翌日、カンパニーに出社してきたリックが満面の笑顔でクラスA仲間に挨拶をした。 「ウィッーーース!!今日も元気だ仕事を頑張ろーーーう!!」 「やたら元気だな。何か良い事あったのか?」 「さしずめ昨日のパーティーで何かいい物でも引き当てたんだろう?」 「えへへへへへ…ジャーン!!」 リックがこれ見よがしに差し出した両手には黒の革製手袋がはまっていた。クラウドがそれを見てびっくりする。 「あ、リック凄いね。セフィとお揃いの手袋だよ、それ。」 「そうだろうと思ってた。昨日引き当ててから、死守するのに必死だったんだ。」 「おおーー!!そんないいもの引き当てたのか?!」 「おかげで昨日の夜、隊長贔屓のクラスSからかなり苛められた。」 「ザックス、おまえは?」 「俺か?運がいいのか悪いのか、ダイアナの商品券だった。速効でエアリスに取られた。」 クラスAでひとしきり話題になっていた時に、クラスSでは参加出来たパーシヴァル達を他の全員で囲んでいた。 「で?貴殿達が引き当てたのは一体何かな?」 「残念ながら私はその他大勢の一人でしてね、ほら、ブランディ・ケーキだ。」 「私も同じく。」 「ランスの奴、今に見ていろ…」 「ランスロットは何を引き当てたのだ?」 「キング愛用のコロンと同じ物だ。」 「う、羨ましい!!」 なんだかんだ言いながら、クラスSソルジャーはセフィロスのファンであった。 「一番羨ましいのはキングだぞ。姫のパンプキンパイを引き当てただけでなく、感謝の言葉まで言われ、最後にはキスまでもらっている。」 「はぁ…」 「しかし、あのキングが?パンプキンパイですか?」 「姫におねだりされて、ゲストの前で一口食べさせられていましたよ。」 クラスS執務室に盛大なため息がもれた。 ほぼ同じ頃、クラスCソルジャーの執務室でカイルとジョニーが有名なセフィロス・マニアのハンスに捕まっていた。 「昨日のパーティー、どうだった?」 「どうもこうも…飛び入りで変な奴が乱入して大変だったぜ、なあ。」 「ああ、でもクラウディア様って隊長に接する時と、隊長に害をなす者に接する時とはまるで別人だよな。」 「クラウディア様はカンパニーの株価操作の時にお会いした時からああいう感じだったぜ。」 「ジョニー、お前そう言えばビンゴに参加してなかったな。」 「俺?関係者みたいなもんだから辞退したよ。クラウディア様や隊長にご指名かかっただけで光栄だぜ、おまえは?」 「俺?ブランディ・ケーキ。」 「そういえばハンス、リックが隊長と同じ革のグローブもらってるぞ。」 「リックが?でもあいつから奪う事出来ないな。実力が違う。」 「俺、頑張っていつか奪ってやる。」 カイルの一言にジョニーとハンスが笑った。 カンパニーの中が年末に向けて動き始めていた。 休暇の調整に入った者と、はずれクジを引いて残った者とで悲喜交々の様子を見せていた。 クラウドがセフィロスと年末休暇を取るべく溜まった仕事をこなしていると、リックがあわてて携帯片手に部屋を飛び出して行ったのを見つけた。 「リック、どうしたんだろう?」 「ありゃ…女だな。」 「え?!姫一筋じゃなかったのか?」 「リックに女?!ありえねー!!!」 「あいつ隠れキングファンだろ?それが女?!」 「あ、もしかしてミッシェル?!」 「ミッシェルって誰よ??」 「俺の専属スタイリスト。昨日ちょっと有ってさ、目の前でナイフ男みて精神不安定に陥って、それでリックが付いていたんだ。」 「その御礼かな?でーもよ、姫の警護隊長と自称するリックがねぇ」 「お前の専属スタイリストってどう言う奴よ?」 「真面目で優しくて気が強い割りにはもろい所もある可愛い女性だよ。」 クラウドの一言にブライアンがにやりとつぶやいた。 「かけるか?」 「おう、いいぜ。カップル成立に100ギル。」 「俺は”うまくいかない”に100ギル!!」 あっというまにクラスAのその場にいたほとんどの者がカケに参加した。ブライアンがメモに名前とカケの対象を書き込んで行く、その結果は見事なぐらいに半々に別れていた。 クラウドがエドワードとランディに理由を聞いた。 「エディはなぜカップル成立と思ったの?」 「お前の専属スタイリストって事は、ソルジャーの仕事をある程度理解出来ている、それでもこうして電話が来るなら本物だ。」 「ランディはなぜうまくいかないって?」 