の一般市民が感嘆の声をあげた。
「悪いがクラウドは借りていくぞ。」
「あ…は、はいどうぞ。」
ジャッジがそう言うとセフィロスはクラウドの目を覚まさせて嫌がる少年を引きずるように会場から連れ出した。
ザックスがあわてて後からついていく。
「セフィロス、クラウドを何処に連れていくんだよ?」
「イベント会場だ。あと1時間でコンテストの開始だろ?」
「い、嫌だー!!やっぱり女装なんて嫌ですー!!」
「あ、ヤッパリ?お前、可愛いけど一端の戦士だもんな。」
ザックスの言う事ももっともではあったが、セフィロスはクラウドを正面から見据えるとわざと厳しい態度を取った。
「クラウド。貴様も男なら一度やると言った事を違えるな。」
クラウドはそんな厳しいセフィロスの態度に背筋をしっかりと伸ばして憧れの英雄に嫌われたくない一心で返事をした。
「イェス・サー!」
「では、やってくれるのかね?」
「…わ、わかりました。」
(やればいいんでしょ!やれば!!)
と、いう心の叫びを必死で押え込んで、クラウドはセフィロスの持っていた紙袋を受け取ると、コンテストの受け付けで名前を告げた。
「クラウド・ストライフ君ね。えっと…エスコートをしてくれるのは…え?!サ、サー・セフィロスが推薦人なの?!」
「あ、俺サーの秘書官みたいな事をやってますから…」
係員が確認するように後ろにいたセフィロスとその隣に立つ事を許されているザックスに向かって問いかけた。
「本当ですか?サー・セフィロス」
「ああ。」
「本当なら俺がやりたかったけど、金無いからねー」
「わかりました、ではこちらへお願いいたします。」
係員が丁重にセフィロスを迎え入れる、ザックスに背中を小突かれてクラウドは渋々更衣室へと歩いて行った。
* * *
それから1時間後、イベント広場で美女コンテストが始まった。
会場に集まった一般市民とカンパニーのソルジャーや一般兵達は、出てくる美女もどきに冷やかしの声をあげていた。
「ロイ!!似合ってね−ぞ!!」
「マリス、お前ヘン!!」
出てくるのは兵士達の仲間であることは百も承知だ。
それも身体の大きな男が女装しているのだ、どう見ても無気味である。
当然エスコートしている相手も十二分に優勝商品目当てで、どう贔屓しても綺麗とか可愛いとかいえない奴をエスコートしていた。
会場中が笑いがあふれかえっていた。
「エントリーbV、訓練生のクラウド・ストライフ君。今年入ったばかりのニューフェイスの14歳、なんと推薦人がサー・セフィロスだ!クラウド君はサーの秘書官をやってるから将来有望な訓練生だ!日ごろは真面目なベビーフェイスがどう化けるか?!」
袖口にスポットライトが当たると銀髪の美丈夫に連れられた飛びっきりの美少女が現れた。
日に映えるハニーブロンドに空の青を写したような瞳、幼さを残す顔だちは元々女の子と間違えられるほどだったので女装していても違和感が全くなかった。
明るい日差しにロイヤルブルーのドレスと髪に飾られたダイヤのティアラがきらきらと光る。
黒のロングコートを着ているセフィロスにエスコートされながら、恥ずかしげにうつむいて歩いてくる姿はそこらへんの女の子よりもはるかに初々しく可愛らしかった。
「う、うっそーーーー!!!!メッチャ可愛いじゃん。」
ザックスは思わず見惚れていた。いや、見惚れていたのはザックスだけではなかった、会場中の男共が舞台の上に居る美少女に見惚れていた。
結果は明白だった。
クラウドの優勝は誰も文句が言えるはずはなく、セフィロスはちゃっかりと優勝商品をゲットしほくそ笑んでいた。
(クックック…来年の優勝商品はウータイの秘境の温泉にでもしてもらおう。)
一方、クラウドは暗い顔でさっきまで身につけていた女装道具一式をにらみつけていた。
「どうしたんだよ、そんな恐い顔をして。」
「ザックス。これ何とかして処分出来ないかな?」
「あん?どうしてだよ。」
「こんなの持っていたらまたいつ女装してくれって言われるかわからないジャン。できれば燃やしたいけど、それじゃサーに悪いし。」
「5番街のスラムにマーケットが有るからそこで売っぱらって金にして、なんか美味しいもんでも食べようぜ。」
「ああ、任せるよ。」
