クラウドの提案のおかげか、特務隊の実力か、ミッションは3日ほど早く終了した。
 そしてその次の日にティモシーとミッシェルが二人の過ごす部屋へ、起きていることと居ることを確認して押し掛けてきた。
「おはようございます、クラウド君。実はぜひお願いしたい仕事がありまして…」
「まさか…移動遊園地での撮影?」
「そ!とびっきり可愛くしてあげるから!そのあとならデートでも何でもしてね。」
 ミッシェルがニコニコ顔でパステルピンクのワンピースを持っている。真逆にクラウドはげんなりしていた。しかしパステルピンクのワンピースをクラウドに押し付けたミッシェルは、くるりと背を向けてドレッサーを開けてセフィロスの服を物色し始めた。
「な、何してるの?」
「もちろん、サーも一緒に行くんだもの。それなりの服を選ばないと、ね!それにしてもさすがねぇ…品数は少ないけどどれもシックで質がいいし、サーらしい私服だわ。」
「セフィロスの私服はすべてマダムセシルのオーダーメイドだもの、デヴィッドさんが”たまには私のも買ってください”なんて言ってるんだけど…」
「まあ、その理由もわかるけどね。デヴィッドさんのデザインじゃどうやってもカジュアルだもの。ん〜〜でもこのシャツはいいわねぇ。」
 セフィロスお気に入りの黒のシルクのシャツを見つけ出すあたりは流石である。
「あ、それセフィのお気に入りだよ。普段着としてよく着るんだ。」
「そんなこと、どこかの誰かが聞いたらまた無理して買うわよ。」
「アハハハハ…良く知ってるなぁ。」
 一枚きっかけを見つけるとさくさくと衣装をコーディネートしてミッシェルがセフィロスに手渡した。
「はい、サーにも一緒に行っていただきますからね。」
 苦笑しつつもセフィロスは服を受け取り、クラウドがヘアメイクしてもらっているうちに着替えを済ませる。さっと着替えただけであるが着こなしは満点なのかミッシェルがちらりと横目で確認してうなずいたのをクラウドは鏡越しに見ていた。
 ミッシェルがティモシーを呼ぶと、彼もうなずいた。どうやら準備は終了したようである。いつの間にか用意されている5cmのピンヒールに履き替えるとクラウドはちょっと苦笑いをした。
「まったく、ティファの所に行けないじゃん。」
「それは明日にでも行けば?明日が最終日だもの、ティファちゃんも待っているかもよ。」
「誰かさんが一人で行かせてくれないんだ。」
「それは残念。クラウディアのスタッフとばれちゃうから、私とは一緒に行けないだろうし…ザックスさんやエアリスと一緒に行くわけにもいかないでしょうし…一人で行かせるとどこかで変な奴にナンパされていそうだし…う〜ん。」
「あ、ねえセフィロス。リックやカイルと一緒に行くっていうのは駄目?」
「私が行くわけにもいかないし…仕方がないな。あいつらなら許してやる。」
「やった!今夜にでもメールしておこう!」
 満面の笑みでセフィロスの腕をつかんだクラウドをティモシーが急がせた。
「クラウディア、悪いけど急いでくれる?撮影時間が迫っているんだ。」
「はぁ〜い。」
 あわててセキュリティーをチェックして鍵を閉め部屋を後にしたのであった。


* * *



 移動遊園地のオープン前に裏口から入れてもらい、撮影のためにあちこちを二人で歩く。
 いつものようにセフィロスに腰を抱かれているだけでなぜだか照れてしまうのであるが、その少し照れた笑顔がまたクラウディアらしいと雑誌の編集者が大喜びする。
 あちこち歩いていると目の前にどこかのお城のような建物が建っていた。
「ここがホラーハウス?」
「どうやらそうらしいな。」
 クラウドが後ろを振り返ると、ティモシーが軽くうなずいている。
「入っていいって。」
 そう囁く瞳は美少女モデルのものではなく、強い意志をたたえた戦士の瞳だった。セフィロスが苦笑を洩らしながらもきっちりとクラウドをエスコートしてそのホラーハウスに入って行った。