「あいつの性分かな?いつ死ぬかわからないような仕事をしているのに、女を作るような奴じゃない。」 「期限はいつまでにする?姫がソルジャーを辞めるまでか?」 「え?いつになるかわからないよ。」 「いいんじゃない?姫がここに居る限りここに居る連中は、辞める事はないんだから。」 「俺もいいぜ。女に興味のないリックが女と付き合うとしたら、結果が出るのに時間がかかるだろうな。」 クラスA執務室の中で自分がカケの対象になっているとも知らずに電話を終えたのかリックが部屋に入ってきた。 クラスA仲間が興味津々の顔で注目したので、思わずリックが青ざめる。 「な、なんだよ。」 「いえね、誰からの電話だったのかなって、さ。」 「普通の相手ならお前はここから出て行くような事をしないからな。」 「と、いうことは普通ではないな。お前が俺達に内緒の電話相手なんてさ。」 いつの間にかリックはクラスAソルジャー達に囲まれていた。思わず喉がゴクリとなる。 「ど、どう言う事だよ?」 「至極簡単な問題。リックがかかってきた電話を持って部屋から出た、コレが示す電話相手は?」 「俺達に聞かれてはまずい相手だって事だ。」 「俺達に聞かれてはまずい相手とはどういう相手だ?」 「仕事や仲間からの電話、友達からの電話で無い事は確かだな。」 「では本題。仕事や仲間、友達以外で俺達に聞かれたく無い相手とは?」 「そんなもん、女以外の何者でもないって事よ。」 「さぁ、白状してもらいましょうかね?王女警護隊長殿。姫をほったらかして何処の誰と電話をして来たんだ?」 「それとも、俺達全員を相手に一戦する?」 クラスA仲間に取り囲まれて、リックが究極の選択を迫られていた。 いや、究極の選択と言うよりも”白状しろ”と言われているようなものである。肩を降ろして溜め息をつきながらリックが答えた。 「わかったよ、答える。昨日姫のスタイリストを暴漢から守っていたら、彼女が落ち着くまでそばに居させられたんだよ。その御礼がしたいって言う電話だよ。」 「あ、やっぱり。」 「まあ頑張れ、俺の小遣いはお前にかかっている。」 「振られてこい、俺の小遣いもお前にかかっている。」 「貴様達〜〜〜!!!俺をカケの対象にしたな?!」 「今更?お前もさんざんそうやって稼いでいたじゃないか。」 クラスA執務室が笑いに包まれた。 エドワードがリックに一言つぶやいた。 「おまえさぁ、いつもの癖で”好きだから苛めちゃう”を出したら、一発でひじ鉄食らうから、あの癖だけは出すなよ。」 「ずるいぞ、エディ!入れ知恵をするな!!」 「リック、私服持ってる?ミッシェルはスタイリストだから服には煩いよ。」 「そんなもん、この白のロングで行くに決まってるだろ。」 「うわ!!ダメだこりゃ。俺、かける方間違えた!!」 「おっしゃ!!お小遣い倍増!!」 「ったく。好きだねぇ…」 クラウドはクラスA仲間のやりとりをけらけらと笑いながら見ていたが、思い立って携帯を取り出してある番号をプッシュする。 「あ、デヴィッドさん?クラウドです。昨日はどうもありがとうございました。今日、ちょっとよっていいですかね?部下がデートするのに私服が欲しいんです。」 「こらー!!姫!お前が協力すると俺達が負ける!!」 「俺のことで楽しむな〜〜!!」 リックが何と言おうと、クラスAソルジャー達がやめる訳もない。嫌がるリックを引きずってダイアナに行くのに、面白がってパーシーとランディも付いてきては、デヴィッドの出す衣装をああでもない、こうでもないと、いちゃもん付けまくってはクラウドに怒鳴られるのであった。 カンパニーでの任務を終えるとクラウドは休暇届を出して、クラスA仲間に挨拶をして職場を後にした。 クリスマスから年末年始をコスタ・デル・ソルの別荘でセフィロスとゆったり過ごしたクラウドは、ミッドガルへ帰るとがっちりとクラウディアスタッフに捕まって強い日差しで痛んだ肌をしっかりケアされてから仕事をさせられた。 しかし、いつもならセフィロスとの休暇話を「惚気ないでよ、こっちはまだフリーなんだから!」と、半ばヤケになっていたミッシェルがにこやかに話を聞いていたのだった。
この後、ミッシェルとリックがどうなったかは…また、別のお話 The End
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