神羅カンパニー治安維持部第13独立部隊、通称「特務隊」。
 カンパニーが誇るトップソルジャー、セフィロス率いる一個小隊である。
 その部隊には暗黙の不文律が存在していた…はずだった。



FF7 パラレル小説 「trust you」  


 特務隊の執務室で隊員のジョニーとカイルがヒソヒソ話をしていた。
「…と、言う感じなんだ。ちょっとおかしいだろ?」
「ん、まあ…あいつのことだから大丈夫だとは思うが…何時頃からなんだ?」
 ゆっくりと扉が開いてザックスが入ってくると、自分に気がつかずにひそひそ話をする二人を見て、驚かそうとこっそりと近づいた。その間もジョニーとカイルのひそひそ話に聞き耳を立てていた。
「だいたいクリスマスあたりからかな?最初はあいつが珍しくし服を買い込んで戻ってきたのがきっかけだよ。こそこそと電話に出たり、夜の巡回ぎりぎりに戻ってきたり…挙動不審なところばかりだ。」
 どこかで聞いたような会話にいきなりザックスが口をはさんだ。
「あー、クラウディア・スタッフのミッシェルのことか?確かにリックらしくないが、クラスAでは好意的に見ているぜ。」
「うわ!ザックス!」
「いきなり出てくるなよ!」
「いやー、わりぃわりぃ。どこかで聞いたような会話だったからさ。でもよぉ、心配するようなことじゃねえだろ?あいつだって男なんだ。表じゃクラウドに惚れてるなんて言ってるけど、一応ストレートでノーマルなんだからさ…」
「いや、そう言う意味じゃない。隊長が恋人を作って、おまえも恋人がいる今では、以前と違って『恋人を作るな』なんていう暗黙の不文律なんて形をなしていないのはわかっている。けどよぉ…それで万が一の時、自分の命を捨ててでも隊長や姫を守れるんだろうか?」
 セフィロス直属の精鋭部隊である特務隊は、常に最前線での戦闘や危険度の高いミッションを担当することが多い。それゆえ隊員たちは未練なく死ねるように恋人を作ることはしてこなかった。
 しかし常に死に場所を求めていたはずのセフィロスが、クラウドという年下の少年とすでに幸せな婚姻生活を送っていて、ピンクなオーラを撒き散らしていた。
 私生活では様変わりしてしまったが、戦闘時におけるセフィロスは相変わらず冷静沈着な氷の英雄だったので、隊員たちも安心していられたのであるが、彼らの中で一つだけ変わったことがあった。

『何をおいてもクラウドを守る事!』

 それは彼らが実際に男色の毛があるとか以前の問題ではなく、やっと感情を出すようになった憧れの男がブチ切れるとしたら、彼の最愛の人の命にかかわることが起こった時だと悟っていたためであった。
 おまけにクラウド自身は自分の命よりもセフィロスの命を優先するため、自らの体を投げ出すことがある。
 必然的に体格も良くソルジャーとして強化されているセフィロスを守るより先に、クラウドを守ることを約束しあっていたのであった。
 そのリーダー的存在だったのがリック・レイノルドだったのである。
 リックは16歳でタークスのスカウトに出会い、カンパニーの治安部養成所に入所し卒業と当時に一般兵として入隊した。
腕っぷしも良ければ、体力、精神力とも一般兵としてはず抜けていた彼は、当時セフィロスをリーダーとする部隊が隊長を残して全滅した際に、特務隊の隊員として引き抜かれた。
 カンパニーの治安部に入隊する隊員はほとんどと言っていいほどセフィロスに憧れて入ってくる。彼も例外でないため憧れの人のそばに仕えることができた時、彼の一挙手一投足を真似てきていたのである。
 それゆえ「影の隊長」と呼ばれるまでになった男が、どうしたことかここ最近浮ついているから同僚であり腹心の部下であるカイルが心配しているのであった。
 そんなカイルの気持ちを察したのであろうか?ザックスがにかっと笑って答えた。
「大丈夫だ、カイル。前にも言っただろ?好きな奴ができると、是が非でもそいつのところに帰るって気持ちになるんだ。だからもっと強くなりたいって、俺はいつも思っている。たぶんセフィロスもクラウドも同じように強くなりたいって思っているだろうな。だからリックが少しぐらい浮かれていても大丈夫。その分俺たちが守ってやればいい。」
 いままで不真面目な面しか見たことのない男のまじめな言葉に思わずカイルとジョニーが目を丸くしていた。
「ザックス…おまえ、柄にもなく男前なことを言うなよ!」
「うっひゃー!ちょっと前まではどこかの姫君に尻をたたかれてた男には思えないな!」
「まあ、俺が本気になった理由は色々とあって、な。」
「見せてもらおうか、調子に乗せると突っ走る癖がある奴のマジな姿って奴を。」
「ああ、それさえなければ、いつでも上官として認めてやるんだがな。」
「俺はもう調子に乗って馬鹿やりたくないんだ。」
 ザックスはこのところやたら真面目に勤務していた。
 それは「彼女ができたからだ。」とか「彼女の父親に”ふまじめな奴との交際は許さない”と言われてた。」とか言われていたが、実際はセフィロスとクラウドのためであった。

