FF ニ次小説

 クラウドを抱きかかえながらセフィロスがウォールマーケットを走り抜ける。
 そのスピードの速さに振り落とされまいとクラウドは思わずセフィロスの首にしがみついていた。
 はた目からみると神羅の英雄が凄い美少女を抱きながら走っている図である。
 通りすがる人達は英雄の腕の中の美少女にびっくりしていた。
 やがてセフィロスが走るのを止めるとそこはミッション終了の集合場所だった。
 既に何人かのソルジャーが集まり出していた。
 クラウドのお目付役だったルークがあわててセフィロスに駆け寄る。

「すみません、司令!」
「いや、コルネオの屋敷にはおかげで潜入出来た。ちょっと予定外ではあったが結果は同じだ。」

 クラウドは自分が囮にされた事に思わずセフィロスに怒鳴りつけたくなったが、力も何も無い訓練生が出来ることと言えば囮ぐらいであろう。
 その事実をなんとなくわかってしまったので黙り込んでいた、そこにザックスが帰ってきた。

「あん?クラウド。なにかあったのか?顔が暗いぜ。」
「あ、うん。俺、またサーに迷惑をかけてしまったようで…」
「お前がコルネオの屋敷につれて行かれて正解だったんだぜ。まぁ、その後はちょっとこっちの筋とは違ったけどな、結果良ければ統べて良し…なんだぜ。」

 そう言ってクラウドとセフィロスを見比べてザックスは、自分がカンパニー本社ロビーを横切った時の事を思い出した。

「それよりも、さ。このまま帰ったら大変な事になりそうだからクラウド、さっさと服を着替えろ。」
「着替えろって言ったって、替えの服を持っていないよ。」
「そこで伸びていた黒服の男から服を奪ってきた。ほら。」

 そう言って黒服のスーツ一式を渡されると、クラウドもいつまでも女装していたくはなかったので素直に着替える。
 ちょっとぶかぶかだったがなんとか着れないことは無い。クラウドが黒服を着て化粧を落しカツラを外す。
 ふと不思議に思ったのでクラウドがザックスに聞いた。
「ねぇ、ザックス。なぜこんなに親切にしてくれたの?」
「ん?ああ、カンパニーの本社出る時のお前とそこにいる英雄が女子社員の注目の的だったからね。そのままの衣装で帰ったら地獄の”お姉さんのイジメ”が待ってるって。」

 クラウドはその言葉に真っ青になっていた。
 全員が集合して一路カンパニーへと帰る事になるとクラウドはザックスにこっそり聞いた。

「ねぇ、ザックス。このカッコならバレないよね?」
「ああ、大丈夫だと思うぜ。」

 トラックに揺られたおかげでクラウドは吐き気と戦いながらカンパニー本社に戻ると、すでに深夜になっていたので事務のお姉さん達は家に帰っていたのか、フロアには守衛以外誰も居なかったので思わずほっとする。
 クラウドはザックスに送ってもらって先に寮に戻ると疲れて寝入ってしまった。


* * *



 翌日、いつものようにめざましに起こされてクラウドがザックスを起こす。
 朝一番の習慣でニュースをパソコンに表示させる。

 他愛もないニュースの画面の中にふと目を引く写真が乗っていた。
 そこをクリックするとニュース画面が広がった。

熱愛発覚 英雄の恋人はこの美少女?!


 写真は昨日ウォールマーケットを抜け出す時のセフィロスと、その腕の中に抱きしめられていた美少女をすっぱ抜いていた。
 クラウドはあわててザックスを呼んだ。
「うげ!!ちょっと!!ザックス!!これ、どうしよう?!」

