一方女性化したままのクラウドは半べそかきながらセフィロスの部屋を掃除していた。
「ひ、広すぎるよ〜〜。寮の部屋の4倍ぐらいあるんじゃないかよ?」
せっせと掃除を始めてどのぐらい経っただろうか?玄関のチャイムが鳴った。
しかし、クラウドはセフィロスにいわれた通り居留守を決め込むつもりでいた。
ところが、鍵がかかっているはずの玄関からなにやらかちゃかちゃと言う音が聞こえる。
クラウドは”泥棒か?!”と思い、モップを両手に握り締めて足音を忍ばせ玄関へと近寄った。
いきなり玄関の扉が開く。
誰何もせずにクラウドが入ってきた者めがけてモップを振りおろした。
ごい〜〜〜〜ん!!!
派手な音を立てて入ってきた男が崩れ落ちる。
クラウドがほっとして気絶した男を見下ろすと見覚えのある逆立った黒髪が目に入った。
「え?!ザ、ザックス!!」
あわててモップをほおり投げてザックスを抱き起こすとザックスがうれしそうな顔をしている。
「へへへ…天使がいるよ。俺、しんじゃったのかな〜〜?」
クラウドがザックスの頬を軽くはたくその痛みにザックスが正気に戻った。
「あ、昨日の可愛い子ちゃんだ〜〜〜」
「あ、あの。何か御用でしょうか?」
「ん〜〜?連れだしに来た。」
そういうとザックスはクラウドの手をガシッと掴み表へ引きずり出そうとする。
「連れだ…な、なにをなさいますの?!」
「あ〜んな冷血漢のそばにいるとおかしくなるぜ。どこか遊びに行かない?」
「ソルジャーさんですよね?お仕事があるんじゃないのですか?」
「い〜〜の、い〜〜の、こんなところでシンデレラやっていないで君は明るい日差しの方がきっと似合うよ。」
ザックスはウィンクと共に練りに練った口説き文句を決めたつもりだった。しかし目の前の可愛い子チャンはきょとんとしたままであった。
「私。サーに外に出てはいけないと言われていますの。」
「あ?!あのに〜さんが君を閉じ込めちゃってるの?そりゃ可哀想!君みたいな可愛い子がこんな所で掃除なんてしているのは犯罪だ!!」
何をどう思って犯罪だというのか理解に苦しむが、クラウドはこのままザックスにつれて行かれたくないので必死に理由を作る。
「サーから言われた事を守らないとあとで困るんです。」
たしかに外出するなと言われていた命令を無視してザックスと外出なぞしようものなら、あとで命令無視を怒られる。
しかしザックスは何を勘違いしたのか目を丸くしてくラウドを見ていた。
「あの…ミル…フィーユちゃんだったっけ?それってやっぱりセフィロスの為なんだよね?」
(ちょっと違うけど…まぁそう言う事になるのかなぁ?)
クラウドはとりあえずコクコクと首を縦に振った。
それを見たザックスの首ががくりと垂れる。
「はぁ〜〜、こんないい男が誘っているっていうのに…」
がっくりと肩を落したザックスを尻目にクラウドは少し曲がった柄のモップをもって掃除の続きを始めた。
そんなクラウドを後ろから近寄ったザックスが、掃除を止めさせようとモップに手を伸ばそうとした時クラウドは訓練で教えられてきた事が反射的に出てしまった。
死角から伸びてきた腕を反射的に掴み身体を沈めた。
ザックスが不意を突かれてふわりと身体が浮いた。
どし〜〜〜ん!!
「あ、決まっちゃった。」
クラウドに投げられて床にたたきつけられてザックスが再び伸びていた。
そこに扉が開いてセフィロスが入ってきた。
目の前で伸びている自分の副官と、おそらく彼を投げ飛ばしたであろう秘書官を見ても何一つ表情を変えないままであった。
「やはりここだったか。」
「ど、どうしよう?さっきも頭ぶん殴っちゃった。」
「大丈夫だ、こいつの頭はその程度でどうにかなるような物では無い。それよりも、どうやら力が戻っているようだな?」
クラウドが言われて身体をまさぐると女性らしい膨らみはすでに無くなっていて、華奢だが筋肉が付きかけている少年のからだに戻っていた。
「よかった…戻っています。」
「そうか、ならば早く着替えて執務室に行け。」
「あ、でもザックスは?」
「クックック…良いことを考えた、クラウド早く着替えてこい。」
「アイ・サー!」
何を考えたのか全くわからなかったが言われた通りに、置いてあった神羅軍の一般兵の制服に着替える。
そしてセフィロスのそばに戻った時セフィロスがザックスを軽くはたいた。
「馬鹿ザル、起きろ!」
軽く頭を振ってザックスが身体を起こすがまわりを見て不思議そうな顔をしている。
「あれ?あの可愛い子ちゃんは何処に行ったんだ?」
「貴様、何を寝ぼけた事を言っている」
「え?だって…さっきまで天使みたいな可愛い子が…え? あれ?」
「私の部屋にそのような女を入れた覚えは無い。ザックス、貴様悪い夢でも見たのではないのか?」
「え?だって…ミルフィーユちゃんって言うすんげぇ美人が…」
ザックスが目を丸くして部屋を見渡すがどこにもそんな少女は見当たらない、そのかわり見慣れたツンツン頭の少年がいた。
「あれ?なんでクラウドがここにいるんだ?」
「ザックスがここでぶっ倒れているってサーから教えてもらったんだ。」
ザックスはまだ頭を撫でている、セフィロスがにやりと笑いザックスに冷たく言った。
「ザックス、貴様は頭ぶつけて脳震とうでも起したのか、クラウドを見て”天使がいる〜”とかつぶやいていたぞ。」
ザックスが青い顔をしてクラウドに聞いた。
「マ、マジ?!」
「う、うん。『あ、可愛い子ちゃんだ〜〜デートしようぜ。』とか言ってたよ。」
「うわ〜〜〜!!一生の不覚!!寝ぼけてるとはいえムサイ男を口説くなんて!」
ザックスはどんより落ち込んでいて全く気がつかなかったが、まだフロアに柄の曲がったモップが置いてあったのでクラウドがこっそりと道具入れの中に戻しに行く。
そこへセフィロスが声をかける。
「クラウド、こっちへ来い。」
「は、はい!」
あわててセフィロスのそばに寄ると小声で耳打ちされた。
「ザックスの逃走を阻止するためエレベーターの前にそっと行け。」
黙ってうなずきこっそりエレベーターの前に移動する。
「はぁあ〜〜さて、戻るか。」
「そうだな、提出する書類がたくさん待っているぞ。」
「い”?!」
大嫌いな事務処理が待っていると聞いてザックスは思わずセフィロスの横をすり抜けエレベーターに向かう。
しかし、エレベーターの前にはクラウドが通せんぼしていた。
「クラウド!見逃してくれ!!」
「ダメです!書類の提出も仕事のうちです!!」
クラウドにがしっと腕を掴まれて振りほどけないザックスは悠然と歩いてきたセフィロスに首を捕まれた。
「さて、しっかり仕事をしてもらおうか。」
セフィロスとクラウドに捕まれてカンパニーの執務室に戻ってザックスは山積みの書類と格闘することとなった。
* * *
ザックスはそれからしばらく年下の美少女には口説き文句を使わなかった。
その事実はカンパニーのソルジャー仲間に首をかしげられザックスを知る男共は
「天変地異だ!!」
「ミッドガルに雪でも降るのか?!」
と、まで言わせたのであった。
終わり
|