 神羅カンパニーは魔晄の力を電力にして供給することで収入を得ていた。
 その魔晄の力は星の命の源であるが故、摂取し続けているとやがて枯れ果ててしまう。星の命の源が枯れ果ててしまえば、そこで暮らす生命すべてがやがて息絶えてしまうのである。
 だからカンパニーは種の絶滅を防ぐためにも魔晄の力を封印していく方針を打ち出した。
 そしてそれは神羅カンパニーに対して妨害工作を行っていた反抗勢力が目的を失うことであり、誤って魔晄の力にふれてモンスターと化す動物を防ぐことにもなる。
 そうなると反抗勢力や強大なモンスターが出現しなくなり、大人数の私設軍隊である治安部を持っている必要がなくなるのであった。

 将来的に現在の治安部は要人警護や人材派遣のような仕事をすることになると言われているのである。

 その時、一番影響力のあるセフィロスが第一線を退き、残ろうとする多くの隊員たちを退役させることになっているのである。
 そしてセフィロスの隣にしか立ちたくないと公言しているクラウドは、その時に治安部を辞めることが既に決められていたのであった。

「俺はセフィロスとクラウドに安心して第一線を退いてほしいから…もう馬鹿をやるつもりは全くない。なにしろあと八基、しかもここミッドガルにしか魔晄炉は残っていないんだもんな。気を引き締めていかないと、天下の英雄と地獄の天使を追い出すんだ、ゆっくりしていられるかよ。」
「ったく。馬鹿猿って言えなくなっちまうじゃねーか。」
「お前らしいよ、ザックス。せいぜい協力するぜ。」
「ああ、頼んだぜ。ジョニー。」
 いつのまにか副隊長らしい顔つきになってきたザックスに、カイルとジョニーはふと口元を緩めた。
 そして大元の話をカイルが思い出したように尋ねる。
「で、リックのことはクラスAの方が詳しいんだ。何か情報を持っていないのか?」
「ん?ああ、あいつはミッシェルとの付き合いは、向こうとこっちとでの情報交換のためのパイプのためだと言ってたぜ。なんせクラウドの奴がセフィロスと一緒に、行き先も告げずに正月に旅行行っちゃっただろ?行き先次第では美少女モデルに日焼けさせておくわけにいかないから、ケアもしないといけないって訳。こっち側としても、撮影先であの二人になにかあって、こっちまで引きずってくる場合があるからなぁ。その何かを聞きだせるから対処もしやすいって事なんだ。」
「なるほど…それがクリスマス以来あの二人がつかず離れずでいる理由なんだ。」
「リックらしいというか…なんというか。相変わらず真っ直ぐで不器用なやつだな。」
 3人が顔を見合せてくすりと笑っていると、当のリックとセフィロス、クラウドが特務隊の執務室に入ってきた。
「あれ?珍しい3人組だね。」
「ん?そうか、このところよく見る組み合わせだ。」
 たしかにリックが準クラスAソルジャーとして扱われるようになってから、この3人はよく一緒になっては遊んでいた。しかし以前とは違いクラウドもリックもそれ以上突っ込んで口を挟むことをしなくなった。それはやはりザックスの態度の変化がきっかけであった。

