FF ニ次小説
 クラウドが退勤時間となったので机の上を片づけて、ツォンからもらった紙袋を片手に執務室を出て行った。
 そしてそれか1時間ぐらい後に、セフィロスが執務を終えたのか部屋から出て行こうとしてザックスを振り返る。

「今日中の書類がかなりあったようだが、全部片づけるんだぞ。」
「あ…頭がいたーい!!」
「明日にはクラウドを貸してやってもよいが、それまでに最低限の書類だけは片づけておけ。」
「ふぁーい…」

 ザックスが情けない声で返事をするのを聞くと、セフィロスは執務室を後にして車を置いている駐車場へと向かった。
 愛車に飛び乗ると一気にアクセルを吹かして高速を駆け抜け、ミッドガルでも1、2を争う高級マンションへと走っていった。

 部屋に入るとクラウドは既に着替えを済ませ、ツォンが用意していた付け毛をつけて薄く化粧をしていた所だった。
 振り返ったクラウドがどう見ても少女にしかみえなかったので、思わずセフィロスはじろじろと目の前のなんちゃって美少女を眺めてしまった。

「あ、あの。変でしょうか?」
「いや、あながちルーファスの目も節穴ではないなと思ってな。」
「それって、嫌みですか?」
「いや、誉め言葉だ。凄い美少女ぶりだぞ。」
「はぁ…。お願いですから二度と女装のミッションを入れようだなどと思わないで下さいませんか?」
「無理だな。今回の事でタークスも私にもお前のデーターがインプットされた。利用出来る物は利用する」
「あまりそう言うミッションが無い事を祈っています。」

 クラウドはそう言うと椅子から立ち上がりセフィロスの近くによる。
 セフィロスがにやりと冷たく微笑むと部屋のセキュリティーを確認して、地下に有る駐車場へと行く為にエレベーターに乗り込んだ。


* * *



 5番街にあるシェホード・ホテルのロビー。

 8時5分ほど前にロビーに到着したルーファウスは、いつもの白いスーツに花束を手に持って立っていた。
 後ろにはいつものようにツォンが控えていた。
 そこへ黒塗りのスポーツカーから降り立ったセフィロスが金髪碧眼の目の覚めるような美少女をつれてロビーに現れた。
 ルーファウスはその少女の美しさに目を見張っていたが、ツォンは違った意味で目を見張っていた。

(あ、あれは…本当にストライフ訓練生なのか?!)

 うつ向きがちで華奢な少女の顔をじっと見ると、ツォンの記憶に有るクラウドの顔だちと一致した。
 セフィロスがルーファウスに面と向き合うと軽く礼をする。

「こんばんわ、若社長殿。今宵はお招きに上がりありがとうございます。」

 いんぎんなまでの態度はセフィロス流の嫌みであろう。しかしルーファウスも慣れた物で軽く受け流して隣りの美少女を見る。

「最近お前が一人の少女に首っ丈になっていると聞いたが、この少女なのか?名前を教えてくれないか。」
「はい、ミルフィーユと言います。」
「そうか、彼女に似合いの名前だな。」

 ルーファスは女装したクラウドに完璧にノックアウトされていたので全く気がついていないようだったが、後ろのツォンが苦笑していた。
 それはそうであろう、ミルフィーユというのはパイ生地にクリームを挟んで重ねた上からまたクリームを塗って多層にしたケーキの総称だ。
 何処かの国の言葉で”千枚重ね”というような意味らしい。
 クラウドがこのケーキを大好きだったので偽名にしたのである。

 ツォンが一礼して3人をホテル最上階のレストランへと案内する。
 そこでひとしきり上手い料理を堪能しながらセフィロスはクラウドがルーファウスにどう対処するのか冷静に見ていた。
 クラウドの化けっぷりは見事な物で冷たい視線でルーファウスを睨みながらもそつ無く受け答えをしていた。
 やがて料理のコースがデザートに入るとルーファウスがため息のような物を漏らした。

「ミルフィーユさん。私と一緒にいるのがそんなに嫌なのですか?」
「ええ、私は何故本日ここに来ねばならなかったのか今だに解りません。私はただ、サーのおそばに居たいだけなのに…」
「それがセフィロスに取って重荷になるとは思わぬのか?」
「私が重荷になるのであればいつでも私はサーのおそばを離れます。しかしサーが望まれる限り私はサーのおそばに居たいのです。」
「そう言う訳だ。いいかげん人のモノを欲しがる悪いクセは無くす事だな。」
「な!!何時、私が人のモノを欲しがったとでも!!」
「おや?そうなのではないかな?どう見てもお前がミルフィーユを欲しがって居るようにしかみえない。なんなら明日にも送ってやろうか?ル・パティスリー・アデナウワーのナポレオンパイでよいか?。」
「失礼な!!」

