FF ニ次小説

 しばらくして戦いに出ていた隊員達が全員帰ってきたのか、ルークがクラウドを探している声がした。
 クラウドはあわててバックヤードから飛び出した。

「サー・ルーク!」
「よくやったな、クラウド。」
「いえ。俺、何もできなくて…」
「特殊マテリアを回収出来た、それだけでお前の仕事は十分だ。」

 そう言ってクラウドの頭を撫でる姿ははた目からみると、やはり仲のよい兄妹にしか見えなかったので、後ろから来ていたザックスに揶揄される。

「よぉ、兄ちゃん。可愛い妹を紹介してくれよ。」
「ザックス、お前まだその格好をしていたのか?」
「あん?いやー結構気に入っててさ」

 ザックスはまだクラウド達を追いかけた時の姿でいた。
 念には念を入れてボディペインティングまでしているのだが、本当に似合っているのでクラウドが思わず吹き出してしまう。

「ザックス、やたら似合っているよ。」
「一生その格好をしていろ」

 クラウドに笑顔が戻った時にセフィロスが帰って来た、自然と部隊の隊員が全員整列し敬礼をして司令官を迎える。
 セフィロスは軽くうなずいて整列した隊員達の前に立った。

「総員、撤収!」
「アイ・サー!」

 セフィロスの撤収の命令を受けて全員がてきぱきと撤収作業に取り掛かる。
 クラウドも何かを手伝おうとするが何をやっていいのかわからないので、手近の隊員達を手伝おうとテントの解体を始めた。
 しかし身長が足りないので高い所に手が届かず、テントの撤収作業をしている隊員達に邪魔にされ仕方なく器材を運ぼうとするが、まだ力が足りないので持ち運べる基材もあまりない。
 しばらくするとクラウド一人がやる事が無くなってしまっていた。

 ぽつんと一人所在なげにたたずんでいると思わず涙がこぼれそうになる。
 ぐっと我慢をしていると不意にセフィロスに声をかけられた。

「何をしている?」
「あ、いえ。俺、何もできなくて…」
「当たり前であろう、訓練生が正規の軍、しかも精鋭ぞろいの中で何を出来るというのだ?」
「それでも、あと数ヶ月で正規軍に編入されます。」
「その後で地獄の演習や訓練が更に待っている。演習で鍛えられてやっと使い物になるのだ。訓練生など最初から使えるとは思ってはいない。」

 セフィロスの冷たい物言いにクラウドは耐えていた涙をはらはらとこぼしはじめた。
 周りで撤収作業をしていた隊員達からどよめきのような声が上がった、しかしその時セフィロスの手がクラウドの頭を優しく撫でた。

「大丈夫だ、あせる必要はない。お前は十分に役に立っているでは無いか。言われた仕事が出来生きて帰れる、それだけで今は十分だ。」

 セフィロスの言葉にクラウドは堰を切ったように泣きはじめた。
 撤収が完了し隊員達がトラックに乗り込みはじめてもクラウドは泣きやまなかったので、泣きじゃくる少年をもてあました英雄が華奢な体を抱きかかえるようにトラックに乗せた。
 おかげでまたザックスに揶揄される。

「よ、旦那!美人の奥さん連れてるね〜!羨ましいぞ、このォ!」

 セフィロスは無言でザックスをぶん殴ると、トラックの運転手に対して出発の命令を出した。

 トラックが出発するとしばらく泣きじゃくっていたクラウドがとたんに青い顔をしはじめる。
 ザックスがその原因に気がつくとあわててクラウドに近寄ろうとするが、その前にセフィロスがスリプルの呪文でもかけたのかすぐにすやすやと寝息が聞こえてきた。
 その寝顔をのぞき込んでいたザックスとルークがつぶやいた。
「ま〜ったく、可愛い顔しちゃって。」
「こいつ、本当に地力が有りますよ。敵の技のマテリアを貸したのですが、ホワイトウィンドで身を守りトラインの魔法を発動していました。」
「ひょえ〜〜、可愛い顔してやること凄い!!」
「そのぐらいの力がなければ、一般兵にもなっていないような奴を下士官にしたり、ミッションに連れて行って仕事をしてもらおうとは思わん。」
「こいつ、いい戦士になりますよ。」
「でもなぁ、出来れば俺達みたいな汚い仕事させたくないな、こいつはこのままでいてほしい。」
「それはクラウドしだいだな。本人が望む物を俺達が止める訳にはいけないだろう?」

