FF ニ次小説



 セフィロスが行きたくないと思っているパーティーに、自分がつれて行かれる理由もわからずにクラウドはドレスショップのオーナーに化粧をさせられ髪の毛をいじられて飾りつけられていた。

「ふう…できたわ。」

 クラウドが目の前の鏡を見てびっくりする。

(これは俺じゃない!!俺じゃない!!俺じゃない!!)

 目の前の鏡の中にはものすごい美少女が白いドレスを着て座っていた。
 しかし自分が手を動かして頬を触ると、鏡に写る美少女も自分が動くと同時に同じように手を動かす。
 その様子をいつの間にかタキシード姿になっていたセフィロスが、にやにやと笑って眺めていた。

「いくぞ。」

 すっと出したセフィロスの左手をクラウドがおずおずと取ると、オーナーが扉を開けて深々とおじぎをする。
 セフィロスが車の扉を開けてくれる、軽くおじぎをして助手席に座る。
 運転席に乗り込んだセフィロスがゆっくりと車を走らせた。
 すこし走ると目の前に神羅ホテルが飛び込んで来た。
 どうやらそこが目的地のようである。
 滑るように車寄せに止めるとドアボーイが恭しく扉を開ける。

 中から真っ白なドレスを着たクラウドが現れた。
 そして運転席から銀色の髪の英雄がゆったりと姿を現す。
 ドアボーイがあわててセフィロスから車のキーを受け取り二人をロビーへと導く。
 二人がエレベーターに消えるまでおじぎをして見送ってから、ドアボーイが急いでセフィロスの車を駐車場へと回送するまえにつぶやいた。

「よ、妖精かと…思った。」


 エレベーター酔いに苛まれる前に目的のフロアについたのか、エレベーターの扉がゆっくりと開いて行く。
 クラウドの目の前には騒然とした雰囲気のフロアがあった。
 フロアの中にはたくさんの男女が右往左往していた。
 入り口近くにいた人垣がこちらを見てびっくりしたような顔をした。

 セフィロスが手慣れた様子でクラウドをエスコートしてフロアへと進むとゆっくりと目の前の人垣が左右に別れて行く。
 通り過ぎる人達がじろじろと自分を嘗め回すように眺めているのに気がつくと思わずクラウドの足が止まってしまいそうになる。

 フロアの中央から昼に会った男がゆっくりと歩いてきた。
 相変わらず白いスーツを着ている金髪碧眼の男にセフィロスがにやりと笑う。

「おやおや、あの小猫ちゃんかい?」
「ああ。」
「あなたがこういう場所に女をつれて来るなど初めてだから、ゲストのみなさんがびっくりしているじゃないか。」
「おかげで煩い蠅共が近寄ってこなくてせいせいしている。」
「クックック…こんな美少女つれていたら、そこらへんの女では近寄りたくても近寄れまい。」

(俺は蠅避けかよ〜〜!!)

 怒鳴りつけたい気持ちを必死に抑えてじっとセフィロスの腕の影にいるクラウドをルーファウスが苦々しげに眺めていた。

「もし、セフィロスより先に私とであっていたら…お前は私の恋人になってくれたのだろうか?」

 聞き取れるかどうかのルーファウスの言葉を独り言と思いクラウドが無視すると、こずるそうな顔の眉間に小さな皺が出来た。

「フン、嫌われた物だな。」

 苦々しげな顔でルーファウスが去って行くとクラウドが軽く溜め息をついた。

「あれが次期社長かと思うとカンパニーの未来も暗いね。」
「クックック…そうかもな。」

 しばらくフロアをさまよいながら、クラウドはカンパニーの重役達とさも嫌そうに会話するセフィロスを隣で見ていた。
 そして少し疲れたのでどこか座れる所が無いか探していると、壁際に椅子が一つ開いていたのでそこへ移動して座っていた。

 セフィロスのつれていた飛びっきりの美少女が一人でいる姿に、フロアにいた男共が好色の様子を見せて入れ代わり立ち代わりクラウドに近寄ろうとするが、軽くあしらわれてお近づきになれない。
 そんな中、卑しげな男が下心丸出しの様子で近寄ってきた。ウォールマーケットの首領でコルネオとかいう男だった。。

「ほひ〜〜!!いいのぉ〜〜いいのぉ〜〜決めた決〜めた!!今夜の相手は……このおなごだ!」
「え?!な、何?!」
「ほひ〜! その拒む仕草がういの〜うぶいの〜」

 下品な笑い顔を近づけてコルネオが迫ってくる。
 クラウドがあわてて椅子から飛びのくと、彼の座っていた椅子にコルネオが思いっきりダイブしていた。

 ごち〜〜〜ん!!

 派手な音を立ててコルネオが椅子にぶつかる。
 クラウドがあわてて後ずさりしようとすると、凶悪なまでの欲望をたぎらせてコルネオがにらみつける。

「ほひ〜、何度見てもカワイイの〜。さあ子猫ちゃん……僕の胸へカモ〜ン!」

(冗談じゃない!!)

