クリスマスパーティー用の支度をすべておえて、気がつけば日付はすでに21日となっていた。
今夜はクラスA仲間たちとのクリスマスパーティーである。明日にはクラスSのパーティーに呼ばれていたのだが、自分だけだったのでセフィロスを通じて「支度で忙しくて行けない」と、断っていたのをザックスがなぜか聞きつけていた。
「セフィロス、寂しがっていたぜ。お前が居てくれないからさ。」
「だってークラスS扱いという理由だったら、ブライアンやエディ、ザックスだって呼ばないとだめだろ?なのに俺だけなんて絶対ひいきの引き倒しだよ。」
「え?言ってなかったっけ?一応お呼びは来たが、速効で断った。クラスSの中に入って肩身の狭い思いはしたくない。」
「俺もエドワードと一緒だ。」
「俺は元々クラスS扱いじゃないから呼ばれもしないぜ。」
「そう言う事なんだ、でも俺だって一人じゃ嫌だもん。」
そう言うとセブンスヘヴンへと移動する為バイクにまたがった。
今日の事はセフィロスも承認済みで『絶対酒を飲むな』と、厳しく注意されてはいたが、クラウドとてまだ未成年なので、大手を振って酒が飲める年齢では無かったので了承済みだった。しかし、ザックスとリックにもセフィロスはクギを打っていたようであった。
「隊長、少し過保護なんじゃないのか?」
「あ、それはあいつの責任じゃねェよ。こいつ酔うと可愛さ200%アップなんだ、そんな姿を他人に見せたくないって言う独占欲だよ。」
「そ、それは少しみたいかも…」
「ダメ。死にたいのか?!それから間違っても店の中で、セフィロス関係の話をしたら、クラウドに殺されるから覚悟しろよ。」
「ああ、そういえば2、3ヶ月前にそんな喧嘩してたな。」
そんな事を言っているうちに7番街に到着した。
店の前ではティファがサンタガールの格好をして待っていた。
クラスAソルジャー達が一斉にナンパに走る。
「おお!!ティファちゃん、スタイルいい!!」
「今日は彼氏来ていないの?」
「彼氏?誰よそれ、私はまだフリーです。」
「じゃあ俺と付き合わない?!」
「俺は?俺は?!」
「ソルジャーさんお断り!しかもクラウドの仲間でしょ?隣にそんな美人が居るのに私が勝てる訳がない。」
「び、美人って何だよー!!」
「おまえはカンパニー1の美人じゃねーの。もっとも同棲中の恋人の方がもっと美人だけどな。」
「あ?ああ、そうかな?いい勝負だと思うけど?」
「あっちは美人、こっちは美少女。」
「お。巧いねー!!」
クラスAソルジャーが大笑いをしながらセブンスヘヴンに入って行くと、店の中はバレットの娘であるマリンお手製のクリスマスの飾りつけが日ごろ飾り気のないカフェバーだった店を可愛らしくしていた。
店の奥で店主のバレットが既にキッチンで忙しく動いている。
店員達も出来上がった料理をテーブルに配置していた。
パーティー帽をかぶったマリンがかわいらしく、クラスAソルジャー達を迎えてくれた。
「いらっしゃいませ、お兄ちゃん達恐い人なの?」
「恐い?!おいおい、店長。可愛い娘に何を間違った事を覚えさせた?」
「ガハハハハハ!!間違ってねぇじゃねえの。泣く子も黙るソルジャーさんだろ?」
「困るんだよなー。こんな可愛い子にそう言う間違った事教えちゃダメだぜ。だから俺達全然もてないんだ。」
「幼稚園児相手にもてる事を考えるなよ!」
「あれ?店長、知らないの?可愛い子には小さい時から目をつける!!そして手なずけておいて、年ごろになったら頂く!!」
「ぶっ!!俺の娘は間違ってもやらねぇぞ!!」
店の中で大きな笑いが巻き起こっていた。
店員達も料理を乗せた皿を運びながら、笑いをこらえるのに必死だった。
パーティーは始終こんな感じで気心のしれた仲間と楽しくふざけつつ過ごした。
料理を持ち帰るためにこっそり専用の袋に詰めていたクラウドを目ざとくティファが見付けた。
「こーら!クラウド!!何お土産作ってんのよ?!」
「え?だって料理残ったら勿体ないだろ?家で待っている人が居るから、持って行ってもいいじゃないかよ。」
「彼女って、料理出来ないの?」
「あんまりキッチンにたった事はないよ。だって…」
「ああ、車いすだったっけ。」
「でも本人が言うには、一人住まいが長かったから料理上手だって。」
「え?あの人が?信じらんねぇな。」
「でも姫と出会う前は、一人だったはずだろ?」
「まぁな。でもよぉ考えられる?あの人がエプロン付けてキッチン?!」
「フリルなんて付いていたらどうするよ?」
「うわーーー!!考えたくない!!」
「そう?美人さんだから似合うんじゃないの?」
クラスA仲間が全員お互いの顔を見合わせると皆顔を青くさせて黙り込んでしまった。
ティファの言葉に、クラウドがちょっと困ったような顔でぽつりと答えた。
「う〜ん。エプロンは付けたところをみたことないな。だいたい上手だから服を汚さないんだ。」
「あ、そう?あまり惚気ないでね。こっちはまだフリーなんだから。」
全く不思議な顔一つしないでティファが皿を下げて行った。
クラウドがクラスA仲間を見渡すといまだに青い顔をしているので首をかしげた。
「え?何?皆あの人がキッチンに立った事ないと思っているの?」
「お前が立った方がはるかににあっていそうだ。」
「ぶー!!」
