カンパニーの中をクラウドが白のロングコートをひるがえしながら歩いていると、久しぶりにルイスとすれ違った。
懐かしさのあまりクラウドがつい声をかけてしまうと、ルイスは最敬礼で硬直し敬語で受け答えをしてしまった。
「なんだよ、ルイス。同じ寮仲間だったじゃないか、タメぐちでいいんだぜ。」
「そ、そんな事をしては上官達に殺されてしまいます。自分の上官はサーの大ファンなんです。」
「ルイスの上官?たしか第25師団に移動したんだよね?サー・アノリア殿か、まったくクラスSソルジャーなのに。」
そう言うクラウドの胸元に見覚えのあるターコイズのペンダントを認めて、ルイスが思わずつぶやいた。
「あ、それウェンリーのペンダント。」
「あ、うん。もらったんだ。俺を守ってくれるってウェンリーが…」
「あいつ…ズルいな、俺だって出来るもんならそうしたいよ。」
「ありがとう。嬉しいよ。」
そう言うと携帯の呼び出しに答えながら去って行くクラウドを寂しげな瞳でルイスは見つめていた。
「本当、ずいぶん遠い存在になっちゃったな。訓練所時代から抜きんでて出来る奴だったけどさ…」
そうつぶやきながらルイスは訓練所へと歩いて行った。
一方、クラウドは歩きながら首のペンダントを嬉しげな瞳で見ては頬を赤らめていた。
昨夜セフィロスは自分を抱きながら、一旦奪っていたターコイズのペンダントをはめてくれたのだった。
「お前が他の男の思い出を付けているのを容認したくは無いが、この石がお前を守ってくれるというのなら付けていろ。」 仏頂面でそうつぶやいたセフィロスが愛しくて、クラウドは何度もたくましい彼のにしがみついては「自分には貴方しかいない」と、喘ぎながら囁いたのであった。
クラウドがうっすらと微笑みを浮かべながら歩いているので、下級ソルジャー達が思わずその艶っぽさに呆然と見とれてしまっていた。そこへ氷の英雄が姿を現した。
「あ、隊長。何かご用事でしょうか?」
「いや、今から特務隊の執務に入ろうと思った所だ。」
セフィロスがつれなくきびすを返そうとすると、クラウドが思わず見惚れるような笑みを浮かべていたので、一瞬とはいえ足を止めてしまいゆるやかに微笑んでしまった。
ほんの一瞬だった為クラウドに見惚れていた下級ソルジャー達が気づくはずもなく、セフィロスはいつものように副官を従えて特務隊の執務室へと歩いて行った。
その日、シェフォードホテルに出かけたクラウドが、ムッシュ・ルノーに紹介されたパティシエは、やはりムッシュ・アデナウワーであった。
彼の作ったケーキを食べた事があったクラウドはその味に満足していたが、1,000個という大きな数のケーキを依頼する事に少しとまどっていた。
「ムッシュ・アデナウワーの腕は何度かケーキを頂いて知っておりますけど、何しろゲストの人数が多いので…かなりたいへんなこととおもいます。」
「なにも生クリームを付けたケーキばかりがケーキではありませんよ。シュトーレンやブッシュド・ノエルもありますし、ブランディー・ケーキのように一日ぐらいおいた方が美味しい物もあります。」
「ブランディー・ケーキですか。男の方が多いので、そう言うケーキのほうが良いかもしれませんね。」
「ミハイル、料理に出すデザートも頼めるかい?」
「もちろん、クラウディア様のお役に立てるのでしたら喜んで担当するよ。」
「わ、私はそれほどの人間ではないと思いますけど?」
「おや?そうですか?先日のミッドガル・デパートでのご活躍はいまだに覚えていますよ。それにサー・セフィロスと共催ともお聞きしました。サーのお役にも立てるのですから光栄の極みですよ。」
「サーも貴方がメインパティシエになってくださるかもしれないとお伝えしたら、それは最高だとおっしゃっていらっしゃいましたわ。」
「うれしゅうございます、クラウディア様。ところでクラウディア様のケーキはいかがいたしますか?」
「サーは甘い物はあまりお好きではありません。ですから私の分の小さいケーキが有れば…」
「承知致しました、ショートケーキを20種類ほどお作りいたしますね。」
しっかりとミッドガルデパートでのケーキ買いこみのことを覚えている名パティシエの一言に、クラウドは真っ赤になり、ムッシュ・ルノーは必死で笑いをこらえるのであった。
■ ■ ■
クリスマスパーティーに関することはほぼ決まってきた。
マダムの店でドレスの仮縫いに引っ張り出されるのが残ってはいたが、それは個人的な事である。
翌日、出社した時にジョニーにそれを告げると、彼はにっこりと笑ってクラウドの頭をポンポンとなでた。
「経験が無いとかいいながら良くやったじゃねえの。」
「エヘヘヘヘ(w)」
「シェフも一流、パティシエも一流、プレゼントはきちんと自分で選んでいる、言うことないぜ。姫が日ごろの感謝をする為に開いたと言ったのが伝わると思うぜ、他人任せにしていないと言う事じゃないか。」
「そ、そうかな?」
「ゲストをもてなす心がなければパーティーはうまくいかない。あとビンゴ大会の景品だけど、特別に姫達でなければ出せない物がいいぜ。」
「セフィロスが日ごろ愛用している商品と同じものとか?」
「そう言う事だな。他にはお前の作った料理一品とか、な。」
「一品ぐらいならキシュでも作るけど?」
「それはいい。目の色が変わる連中が山ほど居るぞ。」
そう言うと軽く手をあげて自分の任務へと歩いていくジョニーに、クラウドはこの先何をねだられるかわからないなと少し不安になっていた。
