ニューイヤー休暇が明けてミッドガルへと戻ってきたクラウドとセフィロスには、休暇中に仕事がたっぷりと溜まっていた。
 セフィロスには治安部でランスロットが処理出来切れない書類や会議が、クラウドにはスプリング・セールのポスター撮りの仕事がはいっていた。
 クラウディアの専属スタイリストであるミッシェルに捕まってコスタ・デル・ソルで日に焼けた為に痛めた肌を白くする為に多くの男性モデルが通っている有名なエステサロンに引っ張って行かれたのだった。


FF7 パラレル小説     Missing  


「も〜う、そんなに日焼けしちゃダメでしょ。」
「仕方がないだろ?コスタ・デル・ソルでのんびりしてたんだもん。」
「とにかく今日は集中ケアで白くなってもらわないと仕事にならないの!」
 そう言ってぐいぐいとエステサロンのあるビルへとクラウドを引きずって行こうとする。そこへエアリスがちょうど通りかかった。
「あらクラウド君、それとミッシェルさん。」
「わお!!天の助け!!エアリス今時間有る?」
「え?ええ。今日はお店休みだし…」
「ちょうどいいわ、一緒に来ない?タダでエステ受けさせてあげるから!」
「え?本当?!いくいく!!」

 こうして年上の女性二人に両方の腕を取られて、クラウドはビルの5Fにあるエステサロンへと連れて行かれたのであった。
 エステサロンの受け付けでミッシェルが予約の名前を言うと、VIPルームへと案内された。通された部屋には薔薇の花がいけられて香しい香を部屋中にふりまいている。エステティシャンが来るとミッシェルは嫌がるクラウドをトランクス一枚にしてベッドへと押さえつける。隣りのベットに身体にタオルをまいたエアリスが横になった。
「うれしいな〜〜、エステだなんて!」
「俺は嬉しくない。」
「え〜?!なんで?エステを受けた後は身体だけじゃなくて、心までリッチになった感じがするのに。」
「俺、男なんですけど…」
「あら?仕事が仕事だもん、そんなに日に焼けたらダメじゃないの。」
 むくれるクラウドの背中にエステティシャンがぺたぺたと何か塗りつけている。エアリスの背中も同じことがされているので横を見ると緑色のどろっとした液体が、彼女の背中じゅうにぬりたくられていた。
 思わず顔をしかめたクラウドにくすりと笑ったエステティシャンが穏やかな声で説明した。
「大丈夫ですよ。これはミネラルの豊富なミディールの温泉の泥に海藻から取ったエキスを混ぜたものです。美白効果と保湿効果がありますので、お客様のように日焼けをされた肌を白くするのに効果的なものです。」
 そう言われると体を塗り終えたのか軽く一礼してエステティシャンは部屋から出て行った。
 ミッシェルが代わりにその理由を説明してくれた。
「そのまま30分ぐらい放置して体になじませるの。その間ヒマだから私ちょっと表でティモシーに打ち合わせの電話を入れるわね。」
 そう言ってミッシェルも部屋を出て行った。

 扉が閉まるとエアリスがクラウドへ話しかけた。
「コスタ・デル・ソルなんてあたたかそうでいいわねー」
「え?ああ…うん。仕事柄収入だけは有るから俺の名義で別荘を買ってあったんだ。」
 クラウドはコスタ・デル・ソルの別荘のことや、そこであったこと、食べたものなどをかいつまんで話すと、エアリスは興味津々とばかりにうなずいたり笑ったりして聞いていた。
「いいなー、いいなー。ねぇ、今度は私を連れてってほしいなー」
「俺と?ザックスが焼き餅を焼かないかな?」
「ザックスはクラウド君とだったらやきもちなんて焼かないわよ。心配なのは何処かの誰かさん。」
「ええ?それこそやきもちなんて焼かないよ。俺とエアリスの会話を『女同士の会話だな。』何て言うんだぜ。」
「じゃ…ためしにやってみる?」
 エアリスが緑色の瞳を小ずるそうに輝かせていた。
 クラウドが答えを迷っているうちに再びエステティシャンが2人入ってきて、二人の背中に塗りつけたパックを剥がしていくと、今度は何かのオイルをぬられてマッサージを施される。
「うふっ、気持ちいいでしょ?」
 エアリスが満足げに聞いてくるが、クラウドにはどこが気持ちいいのかわからない。
 しばらくしてマッサージが終ると今度は仰向けにされて腕や顔にさきほどの海藻泥パックを塗りつけられてまた放置される。今度は口元にもぬられている為何も喋れない。仕方がないのでしばらく目を閉じていると疲れが溜まっていたのか、クラウドはすやすやと寝息を立てて眠りはじめた。

