セフィロスの独り言のようなつぶやきが続いていた。
「自信というのは実績があれば付いてくると思う。しかし、あいつは小さいころから『自分なんて…』という考え方に凝り固まっている。どうやって取り除けば良いのか全く分からない。」
「たしか、小さな村で仲間外れにされていたとお聞きしていますが。」
「外見の可愛らしさに対するやっかみと、父親の仕事から来たのであろうな。あれの父親は神羅の化学部門にいた研究者だったらしい。あれの父親には何も悪い所はないのだが、村を寂れさせたのは確かに神羅のやったことだ。目の前にその血を継ぐ者がいて恨みをそこに向けるのは八つ当たりというものではないのか?」
「確かにそうですが…。簡単に割り切れないのが人の心なのでしょう。」
「困ったものだな。お前たちではないが、あれほどの士官をいつまでもクラスAに置きたくはないのだが…。」
 そう言いつつもかすかに口元に緩やかに笑みを浮かべているセフィロスをクラスS三銃士は優しい瞳で見守っているのであった。
「しかし、キング。それでは一番クラスSに近い男はザックスということになるのではありませんか?」
 ガーレスが思わず尋ねると、軽くうなずきセフィロスが答えた。
「そうなるな。ザックスがその気になったら一度実働隊を指揮させたいと思っている。その時は頼んだぞ、ガーレス。」
「あいつが受けるとも思いませんが、その時はお引き受けします。」
 思わず一礼しながら答えがガーレスに、セフィロスが一瞬立ち止まった。
「何をしている?食事の場所はこの先であろう?」
「え?あ、はい。」
 ガーレスは上官に対する礼を取ったつもりだったが、セフィロスはそうとらえてはいないと言う事であった。しかし、ほんの一年前まではこのような会話すらあり得なかった。今更ではあるが憧れのソルジャーが自分たちと同等の場所に立とうとしていることにその場にいたクラスS三銃士はひそかに感激していたのであった。

 一方、7番街のカフェバー、セブンスヘヴンに到着したクラウド達は扉を開けて目に飛び込んできた光景にあっけにとられていたのであった。いつものようにキッチンで陽気にフライパンを振りまわす店主のバレットの横で、同じぐらいの体を小さくしつつも、せっせと皿を洗うルードがそこにいたのであった。
 扉に付けてあったカウベルが鳴ったので、客が入ってきたと思い顔をあげたバレットが、大きな目をさらに大きく見開いている金髪の可愛い子を見つけガハガハと笑い飛ばした。
「よぉ、地獄の天使。お前その可愛い顔をなんとかしないと絶対その気のある男に言い寄られるぜ。」
「あー、それならもう遅いぜ。こいつ俺達のアイドルだから。」
 そう答えるリックをにらみつけながらクラウドが訪ねた。
「いったいなぜルードさんがキッチンに?!」
「いや、な。ある日こいつがランチのあとで小銭忘れたから明日持ってくるって言うから、それならここで一時間皿洗いしろと言ったのが始まりでさぁ。こいつ見かけによらず丁寧に洗うから、それなら毎日ランチおごってやるから皿を洗えって言って今に至ってるんだ。」
「え?ランチただ?じゃあ俺も皿洗いてぇ!」
「ガハハハハ!お前はランニング着て肉体労働やってるんだな!写真見たがその白のコートよりも似合ってたぜ!」
 ザックスの言葉にバレットが笑うと同時にフライパンがとある場所を示す。その方向に視線をやると日に焼けた青年たちが居辛らそうに座っていた。
「ああ、あの人たちなの?俺に会いたいって言うのは?」
 クラウドが睨みつけるような視線を送ろうとすると横からバレットが突っ込みを入れた。
「おいおい、にらんでやるなよ。一大決心をして田舎から出てきた純朴な青年たちだぜ、もっとこう可愛い笑顔で迎えてやれよ。」
「人の事可愛い可愛いって…。男に可愛いは失礼だろ!」
「いやぁ…お前の場合は不思議と違和感がねぇなぁ。」
 言われた言葉にふくれっ面をするクラウドをザックスとリックが頭をわしゃわしゃとなでまわしていると、あきれたような顔で一人の青年があるいてきた。
「ザックス、あんたクラスAソルジャーだったのか?」
「ん?まあな。こいつがあんたたちを助けたいって言うからあんな恰好で肉体労働したけど、俺は嘘は言っていないぜ。ゴンガガ生まれのゴンガガ育ち、お前たちよりさびて枯れた土地で育ったんだ。」
「それは間違いないだろうな。あんたの言葉はゴンガガなまりが残ってる。しかしまさか特務隊の奴だったとはあの時は微塵も思わなかったぜ。」
「悲しー!俺より先にいたリックの顔は知ってるのはわかるぜ、しかしあとに入ったクラウドの顔はわかってて、こいつより先にセフィロスの隣に立ってた俺の顔が知られてないってどーいう事だ…」
「泣くな、山猿。お前と隊長殿が並んでも絵にならなかっただけじゃないか。」
