ミッドガルの電力をまかなっている神羅カンパニーは、特殊事情により私設軍隊をもっていた。
私設軍隊に入る為には訓練所に入所し訓練を受けなければいけない。
そんな訓練生の中に、クラウド・ストライフも入っていた…はずであった。
FF7小説 クラウド 神羅偏 「1st MISSION」
訓練所で訓練をした後、自由解散になり、それぞれ自分が決めたスケジュールをこなすのが、普通の訓練生の一日の予定であった。
しかしクラウドは訓練生であって訓練生では無い。
知識も技術も他の訓練生を圧倒するほど持っている上に、魔力など下手なソルジャーよりも強い。
そして事務処理能力もかなりあった為、神羅カンパニー治安部の要であり、トップソルジャーで英雄中の英雄と呼ばれる男、セフィロス中将付きの下士官に抜擢されていた。
そのせいかあっというまに才能を開花させ訓練生とはいえ何時でも実戦に投入可能なまでになっていたのであった。
今日も今日とて訓練を終えてセフィロスの執務室に向かおうとしていると、訓練所の教官が声をかけてきた。
「ストライフ訓練生、今から司令の所へ行くのか?」
「はい。」
「ついでで済まないが書類を持って行くのを頼まれてくれないか。」
「あ、はい。」
そう言いながらクラウドは教官の後に付いて行くと、教官の部屋の手前で自分を担当している、レイナード教官がクラウドを見つけてにやりと意味深に笑ってから話しかけた。
「ストライフ訓練生、おめでとうと言うべきかな?まあ、一生懸命迷惑かけてこい。」
「え?何の事でしょうか?」
全く意味がわからないクラウドに先程声をかけた教官が書類を渡した、その書類をぱっと見てクラウドは思わず声をあげた。
「ええ〜〜?!こ、この書類って…」
「以前お前に言ったよな。総司令からお前を貸せと言われたら、何があってもミッションを優先すると。まあ、そう言う事だ。」
「お、俺。まだ訓練生ですけど…」
「それでもお前が必要と思われたから総司令はお前を貸せと言ったのだ。大丈夫だ、周りは1stソルジャーばかりだ。お前の事は良く頼んでおくから頑張ってこい。」
「は…あ。」
もう一度クラウドは書類に目を通す、間違えなく自分のはるか上官である総司令セフィロスのサインが入っていた。
依頼書
訓練所教官 レイナード・スミス殿
訓練生のクラウド・ストライフを
次のミッションにお借りしたい。
MISSION 29412291 MISSION-TYPE B
コンドルフォートにおける特殊マテリア回収および
上記任務に伴う所雑任務
神羅カンパニー治安部第1師団隊長 Sephiroth
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「普通のミッションの様ですね。」
「ん?なんだ、特殊なミッションなど訓練生を連れていく訳なかろうが。それともなんだ?お前はそんなに閣下のミッションに付いて行きたいのか?」
教官の言葉に思わずクラウドが首を横にぶんぶんとふった、レイナードはその反応を普通の事だと思っていた様であるがクラウドは彼なりに断りたい理由があった。
(前のミッションなんて女装だったもんなぁ…それにこの前その女装姿もタークスに知れてしまったし…)
思い出したようにクラウドが再びぶんぶんと頭をふると、レイナードに一礼して指令書を持ちセフィロスの執務室へと駆け足で走っていった。
神羅カンパニー本社ビルの67Fにセフィロスの専用執務室はあった。
いつもの様に専用のパスをリーダーに通してエレベーターに乗り込むと、67Fを一気に目指す。
エレベーターを降りると幹部専用のスペースを奥まで進む。
目の前に天然のマホガニーで作られた重厚な扉がそびえ立っていた。
慣れた様子でクラウドは扉をノックして入るとすぐにその部屋の主に敬礼した。
「クラウド・ストライフ、入ります。」
挨拶はするが返事が帰って来たことはない。
しかしクラウドも慣れた物、大きなデスクで書類を眺めていたこの部屋の主の元に近寄ると、教官から手渡された書類を手渡す。
「司令に渡すよう仰せ使いました。」
「読んだな?」
「はい。」
「ならばそう言う事だ。」
「訓練生をわざわざ連れて行く理由をお聞かせ下さい。」
「お前の魔力なら実戦でも使えるであろう、実力の無さは姿形でいくらでも誤魔化せる。」
「潜入ですか?」
「クックック…コンドルフォートの状況を知れば素直に潜入とは行かぬぞ。」
「まさか、また…ですか?」
「その”まさか”だな。それ以外にお前を指名する理由など有るか?」
「いいえ。ありません。」
有無を言わせぬ冷淡な態度でクラウドに冷たい笑みを見せている。
クラウドは思わずがっくりした。
(はぁ…また女装ミッションかよ。)
自分の女顔を今さらのように恨みたくなったが、以前”利用出来る物はすべて利用する”とセフィロスに言われているので、クラウドは諦めてコンドルフォートの状況や地形、周辺に生息するモンスターなどをいつもの様に調べはじめた。