 どのくらい眠ったのであろうか?エアリスとミッシェルが揺り起こす声で目が覚めた。

「え?あれ…俺って…。」
「良く寝てたわよ。」
「さっすが、きっちりと白くなったわね。」
 ミッシェルがニコニコとしているのにクラウドはむくれている。そんな姿を壁際でエステティシャンがくすくすと笑っていた。
 鏡を見るとコスタ・デル・ソルで日に焼けていたはずの肌が、以前よりも増して白くなっていたのだった。
「さー、これでどんな服でも似合うようになったわね。ばりばり仕事してもらうからね。」
「はぁ…」
「あ、そうそう。エアリスの分も支払っておいたから安心してね。エアリス、ますます美人になったわね。」
「うふっ、ありがとー!」
「さて、行きましょうね。」
「あ、お仕事?!行こう行こう!!」
 こうしてクラウドは再び両腕をがっちりと二人の女性にホールドされ、撮影を行うスタジオへと連行されて行くのであった。

 スタジオではデヴィッドがクラウディア仕様の一点物をもって他のスタッフと共に待っていた。そこへミッシェルとエアリスに連れられてクラウドが入って行った。ティモシーがクラウドを見てほっと安心した。

「よかったよ、コスタ・デル・ソルで休暇を過ごすって聞いたから、あわてて予約しておいたけど正解だったな。」
「おや、彼がそんな情報をよく漏らしましたね。」
「ああ、クラウド君は何も言ってませんよ。ミッシェルがどこからか聞いてきたんですよ。」
 ティモシーとデヴィッドの会話を聞いてクラウドがびっくりした顔で口をはさんだ。
「え?俺がコスタ・デル・ソルで過ごす事を教えたのはザックスとリックだけだったはずだけど…あ!!」

 クラウドはクリスマスパーティーの翌日の事を思い出していた。
 あの後ミッシェルはそのリックと会っているはずなのである。

「ミッシェル。リックから聞いたんだね?」
「当たり前でしょ?ザックス君の連絡先なんて知らないもの。あ、エアリス経由で聞けばいいか。」
「ダメなの、教えてあげられない。ザックス喋ってくれないの。セフィロスが恐いって。」
「確かに恐そうだな、特に二人っきりで休暇を取っている時に邪魔が入ったりしたら、容赦なさそうだ。」
 ミッシェルがデヴィッドから衣装をもらうと、クラウドを引っ張って更衣室へと入って行く。
 仕方なく衣装に着替えると、待っていたかのように化粧を施され髪型を整えられる。
「うふふふ、さっすがエステの後ね。化粧の乗りがいいわ。」
 クラウドが目の前の鏡を見ると、そこには自分なのだが自分では無い女性が映っていた。思わず自分の女顔を嘆きたくなる。

「はぁ…何処からどう見ても女の子の顔だよな。」
「こーら、クラウディア。男言葉禁止!」

 クラウドがため息交じりに更衣室から出ていくと、スタッフから安堵の声が上がった。
「ああ、やはりクラウディアじゃないと、こうはいかないな。」
「うん、あいかわらず綺麗だ。」
「カメラ・スタンバイOKです。」

