FF ニ次小説
 翌日、クラウドはルークと一緒に変装用の衣装を探しに街に出ようとしていた。
 二人とも顔が暗く通りすがる兵士達が首をかしげている。
 訓練生仲間たちも憧れの1stソルジャーと一緒にいるというのに、暗い顔をして居るクラウドが不思議でなら無い。

「クラウド、どうしたって言うんだよ?」
「あ、あの…ソルジャー1stのルークさんですよね?」
「あ?ああ。」
「あ、憧れていました!」
「…クラウド、行こう。俺、今訓練生相手に話すゆとり無い。」
「俺も訓練生なんですけど。」
「お前は今、運命共同体だろ?」
「い、言わないで下さい」

 壮大にため息をつきながら肩を落して歩いて行く1stソルジャーと、ぶっちぎりのトップを走る訓練生はトボトボとカンパニーの門を出て行った。

「何?あれ。」
「さあ?」
「そういえばクラウド、今日訓練に出ていないよな?」
「あ、それそれ!ソルジャーからご指名で、ミッションに貸してほしいと言われたって教官が…」
「それならなぜあんなに暗い顔をするんだろう?」
「ルークさんも一緒って事なんだろう?じゃあ一隊に加わるの?」
「一隊?!そんなところに訓練生が入って何をするのさ?!」

 訓練生とはいえ第一師団第一小隊、通称一隊が何であるのかぐらいは知っている。
 ソルジャーばかりで構成されたセフィロス直属の隊で、戦地では常に英雄と共にいる隊なのである。
 そんなところに訓練生が入る理由がわからず、3人の訓練生は頭をひねっていた。

 ショッピングゾーンを歩く一人の少年と青年は、相変わらず暗い顔をしていた。
 その時後ろからルークの肩をポンと叩く男がいた。

「よぉ、お兄ちゃん!」
「ザックスかよ。本来ならクラウドの兄貴役はお前だろ?」
「あ〜、ダメダメ。俺だとすぐにばれちまう。なにしろ髪の色が違い過ぎるからな。」

 ザックスは黒髪、ルークはブラウン系の髪の色をしているので、兄弟と見られるのであれば彼であろう。
「でもよぉ、旦那も酷いんだぜ。俺に原住民の服かって来いって。」

 ルークがザックスを見て思わず吹き出した、この男にはあまりにもぴったりの格好である。

「ククククク…それはいいや。俺クラウドの兄貴の方が絶対にいい!」
「で?クラウド。どんな服買うんだよ?」
「ウェスタンブーツの目茶苦茶高い奴を経費で落してやる!」
「やだな〜、Gパンの娘を追いかけ回したくないな〜出来ればフリフリのドレスの方が俺の好みなんだけど。」
「断る!!」
「そこを何とか…ねえ、クラウドちゃん。」
「気色悪い呼び方するな!」

 ザックス相手にクラウドが吠えまくっているうちに店に到着した、予定通り男でも着られるようにシャツだけはピンクのギンガムチェックにしたが、あとはどうせ会社の経費だと思ってオールドビンテージのジーンズや皮に手で入れた模様の入っているウェスタンブーツとテンガロンハットを買った。ルークはクラウドとお揃いでシャツだけ青のギンガムチェックにしている。

「まあ、こんな所か。ところで、お前の偽名だけど、俺がルークだからレイアな!」
「うわぁ〜、どこから付いたかバレバレの名前。まあ、ミルフィーユよりましか。」
「なん?ミルフィーユって。」
「ケーキの名前!」

 クラウドがぷんすか怒っているとザックスとルークが顔を見合わせる。
 まさか自分の女装時の名前が既に付いているとはいえないクラウドは、はぐらかす為二人のソルジャー相手に今だにブーブー文句を言うのであった。

 変装の用意が出来たのでカンパニーに戻ると、セフィロスにその衣装を見せて一応許可をもらう。

「サー、この衣装でいかがでしょうか?」
「なんだ、スカートではないのか。」
「拒否します。」
「クックック…お前のスカート姿があまりにも可愛いのでな。あっちの方が連中を悩殺出来るのではないかと思うのだが?」
「上官命令ですか?」
「クックック…どうする?ルーク」
「はぁ、まあクラウドの女装は確かにかわいいのですが…」
「はーい!!フリフリ・スカート激しく希望!!」
「い・や・だーーーー!!!」
「まあ、今回は動いてもらわねばならないから仕方がないか。」

 セフィロスの言葉にクラウドは少しホッとしたが、動いてもらうという言葉に背中に冷たい物を感じた。

 第一大隊ミッションルームには第一小隊のメンバーが一同に会していた。
 居並ぶソルジャー達に資料を配ってから、クラウドはミッションルームの端っこにちょこんと座った。
 ルーク以外のソルジャー達がびっくりした。

