ミッシェルは自分も着替えると軽くメイクをしてホールへと入って行った。
 ホールでは白のロングを着たリックが部下達を前に命令を飛ばしているところだった。
「いいかお前達、今日は姫も隊長もザックスもジョニーも何かあった時に力にはなれない。それを覚悟して、ゲストの安全第一をモットーにこっそりと美味い物を食え。」
「アイ・サー!!」
 部下達の大半は黒服を来てウェイターになりすましていた。それぞれが配置に付くのを見届けると、ミッシェルを見つけてリックが近づいてきた。
「何か御用でしょうか?」
「ゲストの安全第一に警護しながらこっそりと美味い物を食べるなんて、難しい注文をあっさりと言うのね。」
「それが出来ないような奴はこの隊には居ません。」
「じゃあ、クラウド君も出来ちゃう訳?」
「いえ、隊長補佐殿はこういったパーティーでは絶対に任務以外の事はしません。」
「ありがとう、まあそう言う子よね。彼って。」
 ジョニーがリックに近寄ってきて、最終確認をすると間もなく時間となり、ゲストを迎えるべくミッシェルはクラウディアスタッフとしてホールの入り口へと立つ美しいカップルのそばへと歩いて行った。
 丁寧におじぎをしてゲストを迎えているクラウドの横で、微動だにせずゲストを迎え入れているセフロスはまるで好対照だった。
 多くの政財界の重鎮が丁寧な挨拶をしてホールへと入って行くと、並べられた料理のすばらしさに思わず喉を鳴らした。
 ゲストが全員入るとジョニーが司会席に現れてマイクを握った。
「末恐ろしい光景だね。クリスおじさんにヘンリーおじさん、フレディおじさんが一つ部屋に居るだけで俺がテロリストならこのホテルを爆破しているだろうな。こんな政財界の重鎮を一気に呼べるのは隊長のお影ですかね?ところでおじさん達。着ぐるみを着てもらうかもしれないから覚悟してね。」
 ウィンクをすると会場スタッフに振り向きパーティーの開始を指示する。
 黒服が一斉にスパークリング・ワインを配りはじめた。

 ジャック・グランディエ氏の言葉で乾杯が行われ、ゲストは料理を食べながら談笑し、ダンスをして少し過ごした。
 クラウドとセフィロスはゲストの中をさまよいながら、あちこちの人に挨拶をして世話になったお礼を言ったり、パーティーに来てくれたお礼を言ったりして忙しく過ごしていた。

 パーティーが中盤にさしかかった所で、クラウドがミッシェルに捕まった。
 化粧が崩れていると言われて控え室につれ込まれ、化粧を直されたのであった。
 再び会場へ入って二人でフロアを歩いていたら、一人の黒服が近づいてきた。その黒服の雰囲気にクラウドがミッションモードに切り替わると、強い視線をリックに送る。リックもそれに気がついて足早にクラウドに近寄った。
 しかし黒服の行動が少し早かった。
 シルバートレイを片手につかみ掛かれる場所まで近寄ったところで、クラウドがいきなり振り返りざまにシルバートレイをたたき落とした。
 手に持った銀色の物体がナイフとわかると、ミッシェルが悲鳴を上げる。
 そのミッシェルを背中に庇いながらクラウドが凛とした態度を取っていた。
「何の真似ですの?」
「お、俺の恋人になってくれないと…殺す。」
「冗談は辞めて下さい、私はサー・セフィロス以外の人は愛せません。」
「どうしてわかってくれないんだ。俺の妖精は…俺だけの妖精は…」
「お黙りなさい!!貴方が勝手に想像した私の像を私に押しつけないで!私は世界の妖精でもなんでもありません!!」

 厳しい態度でキッパリといいはなっていると、周りを特務隊の隊員達が囲む。
 リックが取り乱しているミッシェルを抱き寄せて控え室へとつれていくと、自然とカイルがその場の指揮をとる。
「傷害未遂の現行犯だ、確保しろ!!」
 その瞬間、クラウドめがけてナイフが繰り出された。
 クラウドが軽く身体をひねりながら手刀でナイフをたたき落とした時、後ろから逞しい腕が華奢な体を抱き寄せていた。
 同時に黒服の男を囲んでいた隊員達が一斉に男を組み敷いた。
 クラウドはセフィロスの腕に抱かれながら組み敷かれた男に強い視線を送っていた。

「貴方の知っている私は貴方が勝手に作り上げた偶像です。そのような偶像のためにサーも私もどれだけ苦しんでいるかも知らずに、勝手に英雄だの妖精だのと呼んでおきながら、その偶像が壊れたからと、サーや私の人格を否定するのはあまりにも身勝手過ぎる行為です。少しは考えて行動しなさい!!」
 クラウディアに一括されて男は力なくカイルに連れて行かれると会場にいるほぼ全員が妖精の言葉に身をつまされた。
 ルーファウスが進み出てグラスを片手にウィンクをする。
「気の強いクラウディアと言うのも悪くはないが、あまり気が強すぎるから皆さんがびっくりしているではないかね。」
「あ…きゃ!!どうしましょう。」
 クラウドの頬がいきなり赤くなり、身体をすくめてセフィロスの胸に隠れると、先程までとは全く違う可愛らしい姿が会場の雰囲気を急激にやわらげた。
 ルーファウスがセフィロスに向かって肩をすくめる。
「セフィロス。君のフィアンセは君以外の事になるとこれほどまでに気丈になるのかね?」
「クックック…それがまた可愛らしいのだよ。」
 そう言いながらクラウドの額に唇を落した。

