神羅カンパニーがやるべきことの中に、魔晄炉の封鎖とともに、魔晄に触れてモンスターと化した動物たちの排除があった。
 そして地域によっては、そのモンスターを討伐する時期が限られていた。



Be alive



 ザックスが統括のランスロットに呼び出されて戻ってきた、それは特務隊にミッションが下ったことを指示している。隊員たちも既にわかっているのかミッションの内容を聞きたそうな顔をしていた。
 会議から戻ったセフィロスとクラウドが部屋に入ると全員が整列する。
「御苦労、ザックス。北の大空洞だな。」
「ああ、なんせ夏だもんな。」
「夏でも寒そうだけどね。」
 ザックスがセフィロスにミッションの内容を報告する前に会議で話が出たのであろう、二人共すでに行き先を知っていた。そうなると彼らがいささかげんなりしている理由もわかるというものである。
「そーとー会議でつっこまれたんじゃねーの?『キング、ぜひ我らをお連れ下さい!』ってさ!」
 ザックスの言葉にセフィロスが渋い顔をし、クラウドが苦笑を隠せないでいる。しかし北の大空洞は30人に満たない特務隊一隊だけでは、なかなかモンスターの排除もできない地域なのである。
「それで…ザックスはどうするつもり?」
「俺?俺なら公平に二週間ぐらいの交代で入れ替えだろーな。長期にわたるミッションだろ?俺たちは何とかなるだろうけど連れて行く連中がもたないんじゃねーのかな?」
「リックはどう思う?」
「ザックスの意見と一緒です。それなりに戦ってもらわないと、俺たちだとて長期ミッションは持ちません。できればクラスAからトップクラスを一時的に特務隊に引き抜きたいほどです。」
「あ、それは俺も同感だ。この隊は実力はあるけどなんせ人数が人数だ、追加するなら体力と魔力と実力を考えれば、クラスA以外は不要だけど、どうせとっかえひっかえ連れてくるなら連中全員引き連れていってもいーんじゃない?」
「おいおい、ザックス。合宿か何かじゃないんだぞ。」
 影の隊長と呼ばれるリックですら苦笑を隠せないザックスの発言に、隊員たちですらいささかあきれていたようであったが、クラウドがきょとんとした顔でセフィロスにたずねた。
「でも、隊長殿。北の大空洞のモンスターは強いと聞いているので、そのぐらいしないと前線は大変なんじゃないですか?」
「クラウド、クラスA全員を連れて行ったら、ただでさえ煩いクラスSがなんて言うのかわかるだろ?」
「ん〜、じゃあ妥協案。隊が随行しているクラスS、クラスAは派遣中特務隊に所属、入れ替わりで交代って言うのはどうです?随行している隊は自分とザックスとリックの指揮下に入るということで指示も可能だと思います。」
「そりゃまたすんごい折衷案だな。」
「自分としては後ろで指図するクラスSよりも、クラスAの方がはるかに使えると思うんですけど?」
「自分が口ばかりで使えないのがわかれば、いくら共に戦いたくとも自ら下がるであろう。足手まといになるような奴はいらんと言ってあるし、それがわからぬような奴に隊長や副隊長を張ってもらう必要はない。」
 セフィロスが折衷案を承諾したことで実質的にクラウドの提案が通ったことになる。ザックスがリックを見るとうなずいていた。
「じゃ、そーするか。」
「どうでもいいがザックス、おまえ先日の北コレルでの肉体労働のせいでゴンガガ訛りが酷くなったみたいだな。」
「へ?!俺、訛ってた?」
「ああ、そーとー訛っていたぜ。」
 カイルがザックスのまねをしてゴンガガ訛りで話すと隊員たちが爆笑した。(注:どこぞの地域でしか聞かれないゴンガガ訛りネタは某自虐SSのみです。)

