クラウディアとセフィロス主催のクリスマスパーティーの開催は、色々な所で余波があった。
 呼ばれたゲストが別パーティーを主催していたり、別パーティーに呼ばれていたりとダブルブッキングの模様だったが、いきなりほぼ全員がクラウディアのパーティーに行きたさに、それぞれ最初に行くはずの場所をキャンセルした。
 おかげで大幅にゲストが入れ代わったりしたパーティーもあったようだが、しばらくすると一段落したのか人々の関心事が他の事へと移って行った。

 クラウドがデヴィッドとマダムセシルにドレスの事で呼ばれた時、びっくりするような事を聞かされた。
 ジョニーがミッシェルを伴ってマダムセシルの店でドレスを選んでいたというのだ。
 高級なロングドレスしか置いていないような店でも、最上級クラスのドレスをジョニーが選び出してミッシェルが思わず遠慮したと言うのである。
 ジョニーが選んだドレスはマダムが見てもセンスの良いドレスで、ミッシェルにはぴったりの上品なデザインだった。
 値段も聞かずにカード決済をして、店の前に停めてあったリムジンに乗り込んで、どこかへ出掛けたと言うのである。
「それって、ジョニーがマダムの店で買い物するぐらいの凄い場所へミッシェルをつれて行ったって事?」
「まあそう言う事ですね。」
「たしかあの日はシェフォード・ホテル主催の何かのイベントがあったから、それのパートナーとして引っ張り出したんじゃないかしら?」
「うわ!!ミッシェル大丈夫だったかな?」
「ミッシェルは大人の女性だから場所に合わせることができるさ、君の部下も度胸の良い彼女を見込んでのお誘いだったんだろうな。」
 そんな事を話しながらもドレスのデザインを決め切れなくて、結局スタッフに相談する事になった時、クラウドがミッシェルにこっそりとその話を聞いた。
 ミッシェルもジョニーに1番最初にその場所へつれて行く事と、なぜ自分を選んだのか理由を聞かされて、納得したうえでの事だったらしい。
「シンデレラの心境だったわ、彼本当に上流階級のご子息なんだもん。マナーもレディに対する態度も一流よ。思わず惚れちゃいそうだったわ。」
「そうかな?セフィには負けると思うけど?」
「うわ〜〜〜!!!出ましたお惚気!!」
「はいはい、そこまで。ミッシェル、時間がないから早く決めたいんだけど。」
「俺としてはこの3枚目のデザインがいいと思うけど、ダメ?」
「ええ〜〜!!グラッグ酷いよ、ひざ上20cmなんて嫌だ!!」
「このデザインはデヴィッドさんね、短いの好きなんだから。んー、やっぱりサーの隣りに立つならロングドレスのほうがいいわね。」
 そう言ってミッシェルはシンプルだが品の良いデザイン画を選ぶと、ティモシーもそのドレスで了承したが、グラッグが難色を示した。
「招く方は派手でないほうがいいかもしれないが、もう少し華美なデザインの方がクラウディアらしいと思うな。」
「言えてるけど…シンプルなデザインでもいいと思うわ。サーにあわせないといけないし、大体ロイヤル・ブルーなんでしょ?」
「うん、よく知ってるね。」
「何処かの誰かさんがやたら貴方に着せたがる色だからね。」
 スタッフがにっこりと笑いデザイン画をクラウドに手渡す。そのデザイン画は胸にゆったりとしたドレープのあるシンプルなデザインだったので、クラウドもこれならと了解した。
「今回ヒラヒラが少ないからまだいいけど、いつも腰の当たりにドレープと切り替えがあるのは何故かな?マダムのドレスってココでの切り替えのある奴少ないよ。」
「それは君が男だからだと思うよ。」
「腰回りがぴったりだと男だってばれちゃうでしょ?」
 クラウドが一瞬びっくりしたような顔をすると、スタッフが笑顔を見せる。その笑顔を見てクラウドも彼らが実に気の付くスタッフであるのを今さらながら納得した。


■ ■ ■



 カンパニーの仕事をしながらのパーティーの企画は、かなりスタッフとジョニーの手に寄って出来上がってきてはいたが、クラウドもそれなりに動かねばならなかった。
 自らプレゼントとなるものを買いに行ったりするため、クラウディア姿での外出も多くなり、その姿で帰宅しては時間がないのでそのまま家事をこなす事が多くなっていた。

 セフィロスは相変わらずカンパニーの人員削減や治安部の方針をルーファウスやランスロットと話し合いながら、クラスSの任務もこなしていた為、パーティーの準備はクラウドに任せ切りとなっていた。
 今夜もデパートへ買い物に行った帰りなのでワンピースにエプロンを着けてパタパタと料理をしていると、セフィロスの車が地下の駐車場に止まった合図が聞こえてきた。
「あ、いっけなーい、もうそんな時間なんだ。」
 あわててお出迎えに行こうとしていたので、クラウドはフライパンで右腕にちょっと火傷をしてしまいました。
「痛!!」
 ちょうどその時玄関の前まで来ていたのであろうか?セフィロスがあわてて扉を開けて飛び込んできた。
「どうした?!クラウド」
「え?あ、セフィお帰り。ちょっと火傷しちゃった。」
 蛇口から水を流しながら腕に水を当てているクラウドの腕を取って、セフィロスが火傷の後を見付ける。既に水ぶくれができていた所に唇を寄せながらケアルガの呪文を唱えると、一瞬で水ぶくれもそれに伴う痛みも無くなってしまった。
「こんな火傷にケアルガなんて、やり過ぎだよ。」
「お前の身体を傷つけたとなると色々と煩いからな。それに腕も痛いであろう?」
「う、うん。ちょっとは…」
「それを理由に「お断り」されては嫌だからな。」
 意味深にセフィロスがにやりと笑うのを見て、思わずクラウドが真っ赤になる。そんな可愛らしい愛妻の肩を抱き寄せてセフィロスがクラウドの額に唇を落した。
 上目使いのクラウドが頬を染めて照れたような視線を送ってくる。
「こら、そんな顔して誘うな。」
「さ、誘ってない!パスタが冷めちゃうだろ。」
「クックック…お前は本当に可愛いよ。」
 拗ねて唇をとがらせているクラウドにキスをしたかったが、その気持ちを抑えないと食事が出来そうも無かったので、先にキッチンへと入ると、テーブルの上に湯気の立っているパスタが置いてある。遅い時間なのでクラウドが量を調整しているのであろう、量はあまりなさそうであるが芳ばしい香が漂ってくる。

