セヴンス・ヘヴンに住み込みで働いているティファから連絡が入った。
「今度7番街の外れに移動遊園地が来るんだって、企画会社の人がうちに来て出店を出さないかって店長口説いていたわ。その移動遊園地の目玉アトラクションはホラーハウスなんだって。」
電話の内容にクラウドは少しびっくりしていた。
カウンター 10万HIT 記念 「お化け屋敷にご用心」
「へぇ?そんな話カンパニーの所には全然来ないからなぁ。はじめて知ったよ。」
「あのね、もし店を出したら遊びに来てね。」
「はははは…それが目的かい?いいよ、クラスAの連中に伝えておくよ。あ、でもティファがいる日じゃないと行かないかもね。」
「やぁだ!それじゃ私目当てみたいじゃない。」
「そうなんだから仕方ないだろ?それとも恋人でも出来たっていうならあきらめさせるけど?」
「う〜ん、良くわからないわ。だって大学の勉強と店と掛け持ちで恋なんてしてる暇ないんだもん。男の友達ならたくさんいるけど、それは仲間って意識しかないし…まだクラウドに振られた傷はふさがっていないんだぞ、と。」
「俺?だって…俺は…あの…その…。」
未だにティファにはセフィロスと同性結婚しているとは言えないままでいたクラウドは言葉に詰まった。しかしティファはすでにクラウドへの思いをふっ切っていたのか、明るくけらけらと笑った。
「冗談よ、冗談!私ね、ミッドガルに出て貴方に出会って思ったの。私はニブルヘイムから出たかっただけなんじゃないかな?クラウドに恋人がいるって知ってそりゃ少しはショックだったけど、大学や店でいろいろな人に出会ってわかったの。私はただ単にミッドガルに出る理由にクラウドの事をあげていた気がするもん。じゃ、約束よ。みんなを連れて遊びに来てね!」
明るい声が電話口から消えた時、クラウドの顔には笑みが浮かんでいた。
「うん、ティファならきっといい人を見つけると思うよ。」
ニブルヘイムでもみんなの憧れだったティファなら、きっとミッドガルでも自分の道を切り開き進んで行ける。そう思うと少し肩の荷が下りたような気がした。
翌日、カンパニーに出社したクラウドは真っ先にタークスの詰め所に行き、ツォンから情報を引き出そうとした。タークスの主任である彼はミッドガルのありとあらゆる情報を得ることにたけていたのである。すでに移動遊園地の事も詳しく知っていたのであった。
「そうですか、あの元アバランチのマスターはそれほど料理の腕がよいのですね。」
「その辺はルードさんに聞いたほうが早いんじゃないかな?でもまずかったらあんなには客が来ないと思うよ。」
「その移動遊園地の情報はすでに入手してあります。ホラーハウスにある仕掛けがしてあってその仕掛けを見つけて破れた者は未だにいないそうですよ。そんな口コミ情報のせいか、前売りチケットが飛ぶように売れているそうです。」
「ふーん。ホラーハウスなんだから仕掛けはいっぱいあるだろうからね。ありがとう、ツォンさん。」
ニコッと笑うクラウドに思わず見惚れそうになったツォンは、彼の最愛の伴侶の事を思い出し気配を一瞬探ってしまった。その仕草を不思議に思ったクラウドはコテンと首をかしげて尋ねた。
「どうしたの?ツォンさん。」
「い、いいえ別に…」
背中に伝わる冷たいものを必死でごまかしながらツォンは張り付けた笑顔を崩さないように必死に努力していた。
クラウドがクラスA執務室に顔を出すとすでに移動遊園地の事は噂になっていた。クラスA一番の情報屋、アランが中心になって話していた。
「よぉ!姫、おはよう。なあ知ってるか?7番街の外れに移動遊園地が来るんだとさ。そこのホラーハウスがやたら評判がいいんだ。」
「うん、知ってる。ティファが教えてくれたよ。セヴンスヘヴンが出店を出すから皆遊びに来てね!って。」
クラウドの言葉を聞いたクラスAソルジャーたちが一気に反応した。
「おお!ティファちゃんが?!俺行く!絶対行く!!」
「俺も行く!あんな可愛い子、ルードみたいなむっつりスケベに取られてたまるか!」
「む…むっつりスケベって…バージル、ちょっとそれひどいだろ?それにティファはまだ特定の恋人はいないみたいだし…」
「おっしゃ!ラッキー!彼女は俺が恋人にする!」
やたら盛り上がるのは彼らに余裕があるからであろうか?思わず苦笑をしながらもクラウドもいつ行こうか?と予定を確認した。
「あ…俺明日からミッションだ…戻り予定が30日なんだけど…その移動遊園地って何日までやってるの?」
「ん?ああ、たしか30日までだが…特務隊なら少しは短くできるんじゃないか?頑張ってミッションクリアして来いよ。」
「仕方がない、ティファとの約束守らないと腕の骨の一本ぐらい覚悟しないと駄目だもんなぁ…」
聞き捨てならないクラウドの言葉にクラスAソルジャーたちがすぐに突っ込みを入れた。
「それってどういう意味だよ?」
「あれ?教えていなかったっけ?彼女ニブルヘイムにいた頃、武道家のザンカンという人に師事して空手を習っていたんだ。そうでなくちゃ女の子一人で、ニブルからミッドガルまでモンスターが襲ってくる中たどり着けないでしょ?」