 実質的にどういう順番でどこの隊を連れていくかという話し合いに入りだすと、すでに用事は済んだのか、トップの4人以外は自分の装備品の確認に走りだした。ザックスが中の一人に声をかける。
「あ、エリック。例の奴の手配も頼むぞ。」
「え?あ、ああ。出現モンスターと地図ですね、了解しました。」
 軽く敬礼してエリックがパソコンのデータベースにアクセスするのを見て、再びザックスが正面を向いた。
「で?どういう順番で連れていけばいいか…俺はまだそこまでわかっていないからクラウド、頼んでいいか?」
「隊長殿、魔法部隊のことですが、やはり三分の一づつですか?」
「ふむ、それもそうだな。」
 魔法部隊は代わりになる部隊がいない。だからこそ常に部隊の中から数人がよその隊に随行する形になっている。今回のように長期のミッションの場合、隊を分けて派遣されることが多いのである。
「隊を別けるなら、ブライアンにも意見を求めておきます。」
「そこで何故リーの名前がでないのかな?まったくうちの隊員たちはクラスSをなんだと思っているんだ。」
 セフィロスが苦笑するとリックが肩をすくめ、クラウドは頭をかき、ザックスは首を振った。
「そりゃ…尋ねにくいからです。」
「俺たちクラスAにとってクラスSは怖くて近寄れねーんだよ。」
「上官はあくまで上官か…仕方がないことだが、私もそのクラスSだぞ。」
「「「隊長殿は特別です!」」」
 自分は特別…それはセフィロスが最もよく言われていて、一番嫌いな言葉のはずだった。しかし3人の部下に言われたこのセリフは嫌ではなかったようだった、緩やかな笑みを浮かべたと思ったら、すぐにいつもの冷静なクラスSソルジャーの顔に戻っていた。
「ところで、クラウド。あの連中にきちんと『夏中はミッドガルにいない』と言っておけよ、主役のいない誕生パーティーなんて企画されても誰も来ないぞ。」
「あ、うん。北の大空洞ミッションはほとんど決まっていたから既に言ってあるよ。」
「そうか、ならばあとは連れて行く隊の順番を決めて出発のための調整だな。」
「あ、セフィロス。クラスAから2,3人特務隊にこのミッション限定で引き抜きかけた方がいーんじゃない?」
「それはお前たちに任せるが、引き抜くレベルはわかっているのだろうな。」
「ああ、エディ、ブライアン、パーシー、ゴードンの予定だ。この連中なら文句は言わないだろうしな。」
「そいつらならすぐにでも許可する。書類の書き方はクラウドに聞いておけ。」
「あいよ!んじゃ、クラウド仕事すべぇ。」
 ニコニコと笑っているクラウドがすぐ隣にいるリックに声をかけた。
「リック、あまりエディをいじめないようにね。」
「場所が場所だから遊んでる暇ないよ。」
 やっぱりお遊びなのか?!という言葉をぐっと我慢してクラウドはザックスにほかの部隊の特徴を教えるべく、パソコンを起動させた。