 クラウドが身の危険を感じて後ずさりするが、涎を垂らしそうな顔でコルネオがじりじりと迫ってきていた。
 背中に何かが当たりもう後ろに下がれないと思った時、クラウドの細腰を力強い腕が軽く支えてくれていた。
 ふと顔をあげると見慣れた銀髪の美丈夫がコルネオをにらみつけていた。

「この子は私の連れだが、何か用か?」
「ほひ?!セ、セフィロス!!い…いや、な…なにも…

 青い顔をしてコルネオが後ずさりする。
 ついっとセフィロスが一歩足を進めただけで、コルネオは泡を食ったようにそこから逃げ出した。
 安堵のため息をつきながらクラウドはセフィロスにお礼を言った。
「ありがとうございます。」
「まったく、何もできないくせに一人でうろうろするな。」

 いつもいわれなれている言葉だったが正面を切って言われるとさすがに辛い、クラウドの大きく見開いた青い瞳からボロボロと涙がこぼれ落ちる。
 泣き顔を見られたくない一心でセフィロスの腕から逃れようとするが鍛えられた腕はクラウドの力程度ではびくともしない。

「ひっく…うぇっく…ううう…」

 抑えようとしたがどうしても抑えられなかった声が漏れる、その声にセフィロスがクラウドを見下ろす

「泣くな。」
「は、はい。」

(コレはあくまでも任務だ。)

 クラウドはそう思ってセフィロスのそばにいる事にした。
 ミッションだと思えば冷静に対処出来る、それはクラウドの持つ天性の戦士としての証であった。
 そしてパーティーが終わると再びセフィロスの車に載せられて移動している最中、疲れてしまったのかクラウドは寝入ってしまった。


* * *



 朝の日差しにクラウドが目を覚ますと知らない部屋のベッドの上で寝ていた事に気がつく。
 あわてて飛び起きると一糸纏わぬ姿で寝ていた事に気がつく。

「え?い…?!嫌〜〜〜!!!!」

 まだ女性のままの形を残す身体に昨日の事を忘れていたクラウドが悲鳴を上げると、いきなり扉が開いてセフィロスが入ってくる。

「何だ?一体どうしたと言うんだ?」
「あ。サ、サー・セフィロス。」

 クラウドが不思議そうな顔で自らの身体を自分の手で触っている。
 冷淡な視線でその姿を眺めてからセフィロスが軽く溜め息をついた。

「まだ戻ってはいないんだな。」

 セフィロスの一言でクラウドは昨日の事をすべて思い出した。
 呆然と自分の体を眺めながら裸の上半身をさらしているクラウドに、セフィロスが怒鳴りつけた。

「自覚が無い!いつまでそうやっている?!私だとて男だぞ。」
「え?あ…」

 言われてやっとシーツを引き寄せ胸を隠しながら、服をかき集めてふと気がつく。

「…いつまでそこで見ているんですか?」
「これは失礼した。」

 セフィロスが部屋から出て行くのを確認するとクラウドは服を着ると扉を開ける。
 見覚えのあるリビングにいつもの黒のロングコートを着たセフィロスがいる。
 トーストとベーコンエッグ、サラダという簡単な食事が、キッチンのテーブルの上に乗っている。
 コーヒーメーカーからコーヒーのいい香が漂ってきている。

「サー・セフィロス。自分はどうすればよろしいのでしょうか?」
「その姿で訓練など出来ないだろう?ならばいるべき所は何処だ?」
「は、はい。ここしかありません、サー。」
「それがわかっているのであれば、何をするべきかわかるであろう?」
「はい。サーのご自宅で家事をさせていただきます。」
「よろしい。教官には私から用事で休ませていると伝えておく、いないあいだに誰が来ても玄関を開けるのではないぞ、いいな。」
「アイ・サー!!」

 いつものクセでビシッと敬礼してしまったクラウドにセフィロスが思わず溜め息をつく。

「貴様、昨日習った事はどこかへやってしまったのか?」
「あ。ご、ごめんなさい。」
「とにかく決して他人に悟られるな。あと1〜2日の我慢だ、簡単なミッションだと思え。お前の精神を鍛える為にはちょうど良い。」
「は、はい。」

 セフィロスが出かけて行った後、広い部屋に一人取り残されたクラウドは自分がやるべき事を考えた。

「家事…かぁ。あんまり好きじゃないけど仕方がないか。」

 ため息を一つつくと道具入れを探しモップとぞうきんを取り出し掃除を始めた。


* * *



 そのころ、カンパニー本社67Fのセフィロスの執務室にザックスが青い顔をして飛び込んできた。
「なぁ、旦那。クラウド知らない?昨日寮に帰ってきていないんよ。」
「なんだ、ザックス。貴様はあの訓練生がいなければ何もできないのか?」
「違わい!!あいつ女顔だから狙われやすいんだって、どこかでへんな男に引っかかっていないか心配なんだよ。」
「ザックス、貴様そう言う趣味でもあるのか?」
「バ、馬鹿野郎!!俺はボンキュッボンの可愛い子チャンのほうがいいに決まってるだろ!あいつは俺の弟分なの!アニキが弟の心配して何が悪い!!」
「ならば上司として出来の悪い部下をしごくのも悪くない事だな。クラウドがいない分書類の整理をしっかりやるんだぞ。」
「う…うえ〜〜〜。クラウド〜〜戻ってきてくれ〜〜」

 山積みの書類から逃げ出そうとして首をつかまえられデスクに無理やり座らされ、ザックスは青い顔をしながら書類と格闘しはじめた。
 そしてふと思い出したようにセフィロスに聞いた

「なぁ、セフィロス。昨日の可愛い子ちゃん、どうした?」
「どうしたとはどういう意味だ?」
「もう、別れちまったんだろ?」
「いや、あいつならまだ私の部屋にいるはずだ。」
「なんどすてぇ〜〜〜?!に〜さん、あんなガキンチョがお好みだったのか?!」

 ごいん!!

 派手な音を立ててザックスの頭にセフィロスの拳が炸裂した。