「うわ!そんなに腕っ節がいいのか?」
「うん、この間セヴンスヘヴンの店内で反抗勢力の下っ端が騒いだ事があったでしょ?彼女、その連中をルードさんと一緒に叩きのめしたって話だよ。」
「そ、それはなかなか…」
いきなり蒼い顔をするアランにクラスAソルジャーたちがつつかれているのを見ながら、クラウドは特務隊の執務室へと移動するのであった。
特務隊の執務室でザックスから手渡されたミッションを確認しようとすると、気のいい兄貴分が頭をガシガシとかきながら話しかけてきた。
「あのさぁ、クラウド。俺、どうしてもこのミッションを2,3日早く終わらせないといけないんだ。でも俺にはまだどうすればミッションが短くできるかなんてわかんねえんだ。」
その言葉に翡翠色の瞳をした可愛らしい女性の顔がポン!と浮かぶ。きっとエアリスとデートしたいんだとクラウドは思った。
「エアリスにおねだりされたの?」
「へへへっ…だってホラーハウスだろ?可愛らしく悲鳴をあげて抱きついてくれるかなぁ?って思ってさ。」
「セフィロスを怒るような女の子が、ホラーハウスで悲鳴を上げるとも思えないんだけどなぁ…」
「そりゃ…お前の為なんだろう?可愛い弟と思っているらしいからなぁ。」
「可愛いは余計だよ。じゃ…とりあえず短くする方法を考えようか。」
ザックスが地図を広げるとクラウドがのぞく、するとあっという間に特務隊の仲間達が周りを囲んだ。クラウドのやり方をまねようと思っているのであろうか?それを知っていてクラウドはあえてザックスに意見を聞いた。
「今の特務隊はザックスが指揮しているんだから、まず考えを教えてね。」
「んっと…今回はモンスター狩りだろ?だからここと、ここ。それからここを罠張って、このポイントとこのポイントからそれぞれ罠に向けて追いたてる…っていうのはどうだ?」
「じゃあ、皆に聞くけど…その指揮だったら従う?」
クラウドに話を振られて回りの隊員達が固まった。しかしさすがに影の隊長であるリックは思い当たることがあるようだ。
「ザックスらしいというか…かなり強引なやり方だな。それではポイントの逆地点の事を全く考えていない。逃げられたらアウトだ。」
「うん、リックの言うとおりだ。でもザックスのやり方をちょっと変えれば2,3日の短縮ならできる。それなら移動遊園地も大丈夫そうだよ。」
「ほぉ?聞きたいものだな?お前は一体誰と一緒にその移動遊園地に行くつもりだ?」
不意に聞こえた低い声に隊員達はいきなり立ち上がり全員が敬礼をする。目の前には不機嫌この上ない隊長のセフィロスが立っていた。
「だって…セフィロスと一緒に行くなら俺はクラウディアになるしかないだろうけど…ティファに店に顔を出す約束をしているからそれは破れないよ。だから一人で行く。」
「お前一人で行く気か?」
目の前の少年は一隊を率いることのできる士官だと言うのに、目に入れてもナンボのもんじゃい!というぐらい可愛がりまくりで愛しまくっているセフィロスにはクラウドが一人で遊びに行くことが許せないらしい。もっともこの少年には常にナンパ目的の男や女が自然と近寄ってくるので一人でなど歩かせたくはないのである。
「なんだったら俺達と一緒に行くか?」
ザックスがさり気なく助け船を出すが、セフィロスはすかさず反論する。
「お前はあの花売り娘とデートに行くのだろう?クラウドが一人になる。」
「どうして一人じゃ駄目なんだよ?俺、その辺の奴らに負けるつもりはないんだけどなぁ。」
確かにそのとおりである。クラウドはセフィロスの右腕としてすでに名が知られているだけではなく、アバランチや反抗勢力すら一目置く存在なのである。
「装備は魔法で小さくして持っていくから…ねぇ、ダメ?」
上目づかいで可愛らしく小首をかしげて問いかける姿はザックスが”必殺!英雄堕とし”と名付けただけあって効果は抜群だ!(ポケモンか?!)
「そ、それはだな…」
セフィロスが答えに詰まってしまった時、クラウドの胸ポケットに入れてあった携帯が震えた。
「はい。あ、ティモシー?うん、明日からミッションだけど?え?!移動遊園地で撮影?!ミッション帰りがギリギリ間に合うかどうかの際だよ、ドタキャンになるかもしれないから引き受けないで。」
どうやら仕事の確認のようである。ザックスがけらけらと笑い、リックは苦笑している。携帯を閉じるとクラウドが困ったような顔をした。
「冗談じゃないや、クラウディアで行っても出店なんて行けないじゃないか。セヴンスヘヴンの料理って結構おいしいのに…」
「お前が誰と移動遊園地に行くかは後でゆっくり考えな。さあ、隊長補佐殿、知恵を貸してほしいものだけど?」
「うん、じゃあ俺の考えだけど…」
クラウドは地図にもう一度眼をを落とすと、赤ペンでマークを付けながら説明していった。
翌日から特務隊はミッションへと出かけたのであった。
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