しばらくすると廊下の向こうからどたどたと足音を響かせて誰かがやってきた。
幹部専用の部屋しかない区域にここまで派手に足音を響かせることのできるのは、黒髪のソルジャー、ザックスしかいないのであった。
「ク〜ラ〜ウ〜ドォ! おまえ今度のミッションに一緒に来るんだって?!」
せっせとパソコンからデーターを拾い集めていたクラウドの首をがっしと掴んで、余った手で頭をわしゃわしゃとなでつけてきた。
しかしクラウドの反応がイマイチだったので首をかしげる。
「あれ?クラウド。お前俺達と一緒のミッションは嫌なのか?」
「第一師団の第一小隊に仮所属なんだ。俺一人一般兵にもなっていない足手まといだろ?」
「え?ルークの所ってにーさん、あそこはソルジャー編成にしたばかりだよな?そんなところにいくらトップとはいえ訓練生入れて大丈夫かよ?」
「クラウド以外には出来ない任務が有るからな。」
「クラウド以外に出来ないって…。あ!!」
クラウドがこなす任務に思い当たったザックスはマジマジと彼を見た。
ザックスの視線をにらみ返すようにクラウドが見あげている。
「ドレスなんて着ないからな!!」
「そ、そりゃ任務しだいなんじゃないのか?」
「そうだな、コンドルフォートの連中を懐柔させるには、ドレスは不味いだろうな。」
「ああ、じゃあカウガールなんてどうだ?かわいいぞ〜〜」
「お、俺は男です!!」
「でも、任務なんだよな?」
ザックスがにっかと笑うとクラウドにはそれまでの勢いがすべてなくなった。
仕方がなくクラウドは肩を落してため息をつきパソコンに再び向かおうとした
しばらくクラウドがパソコンに向いて仕事をしていると、ルークがあわてて飛び込んできた。
「総司令!次のミッションでストライフ訓練生を我が第一小隊に特別召集したとお聞きしましたが本当ですか?!」
「ああ、本当だ」
「いくらクラウドが訓練生1出来るとはいえ、コンドルフォートですよね?大丈夫でしょうか?」
「そうだな、ピンクのギンガムチェックのシャツと赤いバンダナ。ヒップハングのジーンズにウェスタンブーツがあれば大丈夫だろう。」
「……クラウド、つくづく利用されているな。」
「利用出来る物はなんでも利用されるそうです。」
クラウドが何と言おうとすでに決められた事である、それがどんなに嫌な事でも上官の命令であるのであれば従わねばならない。
ましてやクラウドはセフィロス付きの下士官である。
訓練生でありながらセフィロスの仕事を手伝う事が仕事になっていた。
しかし、ひょんなことでクラウドが女顔で女装すると、ミスコンの優勝者すらはだしで逃げ出すような美少女ップリを発揮するのである。
若社長のルーファウスに惚れられるというオマケまでついたが、そのおかげでクラウドはセフィロスの秘書官から下士官になれたのであった。
クラウドが資料を集めきったのかデスクから立ち上がると、コピー機に向かい吐き出された資料を取り上げセフィロスに見せる為に持って行く。
「確認をお願いいたします。」
セフィロスが黙ってクラウドから書類を受け取ると一通り目を通し軽くうなずく。
「第一師団の第一小隊、第二小隊を連れて行く。人数分ファイリングしておけ。」
「アイ・サー!」
敬礼をしたくラウドがコピー機に書類をセットし人数分コピーする。
手際よくファイリングするとセフィロスの机の上に提出した。
「ずいぶん手早くなったな。」
「お誉めの言葉と受け取っておきます。」
クラウドから手渡された関係書類のファイルの数を確認し、セフィロスは満足げにうなずいた。
ルークがクラウドに話しかける。
「1隊の連中の顔合わせに行くかい?」
「いえ、俺どのみちミッション限定の加入ですし1隊のみなさんとは全員顔見知りです。」
セフィロス直属のソルジャー部隊である第一師団の中でも精鋭ぞろいが、第一小隊なのであった、部隊はソルジャーで構成されていてセフィロスが出陣する時はかならず随行していた。
そのおかげでミッションの資料を配ったりしていたクラウドとの接点も多く、クラウドも1隊、つまり第一小隊のメンバーと全員顔見知りになっていた。
「司令、ミッションにはいつ?」
「そうだな、クラウドの衣装が揃いしだい出発だな。」
「わかりました、明日には揃えます。」
怒り心頭のクラウドはセフィロスを思いっきり睨みつけながら話しているが、英雄に取ってそんな視線は慣れた物である。
軽く受け流すとルークに向かって話しかけた。
「ルーク、こいつの面倒はお前が見るんだな。明日、クラウドに付いて衣装を揃えてこい。そうだな、お前もお揃いで一式そろえてくるがよい。兄妹にはみえるぞ。」
「はあ?」
つまりルークはクラウドを守る為に一緒に変装すると言う事なのである。
ルークはクラウドの顔を見てため息をついた。
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