 グラッグの声に床にテープでマーキングしてある場所に立って、カメラのレンズに対して正面を向く。デヴィッドが可愛らしい日傘をクラウドにその傘を小道具に使いはじめた。両手でもったり、片手でふざけて持ったり、傘を広げてポーズを取ったりしていた。

「う〜〜〜〜ん、さすがね。」
「もう1年以上になりますから。」

 グラッグがカメラのシャッターを立て続けに切っている。
 あっという間にデヴィッドの依頼を終え撮影した写真をTV画面に映し出して見た。デヴィッドがその中の一枚を指差すとグラッグがそのデーターからポスターを起こす。出来上がったポスターに満足げにデヴィッドがうなずくと撮影が終了した。
 普段着に戻ったクラウドはそのままエアリスに引っ張られて、6番街にある繁華街へと連れられて行ったのだった。


 6番街のスーパーマーケットの前をクラウドとエアリスの二人は歩いていた。

「お買い物ー、お買い物ー」
「何が欲しいんだい?」
「あのね、今日の夕食の材料。なににしようかな?」
 そう言いながら腕を組んで6番街の街中を歩いていると、優しげな笑顔のクラウドとそのとなりで目を輝かせているエアリスは普通のカップルにしかみえない。いや、むしろ美男美女の周りの目を集めるカップルである。
 楽しそうに会話しながらスーパーに入り食材を買い込むと、クラウドが自然と持って歩くのでエアリスが喜んでほっぺたにキスをした。

「ありがとー、やっぱり優しいのね!!」
「いや、そんな事ないよ。」
「えー?!そうかな?買い物に付き合ってくれて荷物まで持ってくれるなんて絶対やさしいよ。うん。」
 そう言われると嫌ともいえずクラウドは結局エアリスの家まで荷物をもってあげたのであった。

 その姿を巡回警ら中のクラスBソルジャー2人がしっかりと見ていた。巡回中のソルジャー達は憧れの上官の相手の女性が誰であるか全くわかっていなかったので思わずうわさをしあってしまった。
「あれって、サー・クラウドだよな?」
「うん。隣りの女性って一体?」
「サーのお相手は車いす美人って話しだったよな。」
「ああ、でもどう見ても普通に歩いていたよ。」
「じゃあ…浮気?」
「やっぱり、強いと女性にももてるんだな。」
 なぜ「強いともてる」のかよくわからないが、しかも”も”って何だよ、”も”って!!二人のクラスBソルジャーはそう言う結論を出してしまっていた。
 そしてその結論はあっという間にクラスBソルジャーの中に広まってしまい、噂に敏いクラスAソルジャーのランディの耳に入ったのであった。
 情報を仕入れた途端、クラスA執務室に飛び込むとランディは大声で報告した。
「今、クラスBから聞いたけど姫が浮気してるって!!」
 その一言にクラスAソルジャー達がいきなり色めきだった。
「嘘だろ?!姫が?!」
「まさか!?」
「あのだんな様一途の嫁が?一体何処の誰と?」
「何で俺じゃないんだよーーーー!!」
 リックの叫びを別として、他の連中は至極まともな反応をする。ランディが仕入れた情報を得意げに話しはじめた。
「何やら目撃したクラスBの連中に言わせると、6番街のスーパーから出てきた姫が女を連れていて、その女が買物袋をもってくれてる姫のほっぺにキスしたんだって。そのあと仲良く腕を組んで何処かに歩いて行ったって話しだ。」
「ま、マジ?!」
「あの姫が?!」
「う、嘘だろーーーーー!!!」
「と、いうか…まさかその噂がクラスSまで行っていないだろうな?」
「そ、それは何とも。」
「やべぇ!!血の雨が降るぞ!!」
 ザックスがクラスS執務室へと駆けだすと、クラスAソルジャーの多くはその後に続いた。