 ザックスはクラウドの後ろからパソコンを覗くとげらげらと笑い出した。

「いや〜〜、かわいいじゃんクラウド、何処からどう見てもすんげ〜美少女、間違ってもお前にはみえな……ゲホォ!!」

 ザックスが最後まで言い切らないうちにクラウドの正拳突きがボディーにヒットした。

「ゲホ!!ゲホッ!!安心しろよ、セフィロスはその手の話がひっきりなしなんだ。すぐ忘れられるって。」
「なら、いいんだけどさぁ。」

 そう言って安心してクラウドは訓練所に出掛けて行った。
 いつものように訓練を終えて67Fにあるセフィロスの執務室へと出向き、マホガニーの天然木の扉をノックするといつものように返事があった。

「クラウドか、入れ。」
「はい、失礼いたします。」

 いつものように敬礼して部屋に入ると、目の前にタークスのツォンがセフィロスと面と向かって立っていた。
 その異様な雰囲気にクラウドは思わずたじろいでしまった。

「本当にこの少年なのですか?」
「ああ、なんなら昨日のミッションで出動したソルジャー全員に聞けばよい。」
「信じられませんね。彼は訓練生でもトップの優等生ですよ。」
「すまないがクラウド、昨日の事をこの男にはなしてやってくれ。」

 クラウドはセフィロスの目の前に居る男を見た、黒いスーツをびしっと着こなしてはいるが隙が全く感じられない。

「あの…ミッションの内容を部外者に話すのはいけないはずではありませんでしたか?」

 クラウドの言葉に黒服の男がクスリと笑う、セフィロスがにやりと冷たく微笑んだ。

「安心しろ。タークスは部外者には入らない。」

 神羅カンパニーの秘密組織タークス。
 その仕事がなんであるかクラウドにはわかってはいなかったが、裏で暗躍している事だけはなんとなくわかった。

「はい、5番街に潜入し反抗勢力を一掃する為に自分は女装をしてミッションに参加いたしました。」
「あの金髪碧眼の美少女はお前と言う事か?」
「はい、間違えありません。」

 思わず吐き捨てるように話すクラウドに一瞬信じられないような顔をむけ、タークスのリーダーは頭を抱えて溜め息をついた。

「まさか?!どうやって社長に話せばよいやら…」
「ルーファウスが何かあったのか?」
「社長は、貴方が抱きしめていた美少女に一目惚れをしたのです。まさか、少年兵だったとは…」
 あまりにも意外な言葉にクラウドが目を丸くしてびっくりした。
「え?!」
「クックック…ありのまま言えばよいだろう?」
「そんなの言い逃れと思われます。まだ貴方の恋人と言い逃れた方がマシです。」
「それで誤魔化せるのか?」
「とりあえずやってみますが、お二人に協力してもらう事になるかもしれません。その時はお逃げにならないようお願いします。」

 丁寧ではあるが断ることのできない雰囲気であったので、クラウドはセフィロスを不安げな眼差しで見ていた。
 セフィロスは吐き捨てるように答えた。
「好きにしろ。」
「了解と取らせていただきます。」

 丁寧に一礼するとツォンは執務室を後にした、入れ代わりにザックスが入ってきて事の始終をクラウドから聞き出した。

「ブッワッハッハッハッハ!!あのどら息子何処に目をつけているんだ?!」
「俺、そんなに女の子にしかみえなかった?」
「ん?ああ。まあな、お前の事知っていなかったら真っ先に口説いていると思うぜ。」
「俺、これから先もこんな仕事ばかり来るんだろうか?」
「はぁ?!んなもん一杯食って骨太になって筋肉付ければ何処からどう見ても男にしかみえなくなるってば!!」
「そ、そうだよな?!俺、頑張る!!」

 それからしばらくクラウドは好き嫌い無く食事をたくさん取り、嫌いだった牛乳も飲むようにして、骨太な筋肉男になろうと努力をしてはいたが、もちまえの女顔と、どんなに努力しても筋肉隆々にはならなかったので、このあとも女性が必要なのだが危険なミッションには何度も女装しては参加して、いつも危ない目に逢いかけてはセフィロスに助けられていた。

 そのたびクラウドは”英雄の恋人”と噂され、ニュースにすっぱ抜かれては、いかに努力しても自分が女の子にしかみえないという事実にしばらく落ち込むのであった。



The End