宝条の作り出したマテリアで女性化したクラウドを、そうとは知らずにザックスが口説きまくっているがなかなか自分の方に感心をもってくれなかった。思わずザックスが真っ正面から聞いてきた言葉にクラウドがとまどっている。
「え?何処が気に入っているって…あの…その…」
どう答えればいいのか困っているとすかさずセフィロスが助けてくれた。
「逆だな、私が気に入ったんだ。この子は私が何者か知らないのだよ。」
「うっそ〜〜〜!!長い銀髪に黒いロングコートといえば、知らない奴なんていないんじゃないのか?!」
「だからこそ新鮮だった。私を知らないがゆえにこの子は純粋な笑顔をくれる、それがよいのだよ。」
セフィロスが最もらしい理由をすらすらと作る、しかしザックスも単純なのでその話を信用してしまったようである納得したのか感心したように目を丸くしている。
(仮にも1stソルジャーだろ?!こ、こんな単純でいいのかよ〜〜〜!!)
思いっきり突っ込み入れたい所だがここでばれたら後が危ない。
ひたすらうつむいて我慢をしている。
ザックスが恐がって脅えているとでも思ったのか、いつものようににっかりと笑う。
その笑顔に思わずクラウドが微笑み返した。
ザックスが見惚れるほどの笑顔はなぜか、どこかで見たような気がした。
「あの…さ。俺達、以前どこかであっていない?」
(ギクゥ〜〜!!)
クラウドの背中に冷たい物が伝う。
自分と気が付かれたくない一心でセフィロスの背中にしがみつくと、震えるような声で答える。
「わ…私。ハリネズミさんとお友達になった覚えないんですけど。」
「は?!ハリネズミ〜〜〜!!」
セフィロスが思わず苦笑する。
「クックック…その通りだぞミルフィーユ。そいつは世にも珍しいコンガガ原産の人間ハリネズミだ。」
「コンガガ?それって何処に有るのですか?未開の土地ですの?」
自分の住んでいるニブルヘイムからミッドガルに出てくる時に、通った田舎の村であることを知っているくせにワザと知らない振りをする。
ちょっとがっかりした様子のザックスに”悪い事いったかな?”と少し反省した様子で心配げな瞳を向けていたらいきなり近寄ってきて”にかっ”といつものように笑いかけた。
「やっぱり君ってどっかで出合ってるよ。うん、出合う運命だったんだよ。」
ナンパ男の口説きセリフにクラウドが目を丸くした時、目の前のツンツン頭にセフィロスのこぶしがめり込んだ。
三度セフィロスから拳骨をもらってもんどりうったザックスに、クラウドはだんだん嘘を付くのが苦になりつつあった。 しかしそれをセフィロスが気がついたのか不機嫌になった。
「こいつといると、こいつの調子に巻き込まれてしまう。出掛けるぞ。」
「え?あ、お皿…」
「そんなものタダで食ったそいつに片づけさせればよい。」
そう言うとセフィロスはザックスに皿を押しつけてクラウドを小脇に抱えて部屋を出て行った。残されたザックスは両手の中にある皿に目を落しながら叫んでいた。
「セ、セフィロスの馬鹿野郎〜〜〜!!」
一方、荷物のごとく小脇に抱えられながらクラウドは両手足をばたつかせる。
「サ…サー・セフィロス。お願いです降ろして下さい。」
「クラウド!!あれほど正体をばらしたくないといっておきながら、ザックスに丸め込まれているようでは日ごろの鍛錬が足りないぞ!!」
「ハ、ハイ!!すみませんでした、サー!!」
ついつい日ごろのクセで敬礼などしてしまうクラウドに、セフィロスは眉間にしわをよせて額を右手で抑えている。
「まったく、お前は何も考えていないな。今、お前は女の子なんだぞ。敬礼などするのはおかしいではないか。」
「あ…え…で、でも」
「でももヘチマも無い!」
そう言うとセフィロスはいきなり携帯で何処かに連絡を付ける、クラウドを片手に抱えて駐車場へ行きさっさと愛車にほおりこむとハンドルを握り車を走らせた。
やがてクラウドが車酔いを感じはじめた頃、とあるビルの前で車が止まった。
「ここ、何処ですか?」
「何処でもよい、今のお前にふさわしい行動が出来るように鍛えてもらうのだ。」
そう言うとつかつかとビルの中に入りエレベーターに乗り込む、あわててクラウドが後を追いかけてエレベーターに乗ると軽い浮遊感を伴ってエレベーターが動きはじめた。
そして数秒後「チン!」という軽い音と共に扉が開く。
扉の向こうには50過ぎの優雅な仕草の女性が待っていた。
「お待ちしていました、サー・セフィロス。」
「頼みたいのはこの子だ。」
「まあ、可愛らしい事。わかりましたわ、遠慮無くやらせていただきます。」
そういうと女性はクラウドを伴って扉の向こうへと消えて行こうとして、もう一度優雅に振り返りセフィロスに伝えた。
「半日体験コースでよろしいのですね?終了予定時間は午後7時になります。」
「了解した、その頃に引き取りにくる。」
クラウドは何がなんだかわからなかったが、ここで午後7時までこの女性に何か教わると言うことだけは解った。
そしてそれが終了するまでここから出る事がかなわない事も理解出来た。
セフィロスがエレベーターの中へ消えると自分の腕をつかまえていた女性がにっこりと笑う。
「本当、何も知らないお嬢さんみたい。これは磨きがいがありそうね。」
言われた事が全くわからないまま愛想笑いでごまかし、とりあえずその女性に聞く。
「あの…お…私、いったいここで何をするのでしょうか?」
「いい質問ね。ここはフィニッシング・スクール。つまりLadyとしてのマナーや仕草を教える教室です。」
(な!!なんでこんな所に来なければいけないんだよ〜〜!!)