「っていうか、ザックスが今まで真面目に力を発揮してないから、なめられてたんじゃないかよ。」
 リックとカイルの突っ込みに大きな笑い声がキッチンから飛んでくる。
「ガハハハハ!流石特務隊影の隊長とその腹心の部下だ。お前らよく見ておけよ、こんな気のいい連中相手に斬った張ったの喧嘩を仕掛けようとしてたんだぞ!」
 目の前の青年はその言葉に日に焼けた顔をしかめさせた。
「まいったな…。マジでバレットの言う通りだ。顔を見て人柄を知ってしまったら戦う気にならないって、こういう事だったのか。」
 その言葉に同じことを経験したリックが笑った。
「俺もかなり複雑なんだぜ。ここのマスターには目の敵にされてたと思うけど、出される食事はうまいし安い。度量がいいのはここのマスターだぜ。お互い恨みつらみはあると言うだろうに…な。」
「俺よりそこの金髪天使の方がはるかに度胸が据わってるぜ。なにしろこいつは俺のことアバランチのリーダーだと見抜いた後でも平気でそこのいすに座って飯を食おうとしたんだ。周りのクラスA連中が青い顔をしてたと言うのに、大した玉だぜ。」
「あの時、瞬間的に殺気を感じたのは確かだが…実際には俺達をどうこうしようと言う事は出来ないと踏んでの行動だった。半分はかけみたいなものだったが、バレットの落ち着いた態度にかけてよかったとも思ったぜ。」
「お前の年齢でその判断が瞬間的にできれば十分だ。いま17歳という事は、あときはまだ16だったんだろ?!白革のロング姿は伊達じゃねえってことなんだろうな。」
 複雑な顔をして昔馴染みの言葉を聞いていたコレルの青年は、戸惑うようにクラウドに右手を差し出した。
「あんたがザックスの上官か。あの作戦を認めたなら、あんたにも感謝しないといけないんだろうな。掃討作戦をすれば圧倒的な力で一気にかたずけられてたはずだ。俺たちの命を助けてくれてありがとう。」
 困ったような顔のクラウドの手を取って握手をすると、青年は片手をあげて席に戻る。その時キッチンにいたバレットから声がかかった。
「おう、ランチ4人前できたぜ!デザートはバニラアイス3つとチョコ・パフェでいいか?」
 店中に聞こえるおお声にクラウドが真っ赤になると、あちこちからくすくすと笑い声が聞こえる
「ば!バカ野郎!な…何もそんな大きな声で言わなくてもいいじゃないかよ。」
「あれ?違ったか?ストロベリー・サンデーか?」
「どうしてランチタイムのカフェバーにそんなものがあるんだよー!」
「そりゃお前向け。ティファちゃんが教えてくれたぜ、甘いものが大好きなんだってな。近々ケーキもメニューに入れようかと思ってるぜ、贔屓にしてくれ!ガハハハハ!」
 いつのまにかカウンターに並べられていた皿からいいにおいが漂ってくると、盛大にお腹の鳴る音がする。あっさりと止まり木のような椅子に座って食べ始めてるザックスを追いかけるように、クラウドはカウンターのスツールに腰を下ろした。
 ふと鍋を振る手を止めてバレッドが呟いた。
「なぁ。コレルはもう荒れ地じゃなくなっていくと思うか?魔晄炉はすでに止まって何年もたっていたのだろ?なのにあの周辺は枯れて何も取れやしなかったんだぜ。」
 そのつぶやきにクラウドでなくザックスが答えた。
「おいおい、どれだけの人が畑仕事をしていたって言うんだ?魔晄炉があるから畑を耕しても土地は戻らないってあきらめていた人の方が多いだろう?」
「違ぇねえ!やってもいねえのに諦めてたらそこでおしまいだ。」
「本当にどうしようもない土地はいくらでもある、そこでもあきらめずに耕してる人はいる。生まれ育ち慣れ親しんだ土地を手放せない人は山ほどいるんだ。俺の両親のように…な。」
 寂しげにつぶやくザックスの言葉がバレットの胸に突き刺さる。黙り込んだマスターの隣で黙々と皿を洗っていたルードが不意に口をはさんだ。
「お前のことを見直した。」
「ありがとよ、ルード。だがなぁ、やせた土地をよみがえらせるのは結局人の手なんだ。だから若い命を無駄に奪うぐらいなら、せっせと畑仕事してくれた方が土地の為でもある…って、以前こいつに聞かされたからなぁ。」
 ザックスの言葉にバレッドが改めてクラウドを感心したような目で見た。
「そういえばお前はティファちゃんと一緒でニブルヘイムの出だったな。あそこは随分変わったらしいな。」
「ああ…やっと作物がいろいろと取れ出してきたらしい。あの村の冬は長いかもしれないけど…いつか必ず春になるんだ。みんなそれを知ってるから、いつか来る春を待っていられるんだろうな。」
「春は必ず来る…か。ちげぇねえ!」
 クラウドは、間もなく来る寒い季節に耐えるように暮らす故郷の人々を思い出しながら、目の前にある食事を食べ始めたのであった。

The End