 手早く食事を終えてリビングに移動すると、テーブルの上に領収書が並んでいた。手にとって見ると、どうやらパーティーのゲストに配るプレゼントのようである。
 いつものようにクラウドがカモミールティーを持ってリビングにくると、セフィロスの手に有る領収書を見取って話しはじめた。
「クリスマスプレゼント代わりなんだから、手袋かマフラーだよね?いくつあってもいいから手袋にしたんだ。それとケーキは明日、ムッシュ・ルノーが良いパテェシエを紹介してくれるって。」
「ムッシュが紹介してくれるようなパテェシエなら超一流だな。」
「ムッシュ・アデナウワーじゃないかなって思っているんだ。」
「すばらしい。何処のパーティーにもひけをとらないぞ。」
「ね、セフィロス。俺達ってそんな凄い人達を自ら参加させられるほどの資格みたいな物を持っているんだろうか?」
 クラウドが少しくらい顔をする。
 英雄と呼ばれている男とその恋人である世界の妖精といわれているモデルとが主催すると言うのが理由にならないと、クラウドは思っていた。何しろ自分はそこに集まる人の多くを騙している。そのことがクラウドの表情に暗い影を落していた。
「思い切って俺、白状しちゃおうかな?」
「かまわないぞ。私はお前がそばに居てくれればいい。」
「う…ん、ありがとう。でもティモシー達に相談してから決めるよ。彼らはクラウディアのプロデュースで収入を得ているからね。」
「そうだな。そのほうがよかろう。」
 クラウドはセフィロスにゆったりと抱きしめられながら先のことを考えていた。
 魔晄炉を封鎖して星のエネルギーを使わないようにするのは、この星の為だとわかっている。魔晄にふれてモンスター化する動植物が今後増える事はないだろうし、星の力を取り戻すべくカンパニーに反抗していた反抗勢力がしだいに減りはじめていたのも確かである。
 そうなるとカンパニーとしても方針転換をして行かねばならない。
 だから今セフィロスはルーファウスやランスロットとカンパニーの治安部の将来像を求めて話し合っている最中なのである。
 それは今ほどソルジャーや兵士が要らないのは確かであった。
 既に治安部では新規採用をやめて、下級兵士達で実家が商売をやっている者から希望をとって退職を認めはじめていた。

 クラウドの寮仲間であったウェンリーが、すでに家の商売を手伝うと言う理由で、退職すると教えてもらったのはつい先週の事であった。
 ひさしぶりに会ったウェンリーは明るい顔で笑いながら話してくれた。
「俺、戻るって連絡したら両親に泣かれたよ。やっぱりいつ死ぬかわからない仕事をされたくなかったみたい。クラウドは強いからこのままソルジャーとしてしばらく残るんだろう?」
 そういわれて苦笑いするしかなかった。
 まさか自分は副業でリストラの対象人物であるとはいえない。
「そうだね、まだ北の大空洞のモンスター退治が待っているんだ。それが終るまで死ななければ、間違いなくカンパニーに居ると思うよ。」
「そうか、クラウドって最前線で指揮しているんだもんな。俺なんかよりよっぽど命がけなんだ、それも大変だね。」
 そう言うとウェンリーは自分がお守りにしていたターコイズのペンダントを首から外してクラウドに渡した。
「俺なんかよりもよっぽどお前を守ってくれると思う。もらってくれ。」
 そう言うとウェンリーはにっこりと笑ってクラウドの前から去って行った。
 そのペンダントを取り出してクラウドが見つめていると、横からセフィロスが彼の手のひらをのぞき込んだ。
「誰からもらったんだ?」
「昔の寮仲間だったウェンリーだよ。退役する時に俺を守ってくれるからと渡してくれたんだ。」
「そんな石捨ててしまえ。お前は私が守る。」
「捨てられないよ。せっかく俺の事を思ってくれたのに。それとも何?セフィは俺が他の男からプレゼントをもらうのが嫌なんだ。」
 どうやら図星だったようだ。
 セフィロスが思わずクラウドを抱きしめている腕に力をこめてしまったのであった。
 クラウドが思わず意味深な笑みを浮かべ、もらったペンダントをいじりながら囁いた。
「ふふっ…セフィがやきもち焼いてくれるなら、俺に気のある奴らに笑顔ふりまいちゃおうかな〜〜」
 セフィロスはその言葉を聞きながらクラウドをがっちりと抱きしめ、ウィークポイントの一つである耳を甘噛みする。いきなりクラウドのからだから力が一気に抜けた。
「クックック…悪い子だな。そう言う事を言う子にはしっかりとお仕置きをせねばならん。」
 そう言うとすでに蕩けはじめているクラウドの唇を塞ぎ、濃厚なキスをたっぷりとあたえてから、姫抱きにしてベットルームへと抱き抱えて行った。