11月も中旬を過ぎるとミッドガル中がクリスマス一色になってくる。
電飾で飾られた家々、ショッピングモールでの華やかな音楽、ポインセチアやシクラメンの鉢植えが花屋の店先にも並んでいた。
FF7 パラレルワールド 白のワルツ
クリスマスプレゼントの箱を持ったクラウディアのポスターが、8番街のダイアナやマダムセシルの店の周りに張り出されると、毎度の事とはいえ必ず数枚は夜のうちに盗まれてしまっていた。
今回のポスターはちょっと背中の露出がいつもより多い赤いドレスで振り向きざまの笑顔の写真だったのである。その背中のラインがあまりにも妖艶で色っぽかったので、セフィロスが苦々しげにポスターを睨みつけたのであった。
そんなある日のこと、クラウドのもとにマネージャーであるティモシーからメールが届いていた。
クリスマスパーティーの出席要請がかなり来ているとの事だった。
しかし治安部では年末年始は人が繁華街に集中するので、反抗勢力の蜂起があったら一般人に迷惑がかかると、毎年のように非常事態体制をひいている。
当然トップソルジャーの一人であるクラウドはミッドガルの警らの方が、クリスマスパーティーよりも優先する仕事なのである。
おまけにクリスマスパーティーの出席要請はクラウディア宛てなので必然的に女装しなければならない。
結果、クラウドとしては全部蹴飛ばしてほしい仕事となっていたのであるが、それでもティモシーが入れてくるのはメインで仕事をしているダイアナとマダムセシルのパーティーなので断るわけにもいかない。
そんな事を考えていたクラウドに横からエドワードが声をかけた。
「腹減ったな、ちょうど飯時だから何か食うか?」
エドワードに声をかけられて今巡回警備中である事を思い出し、頭を切り替え周りを見る。ちょうど7番街のど真ん中。目の前にセブンスヘヴンが有るのはまるであの時のデジャヴではないであろうか?クラウドはそんな事を思ってふと笑顔を浮かべた。
「いいよ。もうすぐランチタイムだからサービスも何もないだろうけど、目の前が知り合いの店だもんな。素通りするわけにもいかないや。」
「おーお、恐ろしい奴だな。元アバランチのリーダーを平気で知り合いというなんてお前ぐらいなもんだぜ。」
「いいじゃん、どうせ中にはルードさんが居ると思うから、安全性の保証は出来るぜ。」
「ルードってタークスのスキンヘッドか、どうして?」
「どうやら俺の幼なじみのティファを気に入ったみたいなんだ。仕事なんだか自分の都合なんだかわからないけど、忙しい時なんて手伝っているって聞いた事がある。」
「へぇ〜〜〜〜!!そりゃ凄いや。」
エドワードがクラウドをエスコートするように店に入ると、ティファが笑顔で迎えてくれた。
「あ、クラウド。いらっしゃい!まーたカッコイイ彼氏つれちゃって!!」
「だ、誰が彼氏だって?!こいつは俺のペアなの!!」
「だからさ、クラウド。おまえそこで一々突っかかるからそうやって苛められるんだっての。」
「あらら…だめでしょ、そこのあなた。クラウドって苛めると可愛いんだもん、そんな事教えてもらってはもう苛められないじゃない。」
「ガハハハハハ!!この間死に神ダインとここで会っていた時とは全く違うぞお前!!もっとも隣りにそんないい男が居たら、お前が目茶苦茶可愛い子チャンにみえるのも確かだがな。」
「む〜〜〜!!!」
クラウドが思いっきり睨みつけるが、バレットも流石に元アバランチのリーダーである。ソルジャーの睨みつけなどでひるんでいては反抗組織を引っ張れない。それ以上にクラウドが女顔なので睨まれても恐くも何ともない。
「ガハハハハハ!!コレで本当に同棲中の彼女が居るのかよ?!隣に居るやつと付き合ってますって言われた方がよほど信じられるぜ。」
「あ、店長もそう思う?私もそう思うのよねーこの間彼女の写真を見せてもらったけど、どうみても可愛い女の子が綺麗な女の人に抱きついているとしか思えなかったもん。」
ティファの言葉を聞いて事実をすべて知っているエドワードが腹を抱えて笑う。あまりげらげらと笑っているのでクラウドに肘でつつかれた。
「エディ。笑い過ぎ!!」
「悪い…あまりにもツボに入った。なにせ俺も思ってる事だからな。」
「エディ、ココでは暴れないけど後で覚悟していてね。」
にっこりと天使のような笑顔を浮かべて笑うクラウドがエドワードには悪魔にみえた。
「は、はい!!済みませんでしたサー!!」
思わず反射的に敬礼をしてしまったエドワードに、ティファとバレットが呆れたような顔をした。
「とにかく、カウンターでいい?ランチ2つね。」
「おう、今日はチキンとほうれん草のパスタとサラダ。コーヒー付けて好きなデザート付けてやる。なにがいい?」
「デザート?チーズケーキぐらいでいいや。」
「男の人らしい選択ね。クラウドは?」
「チョコパフェ!!」