 クラウドはふとミッシェルの事が気になってセフィロスの許可をもらい、コーヒーとケーキを片手に控え室に顔を出して見た。
 控え室では泣きじゃくるミッシェルをリックがもてあまし気味に接していた。
「あ、姫。助かったよ。女の人の泣きやませ方、俺知らないんだよ。」
「そんな事聞くなよ。俺だって知ってるわけないよ。ほら、ミッシェルの好きなモンブランもらってきたよ。」
「クラウド君、お願いだからもうソルジャー辞めて。貴方がケガするのを見るのが嫌なの。」
「俺は大丈夫。だってセフィもザックスもリックも…隊員の皆も居るから、よほどのことがない限りケガなんてしないよ。」
 やさしい声で諭すように話すクラウドに、まさか「何度瀕死になったんだ?!」などと突っ込みを入れるわけにもいかず、リックがその場を去ろうとした時に、コートの端をしっかりとミッシェルが握り締めていたので立ち上がるにも立てなかった。
「あ、あの。自分は会場の警護が…」
「煩いわね。クラウド君は帰らなければいけないんだから、気をきかせてもう少しここに居てくれてもいいじゃないの。」
「ひ、姫〜〜」
「悪いけどリック。ミッシェルの言う通りだよ。俺は招いた方だからもう会場に戻らないといけないんだ。ミッシェルが少し落ち付くまでそばに居てやってほしい。」
「…任務了解。」
 渋々と了承したリックにミッシェルを任せてクラウドは会場に戻った。

 ティモシーが不安げにクラウドに近寄よってミッシェルの事を聞いてきた。ありのままの事を伝えるとティモシーもほっとしたようだった。
 会場の何処に居たのかわからなかったエアリスがザックスをつれてやってきた。
「きゃ〜〜!!クラウディア、今日のドレス素的〜〜!!」
「エアリス。何処に行ってたのかと思ってたわ。」
「ザックスったら貴女があの黒服と対峙していた時に、どこか行っちゃうのよ。恐かったんだから〜〜」
「悪い悪い。コレでも一応ソルジャーだからね、ああいう事が起こった時にVIPの安全を確保しないといけないんだ。クラウディアは隊長が守ってくれるだろうしエアリスは安全な所に居たしね。」
「ゴメンナサイね。こんな事になるとは思わなかったわ。気分直しに楽しいアトラクションをご用意しておりますので、早めにそれをやる事にするわ。」
 そう言うと司会席に立っているジョニーの元に歩いて行き、アトラクションを薦めるよう提言すると彼もうなずいた。
「会場内に不審人物をいれた事をお詫びいたします。場が冷めてしまったようですので、これからアトラクションを行いたいと思います。ジョニー様お願いいたします。」
「了解いたしました、着ぐるみは誰かな?覚悟して下さいよ〜〜」
 ジョニーの一言で会場の雰囲気が元に戻った。


■ ■ ■



 アトラクションが始まると会場中のゲストがクラウディアの引くクジでランダムに呼び出され、司令書と書いた箱から紙を一枚取ると中の指令を実行せねばならないのがルールだった。
 政界では誰もが恐れるような人物がトナカイの着ぐるみを着せられ、財界の重鎮が天使の格好で羽根を背負わされたりされながらも、クラウディアのご指名であるので誰も文句を言わない。
 会場中が笑いに満ちあふれた所でビンゴ大会の時間となった。
「クラウディア様。ムッシュ・アデナウワーもクラウディア様の作ったパイを狙っているのか参加したいとの事ですが、いかがいたしますか?」
「え?どうしましょう?」
「良いのではないかな?ムッシュ・アデナウワーからクリスマス・ケーキが一つ届いているようだし、ムッシュ・ルノーからもチキンレッグのソテーが届いている。」
「そうですか。皆さんに商品が行き渡るのでしたらかまいませんわ。」
「と、言う訳でカードの用意は良いですか?READY GO!」
 ジョニーがボードを操作して番号を読み上げると、会場中が一喜一憂していた。
 読み上げられる数字が増えて行くとしだいにビンゴになる人が次第に出てきた。
 クラウドの持つ箱の中から数字の書いてある紙を引き、番号に寄って持って帰れる物が決まるのである。
 皆二人の関連する物が欲しくて狙うが、はずれクジを引いてあらかじめ用意してあったブランディケーキと手袋のセットを持って帰る。
 やがて初めて二人の関連する物を宛てた人物に、どよめきと、ため息が漏れた。
 そうしてすべてのものがゲストにわたるとセフィロスとクラウドが司会席へと立った。
「本日はお忙しい中お集まりいただきましてありがとうございました。本来なら皆様一人一人に1年お世話になった御礼を申し上げねば成りませぬが、今宵はすでにお開きの時間とあいなりました。最後にほんの一ヶ月前に思い立ったパーティーを実行するにあたって尽力して下さったジャック・グランディエ氏と、ジョニー・グランディエ様。そして私の大切なスタッフ、会場を警備して下さったサーの配下のソルジャーさん達、そしてずっとそばにいて支えてくださったサーに…感謝いたします。」
 会場中に拍手が起こる。クラウドはとなりに立っていたセフィロスに向かって、ふわりと微笑む。セフィロスがクラウドを抱き寄せて軽く唇を重ねた。
 一部始終を黙って見ていたランスロット達が顔を見合わせてクスリと笑った。