とにかく手配は全て整って、あとは本番であるパーティーを迎えるだけであった。
一安心すると、クラスA執務室に入る。いきなり仲間たちから声がかかった。
「よぉ、姫。俺達は何処でやるんだ?」
「お前の暇な日に合わせないとどうしようもないんだ。」
「セブンスヘヴンの店長が使えって言ってるよ。それに21日までなら俺は空いているけど。」
「セブンスヘブンね、悪くないが…取れるのか?」
「なんなら電話して見ようか?」
そう言ってクラウドは携帯を取り出してセブンスヘヴンの店の電話を呼び出す。3コール目で目的の人物が電話を取ったようだ。
「なんでぇ?!地獄の天使かよ?」
「ああ、俺だ。クラスAソルジャー仲間で店を貸し切りたい、21日の夜なんて空いてないかな?」
「へへへへ…残念だったな、生憎空いてるぜ。」
「そうか、そう伝えておくよ、折り返し電話をする。」
「ああ、待ってるぜ。デザートはチョコパフェだったな。」
電話の向こうでげらげらと大声で笑う声はティファだろう、全く人を何だと思っているんだろうと思っていたら、電話口に出た。
「クラウドー、なんだったらクリスマスケーキを3段で出すわよ〜」
「ちょ!ティファ!3段ってなんだよー!!」
「あら?!知らないの?!1段めはその日パーティーに来てくれた人に、2段めは来れなかったゲストの為に、3段めは子供が産まれた時に食べるのよ、覚えておいてね!」
「それ、ウェディングケーキじゃないか!!」
携帯に向かって怒鳴りつけながら電話を切るクラウドの頬が真っ赤だったので、クラスA仲間がその会話を思わず想像してしまった。
「何て言われたと思う?」
「推測は出来るが、斬られたくないな。」
「ウェディング・ケーキって事はアレだろ?1段めは当日のゲストに、って奴。」
「でもよぉ、それならお相手がいるんじゃないか?」
「ティファちゃんが思っているお相手なら、エディじゃないのか?」
「聞きたくない!聞きたくない!!聞きたくなーーーい!!!」
耳をふさいで叫んでいたエドワードの背後に、気配を消したリックが近づいていていつの間にか後ろから首を軽くホールドしていた。
「え?!エディ誰が誰のお相手なんだって?!」
「た、助けてくれ…」
苦しそうなエドワードの声にクラウドがすぐに反応した。
「リック、エディを離して。彼が悪い訳じゃないよ。」
「俺はお前に関る男を統べて排除する義務があるんだ!」
「どっかの隊長より質が悪いな。」
「ザックス、殺されたいか?」
「残念だったな、リック。俺はお前に負けるつもりは微塵もない。」
にっかりと笑うザックスの自信は、クラスS3人を同時に退けた物から来ている。その余裕の笑みを正面に見てリックが溜め息をついた。
「ちぇ!!全く誰がこの山猿にこんなに自信を付けさせたんだよ?」
エドワードの首をホールドしていた両腕をほどくと、肩をすくめたようなポーズをする。
エドワードがザックスに軽く手をあげた。
「助かったぜ。」
「いいって事よ。おい、リック。そこまでしてセフィロスに忠誠を誓わなくてもいいと思うぞ。だいたいここにはクラウドをどうこうしようって奴はいないと思うぜ。皆おまえと一緒で何処かの英雄に憧れてるからな。」
「おまえは〜〜!!軽々しく言うけど、姫は隊長殿の奥様なんだぞ!姫に何かあった時に隊長になんて申し開きをすればいいんだ?!」
「だーかーら、ここにはそう言う奴は居ないって、こいつの実力も知っている上に、キングの強さもよく知っている。お前は外でキングが暴走しないよう見張っていろよ。」
「お、エドワードいい事言うじゃん。こいつに関する事で一番恐いのは何処かの英雄が下級ソルジャーや一般兵相手に暴走する事だぜ。」
「そ、そうかな?隊長がそうそう暴走するとも思えないけど?」
「いや、ありえる。お前の事になるとあのお方は前後不覚になる。一般兵相手に”俺の妻に手を出すな!”って事になりかねん。」
「……それはいえてる。」
クラウドの一言にクラスA執務室がわらいに包まれた時、セフィロスはルーファウスに捕まっていた。
ルーファウスがジョニーに頼んで入手したゲストリストを見て驚いて呼び出したのだった。
「ミッドガルの政財界の重鎮達がごろごろいたな。あの連中が全員でると言っているのか?」
「ティモシーに言わせると速効でOKの返事が来たそうだ。」
「リーブなんかよりも、お前を都市部門の統括にしたほうがよさそうだな。」
「私だけでは無い、クラウディアの魅力もかなりプラスされている。どうする気だ?あいつが男とわかったらそいつらがどう出るかわからんぞ。」
「そうだな、それもそろそろ考えねばならなくなってきたか…魔晄炉もあとミッドガルに8残すだけだからな。それよりも、クラウドはこの先もモデルの仕事を続けてくれるだろうか?」
「今の状態では難しいな。あいつは常に多くの人達を騙しているということで悩んでいる。それを除いてやらねば続けないだろうな。」
「君たちは社内婚だから、彼には退官してもらうつもりだが、あれだけの腕を眠らせるのも惜しいな。」
「私のいない所で命に係る仕事をしてほしくない」
「セフィロス、貴様はどうする気だ?」
「あいつが隣りにいないのであれば、私は戦場には立たぬ。」
「貴様も第一線を退くか…ランスロットが喜ぶだろうな。」
皮肉な笑みを浮かべてルーファウスがセフィロスの前から去って行った。
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