心の中でわめきながらもこのビルから出る手段のないクラウドは、目の前の女性のいう事を聞くしかなかった。
女性はセレブ御用達のマナーの先生でその先生とマンツーマンで、歩き方から椅子の座り方、カップの持ち方、テーブルマナー、話す時の仕草、ありとあらゆる”女性として何処に出てもおかしくない作法”をびっちりとたたき込まれた。
そして時計がまもなく7時をさす頃、扉をノックしてセフィロスが入ってきた。
女性がセフィロスを出迎える。
「とても飲み込みの速いお嬢さんです事、素敵なお嬢さんになりましたよ。」
「そうか。」
セフィロスがふと見やると伏し目がちに椅子に座っているのは間違えなくクラウドである。しかしセフィロスを認め椅子から立ち上がった時の優雅さは何処をどう取っても淑女と称するにふさわしい仕草だった。
「あの…もうよろしいのでしょうか?」
「ええ、何処に出してもおかしくないLADYになっていただいたわ。」
にっこりと笑ってクラウドを送り出しながらマナー教室の先生はクラウドに小声で囁いた。
「いい事、あなたがたとえ15才だと言えサー・セフィロスの隣にたつには、私が今日教えた事ぐらい最低でも出来ないといけないのですからね。」
(セフィロスの隣にたつ?!)
神羅の英雄と呼ばれているセフィロスの隣に立てる男はたった一人、最低でもセフィロスに迷惑をかけないほどの腕を持つ事が条件だった。今は自分の親友と呼べる男ザックスがその地位にいる。
「セ、セフィロスの隣りに…」 おいおい、何を勘違いしている?!
その一言を言われただけで舞い上がってしまったクラウドは、完璧なまでの勘違いを鵜呑みしていた。
(お、俺。セフィロスの隣りに立てるなら…頑張る!!)
セフィロスと共にエレベーターの乗り込むと表に止めてあった車に載せられた。
そして10分ぐらい移動したビルへと吸込まれるように入って行った。
「あの、どちらへ?」
「行きたくないが行かなければならないところが有る、そこに行く為に少し力を貸してほしい。」
「自分がサーの力になれるのでしたら喜んで。」
「ならば付いてこい。」
そう言ってビルの中の一室へと入って行った、扉を開けると軍務とはかけ離れたきらびやかな世界が広がっていた。
「ド、ドレスショップ?」
「そうだ。行かねばならない所とはパーティーだ。」
あっけにとられているクラウドの背後からショップのオーナーらしい女性が現れる。
柔らかな笑みを浮かべて丁寧な物腰でセフィロスを出迎えた。
「ようこそいらっしゃいませ、サー・セフィロス。本日は何をご所望ですの?」
「この子に似合うドレスとアクセサリーを、8時からパーティーに出席せねばならないのだ。」
「承知致しました。ご希望はありますか?」
「そうだな、ドレスの色はロイヤルブルーで頼む。」
「まぁ、それは素的ですこと。」
オーナーはクラウドをパーティードレスのコーナーへと誘うと、シルクサテンで出来たロイヤルブルーのキャミソールドレスを取り出し鏡の前にクラウドを引き立ててドレスを宛う。
「たしかにこの色も似合うでしょうけど…この子なら白の方が似合うと思いますわ。」
「そのようだな。」
オーナーが白いシルクのビスチェタイプのふわっとしたドレスを取り出して、再びクラウドに宛う。
「まあ、可愛らしいこと。妖精みたいだわ。」
アクセサリーとして綺麗な青い石の付いたきらきら光るネックレスと、同じデザインのイアリングが渡される。
「まず着替えていらっしゃい、これはスカートの下に付けるペチコートよ。」
オーナーがかさかさした白いスカートを手渡してくれる。
軽く溜め息をつくとクラウドは更衣室に入って言われた通りドレスをまとう。
しばらくして出てきたクラウドは大きく開いた胸元を両手で抑えながら、真っ赤になって涙を溜めていた。
「ほ、ほんとうにこんなドレスを着るんですか?」
「ほぉ、似合っているではないか。それなら合格だな。」
セフィロスに誉めてもらえたのが嬉しかったので、クラウドが思わずにっこりと笑った、その笑顔はどうみても軍人の物とは思えなかった。
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