 薄暗がりの内装の中をぐるりと見渡すと、あらかじめ道順が決まってるようであった。扉の向こうから誰かの気配がするのをくすくすと笑いながらクラウドがセフィロスに耳打ちした。
「あのね…こういう気配って大好きだよ。」
「そうだな、殺気はないが居場所がばれるようではお化けともいえぬな。」
 そういいながら扉を開けると、目的の井戸をぐるりと回りこみ裏手に回る。
「おばけさ〜ん、御苦労さま。」
 井戸を覗き込みながらクラウドが満面の笑みを浮かべると、隠れていたお化け役の人がびっくりする。
「うわっ!く、クラウディア?!」
「あら、私お化けさんに知り合いいないはずですけど?」
「クックック…誰かが棺の中にお前のポスターでも入れたのであろう?」
 お化けの仮装をしている人が頭をかいて照れたような顔をする、次の部屋も同じように仮装をした人と、驚かすためのアイテムがいろいろと配置されていた。
 不思議とすいすいと避けるどころか逆に驚かす側が驚かされてびっくりする。そのたび屈託ない笑顔でくすくす笑うクラウディアとその隣で苦笑いをするセフィロスを雑誌の編集者が呆れたような顔で見ていた。
「あ、あの…サーにはどこに何があるのかわかるのですか?」
 おずおずと尋ねられた言葉にセフィロスは軽くうなずいた。
「そうだな、殺気はないが気配を消していないから、人の配置が手に取るように分かる。そして不自然にあいている隙間を見ればそこに何かあると言うこともわかるな。」
「しかし、それではお二人の表情が変わりません。少し一人づつで歩いていただいてもいいですか?」
「私、サーがいらっしゃるのにおそばを離れたくはありません。」
 セフィロスのスーツの袖をちょっとつかんで離れたがらない様子はいじらしい恋人である、そんな愛らしい恋人の姿に英雄も心なしか笑みを浮かべている。
 ティモシーが編集者に断りを入れた。
「サー・セフィロスが2週間にわたり不在だったので、泣かれて大変だったんですから、少しは彼女の気持ちを察してやってくださいよ。」
「そうそう、サーがお仕事で長期間出かけると心配で心配で、夜も寝られなくて目の下クマ作っちゃって…ホント、スタイリスト泣かせな恋人を持ったものだわ。」
「そ、それはそうですが…」
「ともかく、クラウディアを輝かせるのも泣かせるのもあの方次第なんです、わかったら引き離さないでください。」
「は、はい。」
 この夏だとてセフィロスが6週間も不在になったおかげでクラウディアは仕事にならなかったという話も聞いている。おかげで誕生会すら開いていないと、先日取材で訪れた専属デザイナーのデヴィッドに愚痴られてもいた。そんな逸話を持つモデルなのである、編集者は仕方がなく我慢をした。

 二人はどんどん遠くに進みちょっと広いフロアのようなところに出た。そこには邪気も何も感じ取れなかったが、目の前に違和感のある綱がたらされていた。
「何かしら?この綱。」
 そう言ってクラウドがひもを引っ張った時だった。
 どこかほど近いところに強大なモンスターの気配を感じてセフィロスがその部屋を飛び出したのであった。ほぼ同時にクラウドが胸に着けていたブローチに細工してあったマテリアで周りにストップの魔法をかけて、セフィロスの後を追いかけた。


* * *



 聖堂のような装飾を施した部屋に飛び込んだとたん強大なオーラが部屋中覆っていた。ジャケットの襟に隠しておいた正宗の戒めを解いて元の長さに戻すと、薄暗い部屋のほぼ中央にそのモンスターはいた。
「セフィ?!」
「クラウド、あいつらは連れてきているのか?!」
「うん、万が一と思って…はい、ナイツ・オブ・ラウンド。」
 ぽん、と渡された赤いマテリアは少し怒っているのか黒っぽい。しかしクラウドがにっこりと笑って指で触った。
「たまには強い王様のお供をするのも悪くないよ。」
 手のひらの赤いマテリアの輝きが強くなる。それはクラウドの意思を認め自らセフィロスに呼ばれることを認めたことである。クラウドもいつのまにかアルテマウェポンを取りだしていた。
 すり足でセフィロスが一気に間合いを詰めるといきなり優雅な剣さばきをみせつけた。
 しかし目の前のモンスターも強大な力を持っていた、セフィロスの剣を余裕でかわし、逆になんだかのビームを浴びせかける。瞬時にクラウドがバリアを張った。
「来い!バハムート!」
 珍しい命令口調は彼が必死になっているからであろうか?バハムートはそんな主人の命を翼をはためかせて静かに聞いた。
「あのモンスターに向けてメガフレア照射!」
 無属性のビームを浴びて少しモンスターがひるんだ、その隙にセフィロスが先ほど借りたマテリアをかざす。
「召喚ナイツ・オブ・ラウンド!」
 13人の騎士がセフィロスの言葉に従って姿を現す。
「あのモンスターに向けてアルティメット・エンドを放て!」
 13人の騎士がその圧倒的パワーを開放する。その姿を見てクラウドが少し拗ねていた。
「俺が呼ぶより強いじゃない…」
 召喚主の魔力の強さが召喚魔法自体を左右するのであれば、伝説の召喚獣と呼ばれる「ナイツ・オブ・ラウンド」をセフィロスが召喚すればこの世で一番ダメージを与えることができるであろう。それはクラウドも何となくわかってはいたが、目の前で見せつけられるとその姿に身惚れるのと同時に、自分が呼ぶよりも強力であるという事実にほんのちょっと悔しいと思うのも事実である。
 しかしそんな圧倒的な強さを誇るナイツ・オブ・ラウンドのアルティメット・エンドを浴びても目の前のモンスターの力は全く落ちていなかった。
「な、なに?!あの化け物!」
 珍しく悲鳴のような声をクラウドが上げたが、それは仕方がないことであろう。セフィロスも何度か正宗の刃をモンスターに浴びせてやっと目の前の化け物の正体が見えてきたところだった。
「クラウド、気をつけろ!こいつはルビー並の強さがある。」
 それだけで一気にクラウドの顔が真剣になった。
 過去に対峙したモンスターの中でもトップクラスの凶悪モンスター「ルビーウェポン」。そんな奴といい勝負のモンスターを自分とセフィロスだけで倒すのか?!と一瞬気弱になってしまったのである。しかし、セフィロスは臆することなくモンスターに挑んでいる。クラウドは自分の弱気を責めた。
(弱気になっていちゃだめだ!)
 アルテマウェポンを握り直すと、再びモンスターに切りかかって行った。