 入ってきた3人にザックスが持っていたファイルを見せながら声をかける。
「ああ、そう言えばセフィロス。ランスロット統括から次のミッションをもらった。北コレルのアバランチ一掃だとよ。」
「そうか、わかった。」
 第13独立小隊に手渡されるミッションは、この隊以外の隊員たちではクリアできないことが多いため、無条件で引き受けることが多い。それゆえクラウドも少し前まで統括に呼ばれてミッションを言い渡された時、即答でOKしていたものである。クラウドが隊長補佐としてクラスSの任務を少しずつ学び始めた今、統括からミッションを受け取る役目は副隊長のザックスの仕事になっていたのである。
「ザックス、どこを引き連れていくつもり?」
 クラウドはいつも自分が決めていた「後方支援」と「側方支援」の隊をザックスに決めさせようとしていた。

 特務隊の隊員たちは実力はあるが魔力が極端に低い隊員たちが多い。それゆえ一般兵としてはトップクラスどころか下手な下級ソルジャーでも倒せる実力を持ってはいるが、回復魔法すら数回かければ魔力が尽きてしまうほどである。
 隊によって得意、不得意という分野がどうしても存在する。だからミッションによっては後方支援や側方支援を得意とする軍と一緒に取り組むことになっている。
 最前線担当だが魔力の少ない特務隊は、魔法部隊や後方支援を得意とする輸送部隊とどうしても組む必要が出てくるのである。

 ザックスは少し考えてクラウドに答えた。
「そうだな、あそこの反抗勢力はマシンガンやバズーカーでの武装が多い。どうしても回復魔法は必要だから第9師団から4人ほど…そして後方支援として同じく銃撃部隊の第26師団の第一小隊に頼もうかと思っている。」
 ザックスの答えにセフィロスがにやりと笑った。
「ほぉ、お前が真面目にやっているというクラウドの報告も、あながち嘘ではないようだな。」
 実力がある癖に不真面目な態度と書類をためる癖があったため、つい最近までザックスはクラス1stでトップを張っていたのであった。それゆえ爽やかな外見と気さくな性格の持ち主だった彼なのに女性から全く声がかからなかったのであった。ところがここにきてザックスが本気モードで勤務し始めたのが知れ渡ると、面倒見の良い彼をよく知っているクラスSソルジャーたちは皆、副官に欲しがった。
 しかしザックスは実力はあるが実戦での指揮経験がない。ゆえに戦略を学ぶという意味で特務隊の副隊長を拝命することになったのであった。
 ザックスに実力があるとわかったとたん、事務のお姉さんたちが急に噂し合い、ひそかに狙っていたのか、先日のバレンタインデーでのフリータイムではクラウド、エドワードに次ぐクラスA第三位のチョコレートを獲得したのであた。
 そんなにたくさんのチョコをもらってどうするのか見ていたら、開けることなくクラウドの持っていた麻袋の中に入れていたので、クラスA仲間に「欲しがってたくせに!」と揶揄されながらも「どうしても裏切れない人がいるんでね」と鼻の下をのばしていた。
 そんなザックスをクラスA仲間は「熱があるのか?」とか「ミッドガルに雪が降る」とか揶揄したが、リックとクラウドだけは「やっとマジになってきた」と喜んでいたのであった。

 ザックスの判断に笑顔でうなづいていたクラウドが彼に問いかけた。
「それでいいと思ってるの?」
「いや…思わない、できれば無駄な血は流したくない。かといって北コレルに知り合いはいないしなぁ…」
「それがいるんだよなぁ。ちょっと聞いてみる?たしかセヴンスヘヴンの店長さんが北コレルの出身だよ。」
 クラウドの一言にザックスが目を見開いた。