ふくれっ面でドギーバッグを抱えてクラウドが席を立ったのをきっかけに、セブンスヘヴンでのパーティーがお開きになった。
その日、セフィロスと暮らすマンションに戻ったクラウドは、既に帰っていたセフィロスが珍しくエプロンを着けてキッチンに入っていたのを見て、思わずパーティーでのクラスA仲間との会話を思い出し吹き出してしまったのだった。
クラウドが吹き出した理由をベットの上でさんざん攻めまくりながら、なんとか聞き出したセフィロスは気絶するように眠る愛妻を抱きしめながら複雑な心境で横になったのであった。
■ ■ ■
翌日、クラスAの執務をこなして一旦マンションへ帰ったクラウドは、パイ生地を作って寝かせておくと、明日のパーティーの準備の為シェフォードホテルへと出掛けた。
ジョニーと落ちあってシェフォードホテルへ入るとジャック氏が出迎えてくれた。
ホテルにはクラウディアが手配したお土産や明日の飾りつけが用意されていて、明日の出番を待っていた。
ムッシュ・ルノーに会いに行くと、クラウドはパイを3つ焼かせてほしいと頼んだ。パーティーのビンゴ大会の景品にすると理由を伝えたら、ルノーは自分も参加出来るかと聞いてきたので、ジャック氏が大笑いした。
そして当日、治安部を休んでクラウディアになりシェフォードホテルの厨房でパイを3つ作って焼いていると、ミッシェルが入ってきた。
「はぁ〜い、クラウディア。ムッシュ・アデナウワーから差し入れよ。」
ミッシェルの手元を見ると、ミルフィーユが皿に乗っていた。ルノーが下ごしらえをしながらコーヒーを入れてくれる。 クラウドはミッシェルと並んでケーキをほおばっていると、白のロングコートをひるがえしてリックが飛び込んできた。
「クラウディア様。サー・セフィロスの命令でお手伝いに参りました。」
「え?サーは来て下さらないのですか?」
「部下の書類の提出が遅れていてそれが終ってから来るとのお言葉です。」
そう言うとオーブンにセットしてあったパイを取り出す為にミトンを取る。クラウドがそれを制してリックにコーヒーを薦めるとミッシェルの隣に座って身体を小さくしてコーヒーを飲んだ。
「リックさんでしたわね。パイを焼き終わったら会場へ参ります。コーヒーを飲まれたら、すみませんがミッシェルと一緒に先に会場の飾りつけをお願い出来ますか?」
「了解いたしました。なんでしたらカンパニーから2、3人背の高い奴を呼びましょうか?」
「嫌みかよ、リック。」
ぼそりとつぶやいたクラウドの一言に思わず噴き出しそうになるのを必死でこらえて、ミッシェルが会場の報告をする。
「そういえばジョニーは会場で先にジャック氏と何かやってましたよ。スタッフを動員してくれるようね。」
「そう、ジョニー様とジャック氏には感謝してもし切れませんね」
「大丈夫です。あいつは自分と一緒で美しい女性の言う事ならなんでも聞きます。」
リックの言葉にサラダを作りながらムッシュ・ルノーが思わず吹き出していた。
コーヒーを飲み終るとミッシェルがリックを引っ張って会場へと消えた。
クラウドはパイを形成し終えてオーブンで焼きに入っていた。
20分焼き上げるとしばらく冷まし、ケーキボックスを取り出して丁寧に入れるとリボンで縛る。3つの箱を持ってルノーに挨拶をしてから厨房を後にし、パーティー会場へと入った。
中ではリックがミッシェルにこき使われていた。
「ほらそこー!!もっと綺麗に丁寧に!!」
「こ、こうか?!」
「よし、上出来。次行くよ!!」
そんな二人組を横目で見ながらクラウドがテーブルにケーキボックスを3つ置くと、ジョニーが近寄ってきて中身を確認しようとするので思わず伸びてきた手をはたいた。
「ちょっと、キシュとミートパイとパンプキンパイですわ!のぞくなんて失礼じゃなくて?!」
「いえいえ、ムッシュ・ルノーが誉め称えるほどの料理の腕をお持ちなのですから味見なんてして見たいなーと…」
「からしパイでよろしければ後で作ってさしあげますわ。但し、サーの許可を取って下さいませ。」
わざとらしくぷいと横を向くクラウドをジョニーがにやにやと眺めていた。
やがて飾りつけが出来るとミッシェルがクラウドをがっちりとホールドして、控え室へと連れ込むとマダムとデヴィッドの共同デザインのドレスを着せてきっちりとメイクアップしはじめた。
「もう、あんなに動く事ないのに。」
「そんな事言っても…」
「リックさんって貴方の部下なんでしょ?任せてしまえばいいのに。」
「そう言うわけにもいかないよ。一応ホストなんだもん。」
「まあ、ね。仕方がないか。」
そう言うと少し離れて全体をみては細かく仕上げていった。
すっかり支度ので来上がっているクラウドが部屋で待っていると、扉をノックしてセフィロスが入ってきた。
タキシードをびしっと着こなした姿は思わず見惚れてしまうほどで、クラウドがポ−−−っと見つめているとミッシェルが呆れたような顔をして、背中をぽんと押して悠然と立っていた英雄に引き渡した。
ゆるやかな笑みを浮かべてクラウドを軽く抱きしめ、頬にキスを送ると、セフィロスはきっちりと妖精をエスコートしてホールの玄関へと歩いて行った。
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