トップソルジャーであり、実質的な治安維持部の最高指導者であるセフィロスをにらみつけるなど、彼の愛妻であり副官であるクラウドにしかできないことである。それがどれほどのことであるかわからないまま、クラウドは目の前の上官に詰め寄った。
「隊長ですよね?自分の休暇を勝手に伸ばしたのは。いったいどういうことですか?」
「里帰りは一般的に一週間ぐらいとなっているようだったのでな、他の隊の現状とあわせただけだ。」
「特務隊にそのような必要があると思っていません。用事が終わればすぐに帰還しないと何かあってからでは遅すぎるでしょう?!」
「つい先ほどザックスに2週間後のウータイ出兵に対する下準備を言い渡したところだが、お前が急ぎ戻る必要も無いと思うが、どうかな?」
「そうですか。隊長殿は自分の里の名産物も欲しくは無いとおっしゃるのですね?残念ですね、では他の方だけでお分けください。」
 セフィロスの態度にちょっと怒ったクラウドが、手に持っていたクーラーバッグをそばにいたペレスに手渡す。中をのぞいたペレスがクスリと笑うと、意味深な笑顔で話しかけた。
「このような高いものを?」
「ええ、自分の里の名産品ですから。」
「よろしいのですか?これはキングへのお土産なのではなかったのですか?」
 クーラーボックスの中に入っていたボトルを片手で持ち上げて、セフィロスにも見えるようにラベルを彼に向ける。ラベルの文字を読み取ったセフィロスが、眉を寄せながらクラウドのそばに歩み寄ってきて耳元でささやいた。
「まったくお前は…。久しぶりなのだから一日中抱いていたいという私の欲求を無視するつもりか?」(by森川帝王ヴォイス)
 ささやかれた言葉に瞬時に真っ赤になるとおとなしくボトルをセフィロスに手渡し、まだバッグの底に残っていたクラスA土産と同じものを取り出し、うつむき、黙ったままペレスに渡した。
「こちらでしたか、それは失礼。」
 底にあったチーズケーキを知っていて、それでも知らない振りをしてくれたペレスに少し感謝しながらも、クラウドはクラスSソルジャーたちが自分に対し、相変わらずではあるが少し態度が砕けていることを感じ取っていた。
 先ほどサー・パーシヴァルはクラウドのことをいつも呼ぶように『姫』とは呼ばずに、他のクラスSソルジャーと同じように名前を呼び捨てにしたのを思い出す。その理由にクラウドはやっと気がついた。
「皆さん…自分をクラスSとして、扱いだしているのですか?」
 その場にいるクラスSソルジャーたちがあきれたような顔でうなずくと、セフィロスがにやりと笑いながら答えた。
「何をいまさら…貴様は既にクラスS扱いになっているではないか、それにふさわしい扱いをしているだけだ。」
「エドワードとブライアンが震えていないことを祈ってます。」
「おや、望んでなったザックスならともかく、君は震えないのかね?」
 言葉に隠された意味を悟ってリーが尋ねると、クラウドははにかんだ笑顔を浮かべた。
「意地悪でやっていることではないのですから…あとは慣れるだけだと思います。」
「ほぉ…田舎に帰って少しは成長したようだな。では早く慣れろ、できれば半年後にはクラスS承認式をやりたいものだな。」
「自分を一番いじめてるのはやはり隊長殿でしたか。」
「クックック…何をいまさら。最初からではないか。お前をいじめるのは実に楽しいよ、いじめればそれだけ強くたくましくなる奴だからいじめがいがあるというものだ。」
 意地悪そうな笑みを浮かべて腕を組むセフィロスは、抱きつきたいほどかっこいい。(byクラウド視点)しかし抱きつくわけにも行かず、ただ照れて上目遣いで唇を尖らせていた。そんなかわいらしい様子に気がついたクラスSソルジャーたちがひそかに固まってこそこそと話し始めた。
「おい、パーシヴァル。いつからクラスS執務室はお花畑になったんだ?」
「俺に聞くな。しかし、クラスAでも度々いちゃついていたのだから、遅かれ早かれこの部屋でもそうなるのは目に見えていただろう?」
「あとでエドワードに対処の方法でも聞いておいてくれ。」
「無理だろうな、この星一番のバカップルにつける薬は無いと答えられて終わりだよ。」
「だろうな…さあ、仕事仕事。」
 あきらめたような顔で解散するとそれぞれが持ち場に帰り仕事をし始めた。

