クラスA仲間とクラウドの助言をもとにザックスが北の大空洞へ行く際の編成を組み終わった。その表をセフィロスに見せると一覧してうなずいた。
「どうだ?ザックス、隊を率いるのは大変だろう?」
「へーんだ!へこみませんよー!俺があんたを引退に追い込むんだかんな!この程度で大変だなんて言ってられっか!」
「クックック…それもそうだな。ならばこれをクラスSとクラスAの全体会議で発表するか?」
「やってもいいが…残念ながら今の俺ではクラスSどころかクラスAも言うことを聞かない。言い渡す役目はクラウドに頼みたい。」
「冷静だな、合格だ。」
 珍しくザックスを褒めたセフィロスに、クラスA仲間がびっくりしている。すかさずクラウドがそんな仲間に突っ込みを入れた。
「まったく…今からこれでは困るなぁ。皆、ミッション中にザックスの命令が聞けるの?」
 その言葉を聞いてゴードンが聞き返す。
「ちょっと待った!今、特務隊を動かしているのはキングでも姫でもなくこの山猿なのか?!」
「うわーー、まだ言われてるよ、俺。」
「ゴードン、そろそろ山猿は卒業させないとこいつには似合わなくなってきたぞ。」
 ふざけるようなザックスの隣で、特務隊影の隊長とまで呼ばれた男がにやりと笑っている。その事実が今現在特務隊を動かしている男がザックスであるということを裏付けていた。クラウドがそれを肯定するように言葉を継いだ。
「うん、今特務隊を動かしているのはザックスだよ。俺はそのサポートを命じられている。もっとも隊長殿の補佐をやってるだけで精いっぱいだからずいぶん助けられているよ。」
「お前には悪いけど…姫がザックスの事をよく言うのはいつもの事だよな。それをリックが否定しないというのがマジネタだって信じられるんだ。」
「それも仕方がないよ。リックはそれだけのものを持っている、俺はまだそこまで信頼されていないということだよ。」
 わかっていることだった。あまりにも早くソルジャーへの階段を駆け上がってしまったため、実力は十分あるのに絶対の信頼を寄せられるまでにはなっていない。特務隊の隊員たちが自分に対して命を平気で預けることが信じられないほどである。しかし、それも隊の要であるリックが全幅の信頼を送っているためにその彼を信頼したがため…とも思えないこともない。
 すべて自分がクラスAソルジャーとなるには…そしてセフィロスの隣に立つには早すぎたのだといわれているような気がしていた。
 それを察したのかザックスがクラウドの頭をポンと軽くたたいてからなでまわす。
「おまえなあ!それは実力あるから階段すっ飛ばしました!っていう自慢話だぞ!そーゆー暗い顔で言うこっちゃないって!」
「そうだな。入隊期間が長ければそれだけ知っている奴ができる。俺の場合は特務隊に配備された隊員を徹底的にいじめろと隊長殿に言われただけだが、それが早く上にあげるための手段だったからな…おかげで上級ソルジャーに顔がきくだけだ。」
「姫はまだ戦歴が短いうえにクラスAソルジャーだ。組んだことのある部隊は多くても、上級ソルジャーにしかその強さはわからないからなぁ。」
「まぁ、今度のミッションでそれもずいぶん変わるんじゃないかな?ともかく正式な通達がないと特務隊に長居できない俺たちにしてみれば、全体会議が終わらないと何もできないってことなのかな?」
「正式には…な。でもどーせ一カ月以上は面合わせる仲間になるんだ、そんなこと遠慮してたらなんもできねーぜ。」
「ああ、まったくそのとおりだ。では、いったんこれで帰るよ。」
 クラスA仲間は片手をあげて特務隊の執務室を後にした。