まだ何か言いたげなザックスはルークのいう事ももっともだと思ったので、渋々うなづいたがまだ幼さの残る顔に涙の後を残して眠るクラウドを見るとどこか納得出来ない物が残っていた。


* * *



 一日以上かけてミッドガルに戻ってきたトラックが、カンパニーの駐車場に止まった。
 一般兵やカンパニーの社員がわいわいと集まってくる中、トラックの中から隊員達がぞろぞろと降りてきた。
 吐き出された隊員達が整列するとザックスとルークが出てくる。
 二人ともいつの間にか戦闘服にもどっていた。
 そして最後にセフィロスが出てくるはずだったが、彼の腕の中には一人の美少女が抱きかかえられていたので見ていたギャラリーから悲鳴と怒号が巻き起こった。

 喧騒とする中、セフィロスが悠然と隊員達の前に立ちミッションの終了と解散を言い渡す。

 隊員達が解散した。

 セフィロスはザックスを促すと少女を抱いたまま自分の車へと歩いて行った、周りの注目はすべて彼の抱きかかえている少女に集まっている。
 ザックスがその視線に気がついた。

「セフィロス、いいのかよ。クラウドがこの事知ったら怒るぜー!」
「誰もクラウドだなどと思ってはいない。」
「そりゃ…これで何度めになるかわからんけど。まーた、ルーファウス当たりから呼び出されるかもよ。」
「その時はその時だ。またミルフィーユになってもらうだけだな。」
「へぇ、名前あるんだ。今度別れ話になったら使わせてもらおう!」

 ニヤニヤしながらザックスがスリプルを解除すると、クラウドの青い瞳がゆっくりと開かれた。

「あ、あれ?」

 クラウドが顔を上げるとセフィロスの顔がやたらに近い、そして歩いている訳でもないのにふわふわと移動しているのに気がついた。

「わわっ!!サ、サー!!お願いです降ろして下さい!!」
「なんだ、ザックス起したのか。」
「ん?ああ、姫抱きで移動なんてクラウド嫌いだったからね。」
「ひ、姫抱き?!ここって…あ、もうカンパニー?! え?!なんで?」

 何がなんだかわからずにクラウドはパニックになっている、そこへザックスがとどめの一言を言った。

「ミッションはさっき終了した。お前は移動中ずっとセフィロスに眠らされて、さっきまで姫抱きで移動していた。以上、理解した?」

 クラウドはザックスの言葉に真っ青になった、ただでさえ自分がセフィロスの下士官になってからいろいろな誹謗中傷にさらされてきたのであるが、またその渦にさらされる事になるかもしれない。
 そう思うとクラウドのからだはガタガタと震えていた。
 そんなクラウドを見てザックスが聞いた。
「なん?!どうした?」
「お、俺。また色々と言われるのかなぁ?」
「それは無いと思うぜ、言われるならミルフィーユちゃんだ。」
「え?!」

 クラウドは一瞬いわれた事が理解出来なかった。

 ミッションが終了するとクラウドは翌日から訓練所に顔を出した。
 教官達はクラウドの事を誉め称え。
 一般兵にもミッションでのクラウドの活躍の話しが耳に入ってきたのか、訓練生がミッションに借り出されて一通りの事をしたとほとんどの兵士が知っていた。

 この件でクラウドはセフィロスの下士官として完全に認められたのであった。
 今までのような”意地悪”は何もされなくなったのである。
 中にはセフィロスが連れていた美少女が誰なのか聞いてきた兵士や訓練所仲間、カンパニー社員のお姉さん達が沢山いたが、間違っても自分だとはいえないクラウドは『ミルフィーユ』と言うタークスと作り上げた架空の人物の事を名前だけさらりと出しただけで逃げ切ったのであった。

 その少女がかなりの美少女でルーファウス副社長ですらその美貌に一目惚れした相手とわかると、一気に”英雄の恋人”としてカンパニー中に知れ渡りそのことで後々クラウドがまた女装しなければならなくなるのであるが…

 それは…また、別のお話。

The End