 クラウドはいったんクラスS執務室を退出すると再びクラスA執務室に入り、出勤後の仕事の確認をしてからザックスに話しかけた。
「ザックス、2週間後のウータイ行きってどういう仕事なの?」
「ん?ああ。あっちで聞いてきたか。とりあえず俺が知っているのは、二週間後にウータイに行くことと、魔晄の泉を探すこと…だ。ウータイに詳しい奴を今探してるんだが、ソルジャーにいるとも思えないんだがなぁ。」
 ウータイはひとつの小さな陸地で外部からはなかなか接触しにくく、首脳陣は神羅を敵視していて、情報を公開することは無い。ザックスの言った事はあながち間違ってはいないのである。
「たしか…タークスのツォンさんがウータイ出身だったと思ったけどなぁ。彼からはまだ聞いていないでしょ?」
「ん?ああ、タークスがいたか。リック、頼んだ。」
「ああ…腕づくならまかせておけ。」
 にやりと笑って執務室から出ようとするリックに、クラウドは苦笑しながら話しかけた。
「リック、なにか不満でもたまってるの?いくらウータイ出身者だからって、タークスに所属しているんだからツォンさんには情報を提供する義務があるはずだよ。普通に派遣指示書をみせれば答えてくれるはずだ。」
「なんだ、つまらん。」
「それよりもどこか先行で探索に入ったチームがいると思うんだけど、そっちから何か聞いたほうがいいんじゃないかな?」
 クラウドのこの言葉に珍しくランディが反応した。
「あ?何でそんなことがわかるんだ?確かに俺たちが行ってきたが…お前、何かクラスS経由で聞いてきたのか?」
「いや、ちょっとした感と自分の所属している部隊がどういう部隊か考えれば導き出せることだよ。」
 クラウドの言葉を聞いていたザックスがうなづきながら続けた。
「特務隊はいわば『最終手段』みたいなものだからな。治安部の最後の砦でもあり、最強の攻撃部隊だ。そんな特務隊に来る仕事は他の隊では手に余るものがほとんどだ。ただの魔晄泉の探索と封印なら他の隊でもできるのにそれが回ってきたってことは…何かあったか、何かあると考えたんだろう?」
 ザックスの答えにクラスAソルジャーたちが目を見張っているが、クラウドだけはニコニコと笑っていた。
「正解だよ。ザックスがそこまでわかっているなら、俺が口を出すことは無いね。」
「いや、俺は安心したぞ。」
 リックがザックスの肩をぽんとたたいて親指を立てた。
「なんだ…リックもびっくりしないんだな。」
 周りのクラスAから来る視線の意味を悟って、ザックスがリックに尋ねると、同じようにクラスAの視線がリックに集まった。
「びっくりしないというか…姫の代わりに派遣指令書をもらいに行っていれば、そのうち気が付くはずだし、気が付いてくれなかったら、とてもじゃないが隊長殿を引き摺り下ろすなんて無理だからな。」
「ああ、すぐにわかったよ。ランスロット統括は『特務隊にしかお願いできない指令です。』ということが多いからな。そんな指令どこにも丸投げできねえって。だからすぐに統括に聞かれたよ。『なぜ何も言わずに指令書を受け取るのか?』ってな。さっき言ったこと答えたら、リックと同じように『安心しました。』って言われたよ。」
「待て、ザックスがそういわれた理由はわかった。しかしなんでリックが統括と同じことを…」
「アラン、たまには最前線に出てみるんだな。後ろにばっかり引きこもってると部下が付いてこないぜ。」
 リックがアランに聞かれたことを答えずに、茶化すように切り返すのを聞いてクラウドがザックスに尋ねた。
「ザックス、答えられる?」
「至極簡単な答えなんだけどね。リックは特務隊がどういうところか隊員の中で一番知っている。だから統括の言葉を聴いていなくても俺と同じ答えを既に持っていたってことだろ?」
「うわ!ザックスがかっこよく見える!」
 驚くようなしぐさをしたアランに苦笑しながらも、リックがやっと真面目に答えた。
「俺が上官として扱うということは、トップクラスのソルジャーだということだ。そんなことも見抜けないでどうするんだよ、貴様たち少し平和ぼけしてるんじゃないのか?」
「ま、最近反抗勢力も大きい反発をしなくなってきたし、強いモンスターも早々現れなくなってきたから、平和という意味では平和だな。ところでランディ、ウータイへの派遣のことで聞きたい。内容と結果、そして疑問に思ったことを何でもいいから教えてくれ。」
「疑問に思ったこと?」
 ザックスの言葉に真意がわからずにランディが首をかしげた。
「あそこに派遣して帰りに物が増えるということは無いだろう?なら逆に取られたものとか、ウータイ首脳陣の態度とか様子。なんでもいいんだ、何か引っかかったことがあれば、それがきっかけになることもあるから聞きたい。」
「ああ、わかった。行った連中全員に聞いておく。」
「じゃあ、クラウド。ツォンのところに行くか。」
「あ、うん。」
 真面目な顔で自分の部下たちに連絡をするランディに別れを告げて、クラウドはザックスとともにタークスの部屋へと出向いていった。廊下を歩きながらクラウドは軽くザックスに先ほどクラスSで言われたことを彼に対して言ってみた。
「隊長殿が半年後にはクラスS承認式をできるようにしろといってたよ。」
「ん?ああ、それはお前のことだな。まだ机すらない俺じゃあないよ。まあ、その顔なら大丈夫になったんだろ?」
「ん?ちょっとは、ね。意地悪でやってることじゃないとわかったから…。さっきも隊長に言ったけど、後は慣れることだと思うんだ。」
「俺もいい加減、慣れないとなぁ…真面目にやってるとどうも肩がこっていけねえや。」
「そっちかよ!」
 腕をぐるぐる回すザックスの背中を軽くたたきながらクラウドが笑顔をこぼしていた。

 隊ごとに机を寄せてあるクラスS執務室に不自然にあいた机のひとつがクラウドの机で、もうひとつは時を同じくしてクラスS扱いになったブライアンのものであろう。自分に対する言葉使いも今までのようにまるで上官に対する言葉ではなく、対等な仲間への言葉になってきて、クラスSソルジャーたちへの壁やわだかまりが徐々に薄れていくのを感じていた。まだクラスAでやらねばいけない仕事があるが、次第にクラスSでの居場所ができてきているのを感じて、クラウドは今までのように重たくて暗い雲が次第に薄れてきている気がしていたのであった。


The End