FF ニ次小説

 魔光エネルギーを管理する神羅エレクトリックカンパニー。
 その治安部は私設軍隊としてはいささか大き過ぎる人数をかかえていた。
 そんな治安部の訓練兵にクラウド・ストライフは所属していた。


FF7小説 クラウド 神羅偏 ー 可愛い子には… ー


 朝6時、めざまし時計がけたたましく鳴り響くと、ベットの中から見事な金髪を奔放に跳ねさせた少年がむくりと起きてきた。

「うん、もう。ザックスの奴、これで目が覚めないなんて絶対ヘン!!」

 ランニングにトランクスと言うごく普通の少年っぽい下着姿のまま、クラウドは隣りのベッドに歩いていくと、そこに寝ていた青年をたたき起こす。

「ちょっと!!ザックス!!起きろよ!!」

 大音量のめざまし時計に起きる事もなく、山嵐のような黒髪の青年がシーツにくるまってぐっすりと眠り込んでいた。
 クラウドがくるまっているシーツを剥ぎ取ると、やっともそもそと動くがまだ起きる気配はない。

「ったく、いつまで寝ている気だよ。おい、起きろって!!」

 今度は肩をゆさゆさと揺する、ザックスが寝返りをしたかと思うとクラウドをいきなり抱き寄せた。

「ん〜〜〜ミリィちゃ〜〜ん。今度デートしようぜ〜〜むにゃ…。」

 この男を起こすといつも女の名前を呼ばれて抱きつかれるのでクラウドがぶち切れて足蹴リを入れる。

「俺は女じゃねぇ〜〜!!!」

 派手にベッドから転げ落ちてやっと目が覚めたザックスが、クラウドに蹴飛ばされた腹をおさえてやっと立ち上がった。

「あは…あはははは…。またやったの?俺。」
「まったく、本当にあきれるぜ。毎日呼ぶ女の名前が違うんだもんな。」
「いや、だってさ。あの子にもこの子にもいい所があってどの子が1番って決められないんだよな〜〜」
「そのうちしっぺ返しがくるよ、覚悟しておくんだね。」

 クラウドは訓練生の制服を着ると食堂へと出掛けようとする。
 ザックスがあわててセーターとズボンをはいてクラウドの後を追いかけた。

 食堂で朝食を取るとザックスは1stの訓練メニューをこなしに、クラウドは訓練生のメニューをこなしにそれぞれの部屋へ向かう。
午前中各自のメニューをこなすと訓練生は自主訓練となるのだが、クラウドには既にやらなければいけない仕事が有った。

 お昼ご飯を取るとあずかっているカードキーをもって本社ビル67Fまで上がる。
 クラウドはそこでザックスが溜めた書類を片づける仕事を引き受けていた。
 ザックスは実力があるのだが、書類の提出が遅くパソコンも苦手だったため、同僚で訓練生のトップであるクラウドを自分の書類整理に無理やり引きずってきたのだ。
 その日からザックスの書類を任されて、普通なら行けるはずもない部屋に自由に出入り出来るようになっていた。

 67Fの目的の部屋の前に立つといつも目の前に有るマホガニーの天然木の大きな扉が威圧感を与える。
 その扉をノックすると中から低い声が聞こえてきた。

「クラウドか?入れ」

 扉を開けて中に入ると目の前に黒のロングコートに実を包んだ憧れの男が窓際にたたずんでいた。
 流れるような銀髪、魔光を帯びたアイスブルーの瞳は冷淡に輝いていた。

 英雄セフィロス、本来ならばクラウドなど会う事もかなわない人である。

 しかしクラウドの同僚ザックスが、セフィロスとペアを組んでいる関係で書類の提出を手伝うという名目でむりやり執務室に引っ張り込んだのであった。

 ザックスの書類を手伝っているうちにセフィロスの書類も任されるようになり、しだいに英雄の着任する任務の関係書類を集める仕事も任された。そして、ミッションの説明で集まったソルジャー達に書類を配ったりしていたおかげで、いつのまにかクラウドはセフィロスの秘書官として認められていたのであった。

「あ、あの。おはようございます」

 セフィロスから返事をもらえるとは思っていないが、クラウドは取り合えず挨拶と敬礼をして、ザックスの机を目指すとちょっと訓練で来れなかった間に山ほど書類が溜まっていた。
 クラウドが溜め息をつきながら席につくと、まず溜まっている書類の整理から始める。
 提出期限順、重要書類順に並び替えて、緊急書類からてきぱきと処理しはじめる。

「うわ!!この書類今日の午後4時までの提出じゃないか!まったく、ザックスの奴ったら…」

 ぶつぶつ言いながらクラウドは書類のフォーマットをデーターベースから引っ張ってきて、業務上必要だったとはいえいつの間にか覚えてしまったブラインドタッチで鮮やかに入力していた。

 一方この部屋の主セフィロスは渋い顔をしながら目の前にある書類を睨みつけていた。
 クラウドが本日提出の書類をすべて記入を終えて各部署に送信するが、一種類だけ手でもって行かねばならない書類があった。
 プリンターを起動させ書類をプリントアウトするとセフロスの元へと歩み寄る。

「サー・セフィロス。お手数ですが本日提出分の書類にサインを頂けないでしょうか?」
「ん?なんだ?」

 セフィロスはそう言うとクラウドが持っていた書類を一瞥する。
 治安部統括のハイデッカーに提出する予定の書類だった。

 ハイデッカーも機械オンチでパソコンの取り扱いを全く覚えず、統括に提出する書類だけは今だに手で持って行かねばならないのであった。

「ヒゲだるまに持って行くならこの書類も頼んだぞ。」

 セフィロスが先程まで睨みつけていた書類をクラウドに手渡す。
 見るとその書類もハイデッカーに持って行く書類だった。
 クラウドから渡された書類にミスが無いのを確認しセフィロスがサインを入れるとクラウドは敬礼をした。