* * *



 翌日、各正副隊長が全員会議室に集められた。正式な北の大空洞派遣ミッションの説明である、まずその目的を統括のランスロットが説明し、セフィロスが全員に向けてそのミッションが発動したことを宣言した。
 そのあとクラウドが全部隊の正副隊長たちに向けて配置の説明に入ると、会議室はしんと静まり返り、このミッションを遂行する手順をメモしていた。
「派遣期間は6週間、第13独立小隊はその間中北の大空洞に入ることになります。そのサポートとして交代で皆さんの隊に入ってもらいます。そして特務隊の隊員に足りない魔力はクラスAソルジャーから第15師団副隊長エドワード、第9師団副隊長ブライアン、第7師団副隊長パーシー、第25師団副隊長ゴードンの4人に期間中出向してもらいカバーをお願いします」
 クラウドの言葉を受けて4人のクラスAソルジャーたちが立ち上がり了承の意味を込めて敬礼する。それを確認して軽くうなずきクラウドは部隊編成の説明に入って行った。
 特務隊を最前線、バックアップ、通路の確保、交代で休憩と隊を4つに分け、派遣される各隊のクラスBソルジャー以上は特務隊に加わり、バックアップと通路の確保に各隊を配置、モンスターを排除しつつ足場を確保する。
「将来的に北の大空洞は観光地になりえるので景観を損なわないよう細心の注意を払うこと。出発は7月25日を予定している、各自万全の体調で挑めるよう調整すること、以上!」
 クラウドの一言でその場にいた全員が起立し敬礼をする。ランスロット、セフィロスが黙って立つ横でクラウドは返礼をした。それはこのミッションの司令官がクラウドであることを示していたのである。
 各ソルジャーが席を立ち始める寸前にクラウドがそれに気がついた。
「隊長殿…もしかして、このミッションも自分が指揮をするのですか?」
「特務隊の指揮権は現在だれが握っていたかな?」
「隊長殿です。」
「リック。現在の特務隊の指揮権は誰にある?!」
「隊長殿はサー・ザックスに指揮させろとおっしゃいましたが、彼はいまだに修業中です。と、なるとサー・ザックスを指導しているサー・クラウドに指揮権があると思います。」
「わが隊の影の隊長殿がああ言っている、あきらめるのだな。」
「ううう…俺みたいな入隊2年目のペーペーにこんな大部隊を指揮させるなんて隊長殿もリックも意地悪だー!」
 クラウドの青い瞳が恨めしそうに見つめるが、その場にいたクラスA仲間どころかクラスSも誰一人助けに入ることはなかった、それどころか統括のランスロットがきっぱりと言い切った。
「戦歴、実力、采配の仕方、どれをとってもクラスSでもトップクラスのものを持っているのに、未だに新米を名乗るのですか?いささかあきれますね。現在、隊員数が隊により差が激しくなってきたので大幅な隊の組み直しをするとともに、各ソルジャークラスの見直しを検討しています。クラウド・ストライフ、あなたは十分一隊を任せるだけの実力を持っています。そんなあなたをいつまでもクラスAに座らせたくはないのです。なんでしたらセフィロスの隣に立つには黒のロングを着ないといけないという一文を付け加えてもよいのですよ。」
「お、横暴です!」
「横暴でも何でも構いません。いくら特務隊の隊長補佐だからといえ、何度も大隊を指揮するクラスAと言うことのほうが異常です。」
 確かにその通りである、クラスA仲間でも自分の小隊を指揮するので精いっぱい、隊長に代って隊を率いるということは過去になかったらしい。所がクラウドはクラスA昇格とともに特務隊の指揮を任され、時にはミッションに随行する隊の隊長を通してとはいえ、指示を出していたのである。もっともそのおかげで今回のミッションも指揮を任されてもキッチリとこなすことができるであろうと思われていた。
 しかし、クラウドはまだ一般兵なのである。いくらクラスSやクラスAが認めていても、他のソルジャーや一般兵たちが言うことを聞くと思っていないのであった。
「正式なソルジャーではない自分に本来ならばその資格はありません。」
「では、一般兵の中に入ってみますか?すでにあなたはクラスAソルジャーとして、特務隊の隊長補佐として認識されています。あなたを見たら一般兵は引いてしまって一緒に仕事をするなどできないでしょうね。」
「それは制服を見ているだけなのでしょう?」
「そこまで言いますか…。セフィロス、あなたの副官は自分の実力を認めないようですが、どう対処いたしますか?」
「まったく…自分を卑下するのはかまわんが、このミッションでおのずとわかるであろう…ソルジャーでなくともお前はすでに一般兵にとってはソルジャーに値するのだ。それを実感するのだな。」
 相変わらず黒のロングを着て公的な立場にいる時のセフィロスは冷静で、最愛の少年ですら贔屓することは一切ない。だからこそクラスSソルジャーもクラスAソルジャーも黙って彼の言うことを聞くのである。
 しかし、プライベートな場所や公的立場でない時にクラウドが何かあった時の英雄ほど恐ろしいものはない!(byエドワードw)強烈なまでの怒気で瞬時に強化されたソルジャーすら凍らせることができるほどである。
 もっとも、セフィロス自身がいとしい少年が自分と机を並べて隣に立つことをどれほど望んでいるかわかっているが故、贔屓ではなくその地位を実力でもぎ取ってほしいと思っているのであった。


* * *



 いまだに納得はしないまでも、セフィロスのようなトップソルジャーの隣に立つためにはクラスSに入らねばいけないということは何となく理解していたクラウドは、自宅に帰るとミッションに備えて副業の調整に入ることにした。
 クリスタルとリボンで派手にデコレーションされた携帯をとりだすとマネージャーのティモシーに連絡を入れる。
 2コール目で目的の相手が出た。
「あ、ティモシー?クラウドです。7月25日から6週間ミッションでミッドガルから離れるから仕事の調整をお願いします。」
「6週間もですか?!では今年はお誕生会が開けないということなんですね?はぁ…何と言ってごまかそうかな?」
「セフィロスがいないから泣いて暮らしている…じゃ駄目なの?」
「あなたの場合それが通りそうですが…さすがにお誕生日まで拗ねて出てこないというのは…通じるかなぁ?」
「でも、俺は実際にその日から9月の中旬まで北の大空洞にミッションで帰ってこれないんだから…前から言ってたでしょ?」
「お休みは取れないんですよね?」
「セフィロスからそのミッションの指揮権を渡された以上、俺は最初から最後まで戻らないよ。」
「はぁ……わかってはいたことですが、あくまでもソルジャーとして任務を優先するということなんですね。わかりました、何とかしましょう。しかしその前に来ている仕事は全部片付けてもらいますので2,3日の缶詰は覚悟してくださいね。」
「うえ〜〜、仕方がないなぁ。その代りしばらく仕事入れないでね。」
「ええ…無事で帰ってきてくださいよ、私はクラウディアもクラウド君も好きなんですから。」
「ありがとう、ティモシー。」
 些細な一言であったが、自分が商品としてではなく、仕事仲間として好まれていることを教えてくれたことがすごくうれしく感じる。だから嫌な女装でも我慢して仕事をしようと思えるようになってきていた。
「うん…本当、ありがとうね。」
 切れてしまった携帯電話に感謝するかのようにクラウドはつぶやいてからキッチンへと向かった。