* * *



 クラウドに他の隊の特徴と人数を聞きながら、ザックスが頭をかきかき隊の組み合わせを考えていた。その時扉がノックされてドアの向こうから声がかかった。
「第15師団副隊長エドワード、第9師団副隊長ブライアン、第7師団副隊長パーシー、第25師団副隊長ゴードン入ります。」
「あっれー?!まだ正式に呼んでねーぞ。」
 自分が呼ぼうとしたクラスA仲間が自ら出向いてきたので、びっくりしたような顔をザックスがあげると、扉を開けて4人が入ってきた。一礼した後それまでの様子を一転させいきなり愚痴を言い始めた。
「ザックス、俺たちを引き抜くのは構わんのだが…隊長殿が拗ねるんだよ。まったくクラスSソルジャーだというのに…」
「どうせお前は姫に引き抜かれるんだろう…って。俺たちはお前たちのおかげでそれなりの力をつけたから、呼ばれれば答えてやりたいけど…まさか憧れのクラスSが拗ねる姿が拝めるとは思わなかったよ。」
「あはははは…クラスSも察しがいいなぁ。んで?覚悟はできてるってことか。」
「まあな…いくら特務隊とはいえ、その人数ではどうやっても6週間持たない。最初から呼ばれることはわかっていたさ。」
「足元すらおぼつかないような場所もあることだし、本当ならたくさんの隊を引き連れて行きたくはない所だけど…なんせ場所が場所だ。保険はたっぷりと欲しい。」
 真面目な顔で話すザックスに、誰も突っ込みを入れる者はいなかった。既にザックスは『おふざけキャラ』を脱出しつつある。クラスA仲間が黙ってうなずいていた。
「ブライアン、6週間の長丁場だ。魔法部隊は代わりになる隊がいないから、隊員が倒れない程度に回復と補助魔法を使える奴を期間中均等に配置したい。できるか?」
「第9師団の人数は43人だ。ミッドガルにも念のため少し残しておかねばならんから均等別けするなら10人ぐらいずつだ、」
「あ、そうじゃん!なぁリック。足場のもろい場所だって話だが、銃撃部隊って必要か?」
「場所を考えてみろ、俺なら連れて行かない。」
 リックの答えにザックスが納得すると、配置案のところに書いてあった第26師団を二重線で消した。
「おーお、マーチンがうらやましい。」
「「「なーーー!」」」
 クラスSソルジャーたちとは大違いで、クラスAソルジャーは特務隊に呼ばれる事が、どういうことかよく理解していた。一番厳しいと予想されるミッションを担当するのが特務隊なのである。そんなところに呼ばれれば、常に生死の境を一人で生きぬかねばならないということである。実力がなければやっていけない隊に呼ばれてやっていけるかどうかというのに、クラスSがいくら憧れの英雄やその姫君と一緒に戦いたいと呟き続けるのが信じられないぐらいである。
 4人のクラスA仲間の声に苦笑をしながらクラウドは扉の向こうの気配の主のことを伝えた。
「エディ、ブライアン、パーシー、ゴードン。その第26師団の隊長殿が扉の向こうにいらっしゃるよ。」
「うわ!マジかよ?!」
「ああ、マジだ。場所が場所だけに置いて行かれそうだから先に手を打ちに来たのだが…やはり銃撃部隊は不要ですか?」
 扉を開けて入ってきた第26師団隊長のトリスタンが、部屋の奥で固まって話しているクラスAソルジャーたちに話しかけた。
「サー・トリスタン。覚悟はされていたのではないのですか?」
「姫やキングに銃撃部隊が不要といわれるのは覚悟していたが、まさかお前達に言われるとは思わなかったな。」
「しかし、場所がら機銃で掃射した時に、ただでさえ危うい足もとが崩れたり、硬い岩盤で跳ねかえった弾が味方を射抜くこともあり得ます。北の大空洞では剣か魔法のみで戦闘することになると思います。」
 クラウドが正論を繰り広げるとトリスタンも苦々しい顔をする。
「まったく、銃撃隊の弱点を言われては引き下がらざるを得ませんね。しかし、私はツキがないようだな…エメラルドの時も一緒には戦えなかった…少しさみしいですよ。」
「それは…自分には何とも言えません。」
「仕方がない…としか言えないです。」
「それしか言いようがないですね。」
 特務隊のクラスA3人組がそれぞれの言い方で対応しているのがほかのクラスAにもよくわかる。部屋の奥でセフィロスが全く表情を変えずに、トリスタンに答えた。
「お前がなんと言おうと状況は変わらない。場所に適していなければ連れてはいけないというのは先ほどの会議でも言ったはずだ。諦めてミッドガルに残っているのだな。」
 あこがれの英雄に最後通牒を突きつけられて、第26師団隊長は肩を落として特務隊の執務室を去って行った。