「では、提出時間が迫っていますのですぐに行ってまいります!」

 敬礼から直るときびすを返すようにクラウドはセフィロスの執務室から出て行った。

 セフィロスからあずかっているカードキーは、ほぼフリーパスだったので、2つの書類をもって治安部統括室へと歩いていく。
 68Fにある治安部統括室をノックすると中から下品な笑い声が聞こえてきた。

「ガハハハハ!!あ?ちょっと待て、誰か来たようだ。」

 クラウドは”まずい!!来客中だったか?!”と反省したが、書類の提出期限が迫っていたのでそのまま扉の前に立っていると中から扉が開いた。
 扉から不服そうな顔を出したのは治安部統括のハイデッカーであった。
「何だ?貴様」
「はい、治安部訓練生のクラウド・ストライフです。サー・セフィロスとサー・ザックスの提出書類をあずかってまいりました。」
「なに?!なぜ貴様のような訓練生ごときが、ザックスだけでなくセフィロスの提出書類を持っているのだ?」
「はい、自分はサー・セフィロスの秘書官であります。上官の命を受けて書類をお持ちいたしました。」

 英雄と呼ばれているセフィロスをあごで使える事を、ハイデッカーは暗に喜んでいた。
 たとえ英雄と呼ばれている男だろうと、当然提出書類は今まで本人が持ってきていた。
 それが目の前にいるのは金髪碧眼の訓練生なのである、腸が煮え繰り返るような思いであった。

 苦々しげにクラウドから提出書類を受け取ると一瞥してサインを入れる。
 本当ならここで英雄やクラス1stのソルジャーを、そのまま総務部に行かせるのであったが、仕方なく目の前の訓練生に行かせることにした。

「ああ、そいつを総務のミリィに渡してくれ。」

 そう言うとクラウドの目の前で扉をバタンとしめた。

「え?総務部のミリィって…まさか…」

 クラウドは今朝のザックスの寝言を思い出しながら、総務部へ行く為にエレベーターに乗った。

 嫌な予感は当たった。
 総務部にいるミリィという女性はクラウドの顔を見た途端大声で叫んでいた。

「あ、あんたでしょ?!最近ザックスと付き合っている新しい女って!!」

 クラウドが訓練生の制服を着ているにもかかわらず、ミリィがつかみ掛かかってきたので思わず言い訳をする。

「自分は治安部訓練生のクラウド・ストライフです!サー・ザックスの新しい女ではありません!!」
「え?あ、そ…そうなの?ああ、言われて見れば訓練生の制服着ているわね。ごめんなさいね、取り乱しちゃって。」
「いえ、自分はサー・ザックスと同室なのですが、サーは今朝寝言で”ミリィちゃん今度デートしようぜ”だなとどつぶやいていましたよ。」

 にっこりと笑いながらクラウドがザックスの寝言を告げると、目の前のお姉さんがぱぁっと華やぐような笑顔を見せた。
 ミリィに書類を手渡すと彼女はしっかりと受け取ってくれた。

「あ、そういえば君。訓練生って言っていたわよね?悪いけどこれをレイナード教官に持って行ってくれないかしら?」

 そう言って封書をクラウドに手渡すと、もらった書類の処理に没頭した。
 レイナードなら自分教官だから断る理由は無い、クラウドもうなずいて封書をもらうと訓練所の士官室へと駆けだす。
 一旦、本社ビルから出ると訓練所は目の前であった。
 士官室の扉をノックすると教官は今日行ったテストの答案を採点していたところだった。

「失礼いたします。レイナード教官に総務部からの封書をお持ちいたしました。」

 聞き覚えのある声にレイナードがテストの答案をさっと片づけて扉を開けると、目の前に居るクラウドにびっくりしたような顔をする。

「ストライフじゃないか、なぜ君が総務の書類をもっている?」
「サー達の書類を総務に提出したら頼まれました。」
「そうか、お前も大変だな。」
「いえ、仕事ですから。」

 そう言うと敬礼して部屋から出て行こうとすると、今度はレイナードが止めた。

「ストライフ、今から中将の執務室か?ついでで悪いが、この書類をサー・セフィロスに持って行ってほしい。」
「はい、了解いたしました。」

 再び敬礼すると書類を片手に本社ビルへと歩いて行った。

 再びエレベーターに乗ると67Fまで上がりセフィロスの執務室の扉をノックするとザックスの陽気な声が返ってきた。

「なん?クラウド?」
「はい、失礼いたします。」

 丁寧に敬礼して入室してくるクラウドの首をガシッとホールドして、ザックスが頭をぐりぐりとなでつける。

「クラウド〜〜〜、堅っ苦しい敬語は止めろっていってるだろ?!」
「だ、誰がザックスに敬語を使うかよ?!サーにだってば!!」

 そう言うとクラウドはザックスの脇をくすぐって首締めから逃れ、レイナードからもらった書簡をセフィロスに手渡した。

「訓練所のレイナード教官からサーに書類をあずかってまいりました。」
「貴様、訓練所に用事があるなら何故一言言って行かない。」
「すみません、サー。統括の書類を総務に渡したら総務から訓練所への書類をあずかってしまったのです。」
「お前を配送に雇ったつもりは無かったがな、ヒゲだるまが自分で動くとも思えんから仕方がないか。」

 セフィロスが書類を受け取ると中身を取りだし、確認するのをクラウドは横目で見ながらザックスの机に溜まった書類を再び整理しはじめた。