「小隊長殿、今回もストライフ訓練生が参加するのですか?」
「ああ、そのことも司令より話が有ると思う。」
「了解いたしました。」

 司令であるセフィロスから説明が有ると言うことは、訓練生を入れることは既に決められた事である。
 その場にいたソルジャー全てがその事を瞬時に理解していた。
 やがて扉が開きセフィロスとザックスが部屋に入ってくると、ミッションルームに居る全員が立ち上がり一斉に敬礼した。
 セフィロスが悠然とミッションの説明をしはじめた。
「ただいまよりMISSION 29412291 MISSION-TYPE B、コンドルフォートにおける特殊マテリア回収ミッションの説明をする。諸君も知っていると思うがコンドルフォートには特殊マテリアが有る、その確保のためには手段を選ばぬ。ルークとクラウドを潜入させうまく懐柔したところで総員突入、ルークとクラウドは途中まで反抗グループに参加しマテリア確保と共に裏切る事。」
「総司令殿、マテリア確保の手段は?」
「まかせた。」
「了解、考えられるあらゆる手を使います。」

 ため息交じりのルークの返事にクラウドは自分が何をすればよいのか、どうすればミッションを遂行出来るか悩んでいた。

 そしてミッションに行く日がやってきた。
 いつものようにセフィロスと共に出社して朝一番の任務をこなし、時間になると駐車場に一隊と一緒に隅の方に並んでいた。
 セフィロスとザックスが前に立つと、全員無言でトラックの中に乗り込んで行った
 しかしクラウドはルークに連れられて車に移動する、隊員達とは別行動でコンドルフォートに入る為だった。
 ルークがチョコボ寄せのマテリアをポケットから取り出して、バングルに装備しようとするとザックスが横から口を出した。

「ルーク、こいつがいればチョコボ寄せのマテリアはいらねえぞ。」
「え?何でだよ。」
「チョコボにプロポーズされた訓練生だったりする。」
「あれはクラウドか?!」

 1stソルジャーにもなると色々な噂を耳にする。
 最近では「訓練生が”ベータ”をラーニングした」とか、チョコボ寄せのマテリア無しでチョコボが寄ってくる奴がいるとか、訓練生にとんでもない奴がいる事は1stソルジャーに取っては既に聞き飽きた事であったが、まさかそれが総べてクラウドの事であるとは、夢にも思わなかったのである。

「じゃあ…ベータをラーニングしたのも、チョコボ&モーグリを発動させたのも…まさか?」
「ああ、み〜んなクラウド。」
「クラウド、おまえ訓練所卒業したら一隊に来い!」
「え?一隊ってソルジャーだけですよね?」
「お前は下手なソルジャーより使える、それだけで理由は十分だ。」
「ありがとうございます!」

 クラウドはルークに対して敬礼をした。
 セフィロス直属の部隊のトップである第一大隊第一部隊、その隊長ルークに誘われて断れる兵士はいない。
 一緒に残っていたザックスがルークに文句を言い出した。

「まった!!ルーク、こいつは訓練生であって訓練生じゃない。残念ながらにーさんの意向も考えなければいけないんだぜ。」
「ああ、総司令の下士官だったな。」
「まったく、クラウドは俺の同室だったんだぞ。俺が書類の手伝いでにーさんの執務室に引っ張ってこなかったら今ここにいたかどうか…」
 ザックスの言葉にそれまで黙って聞いていたセフィロスが口をはさんだ。
「いや、残念だが遅かれ早かれクラウドの素質はすぐに我々にもわかった事であろう。だいたいお前に新入生のトップを同室にさせたのは俺だ。」
「なんどすてぇ〜〜〜?!」
「うまくいけばお前の手伝いくらいはさせられるかと思っていたら、案の定お前が引きずり込んできたんだ。」
「にーさんの思うつぼって事?」
「まあな、その訓練生がまさかこれほど出来る奴とは思わなかったがな。」

 クラウドに取っては「寝耳に水」、1stソルジャーであるザックスと、同室になったのはセフィロスが仕組んだとは思ってもいなかった。
 目からその青い瞳がこぼれ落ちそうなぐらいびっくりしているクラウドに、ルークが苦笑しながら頭を撫でてやり話しかけた。

「クラウド、お前何をびっくりしているんだ?お前の上官は治安部の実質的な司令だぞ。そのぐらいの事は朝飯前じゃないと思わないか?」
「え、ええ。まあ、確かにそうですが…」
「お、おまえトップ入隊でそのままダントツトップを独走中ってこと?それって何気に凄くない?」
「何気に…じゃなくてメチャクチャ凄い事だぞ。俺もこの位置に来るまでトップを独走した事など無いからな。」
「そ、そんな。」

 トップソルジャー達に誉められまくってクラウドはほんの少し頬を赤らめて照れたような顔をした。
 その顔がどう見てもダントツトップを独走する訓練生にはみえず、ルークは何故この訓練生に女装させるのか納得したような気がした。