げんなりとしているクラウドを横目にザックスは嬉々として紙袋を受け取ると、愛車のデイトナにまたがって5番街へと走っていった。
5番街に着いたザックスは中古の衣装やアクセサリーを売り買いする店に、クラウドの着ていた服を持ち込む、店の買い取り価格が結構高い値段だったのでザックスは言い値で売った。
結構な金額を入手したザックスはその中の一部をこっそりと自分の”ツケ”の支払いを済ませ残ったお金でクラウドに約束通り食事をおごった。
それからしばらくの間クラウドは多分にもれず男色の趣味のある連中から、声をかけられたり、街で男にナンパされたりしていたが腕に物をいわせて黙らせていた。
* * *
それから7年後、5番街スラムのウォールマーケットにチョコボの馬車に載せられたティファを追いかけて、クラウドは奇妙な文字の看板が飾られていた変な屋敷の前たどりついた。
そこはドン・コルネオの屋敷の前でクラウドは門番に止められていた。
「ここは、ウォールマーケットの大物、ドン・コルネオ様のお屋敷だ。いいか、ドンは男には興味ないんだ。さっさとどっかへ……」
男はクラウドの姿を見るとそう吐き捨てたが、エアリスの姿を見ると急に態度を変えた
「ああっ、良く見たら綺麗な姉ちゃんも一緒! ?ね、どう?うちのドンと楽しい一時を過ごしてみない?」
「ね、ここがドンの屋敷みたい。私、行ってくるね。ティファさんにあなたの事話してきてあげる。」
「ダメだ!!」
「どうして?」
「ここは……、その…… 、……わかるだろ?」
「じゃあ、どうする? あなたも入る?」
「俺は男だからな。無理矢理入ったら騒ぎになってしまう。」
その時エアリスはポンと手を叩き、何回も頷いたがクラウドは気づきもせずに独り言を言っていた。
「かといってエアリスに行かせる訳には…… いや、しかし……まず、ティファの安全が確認出来な……」
エアリスはその場で含み笑いを隠せずにいた、その笑みを見てクラウドが問いかける。
「何がおかしいんだ? エアリス?」
「クラウド、女の子に変装しなさい。それしかない、うん。」
「ええっ!」
エアリスの言葉にクラウドは神羅カンパニー時代の嫌な思い出が、フラッシュバックのように蘇る。
訓練生時代にセフィロスに言われて女装コンテストで優勝してからというもの女性が必要なミッションになると必ずといっていいほどお呼びがかかり任務と言われて何度か女装してミッションに参加した。
そのたび数人の男に言い寄られて嫌な思いをしてきたのである。
「あ、やっぱりダメ?ティファさんを助けるって言ってたよね。」
エアリスの緑色の瞳がまっすぐ自分を見つめている、クラウドは思わずその瞳にたじろいだ。
「あー、いっけないんだー。ティファさんを助ける為ならなんでもやるんでしょ。」
クラウドはしばらくうつむいたまま黙っていたが、ふと顔を上げてエアリスに対してきっぱりと言った。
「わかった。じゃあ衣装やアクセサリーを集めないとな。」
クラウドは何かふっきれた様子でウォールマーケットをあちこち歩き回り、シルクサテンのドレスとハニーブロンドのつけ毛、ダイヤのティアラ、セクシーコロン、セクシーランジェリーをあっという間に集めてきた。
仕立て屋の試着室で着替えて出てきたクラウドにエアリスが目を丸くしていた。
「クラウドちゃん、凄く綺麗。でも、いいな、それ。ね、私に似合うドレス、な〜い?」
そう言うとエアリスは仕立て屋に並んでいるドレスから好みのドレスを見付け出した。
エアリスが更衣室に入って着替えを終えて出てきた。
「どう? 似合ってる?」
(私には敵わないね。)
と、クラウドは密かに思っていた。
こうして完璧に女装したクラウドは、ティファとエアリスという普通でも可愛い女の子二人を差し置いてドン・コルネオのお相手に選ばれてしまうのだった。
その後、事あるごとにティファもエアリスも二人から話を聞いたバレットやシド、ユフィーやヴィンセントに至るまで何かあると『コルネオに惚れられて』と…言われたと言うのは…
また、別のお話。
The End
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