 ルーファウスは声を荒げて立ち上がると足を踏み鳴らすようにVIPルームを出て行った。
 困惑気味のクラウドの横でセフィロスが珍しく声を立てて笑っていた、それはまるでイタズラが成功した子供のような笑い声だった。


* * *



 翌日、いつものように執務室でセフィロスの書類の整理をしていたクラウドは時計を見てミニキッチンへと足を進めた。
 そこへ1stソルジャーのルークが扉をノックして入ってきた。

「よぉ、クラウド。これ、もらい物だけどやるよ。」

 ルークが持ってきたのはチョコレートクッキーだった、甘いもの大好きなクラウドが満面の笑みで1stソルジャーに礼を言う。

「うわ!ありがとうございます。」
「あ、ああ…」

 クラウドの満面の笑みが見られて思わず”ラッキー!”とルークは思った。
 それがきっかけで再びセフィロスの執務室のティータイムにソルジャー達が集まるようになってきた。
 美味しいコーヒーとちょっとしたおやつにクラウドの笑顔。
 ソルジャー達に取ってはいやしの時間になっていた、そこへザックスが花束を抱えて入ってきた。

「ほーれ、クラウド。プレゼント。」
「え?またこの間の花売りの女の子?」
「あ、ああ。可愛いんだよなー!ヤッパリ!!」
「じゃあ本命にしちゃえばいいじゃない。」
「俺だって口説きたい!!口説くチャンスをひたすら待ってるんだい!」
「そう、良かったじゃない。そう言う彼女が現れて。」
「で?なに?ちょっとティータイムに来なかったうちに、また元に戻っちゃってるじゃない?」

 ザックスがその場にいた顔なじみのソルジャー達を一瞥して呆れたような顔をしていた。

「いやぁ、訓練所の教官達からクラウドの才能を聞かされてさ。」
「自分の下士官にしたいなーって…」
「じょ、冗談じゃない!!クラウドは俺が見付けてきたんだぞ!!」
「あれ?クラウドってザックスの秘書官だったか?」
「サーを手伝うついでに手伝っているんじゃないのか?」

 そこへ扉をノックもせずにこの部屋の主であるセフィロスが戻ってきた。
 いつの間にか集まり出しているソルジャー達を一瞥し、軽くため息をついた。

「私の下士官を横取りしようとは、貴様達命が要らないと見えるな。」

 セフィロスの一言にその場にいたソルジャー達は一斉にクラウドを見つめた。
 クラウドは軽くうなずいて答えた。

「はい、自分はサー付きの下士官ですが。それがなにか?」
「えええ?!いつのまに?!」
「かれこれ3週間前でしょうか?」
「ああ、そのぐらいになるかな?」

 その場にいたソルジャー達が蜘蛛の子を散らすように逃げ出して行った。

 セフィロス付き下士官=将来の自分のライバル…なのである。

 クラウドの能力の高さに舌をまいた教官達が、めぼしい1stソルジャー達に能力のある訓練生を伸ばしてもらうべくその能力をこっそり教えていたのであった。
 そして偶然にも教えてもらっていたソルジャー達は、セフィロス配下のソルジャー達ばかりだったのであった。

 その中にザックスがいなかったのは偶然なのか意図された物であるかはわからない。
 わからないがクラウドがザックスの下士官になっても、その能力が伸ばされる事はないと教官達が暗に思っていたのは事実であった。
 そして訓練所の教官達は、クラウドがセフィロスの秘書官をやっていたのは知っていたが、トップ・ソルジャー付きの下士官になったのは全く知らなかった。

 もし、知っていたらクラウドがこの3週間でぐんと伸びてきた理由が、自分達の指導のせいではなく、セフィロスの的確なアドバイスに寄る物だと瞬時に悟ったであろう。

 しかし蜘蛛の子を散らすように逃げて行ったソルジャー達もあっという間にすぐに執務室におやつをもって現れるようになった。
 少しのおやつと引き換えにクラウドの笑顔が見られる物ならば安い物。
 あわよくば将来、自分の仕事を手伝ってもらう為の布石にもなる。

 その上週に一度はザックスが花束をもってやってきていた。
 にやけた顔で鼻歌を唄いながら執務室で機嫌よくパソコン相手に人差し指一本打法でキーを打っている事もあった。
 その様子を見ているとどうも花売りの彼女とうまくいっているようだ。
 美味しいお菓子と綺麗な花にかこまれてクラウドは『セフィロス付き下士官って最高!』と、ひそかに思うのであった。



The End