その場にいた店の客が思わずクラウドをじっと見た。
店の片隅でルードが肩を揺らしながら必死で笑いをこらえている。クラウドの隣のエドワードは頭を抱え、バレットにいたっては腹を抱えて笑っていた。
呆れまくった顔をしたティファがクラウドに話しかける。
「クラウド、あんた絶対生まれてくる性別間違えてるわ。」
「これでカンパニーでも1、2を争うソルジャーなんだからな。まったく、俺がノーマルじゃなかったら速効で口説いてるぜ。」
「だってーー!!好きなんだもん!!」
「おーお、地獄の天使と呼ばれる男の実態がこれか。マジでアバランチやめて正解だったかもな。」
「こんな奴と知っていたら殺したくても殺せないって?」
「そんなところだ。あの死に神の隣りに1年も立っていて、よくもまあそこまで可愛らしい事が言えるもんだと感心するぜ。」
「その死に神さん、何を考えているか知らないけど、この間恋人同伴で店に入ろうとしたわよ。」
ティファの発言を聞いてクラウドが一瞬顔をしかめる。しかし彼女は全く気がつかずに話を進めていた。
「セフィロスっていけ好かない奴だって思ってたけど、フィアンセの前ではきちんと微笑むし、優しいし、私の事をあんたの幼なじみって知ってて店に入ろうとしたの。結構義理堅いとも思っちゃったわ。」
「冗談じゃねぇ!あいつがこの店に来たら俺はまともに対応する自信が無い!」
「あ、やっぱり?もっともこの店に来たら珍しがられて注目の的でしょ?だからそう言ったら、クラウディアが部屋に食材がたくさん有るからって、引っ張って行ってくれたの。綺麗だったなー、華奢で細くて。」
クラウドが何ともいえない顔をしてティファの話を聞いている隣りで、エドワードが必死で笑うのを抑えていた。
バレットがそれに目ざとく気がついた。
「どうした?そこの優男。」
「いや…どこぞの英雄さんは恋人に対してやたら甘くてな。危険な場所での撮影なんかこいつが身代わりになったことがあるんだって。」
エドワードの言葉にティファが目を丸くし、バレットが唖然とする。
「そういえばカンパニーの一般開放の時に…」
「ああ、そう言う事。にてるかねぇ?こんな危険な男があの妖精に!?」
ティファとバレットが大声で笑い転げた
「ブハハハハハハ!! 冗談もほどほどにしろ!!」
「そりゃクラウドあの時綺麗だって思ったけど、クラウディアには負けるわよ。」
「悪かったな、その冗談をごり押しされる俺はどうすればいいんだよ?」
笑い転げる二人にクラウドが悪態をつきながら、上手く誘導してくれたエドワードに少なからず感謝していた。
料理が出されて一通り食べ終わった時にバレットがクラウドにカードを渡しながら話しかけた。
「クリスマスシーズンの予約は2週間前から受け付けだ。仲間とパーティーやるなら俺の店を使ってくれ。」
「クラスAだけで28人いるから貸し切りになっちゃうよ。」
「クラスAだけで済めばいいけど、特務隊やクラスSが泣くぜ。」
「ならば3回に別ければいい。うちも儲かって大助かりだ。」
「とにかく俺だけの意見では決められないから、決まったら連絡するよ。」
「ええ、待ってるわよ。今日は二人で19ギルです。」
「あいかわらず安いな。やって行けるのかよ?」
「薄利多売がモットーだ、なんとか利益は出ている。」
クラウドが財布からお金を出すとティファがおつりを渡す。手をあげて店をでると、いつの間にか店の前には行列ができていた。
「へぇ、結構人気有るんだね。」
「みーんな、私の魅力よ!」
明るくウィンクするティファに片手を上げてクラウドとエドワードは店を後にした。
「クリスマスパーティーねぇ、聞きたくない言葉だな。」
「ん?かなりお誘いがあるのか?」
「うん、勿論あっちでね。俺としては行きたくないんだけど、あっちにも付き合いがあるからね。」
「カンパニー主催のクリスマスパーティーは強制的なんだろ?スケジュール調整しておけよ、皆で飲みに行くぜ。」
「俺、酒飲めない。」
「じゃあお前はオレンジジュースだ。」
「ワインぐらい飲ませろー!」
巡回警らの最中だと言うのにクラウドの頭はすでに仲間とのパーティーの事や逃げられないパーティーがいくつ有るか数えていた。
(えっと、デヴィッドさんとマダムとジョニーの親父さんも世話になったし…あ、ルーファウスなんて業務命令で出席させるだろうな。みんな一緒にできない物かなぁ?ん?一緒?そうだよ、いっぺんにやっちゃえばいいんだ!)
「いい事考えちゃった!あ、でも今から大きな部屋借りられるかな?」
「あん?!何の話だ?」
「あ、ゴメン。任務中だったね、エヘヘヘヘ…」
「笑ってもダメ!減点対象だぞ。」
「アイ・サー!」
クラウドがちょこんと敬礼をすると、何事も無かったように警らへと意識を集中させていった。
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